Sugarcoat-シュガーコート- #70

第8話 extra Sweet die


 文化祭二日目の土曜日は一般開放されて、廊下を通るにも、蛇のように曲がりくねってしか進めないほど人が多い。
 青南は有名校だけに、在校生の家族だけでなく、他校からも、そして来期の受験生とその親たちも学院見学を兼ねて数多く訪れる。それゆえに出し物は手が抜けないところだ。
 叶多のクラスのピクセル壁画は無事に間に合った。
 ごく限られた人しか完成図を知らなかったピクセル壁画は、横六メートル、縦三メートルと巨大だ。体育館の一面に飾られている。今期の春にあった体育祭のとき、ブロックの象徴として描かれた麒麟(きりん)の絵をクラス全員で囲んでいる写真だった。
 高等部はまもなく卒業するからこそなのか、見ているとなんだかじんとくる。全員ではじめて完成した壁画を見たときの一瞬しんと静まった空気は、叶多だけではなく誰もに似た思いがあることを証明している。

「すごいな。よくできてる」
「うん。繋いでびっくり。……わかる?」
 叶多は曖昧に訊ねた。
 午後になってやって来た戒斗は壁画から叶多に視線を移した。
 薄らと焦げ茶がかった伊達眼鏡は、微妙に光を反射して目の表情はよく見えないけれど、口もとが片方だけ上がった。
「いちばんお子さまなのを探せば間違いない」
「酷い」
「逆に見つけらんなきゃどうかしてるだろ」
 鼻で笑いながら割りこんだのは陽だ。
 戒斗が来ると、ユナたちは出迎えのときからボディガードだと自称して無理やり同行した。
 確かに陽と永がいると、背の高さが紛れて戒斗が飛び抜けて目立ってしまうこともない。けれど、個々への視線は分散されても結局は三人まとめて注目を集めているような気がする。

 火曜日、叶多が教室に帰ると、目撃情報によって“戒”であることがばれてしまっていた。
 FATEはプライヴェイトを明かしていないだけに、リーダーの戒が青南出身だと知るとまさに興奮のるつぼと化した。
 当然、誰もから寄ってたかって問い詰められた。クラスにもファンが多いから一歩間違えれば袋叩きだ。
 従兄であることを打ち明けたけれど、なぜ呼びだしに戒斗が来るかということに至っては、父親の代理だと説明してもなかなか納得はしてくれなかった。
 嘘だといちばんよくわかっている叶多が説明するのだから、説得力がないのも無理はない。
 困り果てたとき、誰かが、今度の文化祭に会わせてくれたら見逃してやる、と口にしたことから戒斗が来るに至る。
 さっきまで教室にいたけれど、大げさに云えば戒斗は()みくちゃにされた。
 三年生は最後の文化祭をゆっくり楽しめるように、どのクラスも製作品の展示のみで、昨日の内部お披露目でほとんど見学をすませている。要するに時間は有り余っている。
 やっと引き下がってくれて五人でいろんなイベントを回り始めたところだ。
 体育館ではまもなくの二時から生徒のバンド演奏が予定されている。

「あの、すみません」
 突然かけられた声に振り向くと生徒会長がいて、その目は戒斗に向いている。
「生徒会長だよ」
 叶多が紹介すると、戒斗は、どうも、と短く返事をした。
「すみません、あの、よかったらこれからやるバンド、FATEの曲もやるので飛び入り参加してもらえたらと思ったんですけど……すみません、ずうずうしくて」
 生徒会長は申し訳なさそうにすみませんを繰り返した。
「ここで出し惜しみしたら、ファンサービスをモットーにしてるFATEの名が(すた)るよな。しかも母校だしさ」
 生徒会長の加勢をして陽が(けしか)けた。
 このところやられてばかりの戒斗は目を細めて陽を見やった。陽はものともせず、挑戦するようにくっと小さく顎を上げる。やがて戒斗は片方の口端を上げた。
「ギターはある?」
「はいっ、もちろんです。ベースもありますけど」
 生徒会長は暗黙の了解となった戒斗の質問に勢いこんで答えた。
「ベーシストの邪魔をする気はない。FATEの曲は何曲? 曲順は?」
「三曲目から続けて三曲です」
「オーケー。そのかわり、条件がある」
「なんですか?」
「向こうで」
「戒斗、いいの?」
 演奏を聴けるのはうれしいけれど、叶多はまた余計なことをさせている気がした。
 戒斗は陽を見やりながら薄く笑う。
「ああ。やられてばっかりではいられないからな」
「なんの話?」
 戒斗は肩をすくめると、身をかがめて叶多に耳に口を近づけた。
「三曲終わったら職員室の前に来てくれ。独りで、だ。うまく()けよ」
 ぽかんとした叶多を置いて、戒斗は生徒会長と連れ立っていった。

