Sugarcoat-シュガーコート- #72
extra Candied birthday Naughty bathtime -latter-
その後、家を出ていったのは電話で呼びだされた戒斗で、頼と真理奈はそのまま居座り、気づいたときは夕方の五時。結局はちょうど戻ってきた戒斗と四人で夕食をとった。
ふたりが帰って叶多が片づけをしている間、戒斗は電話をしていて、寝室ではないこととフランクな話し方からして相手は友だち、もしくはメンバーだろう。
叶多は先にお風呂の準備をしてから浴室へ行って蛇口をひねった。リビングに戻ってもまだ戒斗は電話中で、目が合うと叶多を手招きした。前に立つと、問うように叶多は首をかしげた。すると、腰をぐいと引き寄せられ、叶多は必然的に戒斗の脚を跨いで座った。
平日は頼が目を光らせていて、キスどころかハグもろくにできない。
叶多はそのさきを考えるより欲求を優先して、ぴったりと抱きついた。電話中の間は少なくとも襲われずにすむ。そう思ったのに、戒斗の躰が反応したのがわかった。
戸惑って躰を離そうとした叶多を戒斗の右腕が締めつけた。
驚いた隙にシャツの下に潜った手が背中から回りこみ、下着を押しのけて叶多の右の胸に行き着く。
ふくらみにかかっただけで叶多の躰は反応した。防御できないうちに戒斗の指が敏感な場所を探り始める。
声が漏れて、叶多は慌てて戒斗の肩に顔を埋めた。
んふっ。
肩に口を押しつけていても、息がわずかな隙間から押しだされた。声を我慢しているせいで躰が耐えきれずに戦慄き、手が離れたときはぐったりとした。
いつの間にか、誰かに向かっていた声も止んでいて、戒斗は叶多の躰を起こした。
顔を挟まれて目を上げると、のぼせたように戒斗の顔が少しぼやけて見える。
戒斗が小さく唸った。
「戒斗……なんだかやることが……酷くなってない?」
「今日はなんの日だ」
戒斗はすまして訊ねた。忘れようとしていた約束を思いださせられ、叶多は当惑して戒斗を見つめた。
「戒斗の二十四才のお誕生日……おめでとう」
あらためてお祝いを口にすると、戒斗が首をひねって催促した。
戒斗の肩に手を置いて顔を傾けると、くちびるを合わせた。
ふんわりとしたキスはすぐに荒々しく変わった。息苦しく呻いているのにもかまわず、戒斗はどんどん叶多の中を侵してくる。
頭がぼんやりとして酸素不足に陥り、戒斗の肩を弱々しく叩くとようやく解放された。
強引にシャツを引きあげられるまま腕を上げ、ブラジャーも簡単に取られた。気温が低いのと、裸になった心許なさで身震いした。脚の上に叶多を載せたまま、今度は戒斗が自分のシャツを脱いだ。
「……戒斗?」
いつも一方的に脱がされるだけで、こういうとき叶多が触るのを嫌がっている戒斗が服を脱ぐことはあまりない。戸惑って見ると、戒斗はにやりとした。
「一緒に風呂。夢だったわりには避けてるから今日は叶えてやる」
確かに夢だったけれど、えっちモードの戒斗とほんわかモードの叶多という、ふたりの目的が違うのは明らかで、素知らぬふりを努めて避けていたのだ。叶多は顔を火照らせ、ますます困惑して目を伏せた。
「手を回すんだ。自分では素直に行けないだろ」
ちょっとためらってから、戒斗の背中に手を回した。裸同士の胸が触れて、くすぐったさと似た感触に叶多は小さく悲鳴をあげた。耳もとではその反応に誘われたように戒斗の呻き声がした。
「下手に暴れるなよ、収拾つかなくなる」
戒斗が警告すると、後先考えない悪戯心が湧くのは叶多の性だろうか。叶多を抱いたまま立ちあがった戒斗の首筋にくちびるをつけた。痕をつけない程度に咬みつく。
半分くらいは収拾つかなくなったほうがいいという気持ちもある。そうしたら恥ずかしいのが軽減されるかもしれない。
