NEXTBACKDOOR|オトナのスイッチ〜デュアルヒーローvs.専属メイドのスキンシップ〜

第1章 ヒーローは紳士に非ず

1.獣に変身   #5

「……き、期待ってなんですか」
 結礼の質問は無視されて、健朗の両手が下腹部からキャミソールの下に潜ってくる。素肌に触れられて、暖房はきいているうえ手のひらも冷たくないのに結礼は身ぶるいをした。
 健朗の手はウエストを滑り、背中とベッドの間に入りこむ。真ん中あたりでもぞもぞと動いたかと思うと、躰の締めつけが緩くなった。
「健朗さま!」
 背中にあった手のひらは両側から脇腹を這いあがり、ふくらみのすぐ下に添う。ぐっと顔が近づいてきた。
「期待は成立している。あと、おまえがやるべきなのは応えることだ。逆らうなよ、大人のスキンシップを教えてやる。無理やりやるのも一方的な快楽も、おれの趣味じゃない。まあ、いまは無理やりって感じがしなくはないけど、残念ながらおれに罪悪感がない」
 健朗は少しも残念と思っていない面持ちで放つ。口もとに息がかかったと思ったとたん、くちびるがふさがれた。

 健朗に答えたとおりキスは嫌いじゃない。けれど、キスのしかたはまったくわからない。受け身でいるとくちびるが舌で割られる。合わせて、手のひらが胸のふもとをつかみ、指先が繊細な神経を弾いた。
 あっ。
 悲鳴は重なり合ったくちびるの間でくぐもり、結礼はぴくっと躰をふるわせた。
 健朗の舌が侵入してきて、結礼の舌に絡んでくる。ふくらみをくるんだ手はこねるように揺らす。経験のない結礼に予測は当然ながら不能で、時折、胸先を触れられるとぴくっと痙攣を起こし、躰の芯が疼いて脱力してしまう。
 無遠慮な大人のキスは戸惑うだけだったが、次第に心地よく変わってのぼせていった。

 舌が吸引され、硬い指の腹に胸先を摘ままれると、触られていない腰もとからふるえが派生する。
 んっ。
 経験したことのないおかしな感覚に侵されて、結礼は不安を感じ始めていた。結礼の呻き声からそれを察したのか、健朗は顔を上げた。キスはやんでも、手は変わらず胸の上でうごめく。
 あっ……んっ。
 健朗はキスを中断したぶん胸先に集中した。突端に触れて軽く潰すようにしながらくるくると指先をまわす。結礼は逃れるように躰をよじらせた。
「健、ろ……さまっ」
 健朗は結礼を見下ろして、口もとのほんの傍で含み笑う。丸い瞳は熱に浮かされたように潤み、服を脱がせていないぶんだけ、よけいに淫らだ。

「エロいな。顔は高校生のくせに胸は一端だ。おれの手に足りるし、反応も云うことない」
「んっ……健朗さま……ヘンな感じ、です……んあっ」
 大きな手のひらのなかでうねりながら、胸は熱を孕(はら)んで膨張しているようで、だんだんとやわらかくなっている。伴って胸先の感度は上がり、健朗はギターの弦を弾くように動かして、結礼の快感を煽った。
「ヘンて、自分でやったことないのか」
「じ……自分で、って……何を、です、か……んあっ」
「って訊くくらいじゃあ、やったことないってわけだ。おまえがいま感じているのはセックスの快楽。素直に感じてイケばいい」

 健朗は片手だけ胸から腹部へと滑らせ、ショーツのなかに忍ばせた。
「あ、や、ふはっ……」
 指で弄(まさぐ)られ、秘めた場所は簡単に探し当てられる。もちろんだれかに触られるのははじめてで、胸よりも繊細に感覚をふるわせた。
 とっさに脚を閉じかけた結礼だったが、間に入って膝をついた健朗の躰が邪魔をした。指が掻き分けるようにうごめく。すっと縦に沿って這いのぼってくると、信じられないほど敏感な場所がくすぐられた。
「あっぁあっ……だめ、で……すっ」
 漏らしそうな感覚がして、結礼の躰はぷるぷるとふるえる。
「だめじゃない。そのまんまイってみろ」
 イク、って? 内心で発したそんな疑問は、健朗の指が浅く入ってきて吹き飛ぶ。躰がこわばった。

