魂で愛する-MARIA-

第6話 摧頽(さいたい)(みだ)りに淫ら−

# 36

 台の上から連れ去られていく彼女は、抱えたアツシの腕のなかでも痙攣していた。縋るような眼差しを吉村に注ぐ姿は、あたしだ、と思った。
 あのクラブは、あたしや母みたいに事情のある人が多くて、宴の獲物を次から次へと物色する場所でもあるのかもしれない。選ぶのは吉村で、彼女はあたしの後釜になるのだ。
 そして、あたしは母の後釜で京蔵の玩弄物(ペット)になる。

 命令されるまま、台の上に四つん這いになった。もう抵抗しないとわかっているから拘束されることもない。部屋の隅にいくつかある拘束具を使われたこともあったけれど、余興にすぎず、ここに集う男たちは、ラブドナーの客の多くがコンパニオンに奉仕させたがるのとは真逆に、女を快楽で責めることを好んでいる。その対象は通常でいう性器だけではなく、お尻にも及んでいる。
 今日みたいにほかの女性が犠牲になっているところに二度だけ遭遇したが、母のように自分で動けなくなるほど追いつめられていた。そのなかで、感じないあたしは異例だったかもしれない。京蔵がそうだったように、あたしはヴァージンで幼いから、それが感じることの代償とされていたのか。
 けれど、今日、あたしはその女たちと同じように狂う寸前まで責められる。

「アオイちゃん、今日はいいねぇ。ぼとぼと愛液が落ちてるよ」
 お尻の向こうから舌なめずりしているような蔵田の声が屈辱を放つ。
 でこぼこした太い玩具を使われ、お尻は絶えず陶酔を生みだしている。粘液が体内からこぼれ出ているのもわかる。こうまでお尻で感じてしまうのは薬のせいだ。そう思いながらも、吉村に貫かれたすえ、最初の日の性感を自ら呼び起こしてしまったことも否めない。あたしはカズに突かれて膣のなかで逝くことも憶えた。
 なんとか露骨な嬌声は抑えているものの、そのぶん躰の隅々までひっきりなしに快楽から生じた痙攣が伝っている。上体を支えるために台についた肘さえ頼りなくふるえていた。

「尻の穴も玩具を咥えながらひくひくしてるねぇ。今日はずいぶんと大きいのが入る。私のは軽々と咥えそうだ。アオイちゃんには大金を投資してるからね、回収は利益含みで当然だろう。まずは派手に逝くのを見せてほしいね」
 半年もしつこく触れるだけで終わっていたのは蔵田のくせに勝手なことをほざく。
 けれど、そんな不服を覚えたのもつかの間。

 んぁあああっ。
 玩具が振動し始め、不意打ちを喰らったあたしは悲鳴を止められなかった。内壁を小刻みにふるわせて神経を過敏にしていく。その壁を通して、子宮口の弱点が刺激される。玩具は進んだり引いたりを繰り返して、一突きされるたびに感度は増していった。躰は前後左右にうねり始める。
「お尻の動きがなんともいいねぇ。逝っていいよ」
 揶揄されながらも反応を止めることはできなかった。ゆっくりしていた動きがどんどん速度を上げていくにつれ、お尻は高くせりあがる。
「う、ああっやっ」
「嫌、じゃないみたいだよ。もう後ろも前もどろどろだね。さあ、お尻で逝こうか」
 蔵田は玩具をすべて引き抜いた。びくっと跳ねるお尻に再び玩具が入ってくる。何度かなかで前後したあと引き抜き、また挿入する。それは吉村のやり方と同じだった。昇りつめるのを止められない。
 い、やぁああああ――っ。
 おなかの奥がひどく収縮して蜜液を飛び散らした。

「いい逝きっぷりだよ、アオイちゃん。尻の揺れ方が卑猥だ。最後だというのが惜しいねぇ」
「蔵田さん、早くまわしてくださいよ」
「そうですな。我々にとっても最後ですから」
「わかってますよ。アオイちゃん、連続逝きやってみようか」
 蔵田がそう云いながら、ひどく痙攣するお尻をつかんだ。蔵田の男根が膣口に擦りつけられたかと思うとなかに入ってくる。
「はぁああっ……まだ……だ、めっ」
 ぐちゅっぐちゅっという粘り気のある音を立てながら、蔵田は腰を前後させた。まったく快楽が収束していないなか、少しの刺激が数十倍になって跳ね返ってくる。

「アオイちゃん、締まるよ。愛液が飛び散ってるし、嫌らしさは最高だねぇ」
 もはや生理的嫌悪感など頭になかった。蔵田の男根があたしを犯して、あたしはそれに感じている。それだけだった。
「あ、いやっ……だめっ」
 蔵田のモノは、躰は百トンくらいありそうなのに、吉村や京蔵に比べたらひとまわり小さい。だからなのか、いま膣内では男根が自由に跳ねている。子宮口には届かなくても、その手前にある弱点に触る。
「あ、あ――漏れちゃうっ」
 あたしは腰をぶるぶるとふるわせながら水しぶきを立てた。

