聖央はうなずいて片手を上げると、チームメイトのところへ戻っていった。
「聖央は亜夜ちゃんへの甘え方を心得ているようですね」
聖央の後ろ姿を目で追っていると、横に控えた健朗が笑みの滲む声で意外なことを口にした。
「セーオーが……あたしに?」
健朗に促されて階段をのぼりながら、驚いた声で亜夜は問い返した。
「そうですよ。聖央自身は無意識でやっているのかもしれませんが。まえの試合は散々だったでしょう。そうすれば、亜夜ちゃんが自分のところへ飛んでくると知ってるんですよ」
健朗はおどけた眼差しをして、びっくり眼の亜夜を可笑しそうに見下ろした。
「これで心置きなく音楽に打ちこめます」
「健朗くんにはずいぶん面倒かけちゃったよね」
「確かに、今回は僕が好まない裏の力をずいぶんと利用しましたけどね。ふたりを守りたかったし……それに、うれしかったんですよ」
「え?」
「聖央がはじめて僕を頼ってくれたから。岬さんに治療を受けさせたのは聖央の依頼があったからです。ああいう性格ですから、こっちが助けられることはあっても、聖央がそれを求めることはなかった。少しさみしいと思いませんか」
亜夜は健朗の気持ちがわかる気がした。ふたりにとって聖央は、いつも追い求める対象なのだ。
「追いかけてばっかりじゃ、ちょっとつらいよね」
亜夜は少し首を傾けた。
「今回、それも解決しましたね」
「あたしは……セーオーといていいのかな」
「だれよりも、亜夜ちゃん自身よりも、それを望んでいるのは聖央じゃないですか。聖央がきみの手を放すことはありませんよ」
さっきみたいに――?
健朗を見上げると、亜夜の無言の問いにうなずいて保証した。
「ふたりとも聖央に追いつきました。僕は聖央にとってのサッカー≠ニ出会ったし」
「それなら聖央にとっての幸運≠ヘどうするの?」
健朗は思いがけない亜夜の問いかけに立ち止まった。その眉間にはかすかにしわが寄っている。
「聖央の幸運はあたしだって、健朗くん云ったじゃない? そういう意味で、健朗くんは大切な人いないの? 噂だってひとつも聞いたことないんだけど」
亜夜も止まって、ごく具体的に訊ねた。
健朗は困惑顔を緩めるとすぐに切り返す。
「そうですね。聖央は亜夜ちゃん≠ワでも手に入れてます。僕は……あまりに手のかかるお嬢さんがいて、そんな暇はありませんでしたよ」
「……それって……あたしのことじゃないよね」
健朗は明らかにふざけて肩をすくめた。無言の肯定にほかならず、これまでのことを考えると、亜夜は反論できる立場にない。
「とにかくね! 健朗くんて、セーオーよりクールだ、ってあたしは見てるの。すっごくカッコいいと思うけど、好きな人できたらクールで通しちゃだめだからね」
「努力しますよ」
「なんか心配。健朗くんは、好きな人いても裏では尽くすけど、絶対自分からは告白しないタイプでしょ。そんなまどろっこしいことしてたら、ほかの人にさらわれちゃうんだから」
健朗のからかいにもめげず、そう云う亜夜の声は真剣だった。にもかかわらず、健朗は吹きだして笑い始めた。
それは席に戻っても続いた。
「聖央くん、どうだった?」
「うん。心配はしてるけど、大丈夫、勝ってくれるって。セーオーが云うんだから期待してていいよ」
「ほんと!?」
万里は瞳を輝かせた。
それにしても。
「あたし、そんなに笑うようなことを云った?」
いまだに健朗の口もとは笑っている。
「いいえ。亜夜ちゃんの云うとおりですよ」
たぶん、亜夜はこのまま一生気づかないだろう。
何せ、聖央ひと筋だから。
健朗は独り合点して、また笑った。
