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|オトナのスイッチ〜デュアルヒーローvs.専属メイドのスキンシップ〜
第2章 メイド in confusion
1.禁句 #2
「違います。健朗さま、時間が……っ」
「二度めだ」
結礼をさえぎって鋭く云い、健朗は目を細めた。
「あ……」
「やらせろ」
「や、やらせろ……って違いませんか!」
「マスターを飢え死にさせたくないだろ。なんで、ニートのくせにおれの都合に合わせられないんだ」
ニートというつもりはなく、大学を卒業しておよそ一カ月、ちゃんと貴刀家の仕来りや管理、客人が来たときのマナーなど学んでいる。貴刀家によほどの重大イベントがないかぎり、確かに時間の自由はきくから、家事手伝いという曖昧な職業のもと自由人に見えるだろう。貴刀家の一人息子という立場に託けて、仕事のスケジュールを結礼に渡してまで都合をつけさせているのは当の健朗だ。
「合わせてます! 健朗さ……んが急に予定変更してばかりたから……」
危ういところで呼び方を変え、結礼が無実を訴えてみると、健朗は急所を突かれたように黙りこんだ。思考のリセットをするようにいったん眼差しは逸れたが、すぐに戻ってくる。
「……どっちだっていい。ここんとこ邪魔されてばかりでお預け喰らってたのは確かだ。やっと手の届かないとこに来たんだ。減るもんじゃあるまいし……」
だれに邪魔されていたのか、いや仕事が邪魔しているのだろうが、音楽は健朗が選んだ道なのに、不満の捌け口は結礼に向かってきそうだ。
健朗は結礼の躰をすくうとベッドに転がして、ガウンを脱ぎ捨てながら自分もベッドにあがり、結礼を跨いだ。
性急なしぐさで、ハイウエスト切り替えのワンピースがたくし上げられた。ショーツが取り去られ、ワンピースは胸辺りまで捲られてブラジャーの下に手が潜る。
健朗はふくらみを手のひらですくい、腋のほうからトップへと指を順に滑らせて結礼の快楽を引き起こす。
んっ。
少しの刺激でトップはつんと尖った。再びすくわれるようにしてふくらみが持ちあがると、親指の腹で弾かれた。結礼は小さく悲鳴を漏らし、胸を反らしながらぴくりと躰をふるわせる。
健朗の指先はギターやキーボードを扱うだけに器用すぎる。違った動きで左右を刺激されて、結礼はいつもそこだけで果てが見えそうになる。口が開いて吐息が漏れ、のぼせたように結礼の瞳が潤んだ。
真上から結礼を見下ろした健朗はかすかに呻き、躰を倒していく。結礼のくちびるにくちびるが触れる寸前で止めた。舌を出してくちびるを舐める。ぐるりと一周すると、今度は嬲るようにゆっくりと逆回りしていく。
「んふっ……健朗さま!」
焦れったくて結礼は無自覚に訴える。
「もっと、ってことだな」
誘惑に満ちた地獄からいざなうような低い声が囁いた。
健朗はさっきよりもわずかに顔をおろすと、結礼のくちびるの裏に舌を忍ばせ、持ちあげるようにしながら這わせた。その間も胸の上では自在に手がうごめいている。
「んっ、も……ぅっ耐えられませ……ぅくっ」
云いかけているさなか、健朗が躰の中心を合わせてきて結礼は喘いだ。
入り口を探して慾はつつくようなしぐさを繰り返す。それがまた結礼にとっては快楽になった。わざとそうしているのかと疑うほど慾はするりと滑って中心のキスを拒む。そうなるのは、結礼がひどく濡らしているせいだと責められても云い逃れはできない。
くちびるのキスと指で弾かれる胸、そして躰の中心ですれ違いのキスが繰り返されて堪えきれなかった。
「だ、めっ……んんっ」
びくんと腰を跳ねあげたとたん、健朗が腰を押しつけた。収縮を繰り返す体内に質量を伴って慾がぐっと入りこんでくる。敏感になった襞がくすぐられ、さらなる快感に襲われて結礼は腰をよじった。逃れようとしたはずが、健朗への刺激になってそれ以上の欲求を誘発した。無遠慮にあい路を抉じ開けて、慾は最奥まで届く。
くちゅっとキス音が立つと同時に、結礼の感度はもう一つ上の段階に行きつく。そこからふるえが発生し、全身へと行き渡る。健朗から快楽を授かること以外、すべてがどうでもよくなるような感覚だった。
「そう持たない、からな。むしろ、早く終わったほうが、都合がいいだろう、けど……」
健朗は途切れ途切れに云いながら、最後は中途半端に言葉を途絶えさせた。そのさき、どんな言葉が省かれたのか。そこにきっと本心があって、それが結礼にとっていちばん大事な部分なのに、健朗はその肝心なところを口にしたことはない。
もし聞けたとしたら、それが結礼の望むような言葉だったとしても、待っているのはどうにもならない、平行線の関係だ。それ以上に近づくことも離れることもできない。離れようとは思わないけれど。
鬱陶しいと云われることはさっきみたいに永久に不滅だろう。結礼の気持ちが消えることはないから。心底から鬱陶しいと云われたら救いようがなく、だから自分からはやたらと近づきすぎないようにしている。
ただ、スキンシップの時間だけは違う。結礼は健朗の背中に手をまわして首に腕を巻きつけた。それが拒絶されたことはない。逆に――
「結礼」
健朗は待っていたように呼びかけ、ぶるっと躰をふるわせながら限界を伝えてくる。
「健朗さま」
唸るような声が口もとのすぐ傍で漏れ、健朗はおなかとおなかがくっつくくらい伸しかかってきた。健朗が腰を揺らせばワンテンポ遅れて結礼の躰が揺れる。健朗の慾に絡みつくように襞がうごめいて、感度が急速に上昇していった。結礼の悲鳴と健朗の荒い呼吸が共鳴するようで、蜜を掻きまわす音が激しくなっていく。そうして、最奥のキスに身ぶるいした直後、結礼は短く甲高い悲鳴を放つ。
ぶるぶると腰が揺れ、健朗を巻きこんで快楽を貪る。それに健朗が堪えられたのはつかの間、くぐもった咆哮がこぼれたかと思うと、健朗は一気に腰を引いた。とたん、下腹部に熱い飛沫が降った。
荒い呼吸のまま、健朗は結礼のくちびるをふさぐ。互いが息苦しく喘ぎながらのキスは熱がこもってのぼせそうだ。やがて健朗は顔を上げた。
「よく飽きないな」
独り言のようなひと言はため息とともに漏れた。投げやりにも聞こえれば呆れたようにも聞こえる。どちらもプラスとは云いがたい。
「おまえのせいだ」
健朗は飢え死にさせる気かと責めていながら、今度は、煽ったのは結礼だと矛盾したことで責める。
反論したところで、健朗が云い返してくるのは、その云い訳さえわかりきっている。
はじめての日に、おかしな気分になると悩まし気に漏らしていたが、“健朗さま”という呼び方はスキンシップ欲求のスイッチが入るらしい。
健朗にとって禁句となっているが、裏を返せば出しぬけに襲われるわけで結礼自身にとっても禁句なのだ。
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