Sugarcoat-シュガーコート- #112

extra The wild dog likes fresh flesh.


 五月の十四、十五と二日間に(わた)って武道館であったデビュー二周年のFATEのライヴは、壮観な盛りあがりのなかで終わった。
 ジャンルを問わず、こういう演出ものには、アンコールとはなんぞや、と疑うほどプログラムのうちに入っているけれど、そのお決まりを無視してFATEのアンコールは三回繰り返された。鷹弥の喉が無理しない程度という制限はあっても、ファンに応えるというのはFATEにとってあたりまえのことなのだ。
 ファンもFATEのそういうサービス精神を知っていて、ステージ上が静かになって終了の場内アナウンスがあったにも拘らず歓声は止まない。会場を出てしまうには未練が残るほどの余韻に満ちている。

 叶多も一ファンになって感動に浸っていると、混雑しないうちに出るぞ、と陽にせっつかれて強引に連れだされた。
 それから四人で近くの居酒屋に直行した。叶多の誕生祝いだ。ライヴの後という、ついでのような場でも、ちょっと憂うつなだけに素直にうれしい。
 なぜ誕生日なのに憂うつかというと……。
「今日のライヴ、最高だったよね。できたらアリーナで見たかったところだけど」
 そうなのだ。戒斗のことだから、アリーナ席でもどうにか手に入れられたはずだ。なのに。
「気が散る、って云って、顔が豆粒にしか見えない席にするってなんだかヘン」
「戒の気持ちはわかんねぇでもない。犬が目の前で飛んだり跳ねたりしてっと、気が散るよな」
「そうしないまでも、うっとりして盛りのついた犬みたいに(よだれ)とか流されてみろ。気がそがれるだろ」
「酷い」
 陽と永が容赦なく(けな)してユナが笑い声をあげるなか、叶多は独り拗ねた。
「叶多は毎日、“戒”に会ってるわけだし、というか帰ったら会えるんだからいいじゃない」
「そういう問題じゃないと思う」
 二周年の記念パーティはあらためてやるからと打ち上げ参加も拒否され、それよりも何よりも、ここに戒斗がいないことのほうがおかしい気がする。

 あたしの誕生日なのに。しかも、大人の仲間入り、っていう、生きているうちで一回しかない誕生日なのに!

   *

 ちょっとした不機嫌はともかく、誕生会は楽しく、早めに終わって十時を過ぎた頃に家に着いた。ユナが気を利かせて早く帰らせてくれたのだけれど、その配慮も(むな)しく、戒斗はやっぱりまだ帰っていない。

 なんとなく不安だ。最近になって、また微妙に戒斗がおかしい。
 祐真との別れから一時期の戒斗は、叶多を抱いてはくれても触れなかった。それが、いままた繰り返されている。伊柳スタジオに行った日を最後に、それから一度もない。生理中の五日を除いても、もう十日だ。いつもなら生理中だって触ろうとするのに。
 かといって、あのときのように叶多を避けるわけではない。ほとんど叶多が喋ってばかりであっても、それはいつものことで、戒斗からも仕事の話をしてくれたり、大学のことを訊ねたり、食事も一緒にできているし、そのあたりは至って問題ない。
 キスもハグもあって……それなのに。どうしちゃったんだろう。
 戒斗が云ったように、叶多の隙間はやっぱり戒斗に埋めてもらわないと不安になる。そう思ってふと最後のえっちが脳裡をよぎり、まるで欲求不満みたいだと叶多は独り赤面した。首輪も手錠も使われることはなかったけれど、戒斗の攻撃が手加減なくて、その日はやっぱり気絶させられたのだ。
 あれから何かあったっけ、と最近のことを回想して戒斗の異変の原因を考えながら、叶多はお風呂に入って、明日の仕度まで終えた。一段落してもまだ帰ってこない。打ち上げがあると、帰ってくるのは翌日になることが多い。