「ひどい締めつけだね。じゃあ三回め」
 わずかに呻きながら云い、蔵田はあたしのなかから抜けだした。かと思うと、硬い男根の先がお尻に触れる。
「い、や……も、だめ……なの」
「大丈夫だよ、女は強くできているからねぇ」
 所詮、力尽きたあたしには逆らうすべがない。
 蔵田は男根の先端をお尻に押しつけた。
「すごいねぇ。穴は開いていないけど簡単に咥えこむよ。ゆっくりいってみよう」
 んんっうっはぁ……。
 蔵田の男根にはあたしが生成した粘液が絡みついていて潤滑油の役割をしているのだろう、お尻は比較的簡単に呑みこんでいく。きつささえも気持ちいいという感覚に変換されているのは薬のせいか。すべての感覚が快楽に呑みこまれるのかもしれない。

「入ったよ」
 蔵田は満足そうにため息をつく。
「意外に手こずりませんでしたな。しっかり蔵田さんを咥えこんでる」
「ですな」
 蔵田は同意しながら腰を前後に揺らし始めた。
「おお。やはり尻を知るとたまりませんよ。締めつけが違う」
 あたしの悲鳴よりも太く、蔵田は唸るように云い、ゆっくりとした律動を繰り返す。
 あ、ふっ、あっ、やっ……。
 突かれても引かれても感じてしまう。冷める間のない快楽はまったく痛みをもたらすことがない。あるのは甘美な苦辛だ。蔵田はだんだんと動きを深くしていく。男根がずるりと抜けだしたかと思うと、押しつけて孔口を開き、そのまま抉り、蔵田の下腹部がお尻に当たればまた引いていく。

「もう我慢できん。アオイちゃん、私が尻穴の最初の男だ」
 蔵田は挿入したままで腰を揺らした。
 あたしにとっては滑稽な宣言だったが、笑うどころか、蔵田に引きずられていた。快楽の連続に力が尽きて、蔵田の動きを受けとめることしかできない。
「ぅくっ……も、だめ――っ」
 あたしは縋るように手を広げ閉じたが、台の上には何もつかめるものはなかった。自分ではもう動けない。そんな領域に入った気がした。

「私も逝くよ」
 呻くように云った蔵田は小刻みに動く。それが玩具の振動を思いださせた。子宮口が裏側から攻められて感じている。
 あたしが四度め逝くまえに早く蔵田に逝って欲しい。そう願うばかりで自分から働きかけるには何もすべがない。
 咆哮が背中に聞こえたと思った直後、男根がぴくぴくして内部をつつき、あたしはまた噴いた。
 蔵田が荒い息をつきながらもったいぶってゆっくりと出ていく間、腰は身ぶるいするようにずっと跳ねていた。男根が出ていってしまえば、ものの数秒もたたないうちに、孔口が盛りあがって生温かいものを吐出する。

「いかにも淫らだ。尻から白濁液が溢れてきますよ。蔵田さん、溜めておられたかな」
「ええ。やっとアオイちゃんをものにするっていう夢が叶いましたよ」
「蔵田さんには満足していただけたようでよかった」
 そんな京蔵の声を聞きながら、躰がひっくり返された。仰向けになって、そうしたのが吉村だとわかったときには目尻が濡れた。冷ややかさはないか。そんなことを怯え、あたしは目を閉じる。
「さて、余興は終わりだ。これから宴の本番、なお且つアオイの最後の宴、快楽を教えこんでくれぬか。さあ」
 その言葉を合図に、男たちが一気に集まってあたしを囲んだ。

 キスを迫る者、右胸をつかみ揺らして楽しむ者、左胸を握りチクビに吸いつくもの、秘部の突起を嬲る者、指先をそれぞれに舐める者。
 どこもかしこも性感帯であるかのようにあたしの躰が波打つ。突起が剥きだしにされてちょっと弾かれただけで軽く達した。
 気づけば――ということはその間失神しているのか――膣内を犯され、背後から抱きかかえた男にお尻を犯され、あたしはただ逝き続けている。
「娘、どうだ」
 そう訊かれて。
「もっと」
 そう答えた気がする。

 感じないことが、汚いあたしの唯一の恥じないでいいプライドだったのに。吉村をまっすぐに見られる唯一の後ろ盾だったのに。

 ぼんやりとした意識のなかに、もう会うことはないと思っていたカズが映った。男たちの精液に塗れ、感じて、そんな汚らしいあたしをまっすぐに見ている。その目に宿るのは冷ややかさなのか。よくわからない。
 あたしはずっと解放されたかったのかもしれない。あたしはすでに快楽への制御を解いていたのかもしれない。カズに感じてしまったときに。
 それがカズなら理由がつく気がした。嫌悪感を覚える男ではなく、好きになってもなんらおかしくない立場にいるカズだから、現にあたしのことをちゃんと考えてくれていたカズだから。

 うつらとしたなかで吉村に抱かれてバスタブにつかっていた。口を開こうとしたがわずかなすき間が開くくらいで何も声にならなかった。
 吉村にとってあたしはなんだろう。なんでもないとしたら、そんな疑問すら頓珍漢極まりない。

 吉村の手がこめかみに添い、撫でる。

 耐えて、生き延びろ。

 その言葉を最後に、あたしは京蔵に隔離され、吉村と顔を合わせることはあっても話せなくなった。

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