「力抜けって。バージンのくせにぐちゃぐちゃに濡れてるんだ。きついだろうけどまだ痛くないはずだ」
 健朗は撫でるように摩擦を起こしながら、入り口辺りで指を進めたり出したりする。ぬちゃっと潜りこんでぐるりと襞をこねられると、くちゅくちゅとした音が立つ。抜けだすときにはぬぷりと糸を引くような粘着音がして水音が絶えない。
 健朗の云うとおり痛みなどなく、躰のこわばりが解けたかわりにまたあらたな快楽を感じた。なぜ水音がするのか、自分の躰なのによくわからず、そんな音に紛れて結礼は声を放っていた。あまりの感覚に嬌声は止めることもできず、腰が砕けそうだった。
「健朗さまっ、やめて……ふはっ……くだ、さ……何か……あ、あっ……漏れて、しまいそう……なん、ですっ」
「だから、それがセックスの最終地点だ。もし本当に漏らしても、おまえが掃除すればいいってだけのことだ。おれのメイドになりたがってたおまえからしたら本望だろ」

 薄らと目を開けて健朗を見上げると、少しも不機嫌ではない眼差しと至近距離で合う。にやりとした顔でも笑顔はきっと笑顔だ。そんなからかった顔でさえ、結礼に向けられたことはなかった。
 体内で引っ掻くように健朗の指が動いた。すると、それまでよりももっと感じる地点がそこにあった。お尻がぶるぶるとふるえる。
「あ、ああっ……そこは……っ健朗さま!」
「弱点だな。ほらイケよ、結礼」
 健朗は少し深く指を埋もれさせて弱点を確実に捉え、親指で秘花の先端を捲るように動かした。同時に円を描くようにかすかに動かすと、結礼は悲鳴をあげながら腰をわずかに持ちあげて硬直する。胸先を押し潰しながら揺らしたとたん。
「あ、あ、あ……やあああ――っ……ん、くっ」
 結礼の腰がびくんと大きく跳ねあがり、それから収縮の連続に襲われてぴくぴくとした痙攣が続いた。

「いい反応だ」
 その声は可笑しそうだが、呻くようにも聞こえた。結礼ははじめての快楽を感じることに精いっぱいで、それがどういうことかわからない。指が抜けだすと、熱を含んだ蜜がとろりとこぼれ出た感覚がした。
 健朗は結礼の服を脱がせていく。結礼には裸体を晒しているという認識はなく、ぐったりとされるがままでいた。呼吸とひくひくした定期的な痙攣が落ち着く頃、衣擦れの音が結礼の耳に入ってくる。
 ゆっくりと目を開けると、足もとで健朗はチノパンツをボクサーパンツごと脱ぎかけていた。結礼はパッと目をつむる。

「……健朗さま」
「いまおれがやったように一方的におまえからやられてもいいけど、それよりは一緒のほうがいいだろ?」
 その二者択一は結礼にとって最初から選択する余地がない。
「わかりません」
「わからない?」
 問い返しながら、裸になった健朗は結礼の中心に腰を近づけた。
「気持ちよかっただろ?」
 と、しかめた声で問いただす。
 確かに不快ではなかったけれど、気持ちいいと云うにはその瞬間、少し怖さが混じっていた。最終地点にたどり着いたときは何も考えられないで、ただすべての感覚が飽和したようななかにいた。
「結礼」
 肯定することがそんなに重要なことなのか、答えない結礼に痺れを切らした健朗が催促する。
「はい」
 反射的に結礼は返事をした。目を開けると、じっと健朗が見下ろしていた。そのさきの返事を無言で要求される。恥ずかしいという気持ちが先立ち、言葉にするかわりにうなずいた。

 健朗は結礼の右腋のすぐ横に左手をつくと、前のめりになった。
「今日はつらいだろうけど、じきにさっきみたいに気持ちよくなれる。ちゃんとそうしてやるから、かまえるなよ」
 結礼はうなずいた。
「生理は?」
 唐突でまったく現実的な質問に、とっさには思いだせない。
「たぶん……」
 と云いかけると、健朗の目が責めるように狭まり、「もうすぐです」と、結礼は慌てて断定した。それが適当なのは見抜かれていて――
「ちゃんと管理しろ。いいな」
 健朗は渋い声で忠告した。
「まあ、おれが気をつければいいことだ」
 と独り言のように続けたあと、「行くぞ」と、健朗は結礼の左脚を持ちあげて膝を立たせた。

 結礼の中心に硬いものが当てがわれる。押しつけられたそれは入り口が開くのを拒むほど、指よりも遥かに大きかった。無理だと思った矢先、さらに押しつけられて入り口が開いた。
 ぅくっ。
 中心は躰の奥から蕩け出た蜜に濡れそぼち、いったん開けばぬぷっとこもった水音で健朗を迎え入れる。抉じ開けられた感覚はあるものの、痛みはなかった。
 健朗は右手もベッドにつき、それから結礼に覆いかぶさって躰を重ねた。痛みを予想して緊張しながらも、結礼は肌と肌が触れ合う心地よさを知る。