「わお。また聴けるなんてラッキー」
「パニックになんねぇといいけどな」
「渡来くんが余計なフォローするから……」
「けど、戒の生演奏をタダで聴けたとなったら、感謝されることはあっても非難されることはないだろ。ま、おまえのおかげってことになるな」
「……もしかしてあたしのこと、考えてくれてるの?」
「ふん。ここらへんで一点くらい入れとかないとな」
 ふん、が余計だと思ったけれど、噂のことも陽がいろいろと考えてくれていたことはわかっている。
「でも、頼のことでマイナス一点」
「んー、そうだよね。ちょっと叶多には同情する。チャラになったみたいだよ、渡来」
「野球にマイナス一点なんてあるかよ」
「あたしのルール」
 叶多が云いきるとユナは吹きだし、陽はちぇっと舌打ちをした。



 火曜日の事情聴取の日、暗くなってから帰りつくと、アパートの部屋の前に頼がいた。その周りにはやたらと大きい荷物がいくつもあって、叶多は嫌な予感に襲われた。
「頼、何してるの?」
「先生に云ったからには既成事実にしとかないとまずいだろ」
 まもなく頼の云っていることに思い当たり、叶多は唖然と見つめた。
「何考えてるの?!」
 小さく叫ぶように咎めると、頼の視線がふと叶多の背後に移る。
「戒斗さん、今日からお世話になります」
 叶多ははっと後ろを振り向いた。戒斗が皮肉っぽく口を歪めて近づいてくる。
「頼が……!」
「ああ、おまえの母さんから電話あった。不肖の息子で申し訳ないって泣いてたな」
 叶多から頼へと目を移し、戒斗が誇張して云っても、頼は(こた)えることなく鼻を鳴らした。
「云っとくけど、おれは邪魔しに来てるわけじゃない。見極めるためだ」
「見極めるって?」
「戒斗さんとおれたちの違い、をさ」
「おれたち?」
「そういうことか」
 オウム返しの叶多に重ねて戒斗が口を挟んだ。その口もとは(いびつ)に笑みをかたどる。
「戒斗?」
「頼と渡来が何か(たくら)んでるらしいとは思ってたけどな」
「これで戒斗さんの送迎負担も軽くなりますよね?」
 頼が尾行の件を示唆(しさ)しているとわかって戒斗は顔をしかめた。
「負担とは違う」
「なんの話?」
「叶多は知らなくていいことらしい。それで?」
 頼は挑発するように戒斗に答えを促した。
「勝手にすればいい」
「だってさ、叶多。よろしくな」
 叶多は不満たらたらで頼を睨みつける。
「云っとくが、見極める必要はない。それ以前の問題をおまえらはないがしろにしてるだろ」
 戒斗が云ったそれ以前の問題とは、それぞれの気持ちの在り()だろうことは見当がつく。頼は半ば参った心境でかすかに笑った。
「すごい自信ですね」
「じゃなきゃ、こんなことやってない」
「確かに。ついでに戒斗さんの“有吏ぶり”も勉強させてもらいます」
 それ以来、頼は居座ってしまった。



