魂で愛する-MARIA-

第7話 籠妾(ろうしょう)−capture−

# 38

「丹破一家にも跡目(あとめ)は必要だ。もちろん、四代目五代目には間に合わんだろうが、いずれ丹破本家が返り咲けばいい」
 京蔵はあたしの反応を見逃さないためか、じっと見据えている。
「嫌か」
「違います」
「まだ吉村が忘れられんか」

 いまになってそんなことが訊かれるとは思っていなかった。吉村との接触はないといっても同然なのに、そんな疑問が飛びだすということは、京蔵のなかに吉村に対するなんらかの特別な拘りがあるというのだろうか。
「違います」
 嘘は吐き慣れたはずが、あたしの声はふるえていた。京蔵の言葉に驚いただけではない。だれかの口から吉村の名を聞くだけで、会いたいという気持ちが込みあげてくる。京蔵がどうか気づいていないよう祈った。

「そうか?」
「はい。産むのは怖いし……奥さんが……」
「艶子は不妊症らしい。それが本当にしろ、儂の子を宿す気がないのは明白だ。おまえが儂の跡目を産んでもなんら文句を云う立場にない」

 京蔵はスーツに手をかけた。ジャケットを脱ぎながら傍に来て、あたしはひざまずいてスーツのズボンと下着をおろした。目のまえに飛びだした男根は薬を使っているのかと思うくらい、いつも精力的だ。大抵の人よりも太く、爆ぜるまでに時間がかかり、その間に力尽きてしまうあたしにとっては凶器ともいえる。靴下まで取ってしまうと、京蔵にわきの下をすくわれながら立たされる。あたしの背後にあるダイニングテーブルの上に背中を倒されると、お尻が浮いてしまうほど脚が持ちあげられた。

「尻は洗浄してきたか」
「はい」
「流産の危険があるのなら、その間はやめんとな。医者に訊ねておけ」
 その発言は京蔵が本気だと知らしめる。
「はい……あっ」

 呆然としつつもあたしが無意識に答えているうちに、京蔵は脚の間に顔をうずめた。突起を含み、音を立てて吸引する。いきなり強い刺激に腰がぶるぶるとわなないた。閉じた花片を開くように舌は間を通って滑り、膣口に舌を入れたかと思うとお尻に移る。そこはもう完全に性感帯になっていた。孔口の周囲を舌が這いずり、お尻がひくひくする。そこが開いた隙を狙って舌が入ってきた。
 あああっ。
 さっき廊下で逝かされた名残もあるのだろう、とろりと秘孔から蜜がこぼれておなかを伝った。京蔵が膝の裏を押さえつけていなければ腰がひどく飛び跳ねていただろう。京蔵は秘部とお尻を行ったり来たりしながら、あたしを快楽漬けにした。

「おまえを見て、組み敷くことを考えるだけで儂は血がのぼる」
 男根を躰の中心になすりつけながら京蔵は続ける。
「儂をそうさせるのはおまえも含めて二人だ。おまえは放さんぞ」

 おまえは、とそう限定することにどんな意味があるのだろう。あと一人が母だろうことは見当がついた。
 母のことは手放した、ということ? なぜ? 母はどこに逃げたの? そうじゃなければ、母はどこに捨てられたの?
 女に二年も執着することがなかった、と吉村が云う京蔵は、ごくたまに客をここに連れこんであたしを犯させることはあるけれど、もう三年も放そうとしない。
 だから、本当に“その時”がくるのか、ますますわからなくなるのだ。

 京蔵が男根で秘孔を押し広げる。ぬぷっと音が立つような、じっくりとした様で先端が膣内に嵌まり、そして奥へと突き進んできた。
 京蔵は繋がるとき、動物みたいな恰好を好む。だから、そうしているのが吉村だと思えるのに、いまはめずらしく向き合っていて、夢見ることさえ許されない。最奥を小刻みにつつかれ、のたうつような快楽を押しつけられた。

「あ……も、逝っちゃ……!」
 云いきれないうちにあたしは息を詰め、まもなく再び悲鳴をあげながら躰を波打たせた。
「おまえはすぐ逝く。なぜだかわかるか。おまえの躰が儂の形を憶え、添っているからだ。入れただけで自然と儂の男根はおまえの快楽点を突く。おまえを抱いているとよくわかる。艶子がほかの男と不貞を働いていることはな」
 快楽の余韻を追い払うほど、あたしは背中がひやりとした。
「艶子さん、が……?」
「おまえは知らんのか」

 顔を険しくして京蔵はあたしを見下ろす。あたしが首をひねったのはもちろん惚けただけだが、いつも黙々と快楽で責める京蔵は、めずらしくお喋りをするほど疑っている。もしくは気にしている。こうやって向き合っているのは、セックスの最中でもあたしを観察できるよう、という目的があったのだ。

「女の躰は男を憶える。いまおまえの膣内は儂のをしっくり咥えている。だが、艶子の躰でこういう感覚を味わったことはない。別の男を咥えているからだ。もし、それを舎弟たちが知っているのなら、これ以上の屈辱はない。艶子にもその男にも、落とし前はつけさせる」
 京蔵はどすの利いた声で放ち、あたしはぶるっとふるえた。本気だ、と思った。
 一方で、脱力感に似た哀しさにひしがれる。吉村は、あたしとの危険は冒せなくても艶子とは危険を冒してかまわないのだ。
「なあに、すぐに決着はつく」
 京蔵は薄気味悪くくちびるを歪めた。

 決着がつく? すぐに?
 もしかしたら、京蔵はもう艶子の浮気相手が吉村であることを突きとめているのだ。そして、落とし前のために動いている。
 あたしの感情をよそに、京蔵は腰を大きく動かし始めた。京蔵が云ったように、あたしの躰は京蔵に合わせて作り替えられている。ただ深く浅く摩擦しているだけなのに、止められない感覚を生みだす。

「儂とおまえの子はちゃんと儂の籍に入れて守られる」
 自分自身が発する淫らな悲鳴の合間に、京蔵が驚怖を吐く。
「おまえもすぐに吉村のことは忘れる」
 その断言は、いなくなることを前提にしているように聞こえる。

「パパ……んっ……あっ、あたしは……う、んっ……パパに、感じ……てるのっ」

 そう云ってから、母と同じことを口にしていると気づいた。

 同じだった。何から何まで、母と。
 母の言葉は――吉村をかばうためだったのだ。

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