魂で愛する-MARIA-

第11話 哀執aisyu

# 78

 床からも天井からも暖房が効いてきてまったく寒くはない。それなのに、躰は余韻にぶるぶるとふるえている。
「どうだった」
 潤んだ目で見上げているから一寿の表情ははっきりしない。
「あたしの躰、ばかみたい」
「どういうことだ」
 その声は呆れたふうで、けれど、あたしの躰に呆れているのではなく、あたしが云ったことに呆れているようだった。

 怒ったあとのいまの一寿は、ずっと大人になった一寿ではなく、カズみたいに感じている。あの頃は素直にわがままが云えて甘えられていた。吉村にも甘えられたけど、わがままは云えなくて、だから、何も我慢しなくてよかったのはカズだけだった。

「あたし、なんでもかんでも気持ちよくなってるから」
「だれとでもいいのか」
「……え?」
「だれでもいいからセックスさえできればいいって思ってるのか」
「そんなことない。それじゃあ依存症みたい」
「なら、気分よくなれるのは喜べることで、落ちこむことじゃないだろ」
「でも、あたし……宴で感じてた。一寿も見てたよね、最後の宴の日。あれから閉じこめられて、丹破総長にもずっと躰は応えてた」
「それで『汚い』か」
「……違うの?」

 一寿は応えず、シャワーを止めると再びヘッドの部分を取り外す。そうした手の動きを追っていた目を上向けると――
「もう一回だ。表の奉仕が終わってない」
 一寿は促すように首をひねった。
 躊躇したのはつかの間、一寿に奉仕したい気持ちのほうが強く、あたしは床に這ってお尻だけ上げた。一寿がまたソープを塗りこめる。
 一回めと同じように無理と云うまでお尻のなかにお湯を注入したあと、一寿は仰向けで床に寝そべった。

 一寿の上体にボディソープをたらして躰を正面から重ねる。今度は一寿の目があるから背中よりも羞恥心を感じた。
 はじめは円を描くようにしながら胸をなすりつける。乳首同士がぶつかると、ほんの少し突起しているだけのはずが、なんとも云えない感覚を生みだした。
 あたしは小さく喘ぎながらも、一寿の胸が起伏するのに気づいた。感じているのはあたしだけじゃない。下腹部を見れば、触ってもいない一寿の男根は完全にオス化していた。それに力を得て、だんだんと下腹部に近づいていく。そうして、もう少しというところで起きあがると、一寿の顔に背中を向ける恰好で左脚に跨がった。
 腰を前後に揺らしながら、脚に股間を添わせる。薄い体毛が絡み合い、摩擦熱を生み、おなかのきりきりする寸前の鈍痛が絡み合い、感度を上昇させている。ぬるぬると滑りやすくなるのが泡のせいか蜜液のせいか区別がつかない。反対側の脚を終わったあとに見た一寿のオスは変わらず力を誇示していた。

「気持ちいい?」
「見ればわかるだろ」
 一寿は恥ずかしげもなく云う。
「してほしいことある?」
「おれの顔の上に跨って咥えろ」
「無理。我慢できる自信ない」
 ただでさえ突起も体内も疼いている。お尻はいつでも緩みそうだ。
「できるだろ」
 問答無用と云った様子で放ち、一寿は最後通告だと意を込めた、挑戦的な眼差しを向けた。まるでそうしないとおまえを信用しないと云っているみたいだ。
「知らないから」
 投げやりにつぶやくと。
「そのときはそのときだ」
 いつも先回りすることを考えている一寿にしては、めずらしい発言だった。もっとも、セックスでさきを読むことなんて思考力の無駄遣いだ。

 ためらっているぶんだけ、おなかの鈍痛が本物の痛みに変わる時間をロスしている。そう思い直しながらもおずおずと一寿にお尻を向ける。
 すると、一寿は頭の後ろで組んでいた腕をほどき、あたしの腰をつかんで、強引に自分の顔の上に引っぱった。
 あ、あぁっ。
 腰をぐっと引き寄せられたかと思うと、一寿の呼吸が秘部に触れ、そして花片を舌が這った。それだけで漏れだしそうになる。