 叶多はダイニングの椅子に座ると、大きくため息を吐いて肩を落とした。テーブルに置いたワインボトルが目につく。どこに隠していたのか、戒斗が今朝、飲酒解禁になる叶多に誕生日プレゼントとしてくれたものだ。
 そのときは一緒に飲んでお祝いしてくれるものと思ってうれしかったのに、一緒に飲むどころか戒斗は不在で、叶多の誕生日はもうすぐ終わってしまう。拗ねた気分のせいか、いまはリボンを纏ったワインボトルが頓馬(とんま)に見えた。
 飲んじゃおっかな。
 居酒屋では、いのいちばんに二十才になったんだからと、ユナたちに勧められるままお酒を飲んでみた。炭酸グレープの酎ハイで、ジュースの甘さが抑えられて程よくブレンドされていた。
 美味しかったし、ワインもいけるかもしれない。
 思い立ったら即実行の叶多だ。ワインオープナーを使って悪戦苦闘しながら、コルクをやっとのことで抜いた。ポンという音がすると、いい感じ、と独り言を云って満足した。



 打ち上げを途中で抜けだし、戒斗が家に帰りついたのは十一時を過ぎていた。中に入ると、ダイニングの照明はついているが叶多の姿が見当たらない。
 顔をしかめて寝室に行くと、布団もかけずに寝転がった叶多を認め、戒斗は安堵してかすかに首を振った。五月の中旬とはいえ、まだ肌寒い。しばらく眺めたのち、そっと布団をかけて浴室へと行った。
 服を脱ぎ捨てて洗い場に入り、シャワーコックをひねった。温水が汗を流すと、疲れも癒されていく。

 二日間のライヴは文句なしで終わった。良哉という不足はあるが、現状でのベストは尽くせたはずだ。がむしゃらの一年目が終わって、衝撃の二年目。その余波はまだ収束しきれていない。
 考えていることはある。
 このままでいいのか。
 その疑問の対象は音のことばかりじゃない。
 あるいは、その疑問の根本は自分へと向かったものでしかない。妥協と絶対の区別が難しくなっている。
 何があろうが、何をしようが、受け入れられる場所があるという、すべては甘えだ。
 それはそれでいい。いや、“それで”ではなく、その場所を無くして自分はどこにも在りえない。
 たぶん、七年前と似たようなディレンマだ。
 おれは見合うのか。
 否定されたところで、譲れるわけもない。
 祐真の死から始まって、叶多と“出会って”からいままでの、そのあらゆる場面が絡み合い、“誰にも”、その気持ちがエスカレートした。
 そうしていると気づかないまま、“ガラス”を粉々にしてしまうかもしれない。そんな怖さがあると知った。
 冷静になる時間が必要だ。そう考えて、せめて、と触れないでいたものの、こうも傍にいてはそれもうまくいかない。余計に欲求不満が溜まるばかりでガチガチに()り固まった気がする。
 叶多は当然ながら気づいていて、不安でもあるはずだ。それでも何も追求することなく戒斗が解決するのを待っている。
 守っているのはどっちだ? 頼りないほど小さいくせに。
 手が叶多の感触を思いだし、心底(しんてい)で衝動が(うず)く。気休めでしかないとわかっていながら、それを振り払うようにシャワーの温度を下げて熱を冷ました。

 手早くシャワーを切りあげると、ボクサーパンツと上半身にはシャツを引っかけただけで浴室を出た。とたん、濡れた髪をタオルで拭いていた戒斗の手が止まる。
 寝ているとばかり思った叶多がダイニングテーブルの椅子にいた。一瞬、欲求不満の幻覚かと疑ったが、それにしてはセクシュアルの要素に程遠いシーンだ。
「叶多」
 近づくと、案の定、トロンとした目が戒斗を見上げた。帰ったときは気づかなかったが、プレゼントしたワインはボトルの中身が三分の一近く減っている。
「遅いっ! 待ってたのに帰らないしぃ、暑くて目が覚めちゃうしぃ、うさぎだけじゃなくってぇ、犬もさみしいと死んじゃうんだから!」
「悪かった」
 叶多の云っていることは支離滅裂で、尚且つ呂律(ろれつ)が回っていない。戒斗は肩をすくめ、とりあえず謝った。
「あ、そう云えばすむって思ってる! でもねぇ、違うの!」
 酔っているにも拘らず、“とりあえず”という気持ちを見抜くとはさすがというべきなのか。
「何が違うって?」
「んー……っと……」
 叶多はしばし考えこむようにして、それから答えが見つからなかったのか、ワイングラスを口に持っていった。味わうというよりは喉が渇いているかのようにごくりと飲みこんでいる。せっかくの高級ワインもこういう飲み方をされたら浮かばれないだろう。
 空にしたグラスにワインを注ぐしぐさは、酔っぱらったオヤジ化していて、一見、まるで酒豪だ。戒斗は叶多からワインとグラスの両方を取りあげた。
「叶多、もういい。明日どうなっても知らないぞ」
「戒斗ぉ、お酒って美味しいねぇ。なんだか幸せな気分なのぉ」
 戒斗は呆れ半分、笑いながら叶多を椅子から抱えあげた。
「このまんま幸せな気分で起きたいんなら、今日はもう飲まないことだな」
「あたし、誕生日なんだよぉ。二十才! 戒斗といてもおかしくない大人になったんだしぃ、もっとこう……んっと、そう! 盛大に……じゃなくって……なんていうか……ぎゅうってお祝いしてくれてもいいと思うんだよぉ」
「いまの叶多は、大人っていうにはつらくないか」
 ベッドに叶多を下ろして、ダイニングの照明を消しに行こうと躰を起こしかけると、叶多が強く戒斗を引き寄せた。

