魂で愛する-MARIA-

第11話 哀執aisyu

# 79

「かず、ひさ……?」
 手をついて起きあがろうとすると一寿は腰をつかんで自分のほうに向けた。そして、自己嫌悪じみた発言をしたにもかかわらず、再びお尻に触れる。
 ん、はっ。
 喘ぐも声にはならず、一寿の指がなかにもぐってきて確かめるように動く。躰にうまく力が込められず、お尻も緩んでいるようで、ソープをまぶした指はやすやすとうごめいている。腸壁が撫でられると、ぞわぞわとした感覚が防ぎようなく押し寄せた。
 そして、何かを見切ったように一寿の指は出入りを始めた。

 ぅんっ、んはっ……。
 わずかに旋回しながら出てしまっては入り、摩撫され、だんだん熱がこもっていく。心地よくなっていくほど孔口は開きっ放しになっていているんじゃないかと恥ずかしくなる。それを裏づけるように、一寿はまもなく二本の指を絡めて同じように動かす。きつさはあっても快感に変わっているいま、苦痛はもとより異物感もない。お尻で得ていた快楽を躰は記憶しているのだろう。触られてもいない体内の奥と突起が疼く。

「あぅっ……壊れ、そう……」
「どうせなら壊れてみればいい」
 一寿は指を抜いた。空洞ができたと思うのは錯覚だろうけれど、そんな心細さを覚えるなか、お尻に太いものが押しつけられた。一寿のモノに違いない。
 オスの先端が孔口を開き、ぬぷっと埋もれる。そのまま入ってくるかと思うと、逆に出てしまう。
 孔口を抜けだす瞬間はぞくっと粟立つようであたしの感度を煽る。一寿はまた先端だけ入れた。抉(えぐ)ったり抜けだしたり、じれったさにたまらなくなった。

「一寿、も、いやっ」
「どうしてほしい」
「……わからない」
 あらためて訊かれると答えにくい。
「やめてほしいわけじゃない、ってことだ」
 一寿の声は薄く笑うようだ。
「遠慮も手加減もしないからな」
 嘲っていると思ったのは勘違いだったようで、一寿は挑むように云った。

 ぐっと男根が奥を目指して掻き分けてくる。
 あ、あ、あ、んっ……。
 一寿の下腹部と双丘がぶつかった。そうして、ずるっと男根が引かれるとお尻がわななく。そこを再び突かれれば、逃げたくなるくらい感じてしまう。無意識にそうしようとしてお尻がせりあがり、背中越しに一寿の唸り声が聞こえる。
「きついな。けど、こっちの良さもわかる」
 呆れていておもしろがっているような感想だ。
 やがて、慎重だった一寿の動きがわずかに深くなった。あたしはもう限界に近い。抉るような動きはあたしを追いつめる。

「一寿っ」
「ああ」
 先刻承知のような相づちが帰ってくる。次にはお尻を引き寄せたまま、一寿は床にあぐらを掻いて座った。あたしの躰が両脇を抱えて起こされる。
「あっ。だめっ、奥に来ちゃう!」
「痛いのか」
「……痛く、ない」
「それならこのままだ」
 完全に抱き起こされると、まさに串刺しにされた状態で背後から一寿に抱きしめられた。

 一寿が躰をうねらせると、合わせて男根がお尻のなかでたわむ。硬いはずなのにどうしてこんなに器用にくねってしまうのだろう。
 お尻を侵すだけではなく、一寿はあたしの開いた脚の間に右手をやった。
 ああああっ。
 突起に触れられた瞬間、わずかだったが淫蜜を飛び散らした。
 軽く逝ったかもしれない。腰がぶるぶるとふるえてお尻に波及する。連動して一寿が呻き声を吐くと、それが厚い胸にくっついた背中にも振動として伝わってきた。つらそうにも聞こえたけれど、一寿はかまわず攻めてくる。
 どんなタッチで触れているのか、繊細な突起は快楽だけを引きだされた。反比例してあたしの脳は、快楽がすぎてつらさを見いだしている。実際には、つらいのではなく、蕩けてしまって思考力が使いものにならなくなるかもしれないという怖さだ。
 だらだらと蜜液を垂らしていて、それは繋がった部分にも伝いこぼれ、潤滑剤の役目をして、あたしを追いこんでいく。一寿の脚の上で、一寿が動く必要のないほど、あたしはまるでうさぎのように躰を跳ねていた。