聖央はスターティングメンバーとして出場した。叩かれたことの名誉挽回をしようという気負いはまったく見られず、司令塔としての仕事を完璧にこなして、宿敵ともいえる韓国チームを終始、引っ掻きまわしている。
指示を飛ばす聖央の声が、ここまで聞こえるような気がした。いったん同じフィールドに立ったとき、動きが悪いとみなせば、先輩であろうが躊躇することなく指図をする。ときには身振り手振りを交えて激しくアピールする。
ゲームメーカーとして一流を主張するような聖央のアシストで日本は点を取り、前半戦を無難に1−0のリードで折り返した。
「中田、発作は?」
小野は心配している様子もなく、むしろおもしろがった表情で訊ねた。
「……忘れてた」
聖央がプロとしてプレイする試合をはじめて自分の目で観戦できたことに感動して、ほかのことはすっかりどこかへ飛んでいた。
亜夜がぽつりと漏らすと、健朗も万里も吹きだした。
「じゃ、もう心配することないな」
小野の口調は安堵に満ちていて、亜夜の口もとには笑みが広がった。
もう聖央の心配もいらない。聖央と並んでいける。
「うん。みんなのおかげだよ」
「聖央くんが……亜夜を探してる」
万里が云うと、亜夜はグラウンドに目を戻した。
聖央の視線はスタンドをさまよっている。けれど、こんなに大勢のなか、見分けられるはずがない。
すると突然、健朗が亜夜を持ちあげて座席の上に立たせた。健朗の意図を察した小野もそれに倣って万里を持ちあげる。
「みんな立ってください。全員で手を振るんですよ」
健朗はメンバーにも催促したあと、自らも立った。
「せーのっ」
亜夜たちは健朗の合図で一斉に聖央の名を呼んだ。恥ずかしげもなく、何度も叫びながら両手を大きく振りまわした。ミュージシャンと自負するだけあって彼らの声はよく響き渡り、やがて聖央へと届く。
聖央は少しだけ頭が飛びだした少数集団を探し当てた。亜夜の姿は遠目にもわかる。懸命に手を振る彼らの姿を見て笑いそうになった。
聖央は彼らに向かって片手を上げた。
そのおなじみのポーズを見届けると、亜夜たちは椅子からおりた。
何者だという周囲の注目のなか、声を上げて笑い合った。FATEのメンバーはなるべく目立たないようにと伊達眼鏡をかけているけれど、それはかえって怪しげな眼鏡集団だと見られているに違いなく、そう思うとまた笑えた。
そして、後半戦がスタートした。
聖央の動きに疲れは見えない。相手のディフェンダーを破り、巧みな足さばきで視線とは違った方向へとパスを出す。
ゲームの流れをリードするにはあと一点が欲しいところなのに、なかなかゴールは決まらない。日本を何かとライバル視する韓国はさすがに手強かった。ゲームの均衡が破れたのは後半二十分、韓国のゴールに因った。日本サイドのスタンドがため息で淀んだ。
落胆した気配が蔓延するなか、流れは韓国側に移り、日本はゴールを狙うどころか攻めにまわることすら稀になった。
めったに動かない聖央の表情に、苛立ちが見え隠れし始める。
ついには韓国に追加点を許してしまった。聖央がディフェンダーに激しく吠えている。
「聖央はゴールを狙うつもりですね」
健朗が訳知り顔でにやりとした。
「何人抜きかな」
亜夜も笑ってそれに応じる。
万里が怪訝な顔で亜夜と健朗を見比べる。
「万里、セーオーがきっとすっごいプレイを見せてくれるよ!」
大抵の人間は苛立ったりするとろくな結果を招かない。それが聖央の場合、エキサイトすればするほどキレがよくなる。信じられないほどの集中力を見せる瞬間がある。それは高校時代、得てして自分勝手なスタンドプレイともなった。もっとも、無条件でそれができるわけではなく、それ相当の気力を要する。
かつて、聖央は云った。