「大丈夫か」
 間近で問われる。不機嫌になるようなことをした覚えはないが、健朗は眉をひそめていた。
「はい、健朗さま」
「その呼び方、おかしくないか。……ていうか、おれが無理強いしてる横暴な主みたいでおかしな気分になる」
 結礼からするとほぼそのとおりだが、健朗にそういう意識はないようだ。かすかに首をかしげると、「まあいい」と放りだして健朗は躰を重ねたまま、試すようにゆっくりと上体を前後させた。
「ん、あっ」
 あい路を抉(えぐ)ったかと思うと抜けだす寸前まで引っこんでいく。それが繰り返されるうちに、結礼のなかで新たな快楽が芽生えた。

 最初に宣言したとおりゆっくりと時間をかけ、浅い位置で前後していた健朗は、だんだんと深度を増していく。健朗が躰を引くたびに快感が放たれ、結礼の躰を身ぶるいが走った。
「健朗さまっ、また……あ、んっ」
 そう訴えたときはもう遅く、快楽は堪える間もなく解き放たれた。
 ぶるっとひと際強く結礼の腰が跳ねて、同時に収縮が発生し、健朗を巻きとるように刺激して快楽に負かされそうになる。いまなら快楽がもたらすエンドルフィンが痛みを軽減させるかもしれない。健朗は一気に腰を押しつけた。
「あっ……ぅ、くっ……ぁああ――――んっ」
 悲鳴は途中で途切れ、くぐもった呻き声で結礼は痛みを訴えた。しばらくふたりとも微動だにせず、ただ、結礼の快楽の名残によって、ふたりの躰がぴくっとかすかに揺れていた。

「結礼」
「……はい」
 一拍置いてから結礼は返事をした。そうして自分が息を詰めていたことに気づき、ふるえる吐息をゆっくりとこぼして呼吸を再開した。
「大丈夫、です」
 先回りして云うと、口もとに息がかかる。結礼が目を開けると、健朗が顔を近づけてきていて焦点はぶれてしまい、その表情を見られない。
 健朗はくちびるを合わせ、舌を上下のすき間に滑らせる。それ以上は深入りすることなく、ただ摩撫(まぶ)されているうちにくすぐったくなって、結礼はキスしながら笑う。すると、躰が揺れて、繋がった場所に刺激が及ぶ。結礼が鈍痛に喘ぐ一方で、健朗は快楽に侵されつつあり、呻き声が重なった。

「もう少し我慢しろ」
 顔を浮かせて健朗はふたりの躰を揺らし始めた。
「んんっ……あっ……ふはっ……」
 結礼が感じるのは快楽ではなくやはり鈍痛だったが、口もとに触れる健朗の呻き声が心地よかった。
 まもなく健朗は上体を浮かせた。体温が奪われたようで、結礼はさみしさを覚える。すかすかした心もとなさはつかの間、健朗は背中を丸めて結礼の胸に顔を伏せた。胸先が湿った熱のなかに埋もれた。
「あああっ」
 びくんと結礼の躰が波打った。健朗は呻き声を発しながらも胸先への刺激をやめなかった。薄桃色だった実は赤くなって硬く尖り、健朗の口のなかで転がされる。くちびるで挟まれ、擦りながら突端へと抜けていく。そうしてまた口に含まれた。躰の最奥は急速に痛みから遠ざかっていく。

「健朗さまっ」
 その声は、また快楽に襲われつつあるという予感を含んでいた。健朗は赤い実に吸着し、扱(しご)くようにして離れていった。
「あ、やっ」
「限界だ」
 健朗はつぶやき、大きく速く、けれどけっして乱暴ではないストロークを繰り返した。結礼は鈍痛と快楽の区別がつかなくなる。最奥にもまた別の快楽点があった。快楽が鈍痛を呑みこんでしまうと、結礼は無自覚に縋るように、覆いかぶさった躰に手を伸ばす。健朗の首に手をまわすとしがみついた。そうして最奥を突かれた瞬間に快楽は果てに到達する。
「健朗さまっ」
 悲鳴じみて呼ぶ声に応えるように唸った健朗は、腰をぶるっとふるわせ、結礼のなかから慾を引き抜いた。秘花から下腹部にかけて熱い飛沫が降りかかった。健朗は躰を丸めたまま、荒く息をつく。その真下で結礼は小刻みにふるえていた。軽く喘ぎながら目を開けると、烟った健朗の瞳が真上にある。
「おまえはおれのものだ。いいな、結礼」
 結礼にとってそれは願ってもいない立場だった。

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