「ホントは一点のマイナスじゃ足りないんだからね」
 叶多は恨めしそうに陽を見上げた。
 それからバンド演奏は予定より十分ほど遅れて始まった。
 FATEの曲は三曲目からにもかかわらず、戒斗は最初から参加した。
 やっぱり永が云ったように『目立つ奴』は目立ち、なんの事前通告もなく普通に始まったライヴだったけれど、次第にノリとは別にざわめき始めた。
 三曲目に入るまえに、ヴォーカリストが“戒”を紹介すると、歓声があがって地鳴りがした。
 戒斗はピエロの挨拶をしただけですぐギターを弾きだした。戒斗がワンフレーズをリードしてからバンドが合流し、一気に上がったヴォルテージに連動して三曲ぶっ続けでFATEの曲が流れた。その間にどんどん人が増えた。息苦しいくらいに体育館は人の熱気で溢れている。
 叶多は三曲目になってから、ちょっと出るから、とユナに耳打ちして出入り口のほうに抜けだした。
 離れた場所から見ると、戒斗がバンドを邪魔しないように手加減しているのがわかる。それでも観客を喜ばせるほどに充分目立っているけれど。
 こういう場面で見る戒斗はやっぱり遠くに感じる。夏に見たライヴのときよりは一緒に暮らしているということが慰めになるけれど、やっぱり欲張りな自分。

 曲が終わる頃、叶多は体育館を出た。喧騒(けんそう)を逃れて行った職員室の棟は、イベントのない場所だけにほっとするくらい静かだ。
「叶多」
 例によって足音も立てずにやってきた戒斗は叶多をびっくりさせる。振り向くと同時に背中を押されて職員室の廊下を奥へと行った。
「戒斗?」
「休憩」
 そう答えて戒斗が鍵を開けたのは生徒会室だ。
「ここ――」
「生徒会長から許可もらってる。先生も了解済み」
 叶多は先に促されながら、はじめて入った生徒会室を見回した。カーテンは閉められていて薄暗い。中央に長テーブルがあり、奥の窓際に低い書棚、片側の壁にロッカーとコピー機がある。
 そのなか、戒斗はまるで勝手を知っているかのように躊躇なく左の壁につけられたソファに向かった。
「戒斗、もしかして生徒会長してた?」
「それほど奉仕型人間じゃない。副止まりだ」
「それでも充分すごいと思うけど」
「叶多、こっち来るんだ」
 戒斗はどさっとソファに腰を下ろして叶多を呼んだ。
 云われるとおりに長テーブルを横切って近寄ると、強引に手を引かれて叶多はよろけた。

「戒斗?」
「疲れた」
 わがままを云っているような口調に、叶多はまさかという目を向けた。裏づけるように戒斗のくちびるが歪む。
「ここ……学校だよ?」
「一回やってみたかったシチュエーションなんだよな。在学中は相手いなかったし、ラストチャンスだ」
「やだっ!」
 愕然とした叶多は戒斗の手を振り(ほど)きながら身を翻した。けれど、振りきれずにつまずいて、ちょうど躰の前にあった長テーブルに突っ伏した。
 すかさず立ちあがった戒斗が叶多の腰を支える。
「大丈夫か?」
 耳もとで戒斗が訊ねたけれど、言葉と裏腹に心配しているような感じは受けない。むしろ、悦に入った声だ。
 へんな体勢になって叶多が起きあがろうすると、さえぎるように戒斗が伸しかかった。
「戒斗、待って。誰か来ちゃうよ!」
「鍵かけた。ここは内側からもかかる」
「でもっ」
「寝るから邪魔しないでくれって云ってる。誰も来ない」
 戒斗の手が制服のスカートをたくし上げた。
「戒斗、だめっ」
「だめじゃない。溜まってる」
 慌てる叶多にかまわず、戒斗はなじるように低い声で囁いた。
「だって戒斗が許したんだよ」
「もとはといえば、誰のせいなんだ?」
 責任転嫁に信じられない思いで叶多は抵抗を忘れる。
「……頼が勝手に……!」
「云い訳はいらない」
 そう云って戒斗の左腕は躰を潜り、叶多の右肩を抱く。うつ伏せになった格好のまま、戒斗の右手が叶多のショーツにかかった。
「やだ、戒斗――っ」
「声出すと誰か来るかもな」
「……酷い」
「押しかけてきたとき、わかってる、って云ったはずだ」