「やっ、一寿っ」
「客よりさきに感じてどうする」
「一寿は客じゃない」
「なら、とことん感じてみればいい」

 あ、あぁ、んっ。
 一寿が秘部に舌を這わせ、まわしながらこねる。お尻をすぼめれば、突起にも力が入る。そこをつつかれると感度が格段に上昇して快感が突き抜ける。悶えるようにお尻をうねらせた。そんな自分の行為でもまた快感が発生する。
 快楽を少しでも紛らそうと一寿の男根をつかみ、先端を口に含んだ。根もとでわずかに手を上下させながら、舌を絡ませる。濡れているのはあたしだけではない。一寿もそうだった。快楽を得ている証拠が舌に纏わりつく。
 男根はそこに生命が宿っているかのように手のなかで脈を打ち、口のなかでもっとだというようにぴくりとした反応を繰り返した。

 そうしているうちに一寿の攻めが鈍くなった。もしかしたら自分の快楽に集中しているのかもしれない。もっとそうなってほしい。そんな気持ちのもと、あたしは咥えられるぶんだけそうして、それから強く吸いついてみた。
 一寿は腰を跳ねあげる。嘔吐きそうになっても、やっと攻める側になれたという望みが叶って、もっと誘惑したくなる。口のなかいっぱいに含んだり、端っこだったり、吸引を繰り返した。
 一寿の触れ方はキスのように軽く吸着するだけになり、それは気を紛らしているのかもしれなかった。かすかにくぐもった呻き声も聞こえる。
 だんだんと男根は太くなっていくように感じる。あたしもまた腹部の疼痛が怪しくなってきていた。
 限界を迎えるまえに一寿を逝かせたい。もう少し。そう焦ってしまったとたん、見透かしたのか、一寿は戯れるようなキスから攻撃的な触れ方に変えた。

「やっ、待って!」
 たまらず一寿の男根から口を離して叫んだ。そうなれば、一寿のほうが圧倒的に有利だ。手で魔撫してみるも、舌の攻撃のほうが効果的すぎる。
「あ、だめ、出ちゃう! もう放して!」
 逃れようとお尻を揺するけれど、一寿の腕がしっかりと押さえこんでかなわない。秘部は淫らに快楽を得たがって、お尻は解放をせがんでいる。
 一寿は解放するかわりに指で孔口を侵した。
「ぅくっ、一寿! ほんとにだめなのっ」

 訴えても応えはなく、お尻のなかで一寿の指がうごめく。激しくはなく、少しずつ開いていくような動かし方だ。出てしまうという恐怖の一方で、突起では舌がもたらす快楽を貪っている。落差のある二つの感覚が、あたしをおかしくさせる。
 花片から突起へと円を描きながら尖らせた舌が繰り返し揺さぶる。漏らしそうな感覚は果てが近いことを知らせる。突起は熱く疼いて、快感は一定の位置から静まることはなく引き返せなくなった。一寿を逝かせるつもりだったことすら頭の隅っこに押しやられている。

「かず、ひさっ……逝っちゃう!」
 限界を叫ぶと、一寿は突起に吸いつきながら舌をうねらせる。
「だめっ」
 お尻を上げたくてもそうさせてはもらえず、舌の攻撃を受けるなかで快楽が弾けた。呼吸が滞り、その間に快楽の果てに昇りつめ、到達したとたん、浴室に悲鳴がエコーしながら散った。蜜液を啜(すす)る一寿の上で、がくがくと全身が痙攣する。お尻を引き締めていることもできない。
「放すぞ」
 一寿の指が栓の役目をしていることが救いだったのに、その指が引き抜かれていく。
「あ、いま、だめっ。力、なぃ……っ」
 最後まで云いきれないうちに、一寿はあたしの下から這い出て指を抜いた。

 あ、あ、あ、あぅっ。
 お尻の向きが変えられるのと同時に、二度め、異質の解放感に襲われた。逝った直後だったことが、解放感を快楽に変換する。這いつくばってお尻だけ浮かせた恰好のまま動けず、一寿はシャワーを当てて浄めていった。その間もシャワーが止まってからも、びくびくして明らかに快感が残るあたしを見て、一寿は何を思っているのだろう。ぼんやりとそんな疑問を浮かべていると。
「ほかの男と違うと云ったくせに……とことん追いつめたくなる。おれもあの連中と一緒だな」
 一寿は自嘲した声でつぶやいた。

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