「ああっんっ。我慢、できないっ!」
「もう我慢はする必要はない。久しぶりに腰が砕けそうなほど逝ってみたらどうだ」
 一寿はまるでこれで終わりじゃないと云わんばかりに誘惑を吐く。指はしつこいほど突起を揺さぶって追い立ててきた。
「あ、ああっ、やぁっ、だめ、だめっ」
 もうすぐ、という瞬間、一寿は突起から離れた。だめと云いながら、お預けを喰らわされ、もどかしさに躰が悶えている。それを解消することなく、一寿は膝の裏を抱えて脚を広げさせると、その恰好のままあたしの躰を上下に動かし始めた。

 疼いていた躰の奥が壁越しにつつかれ、酸素が不足しているかのように喘いだ。さっきまでの快楽は正当な場所を弄られていたせいばかりじゃない。強制的に認めさせられる。
 律動は次第に浅くなっていき、そして男根が外に飛びだすと、あたしはお尻を揺さぶった。そうしてまた潜ってくる。浅い位置でその行為を繰り返され、浴室はあたしの悲鳴が響いてやまない。

「も……いいっ。逝っちゃう!」
 訴えた刹那、男根が深くあたしを抉った。止まらない痙攣と絡み合い、くすぐったいような感覚が腸壁の神経を刺激した。
「ぃやっ、あ、ああ、あああ――」
 淫蜜を飛び散らしながら、あたしはお尻で果てた。直後、一寿が挿入したまま男根をわずかに膨張させ、爆ぜる。お尻は灼熱に侵されていった。

 一寿の腕がきついほどあたしを抱きしめる。
 それは、精を放ったあとの脱力に伴う、ただの生理的反応にすぎないのか。お尻で逝ってしまう、あたしの躰が浅ましいのは変わっていなくて、ラブドールはやっぱりラブドールであり、価値は少しも挽回できていない。
「おまえの躰は手放せなくさせる」
 それは、たったいまあたしが考えたことを結論づけたように思えた。
「あたしは、ラブドールだから、それくらいできないと、なんの役にも、立たない」
 荒い呼吸の合間に笑って云った。
 すると、一寿の腕がきつくなる。
「一寿?」
「汚いなんて決めつけてるのは当(とう)のおまえだけだ」
「でも……」
「おれだって好きでもない相手とセックスしてきた。それとどこが違う」
 耳もとで発せられる言葉はどう受けとればいいのだろう。素っ気なくてもやさしくて、期待しそうになる。
「一寿、好きって云っていい?」
 気づいたときは口走っていた。自分で驚いてしまう。云いたいのに伝えられない、もしくは、伝えてはいけない。そんな呪縛が解けたみたいで、うれしい気持ちが広がっていく。一寿にどう思われていようと関係なくて、あたしはいま、ただ幸せな気分を与(あずか)っていた。

「毬亜」
 一寿はあたしの質問には答えず、本当の名を呼ぶ。返事などどうでもよくなって――違う、そう呼ぶことが返事なのかもしれない。子宮が疼くような感動を覚える。あたしをちゃんと見ている、そんな呼び方だった。
「うん」
「おれは、あのときも抱きたくてたまらなかった。一月さんを見るおまえが欲しくてたまらなかった」
「……一寿?」

 顔が見えなくて、だからこそ一寿はいま話してくれているのだと思った。
 いつでも何があっても動じず、人に弱みは見せられない。それが真に、守る人、だ。けれど、表面上はそうあっても、内面の感情はそう簡単にはいかない。

「一族は絶対だ。だから何も約束できることはない。けど、どんな立場になっても、卑怯なことになっても、傷つけることになっても、おれはおまえを手放すつもりはない」

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