『落としたくない、絶対に勝ちたい試合があるなら、いつでもおれがゴールを決めてやる』
いまがそのときだよね、セーオー。最高のプレイを見せて。
ほかの人には苛立ちとしか映らなくても、それと相まって研ぎ澄まされていく聖央の意気が、亜夜と健朗には伝わってくる。
韓国選手がペナルティラインに迫ってきたところで、ディフェンダーがボールをカットした。その行く先をだれよりも早く読んだ聖央が、右サイドのセンターラインでこぼれたボールをキープした。
「いまからだよ。セーオーを見てて!」
韓国が戻りきれないうちに聖央は相手一人を抜いた。次に、滑りこんでカットを試みた選手の上をボールごと飛んでかわす。
日本フォワードの二人にはそれぞれマークがすでについている。聖央はそれをちらりと確認する恰好をとった。ボールをまわす気はさらさらなくても。それはチームメイトへの配慮とカムフラージュにすぎない。敵を引きつける役目、それが彼らのいまの仕事だ。
この瞬間の聖央にとって、前方にふさがる敵はないに等しい。あとを走る選手たちが追いつけないほどのスピードに乗って、ただゴールを目指した。さらに一人をフェイントで抜き、ゴールをまえにして聖央は右足でのシュート態勢に入った。背後には、一度かわした二人が迫りつつある。
セーオー!
亜夜は胸もとで手を握りしめ、心のなかで祈るようにその名を呼んだ。
ゴールキーパーが反応したところで、聖央は右足からのトスに切り替え、ワンステップ踏んで、左足でシュートを放った。ボールはまわりこんだ韓国ディフェンダーをすり抜け、完全にタイミングを逸したキーパーは防ぎようもない。
瞬後――ゴールポストが揺れた。
聖央はそれでも気を緩めることなく、三六〇度の視野を持っているかのように、百分の一秒の差で斜め後ろから滑りこんできた韓国選手を難なく避けた。
あまりの鮮やかなプレイに、つかの間、スタンドがしんと静まり返る。直後、地を揺るがすほどの歓声で沸いた。韓国の選手たちはお手上げ状態で呆然としている。
弥永<Rールが始まった。
チームメイトに揉みくちゃにされている聖央は、それを抜けだすとサポーターに向かった。うつむきかげんで片手を上げて声援に応える。ほかの選手のように、派手なパフォーマンスはけっしてやらない。そのクールさがいかにも聖央だった。
聖央は胸もとのチェーンに右手を重ねた。
約束は果たす――それは亜夜へのメッセージ。
傍にいろ――それは亜夜への切なる願い。
健朗が差しだした片手に応えて、亜夜はハイタッチした。
「やったね!」
「やりましたね」
ふたりとも自分のことのように誇らしげだ。
「すっごいでしょー!」
うなずいた万里は興奮して亜夜を抱きしめると、まるでそれしか知らないみたいに「すごい」という言葉をひたすら連発する。
亜夜にしろ、じっとしていられないくらい、うれしくてたまらない。この気持ちをいま聖央に伝えられないことが焦れったい。
「中田、すごい幼なじみを持ってるな」
小野も驚嘆の声を出した。
「うん」
それから流れは日本に戻った。
研ぎ澄まされた感覚も通常に返り、聖央は司令塔としての仕事に専念した。
後半の残り時間、日本に何度もシュートの機会が巡ったが、勝利へのゴールが決まらず、
膠着状態が続いた。
今日の試合は同点でもW杯出場への道は開かれる。けれど、選手もサポーターも、勝っての出場権獲得を望んだ。
その望みも虚しく、試合はロスタイム四分を残すのみとなった。このまま終わるかと思われたが、選手たちは最後まであきらめなかった。
聖央があきらめるはずなかった。
聖央は必ず約束を守る。
その念願のチャンスはロスタイムの二分をすぎてから巡ってきた。
