魂で愛する-MARIA-

第11話 哀執aisyu

# 76

 叶多から連絡があったのは昨夜。彼女は成人式のお祝いの合間を縫って、一寿にばれてしまうかもしれないことを知らせてくれた。
 一寿に知られてはだめだと云っておきながら、あたしは有吏本家と対面するという無謀なことをして叶多を慌てさせていた。それなのに、彼女は最後まであたしのことを考えてくれた。

『私は君を“アオイ”と思っているわけじゃない。それは二年まえ、最初に会ったときから変わらない。だが、いまは娘だと思っている』
 千重家では、あたしの不安定さに感づいているのか、伶介は力づけてくれる。旺介はかばってくれる。多香子は、アオイ、と呼んであたしを必要としてくれる。史伸は怒ってくれる。

 和久井組の組員たちはお嬢と呼んであたしにやさしくて、和久井家の人は莉子を先頭にして家族のように扱ってくれる。

 こうやって並べてみれば、あたしは二つの家族を持って守られて、幸せだった。そのくせ、さみしくて不安だなんてあたしはいつからこんなふうに贅沢になったのだろう。

 一寿は、裏切ったあたしを傷つけながら、あたしが願ったことを叶えようとする。


 二階にある浴室に連れていき、服を脱がせ、自分も服を脱ぐと、一寿はあたしの躰を洗うことから始めた。
 一寿はクッション性のある床の上で緩くあぐらを掻き、あたしはその脚で囲まれたなかにお尻を落としてされるがままに任せた。こんなふうに一寿からされるのははじめてだ。全身がボディソープの泡に塗れていく。ぬるぬるした躰を滑る手のひらのタッチが心地よすぎて、洗う以上の感覚をもたらす。小さく呻いたり、時にぴくりとしながら、あたしを包むしなやかな躰をゆだねた。

「伏せて腰だけ上げろ」
 一寿が発した言葉に、ほのめかされていることを察してあたしは驚いた。首をのけ反らせて一寿を振り仰ぐ。
「一寿?」
「証明、もしくは保証してやる」

 一寿はあたしの腋の下に手を入れると強引に持ちあげ、上体をまえに倒す。這いつくばるような恰好で床に肘をつくと、腋を支えていた手が胸にすべり、ふくらみを二つともそれぞれにくるんだ。
 あっ。
 揉みこまれて背中が自然と反れてうねる。胸のふもとからしぼるようにした手のひらは胸先へと滑っていき、手が閉じられるのに伴って、乳首が挟まれて擦られて、胸から手が離れる寸前、新たな刺激を呼ぶ。

 何度も繰り返されて胸で生まれる感覚に集中していると、躰の中心に風を感じた。その瞬間、花片が舌で割り裂かれた。
 あ、ふっ。
 舌は円を描くようにしながら花片の先に向かい、最も敏感な場所をつつく。
 あ、あ、あ……っ。
 軽く触れたり強く触れたり、一寿の舌はあたしの感度をあげていく。突起から花片に移り、膣口に尖らせた舌が潜ると、なかで触覚同士が触れ合う感覚にぶるぶると身をふるわせた。そうして、舌は双丘の間へとのぼってくる。

「あ、そこは……っ」
 だめ、とは続けられず、孔口を舌が舐めまわす感覚に集中してしまう。久しく触れられていなかったぶん、慣れが解消され、ひどく敏感になっている。声が自ずと飛びだして、躰の中心はどこもひくひくと反応している気がした。
 乳首は弾かれ、躰の中心は舌が膣口と孔口を行ったり来たりしてねっとりと這う。突起はきっと充血してふくらんでいる。放出したい欲求が芽生えた。
「一寿っ、も……だめかも、あっ」
 訴えたとたん、一寿は這いずるようだった動きをやめ、かわりに細かく舌を振動させた。わざとそうしているのか、かすめるような軽い摩擦はじれったく、あたしは逝けないまま淫蜜をだらだらとこぼしている。躰のなかから蕩けてしまいそうな感覚は怖い気もする。
「一寿、ヘンになりそう!」
 云ったとたん、一寿は顔を離した。