「なんだ?」
「あたし、犬になる!」
「だから、何が云いたいんだ?」
「座って」
 叶多はベッドを叩いた。戒斗はちょっと考えたすえ、早く眠らせたほうがいいかもしれないと判断して、叶多が云うまま、ベッドサイドをつけた壁に背中をもたれて脚を投げだした。
「それで?」
 問うのとどっちが早かったのか、叶多は戒斗の脚の上に載ってきた。
「戒斗が触ってくれないからぁ、あたしが触ろうと思って! だから、じっとしててぇ、ね?」
「叶多――」
 止めかけた戒斗の口を叶多がふさいだ。いつもは引っこんでしまう舌が戒斗の中を探りだしてワインの香りが広がった。軽く撫でるような触れ方はくすぐったくもある。やり返したいのを堪えて、そのままさせていると叶多の手が戒斗のシャツを(はだ)けた。
 お酒を飲んでいるせいか、いつもの恥じらいはまったくないようで、戒斗がするのと同じように叶多のくちびるは喉を伝って下へと下りていく。
「待て」
 叶多の舌が胸筋に従って這いだすと、戒斗はその頭をつかんで胸もとから離した。
「待たない!」
 トロンとした瞳が潤み、いきなりでガラスの粒が次々と落ちていく。
「だって、戒斗だけってずるい! いっつも待ってるだけだし。されてるだけなのに、いまは全然してくれないんだよぉ? さみしいのぉ」
 酔っぱらっても泣き虫なのは同じらしい。欲求不満は叶多にもあるらしく、普段から“もっと”という気持ちさえ認めたがらないことを考えると、してくれないなら自分からという思考もお酒が入ってならでは、なのか。
 大胆にも、叶多の手が下腹部に触れた。去年は、卒倒しそうになってなかなか進めなかったはずが、ためらうことなく下降する。
 戒斗は叶多の顔を離してその手をつかんだ。
「だめぇ?」
 叶多は戒斗を覗きこむようにして訊ねた。戒斗は妥協と絶対を考える。その間に叶多がまた戒斗の首筋を襲う。犬みたいに咬んだあと舐め回す。
 絶対じゃない。叶多にペースを任せればエスカレートすることもないだろう。
 戒斗は自分に妥協した。