聖央が相手のファウルを誘う。ペナルティエリアの外側からのフリーキックはおそらく最後の攻撃だ。
聖央はボールをまえにして、城島の肩に手を置き、言葉を交わしている。
どっちが先輩なんだか……それに……。
重要な場面だというのに、亜夜は独り小さく笑った。
そのふたりを傍目から見るといかにも打ち合わせをしているようだが、いつか聖央が教えてくれたように、試合とは関係のない、つまらない話題ものぼっていることだろう。
打ち合わせをするまでもなく聖央は自己主張をしているはず。
聖央と城島は少し離れて、それぞれのポジションについた。聖央はゴールまえにできた壁を一瞥する。
聖央は胸もとに手を置いて深呼吸をした。城島もまたリラックスしようと肩を揺らして大きく息を吐く。ふたりはその位置でうなずき合う。傍から見ればどちらのシュートもあり得た。
スタジアム全体に緊張が走る。
ふたりともが同時に動きだし、城島がボールの直前で足を止めた。それと交差して聖央の右足がボールに触れる。
まるでそこに道があるかのように抜群のコントロールでボールは弧を描き、人の壁を越えてキーパーの手を優にすり抜ける。
――ゴールネットが揺れた。
ウワアァァァ――――ッ。
自分の声さえ聞こえないほどの歓声が響き渡った。
直後、終了のホイッスルがひと際甲高く鳴り響く。
ピイィィィ――――ッ。
三度めの歓声は、そのまま勝利への祝砲となった。
ただの勝利ではない。W杯出場のアジア代表権利獲得という、サッカーにこよなく時間を注ぐ選手、そして、サポーターにとっては貴重な勝利だ。サポーターの歓声は、インタビューが始まるまで静まることがなかった。
インタビューは監督、キャプテンのあと、当然、今日の主役とだれもが認める聖央に続いた。マイクを向けられ、サポーターの声援を一身に受けても、聖央が顔色を変えることはもうなかった。
聖央はいくつかの質問に相変わらず素っ気なく答えると、最後にいまの気持ちをひと言求められた。その視線は亜夜たちのほうへと注がれる。
「今日、ここまで導いてくれたサポーターたちに感謝してる。そして、いま……アジアの夜に永遠の崇拝を約束する」
そこにはきっと二重の意味が含まれている。サポーターへ、そして。
アジアの夜――それは亜夜の名だ。
照れるよりも恥ずかしいよりも、いまはただうれしい。
聖央、これ以上にない最高のプレイを見せてくれて、これ以上にない最高の言葉をくれて、ありがとうって云うしかできないことが悔しいくらいだよ。
だから、あたしも約束する。傍にいることでそれが叶うのなら、途切れることのない幸運を、聖央に。
ブレスレットに触れ、亜夜もそう誓った。
「大胆というか、呆れたというか……」
サポーターという自分に向けられた言葉も含め、私的なコメントが絡んでいることに健朗は苦笑する。
「あれが、聖央くん、じゃない? だれかさんのことになると見境なくなるの」
FATEのメンバーも小野もおもしろがっている。
勝利の余韻に酔いしれるなか、選手たちが控え室へと消えると、それに伴ってサポーターたちも出口へと徐々に引きあげていく。それが落ち着いた頃、亜夜たちもスタジアムをあとにした。
外へ出たと同時に、健朗の携帯電話が鳴った。
「はい……わかりました……それはあとでゆっくりできるでしょう。間違いなく送り届けますよ」
健朗はそそくさと電話を切ると、亜夜にその内容を伝えた。聖央からで、宿泊先で待っているとのことだった。
「かわるように云われたんですけどね……。いろいろと悔しいことがありますから、お預けを喰らわせました」
健朗はめずらしく子供のように拗ねた感じだ。
「聖央におめでとうって云っといて」
「また遊びにこいよ。みんなで」