 それとこれとは状況が違う。
 そう思っても結局は戒斗の意思どおりにされてしまう。抗議したところで逆にますます煽りかねない。
 剥きだしにされたお尻を戒斗の手のひらが這って、叶多の躰は頼りなく震えた。戒斗の手は指先からすっと下りて、叶多はピクリと小さく跳ねた。
 時も場合も場所も、こういう行為をするには不自然極まりない。恥ずかしい格好までさせられているのに、しばらく触れられることのなかった場所は待っていたように反応を露わにした。それがわかって、あまりの羞恥心にショックさえ感じ、叶多はかくんと脱力した。

 叶多を抱く戒斗の左腕がわずかに負担を増す。ぐったりとした叶多を見下ろすと、その閉じた(まぶた)が小刻みに震えている。
 その様子はいつもと違っていて、戒斗は手を止め、つかの間、叶多の頭に手を載せた。

「悪かった」
 戒斗はつぶやき、乱れた服を直して叶多を起きあがらせた。
「……戒斗」
「キスだけだ」
 慄いた叶多の頬をつかむと、戒斗は躰をかがめて荒っぽくくちびるを合わせた。
 深くならないうちにキスは離れ、戒斗はまたソファに座ると、何かを振り払うように髪をかき上げた。
「叶多がデリケートにできてるってことを忘れてた」
「戒斗?」
「こっち来るんだ」
 ここに来てすぐのときと同じ言葉に叶多は少しためらった。
「ハグするだけだ」
「……さっきはキスだけって云わなかった?」
 強張りが解けて小さく笑みを浮かべながら叶多が云い返すと、戒斗の口が歪んだ。なぜかそれに安心して叶多は近づいて戒斗の脚を(また)いだ。必要以上にぴったりとくっつくと戒斗の意思がはっきりとわかる。
 戒斗は少しも懲りていない叶多の自覚のなさに笑み紛いのため息を吐いた。
「叶多、やっぱ、おまえは面倒くさい」
 戒斗はソファの背にもたれて叶多を抱き寄せた。
 叶多は口を開けて戒斗の首に咬みついた。戒斗は小さく呻く。
「このまえの歯型。ジャケット撮影のとき大変だったんだよな。犬じゃ云い訳つかないし、木村さんにやられた」
 手厳しいと聞いているマネージャーの名が出ると、叶多ははっとして躰を起こす。
「……それで、どうしたの?」
「そのまんま」
「え?」
「今度のアルバムタイトル、“SWEET DIE”だし、DIE には型っていう意味もある。スタッフの意見でエロティックさを出すにはちょうどいいってことになった」
 キスマークの仕返しにと懲らしめるつもりが、再び叶多は墓穴を掘った。これからそのアルバムを見るたびに、形振(なりふ)りかまわなかった仕業(しわざ)の痕跡を目にするのだ。
 おもしろがった眼差しに、叶多は情けなく頬を赤くして戒斗の肩に顔を伏せた。