 胡坐(あぐら)を掻いて抱き直すと、叶多は顔を起こして首をかしげた。
「好きにすればいい」
 叶多の意思に沿ったとたんの嬉々とした顔を見て後悔を覚えたのだが、返上する間もなく戒斗の慾が無造作につかまれた。
 叶多の手を振り払うようにピクリと硬直して、それが叶多を笑わせる。
「動いてるよ、戒斗! 戒斗も犬みたいだねぇ」
「飲みすぎだろ。自分のやってることわかってるのか」
「大丈夫! 恥ずかしいことないんだよ。戒斗をイカせてやりたいだけなの!」
 いつもの臆病さはどこへやら、戒斗の受け売りで叶多は云い放つ。くっと思わず吹くと、
「やっぱりずるい!」
と、叶多はむくれた顔をした。そのむっつりも刹那で、すぐに思考転換した叶多は、戒斗の脚から手を下ろしてボクサーパンツの中に忍ばせ、“それ”を直につかんだ。
 たまに正気らしいものが覗くが、概ね泥酔状態だ。
「叶多」
「へーき」
 どこまでやるつもりか、本気でイカせるつもりなのか、叶多は考えられないほど軽く受け合った。
 その叶多の大胆さをおもしろがったのもつかの間、久しくなかった刺激は耐えるのも難しく、余裕がなくなっていく。それを知ってか、
「戒斗、食べたい」
と、浮き浮きした叶多の声が下にこもった。
 ともすれば熱を削ぐような、色気のない口調。自覚に欠けた状態でこういったことをやらせるということに、多少後ろめたさを感じなくもない。ただ、叶多がいつか戒斗を制覇したいと思っているのも事実だ。戒斗は云い訳じみた理由をつけて、自分を納得させる。
 見下ろした叶多はみだらそのもので、犬じゃない。一端の妖婦だ。ただでさえ、そそのかされているのに、これが素面でできるようになったらおれはどうなるんだ?
 戒斗は馬鹿馬鹿しい疑問を持った。が、まもなくそんなことを思うことすら危うく、理性は途切れていった。
 その後、犬みたいに戒斗を離さなかった叶多は、慣れない酒と初のイカせる体験によって嘔吐と闘う羽目に陥った。
 叶多と一緒にトイレにこもること十五分。涙塗れの顔と汚れた口の中をきれいにさせたあと、ベッドに連れ戻ると、叶多は疲れ果てて伸びた。
 妥協の結果がこれか。
 嘆じること半分、興じること半分で息を吐き、戒斗はぐったりした叶多を抱いて目を閉じた。



「……叶多」
 遠くから響く声がだんだんと近づいて、やがてほんの傍で叶多の名を呼んだ。
 何度か目を(しばた)いて開けると、真上に戒斗の顔があった。
「……戒斗……」
 呼び返しながら、叶多はなんとなく口に違和を感じる。
「頭、痛くないか?」
「え、頭? 痛くないけど……なんだか口が疲れてる」
 戒斗は何やら裏がありそうにニタリとした。
「……戒斗?」
「覚えてないか?」
 その質問を受けて、寝起きの頭が回転を始めた。カーテンの向こうは薄らと明るくなっている。

 ということはもう夜明けで、戒斗はいつ帰ってきたんだろう。それより昨日のこと? 昨日はライヴがあって、戒斗は帰ってこなくて……。や、大事なことを忘れてる。昨日はあたしの誕生日だったはず。戒斗がお祝いしてくれないって怒って……ううん、お祝いは朝一番にくれた。ワインだ。ワイン……?

 ワインに行き着いたとたん、自分のやったことが津波のように記憶の先端に押し寄せた。
「……夢……だよね?」
 戒斗は返事をするかわりに最大に口を歪めた。夢であってほしいという希望は敢えなく散る。
 や、でも! いくら戒斗に仕返ししたいという願望があるとはいえ、あ、あんなこと、あたしができるはずないんだから! でも……だったら、この口の違和感は何? 明らかに普段使っていないという凝り方で……。
 叶多があれやこれやと想像――いや、回想しているうちに、否定できないほどやってしまったことが鮮明になっていく。
 戒斗のあれって大きくて硬くて、それでいて、あたしの好きな皮つきウィンナーを食べているようなプリプリ感があって……これだけよく躰の中に納まるなというくらい口には入りきれなくて……ピクピクして元気……だった。
 まるで野良犬が生肉を美味しそうに頬張るシーンが甦る。
 そのあとは……。