 次に何をされるのか、かまえていても、不自然な放置が続き、自分がお尻を掲げていることがひどく恥ずかしくなってくる。そして起きあがろうとしたとき、再び一寿が指で孔口に触れた。
 んふっ。
 指先を滑りやすくしているのはソープなのか、ぬるぬるして孔口の周囲を揉みこみながらわずかになかへと潜った。
 ふ、はあっ。
 舌っ足らずの喘ぎ声が漏れる。お尻は恥ずかしさと相まって無力にする場所だ。気持ちいいけれど認められなくて、それなのに反応を隠すことはできないからごまかすのに従順に甘えたくなる。
 一寿は時間をかけて弄り、指が離れても独りでにひくついて、やわらかくほぐれている。そして、指のかわりに固いものがお尻に充てがわれた。それは一寿の指よりもひとまわり大きい。

「力を抜いてろ」
 あたしが振り向くと同時に一寿が忠告した。
 ちらりと見えたのはホースだった。たぶんシャワーのヘッド部分が外されたものだ。ラブドールでも、排出を見たがる客がいて何度かされたことがある。ホースの先にもソープが塗りこまれていたのか、固いのにぬるっとした感触で簡単にお尻のなかに入ってきた。
 お尻のなかにぬるま湯が少しずつ注入される。かつてよくやっていたにもかかわらず、あたしは感覚を忘れていて、いま過剰反応していた。
「一寿……もう無理」
「わかった。あとは限界まで我慢しろ」

 ホースが抜かれる間も刺激になって、すぐにでも限界が来そうだった。お尻を差しだした恰好は危うい。手をついて四つん這いになったところへ、一寿がまたあたしの躰にボディソープを垂らし、泡を上塗りしていく。
 そうしてあたしの上体を起こすと、一寿が正面に来る。
「今度はおまえの奉仕時間だ。おまえの躰で洗ってくれ。ラブドナーでやってただろ?」

 一寿はどういう意図でそんなことを要求するのだろう。
 あたしをまたラブドールに貶めるため? ただ楽しむため?
 喪失感と困惑の入り混じった複雑な気持ちで一寿を見つめ、すると、脱衣所のほうで突然、音楽が鳴り始めた。一寿の携帯電話だ。
 また……。
 悲しいような気持ちで一寿が背を向けるのを見守った。戸を開けたまま、ジャケットから携帯電話を取りだして、一寿は耳に当てた。

「おれだ。……ああ、案は有効だ。本家が納得するか、それはなんとも云えないが。……ああ、用がそのことなら切る。急ぎじゃないだろ。……そうだ。じゃあな」
 最後、一寿は鼻先で笑って電話を切った。

 一寿が電話を切りあげようとするのをはじめて見た。
 あたしが目を丸くしていると、一寿は再び正面に来て床に寝そべる。頭の下で手を組んで、無防備にオスを晒して、大の字になった脚の間にいるあたしをじっと見据えた。

 ずっと抱いてほしい。そう願ってから、いつも、いい? とあたしから誘う。今日ははじめて一寿から始まった。いつからか、途中で電話があればその最中でも行為をやめて、極めて冷静な声で相手と話す。そのすえ中断されてそのままになることもあった。
 忠臣である以上、電話に出るのはしかたない。むしろ、出なかったことで重大事になったら、もしくは重大事があってベストで臨めなかったら一寿は後悔する。その言葉ではきっと足りない。そうしたら、あたしも後悔してしまう。
 そういうなかで、たったいま、あたしのことを優先してくれたのは確かだ。もしくは一寿が欲情しているだけかもしれないけれど、それでもあたしにそうなっているのであり、うれしかった。

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