「戒斗、云うのを忘れてたけど、頼は土曜日の夜はいつも家に帰ってくれるんだって。だから今日は……」
 しばらくして、叶多が思いだしたように報告すると、戒斗は呆れたのか、顔を載せた肩が揺れるくらいに大きくため息を吐いた。
「なんでそういうことを忘れるんだ?」
「……怒った?」
「おれと叶多の温度差はどれくらいあるのかって謎に思ってる。恥ずかしいとか抵抗する気持ちがあっても、おれに抱かれることが嫌いなはずはないよな? 頼がいないことを知ってるんならこういう強行しなかったって云ったら?」
 戒斗は責めつけた。
 叶多は躰を起こして戒斗を見つめ、困惑に顔を赤くした。
「ごめん……」
「おまえがよく云う、迷惑。かけたくないって云うんなら態度で示すべきだ」
「今度の土曜日! 二十一日は戒斗の誕生日だし、好きにしていいから。お祝い、まだ思いつかないの」
 なぜか感じた後ろめたさに叶多はまた安易なことを口走った。
 戒斗は怪しんで目を細めた。
「……泣いても叫んでも好きにして!」
「ふーん……約束だな?」
 叶多がうなずいても戒斗は表情を緩めない。
「今日は?」
「……えっと……今日は、このまえのぶんの埋め合わせしていい」
「泣いても叫んでも?」
 叶多はためらったがかすかにうなずいた。とたんに戒斗の口が愉悦を浮かべた。

「……戒斗」
「いまも今日。ちょっとだ」
 云い放つなり、戒斗の両手は叶多の胸に這いあがって制服の上からふくらみを(わし)づかみした。
 叶多の目が大きく開く。
 戒斗の手が動くとすぐに叶多の瞳は熱に霞み、口はかすかに開いて吐息を漏らした。そこへ戒斗の舌が侵入する。
 油断した隙を狙った戒斗のキスと手が、叶多から一気に理性を取りあげた。キスの合間に戒斗の手はブラウスの下から忍びあがり、下着をずらして直に素肌に触れる。押し退()ける気持ちが起こらないほど頭はぼうっとした。指先がちょっと戯れただけなのに、ふくらみは感じていることを戒斗に伝える。
 それに満足した戒斗は右手を叶多の脚の間に忍ばせた。(またが)った格好は容易(たやす)く戒斗を招きいれ、下着の上から確かな感触で撫であげたとたんに叶多の背中が反った。
 戒斗は左腕で叶多を抱きかかえ、くぐもった声をキスするままに呑みこんだ。
 時を待つことなく、叶多は制御を失ったように震えだし、無意識にも逃れようと身を捩る。戒斗の指先は敏感な場所を捕えて離さない。腰が重たくなるほど震えが走った。
 も……だめ……。
 キスで口をふさがれたまま酸欠したように朦朧(もうろう)としていくなかで、叶多の意識がつぶやいた。戒斗の腕を強くつかむとくちびるが離れた。
 ぁあっ……んっ。
 戒斗の手は動き続け、首を反らして抑えられない声を漏らした。躰が怯えたように戦慄(わなな)いた。
「イっていい」
 戒斗は囁き、叶多が叫ぶ瞬間、またキスでふさいでその悲鳴を呑んだ。

 やがて、叶多の鼓動が落ち着いて戒斗はくちびるを離した。震える息を吐きだして、叶多は全体重を戒斗に預けてもたれかかった。
「戒斗……結局……」
 叶多が力なく云うと、頬をつけた戒斗の肩から罪悪感の一欠片もない忍び笑いを感じた。
 無理やり後ろめたく仕向けられ、戒斗の望む言葉を云わされたと気づくのはいつも取り返しがつかなくなってからだ。
「戒斗に操られてる気がする」
「おれは叶多に振り回されている気がするけどな」
 戒斗は可笑しそうに云い返してから、首もとまで手を上げて叶多の濡れた頬を拭いた。
「しばらく眠っていい。片づけまでにはまだ時間がある」

 戒斗の腕が叶多の躰に回ってきつく抱いた。その腕から満たされることのない飢えが伝わってくる。

 頼が押しかけてきた日から、叶多だけ寝室にやられて、戒斗と自分は和室で眠るという規則を勝手につくり、こうやって戒斗の腕の中で眠ることすら妨げられている。

 誘惑に負けて、叶多は戒斗の言葉に甘え、躰を(ゆだ)ねた。

* The story will be continued in ‘Naughty bathtime’. *

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* 文中【麒麟(きりん)】とは … 中国の伝説上の動物。獣類の長。