 赤くなったり蒼くなったりという、叶多の心情は露骨なようで、戒斗は顔を近づけて含み笑った。
「若干、納得いかないところもあるけど、イカされたことには違いない。野良犬の本能はさすがだ」
「……もうやだっ」
 叶多は目を逸らすと同時にくるりとうつ伏せになって顔を隠した。
「やだって云われてもな。おれは無理強いしたつもりはないし、“まだ”何もしてない」
 叶多の耳もとで戒斗が薄気味悪く『まだ』を強調して囁いた。
「戒――っ」
 顔を上げて仰向けになろうとしたとたん、肩を抑えつけられ、それ一つで叶多に身動きさせなくした。そのまま戒斗は叶多のパジャマに手をかけた。躰の下に潜って前開きのボタンを外すと、次はズボンと一緒にショーツまで脱がされた。
 うつ伏せのまま、脚を開かされて戒斗がその間に入った。手がいきなり敏感な先端に触れるとお尻から震えが発生する。
「戒斗っ」
「野良犬は野良犬らしく、たまには野生に戻してやらないと不安になるらしい」
 戒斗は勝手に結論づける。
 反論する間もなく、指が上下に沿って這いだした。
 あ、あっ……。
 朝というリセットされた躰であること、長く触れられなかったこと、自分からは云えないけれど触ってほしいと思っていたこと、それらが重なって叶多はすぐに声をあげ始めた。
「戒斗……待って!」
「恥ずかしいことはない。イカせてやりたいだけだ、って叶多はおれに云ったな」
「あ、あ、だからっ……それは戒斗の……んくっ、真似なのっ」
「いいから好きにイケばいい」
 戒斗の手が離れたと思ったとたん、腰がつかまれた。何がなんだかわからないうちに腰を持ちあげられ、叶多は膝を支えにしてお尻を差しだすような格好になった。
「あ、戒斗、やだっ……あああっ」
 云っているうちに、戒斗は飢えていたように叶多に喰いついた。
 触れてくれないという不満の向こうに、こんな格好は予想していなかった。体裁が悪すぎて頭はどこか冷静で、ただ、それでも躰は戒斗の行為を喜んで受け止めている。躰の中からその応えが溢れているのがわかった。
 本物になるまで一回、本物になってから一回。叶多はへんな格好のまま力尽きた。

「いい眺めだな」
 悦に入った笑い声を漏らしながら、戒斗は叶多の躰を仰向けにした。
「戒斗……」
 涙声でつぶやくと、戒斗が叶多の濡れた頬を拭った。
「どうだ? 野生に戻るのもいいだろ」
「恥ずかしい」
「昨日、ああいうことを『へーき』って云ってするくせに、か?」
「もういい」
「叶多にお酒を飲ませるときは考えないとな」
「もう飲まない!」
「残念だ」
 戒斗はからかうように口を歪めた。叶多は、屈託のない戒斗をじっと見上げた。

「……ホントは不安だったの。また……まえみたいに……しなくなったから……」
 叶多がようやく不安を口にすると、戒斗は形だけ笑ってしばらく叶多を見下ろしていた。
「いろいろ考えてるんだ」
「……ヘンなこと?」
「叶多が不安になるようなことは考えてない。反省みたいなもんだ」
「反省?」
「おれがだらしないから」
「そんなことない」
 即座に否定すると戒斗はおもしろがって片方の眉を上げた。

「確かに、“こっち”はだらしなくないけどな」
 叶多の手をつかみ、戒斗は自分に触れさせた。確かな感触がある。
「やだっ」
 なぜか恥ずかしくなるのは叶多で、急いで手を引っこめた。
「やだ、だって? さっきは“美味しそう”にお尻振ってたくせに?」
「違う!」
「犬ってさ、喜んでるときは尻尾振るんだよな。どう見てもさっきの叶多はそんな感じだ。上でも下でも喰って。犬は所詮肉食だし、特に野良犬は()きのいい生肉が好きなんだよな」
 羞恥のあまり、叶多は戒斗に襲い掛かり、押し倒すと首筋に咬みついた。
「いい感じだ」
 肌と肌がくっついて、笑いながら云う戒斗の一言が躰から伝わってくる。
 成り行き上、脚の間に戒斗の慾が挟まるというへんな体勢はともかく、服越しよりは、やっぱり生な肉体のほうが気持ちいい。
「うん」
 返事をしたとたん、戒斗の慾が大きくなった気がした。
 それは、慄くよりも、もしかしたら叶多に触れることに飽きたんじゃないだろうかと思っていた不安を打ち消す。
 中毒症状はきっと同じ。それを確かめたくて。
「戒斗」
「なんだ?」
「もう一回くらい……いいかも」
 遠慮がちにポロリと口走った刹那、戒斗は自分ごと叶多の躰をひっくり返した。
「もっと、がやっと出た。一回と云わず……」
「戒斗――っ?!」

 その後、戒斗が容赦なかったことは云うに及ばず、叶多の気絶という、戒斗の男冥利(みょうり)をくすぐって欲求不満は締め(くく)られた。

* The story will be continued in ‘Go to Receive’. *

BACKNEXTDOOR

* The wild dog likes fresh flesh. … 野良犬は生肉がお好き
  f
esh … 新鮮な、元気な、など   fesh … 肉、肉欲、など
【注】念のため補足
   自分のペースがわからないうちに叶多のようなお酒の飲み方はされませんように。