「覚えてろ」
くぐもった声で戒斗は警告を宣告に変えた。
浴室に入って叶多は床に着地したものの、腕を離さないでいると、かがんでいる戒斗の手がクロップドパンツにかかった。ファスナーをおろされても足を上げないで悪あがきをした。
「無駄な抵抗だ」
戒斗は云い放ち、いきなり下着の中に手を滑りこませた。
「あっ」
掻きわけるようにして柔らかい肌が撫でられると、叶多の躰が小刻みに震えた。戒斗の指が自在に動いて叶多の感覚を急速に押しあげていく。
「待……って……立って……られない!」
叶多の膝がかくんと折れ、戒斗がすかさず腰を抱きとって支えた。
「黙っておれに脱がせられるか、それとも自分で脱ぐか? このままやってもいい」
「……自分で脱ぐ。あっち向いてて」
「今更、だな」
口を歪めて云いながらも戒斗は背を向けた。戒斗が自分のジーパンを脱ぎ始めると、叶多は後ろを向いて焦ってパンツと下着を脱いだ。とたんにくるりと躰を回されて、向き合わせに抱きあげられた。支えられたお尻に腕とは違う感触が当たる。
「か、戒斗!」
あたふたして肩越しに叫ぶと、戒斗は小さく笑った。
「一週間は長すぎるんだよな。濡れてるのがわかる」
仕返しに指摘されると、叶多は抱かれていてよかったと思った。体温が何度上昇しただろうかと思うほど頬がカッと熱を帯びて、戒斗の肩に顔を伏せた。
「もういや」
「まだこれからだろ」
投げやりにささやいた叶多に殺生な宣告をして、戒斗は浴室に連れていく。
戒斗は叶多をおろして開けっ放しだった蛇口を閉めた。
溢れていたお湯が浴室全体を温かくしている。湯気が少しだけ視界をオブラートに包んで、叶多の気持ちがちょっとらくになった。
「叶多、座って」
「……何?」
「風呂で叶多の躰を洗ってみたいと思ってたんだよな」
「……えっち」
「いい響きだ」
戒斗は背後から叶多を抱きこむと床に胡坐を掻いて座った。戒斗の脚が叶多の椅子がわりになったのはいいが、腰に当たる戒斗を意識せずにはいられない。
後ろから回った手が叶多の前でスポンジを泡立てた。半ば慄いてどこから始まるかと思いきや、まずは背中からでほっとした。
「戒斗」
「なんだ?」
「えっと……触っていい? 今日は収拾つかなくなってもいいと思うの! 戒斗の誕生日だし……」
「だめだ。おれの楽しみを奪う気か」
「……楽しみって……だって……なんだかあたしだけって……バカみたいな気がするの」
「おれは気に入ってるけどな」
「でも……」
「ふーん」
曖昧な相づちはなんとなく戒斗のスイッチがオンに切り替わった気がした。
「戒斗?」
「バカみたいだとか、そういうどうでもいいことは考えなくていいようにしてやる」
戒斗の腕が背後から巻きつき、泡に塗れた手が胸に届いた。
「あっ……戒斗っ」
身を縮めて避けようとしたのに戒斗の手は防げず、ぬらりとしてどこまでも滑りだす。戒斗の指が手加減なく敏感な先を摘むと、石けんのぬめりが適度に力を調節して叶多の思考回路を遮断した。次第に耐えられなくなっていく。
「あ、ああっ、戒斗……だめっ」
戒斗に背中を押しつけて叫んだとたん、叶多は浴室に反響した自分の声に気づいた。
「だめじゃない。このままイケそうだったらイケばいい」
戒斗の早々とした許可にも叶多は首を振った。戒斗のため息のような笑みが耳もとに聞こえたと思ったとたん、叶多を縛っていた左腕が腰から這いあがって左の胸を侵略した。
んふっ……ぅん…はっ……。
一週間ぶりに触れられたことと、声を我慢していることがだんだんと躰の奥に痺れを満たしていく。
戒斗は不意に叶多を横抱きに変えると、覆いかぶさって胸の先を咥えた。片方は指先が占領してうごめく。