別れ際、FATEがその言葉を贈ってくれた。
「亜夜、よかったね」
「今度は万里のばんだからね。うまくいくように」
亜夜は、自分のことのように喜んでいる万里を抱きすくめて耳もとで囁いた。
「そのつもりよ」
勝ち気な万里の答えが返ってきた。
「中田、おまえの心配はすべて弥永に譲るって伝えてくれ。じゃ、またな」
「ありがと、先生。万里を頼むね」
「……そのつもりだ」
なぜか少しためらうように小野は答えた。一瞬後、亜夜にはその裏が読めた。
「早く行けよ。お待ちかね、だろ?」
小野がそう急きたてて、笑いだそうとする亜夜を制した。
「じゃ、行きましょうか」
健朗も合わせたようにどこか慌てぎみに云い、退散するべく、にやついた亜夜の背を押した。
「万里、あたしのせいで万里の貴重な時間を奪ってごめんね」
「え、何?」
「ううん、いまは気にしないで」
きょとんとしている万里と近いうちに会うことを約束して別れた。
「まったく……。亜夜ちゃんは、人のことに関しては勘が鋭いのに、自分のことになるとからきしだめですね」
ふたりになると健朗が愚痴って、今度は亜夜がきょとんとさせられた。
*
「先生、本当は亜夜のこと、聖央くんから奪いたかったんでしょう」
帰りの車のなかで、万里はちゃかすように訊ねた。
小野は横目でちらりと万里を見やる。
「確かに、弥永を挑発はしたけどな。中田をそういうふうに想ってたら、僕は全力で奪ってるよ。そんなつもりじゃなかった」
「じゃあ、どんなつもりで?」
「云わなかったっけ、僕に妹がいること。親が離婚したあと、おれは父に、妹は母について離れ離れになって、それ以来会ってないけど、似てるんだ、中田に」
小野は車のボックスから、小さなアルバムを取りだして万里に渡した。
開いてみると、そこには小学校にあがったばかりかと思うくらいの女の子が写っていた。年齢の開きを越えて、雰囲気が亜夜に似ている。
「会いたくても父に気を遣って云えなかった。もう、僕を見ても妹は兄だってわからないだろうな。正直に云うべきだったって後悔してる。そしたら、妹には何かあったときに頼れる場所がひとつ増えたはずだから」
「いまからでも遅くない」
しばらく黙ったあと、小野はため息をつくように笑った。
「そうだな。中田のことは妹みたいでほっとけなかった。幸せになってほしかった。それだけだよ。これからもその気持ちは変わらない」
小野は奇妙なくらい、きっぱりと云いきった。
いまなら――。
万里は勇気を掻き集める。
いま、なら云える。ううん、いまじゃなきゃ云えない。
「先生は……先生は、亜夜のことが女性として好きなんだと思ってた」
「万里は若くてきれいだから、僕なんかじゃもったいないって思ってたよ」
「ぷっ。すごく年寄りみたいな云い方。六歳しか離れてないし、先生だってモテてるじゃ――?」
途中で言葉が止まる。
いま、先生はなんて云った? それに……あたしのこと、名まえで呼ばなかった……?
「鈍いな。愛の告白≠したつもりだけど」
小野の追加の告白は、最初のひと言は真剣で、そのあとはからかいを含んだものだった。断られるとはつゆほども思っていない、自信に満ちた告白。
そして、気づいた。小野の策略に。
「中田の想いが叶ってからと思ってたから、遅くなったけどな」
小野がにやりと笑う。
これまでの日常の節々で、暗に仕組まれた小野の言動は着実に万里を絡めとっていたのだ。
「普通さ、どんなに中田のことを心配していようが、一患者の万里にここまで付き合って尽くすわけないだろう?」
なぜか万里の瞳から涙がこぼれる。
「……先生……」
「和也、だよ」
それから万里は、帰りつくまでずっと笑っていた。