あっ…ぁふっ。
恥ずかしいよりも感じることのほうが大きくなって声が漏れた。わずかに残った理性が叶多の左腕を動かし、その腕で自分の口をふさいだ。
甘い痛みが胸から下半身まで伝う。頭の中まで痺れ始め、小刻みに震える躰が突っ張っていく。もどかしさに本能的に腰を捩った瞬間、戒斗が強く吸いつきながら甘咬みした。さらにもう片方を嬲る指に追い詰められ、背中が反れる。
ゃぁあっ。
抑制できなかった声が浴室をいっぱいに満たした。
戒斗は攻め続け、逃れる力もなく叶多は躰を痙攣させた。嗚咽がこみ上げる。
「戒斗……恥ずかしい……よ」
戒斗は口を離して顔を上げると、叶多の涙に塗れたこめかみを手で拭った。
「なんだ?」
「あたしの……躰……ヘンなの……」
「ヘンじゃない」
「だって……戒斗は触ってないのに……そこが……イっちゃうっておかしい」
口もとに息がかかったと思ったとたん、戒斗のくちびるが叶多を襲った。ペタンと吸着するようなキスは気持ちいい。くちびるが離れると、叶多は満ち足りたように震える息を吐いた。
「逆だ」
「……逆?」
「ヘンじゃなくて、男にとっては栄誉になるんだけどな」
その言葉に叶多が伏せていた目を開くと、戒斗は口端を上げてみせた。
「……そう?」
「感じやすい叶多の躰は気に入ってる。ついでに何回もイってくれれば何も云うことはない」
「戒斗っ」
戒斗の示唆に場所も弁えずに慌て、叶多は石けんのついた躰を滑らせながら腕の中から抜けだした。
角に置いたバスチェアに躰をぶつけつつ、転がるように叶多は壁に背中をつけた。壁に当たった背中がひんやりとしても気にする余裕はなく、戒斗に警戒の眼差しを向けた。
戒斗はそんな叶多を見て小さく笑った。
バスチェアに座っても少し見上げる程度の高さにある戒斗の瞳を見つめ、叶多は無言で訴えた。
「まるで臆病な犬だな。逃げ場はない。逃がすつもりもないし」
叶多の訴えを退け、あっという間に戒斗は目の前に来た。
「……またのぼせちゃう」
「お湯の中じゃない」
「怖い」
戒斗の手がそれぞれに脚をつかんだ。しっかりと膝を合わせると、戒斗が身を乗りだして叶多のくちびるをふさいだ。性急ではなく、じゃれるように吸いつくキスは叶多を油断させる。戒斗が叶多の脚を開いた。
キスは首筋を伝って胸もとにおり、硬くなった場所を生温かく絡めとられた。
あっ。
反射的に声が漏れると叶多はまた口をふさいだ。飴を転がすように舌が戯れると躰がピクリとして呻いた。
戒斗はふと、くぐもった声に気づいて顔を上げた。
「叶多、声聞かせろ」
戒斗は叶多の手を取って口から離した。
「……だめ。聞こえちゃうって……他の部屋まで聞こえてるかもしれない」
「聞こえたってかまわないだろ」
「かまう」
「今日はどういう日だ?」
叶多は目を開いて、また同じことを訊いた戒斗を恨めしそうに見た。
「……戒斗の誕生日」
「好きにしていいって云ったよな。そのまえになんて云った?」
「……泣いても叫んでも……」
渋々答えると戒斗がにやりとした。
「でも――!」
「邪魔者がうろついていようが、ここはおれとおまえの場所だ。だれに遠慮する必要がある?」
返事を待たずして叶多はくちびるをふさがれ、戒斗が膝の下に腕を潜らせて脚を持ちあげた。
ぅんっ。
抵抗しようと上げた手を戒斗がそれぞれにつかみ、叶多の肩の高さで壁に貼りつけた。叶多が逃れようと首を振ると、簡単に戒斗は離れた。直後、あまりに恥ずかしい姿に気づいて、叶多はキスしたままのほうがよかったと後悔した。
まるでひっくり返ったカエルの標本みたいに、浴室の角に括りつけられている。戒斗の腕に載った脚は引っこめることもかなわず、脚の間は丸曝しになった。
「戒斗っ」
「いい格好だ」
「やだっ」
「いやじゃない。感じればいい」
「戒斗――」
戒斗のくちびるが叶多の口をふさいだ。すぐにくちびるは下へと落ちて胸のふくらみを柔らかくかじるように這った。じれったい感覚がそこから躰の奥へと走り、出口を求めて秘めた場所まで下りた。
そのあとを追うように戒斗のキスはお腹を伝っていく。
「戒斗、だめっ」
躰を突っ張って拘束を解こうとしても戒斗の腕はビクともしない。躰をかがめた戒斗がそこにたどり着いた。温かい粘膜が蜜をすくいながら、円を描くように潤んだ皮膚を這いずり回った。
「やっ……あっ……戒斗っ」
「逆らうな」
くちびるが敏感な場所を含んだ。キスのように舌が動きまわると叶多は無意識で腰を捩らせた。それが感覚をますます鮮明にする。
あ、あ、あっ……。
戒斗は蜜の溢れる場所に移って舌先で突いた。
ゃあ、んっ。
尖らせた舌の先が少しだけ潜りこんで入り口を這いずった。
身動きも、そうする力もなく、叶多は押しつけられるままに快楽を受け入れるしかない。戒斗が待っていた声も止めるすべがなくなった。
「あっ…戒…斗……も…やだ……ん、はっ……あうっ…んっ……」
「イっていい」
戒斗は顔を上げてつぶやき、胸の先を甘くかじったあと、すっと下りてまたそこに口を埋めた。ふくらんで剥きだしになった触覚に喰いつく。
あ、ああっ。
繰り返し、じゃれあうキスのように吸いつかれ、やがて叶多の躰の内部が激しく収縮した。
ぅっあっ、あああっ……んくっ。
痙攣が全身を駆け巡った。躰内の収縮が鎮まると、とくんと蜜が外へと押しだされ、叶多はその感覚に身震いした。
戒斗は震えている間もくちびるを離さず、それどころか柔らかい触れ方に変えて叶多の感覚を持続させている。
「もう…いいっ……あっ……」
戒斗は答えないで、叶多をただ追い詰めた。喘ぐ声は嗚咽に変わっていく。
イクんだ、と云う戒斗の催促に逆らえないまま、休む間もなく落ちたのか浮いたのかわからない感覚の中に埋もれた。
それからどうなったのか、叶多はよく覚えていない。覚えているのは戒斗に抱かれて湯船に入ったことだけで、意識がはっきりしたときはベッドの上で布団に包まっていた。
身動ぎすると横にいた戒斗が左の肘をついて起きあがった。
「大丈夫か」
「……そう訊くんなら……もうちょっと考えてくれてもいいと思うの」
「無理難題だ。叶多を苛めだすと止まらなくなる」
見上げた戒斗は口の端を歪めた。
「酷い」
「叶多が考え方を変えれば虐めにならないんだけどな」
「……難しいよ」
「おれもやめろと云われても難しい」
叶多の目尻から涙が一粒落ちると戒斗は可笑しそうに見下ろした。
「そうだな。叶多の誕生日に何か埋め合わせしてもいい」
「ホント?」
「ああ」
「じゃ、戒斗に触らせてくれる?」
「それは叶多次第だ」
「何?」
「自分でイケるくらい素直にインランになってくれたら考えてもいい」
無理難題を押しつけるのは戒斗のほうだ。叶多は詰るように戒斗を見つめた。
「意地悪」
「まだ半年ある。努力してみたらいい」
「……頑張る」
口を尖らせつつも答えると、戒斗は笑みを漏らした。
「叶多、今日はこれまでで最高の誕生日プレゼントをもらった」
そう云われると、叶多の表情は緩んで口もとがうれしそうに広がる。
「うん、よかった!」
「美味しかった」
叶多に連ねてからかうと、その顔が赤くなったのを見届けてから戒斗は照明を消した。
「この続きはまた明日だ」
「……戒斗?」
戒斗の声は悦に入っていて、怯えたように叶多がささやくと、暗闇の中、チェストの上に置いた時計はちょうど零時を示して光った。
* The story will be continued in ‘Devil's smile’. *