魂で愛する-MARIA-

第4話 哀恋−あいれん−

# 23

 京蔵にしか感じない。母はそう云ったくせに、ハイエナみたいな男たちに襲われていたとき、その呻き声から見えたのは悦(よろこ)びだった。
 あたしの躰はいま、痛みよりも快楽を憶えている。躰だけじゃなくて、気持ちもそうしたがっている。吉村に責められて攻められて、嫌だと泣きながらあたしは快楽を止められずに果てに到達した。そうだからわかること。だったら、あたしはすでに母と同じだ。

「そうだ。おれだから、だ。だれに抱かれようとおまえはそれをずっと守っていけ」
 吉村の表情がそうであれば、言葉に含まれた意味もうまく感じとれない。さっき云ったことは蔑(さげす)んだ発言ではなかったのだろうか。
 吉村は腋の下に手を入れてあたしの躰を起こした。
「おれが教えた快楽を忘れるな」

 あたしは後ろへと仰向けに倒された。頭が少しベッドの端から飛びだして、のどがわずかにのけ反ると、頭上に人がいるのを感知する。快楽に我を忘れて、カズの存在があたしの頭からすっかり消えていた。
 見下ろしてきた瞳に捕まる寸前、あたしは目を伏せた。
 あたしのばつの悪さも吉村への依存も、そしてほかにもきっと見透かされていることはあって、けれど、あたしからは何もつかめない。見なくてもつかめないし、どちらにしろ居心地が悪い。

 そんな視線を避け、目を伏せたさきに見えた吉村のモノは屹立(きつりつ)していて、あたしはそれで侵される。痛いかもしれないという不安よりもうれしいと思う。
 吉村はあたしの膝の裏をつかみ、持ちあげた。お尻が浮いて、膝が肩の近くまでくるほど躰を曲げられる。
 膝から片方だけ手が離れると、秘部に指が触れてきた。腰もとが俄(にわか)にふるえる。円を描くように突起が撫でられ、花片が揺らされ、ぬめっているせいでその摩擦の力があまりにも心地よく、あたしは腰をせん動させながら喘いだ。

「陰核が赤くふくれて愛液が次から次に溢れてくる」
「やっ」
「嫌だと云いながらおまえは悦ぶ」
 そのとおりだけれど、いや、とあたしはまた無意識に否定をした。
 指先は突起と花片を行きつ戻りつしながら、やがて膣口に来る。ぬぷっと体内に埋もれた。
「痛くないか?」
 云いながら、吉村は指を潜らせてくる。
 躰は反射的にこわばり、襞を掻き分けてくる指はきつく感じもしたが、昨日のような痛みもひりひりすることもない。
「んふっ……痛く、ない」

 指はそうしてあたしのなかに深く沈んだ。吉村が指先を折り、引っ掻くような動きをすると、蜜を混ぜる音がする。あたしの躰が感じている証拠に違いなく、一気に二度めの快楽に火がついた。
 躰のなかに泉があるのかと思うくらい、ぐちゅぐちゅと音はひどくなっていく。溢れた蜜はおなかから胸もとへと伝ってきた。
「くふっ……吉村さんっ、もぅ……だめ……あんっ」
「逝きたいだけ逝けと云ってる」
 吉村は体内の弱点を揉みこんだ。全身から力を奪うような快感が走り、脳内が痺れる。

 ふぁあああっあっ――ん、くっ。
 自分が噴いた蜜が顔に降りかかった。呼吸を短く繰り返し、酸素補給もままならない。
 そんな果てから戻りきれないうちに指が抜け、腰が身ぶるいする。直後、花片が熱いなかに含まれた。吉村の口だ。
「あ、はっ、だめっ」
 精いっぱいで叫ぶも、吉村は無視して花片を舌でねぶる。逝ったばかりで苦痛と区別がつかないほどの快楽が続いた。突起に吸いつくようなキスは躰を奥からふるわせた。
「ふはぁっ……やっ、だめ、だめ……あ、あうっ」
 腰を何度も跳ねあげる間も吉村がくちびるを離すことはない。長いキスにまた漏らしそうな感覚が集う。
 あたしはもしかしたら自分で快楽を貪っているのかもしれない。熱いくちびるが突起を引っ張りながら離れていきそうになると、腰をせりあげた。それでも離れていく。あたしは逝くことが怖くなった。そうして離れた瞬間に快楽は弾けた。

「あうっ漏れちゃ……っ。やぁあああ――」
 叫んだ直後、吉村がまた花片にくちびるをつけた。
 あたしが漏らしているのか、吉村が吸引しているのか区別がつかない。腕を投げだしたくなるほどの快感に、捕獲された魚みたいに躰全体がバウンドした。吉村の舌はセックスの凶器だ。果てに逝ったまま、もうひとつ果てが重なった気がした。
 まもなく顔を上げた吉村は、あたしの腰を少しおろした。そうしてからふたりの中心を合わせた。男根を秘部に擦りつけ、粘液をまぶす。
 昨夜のように、躰をびくつかせながら力尽きたあたしは、抵抗してもきっと無駄に終わる。ただ、そうするのは吉村で、だからいまは抵抗する気持ちはなくて微量の不安があるだけだ。

 ベッドにつくまでお尻がおろされる。吉村はけれど中心に入ることなく、ただ秘部のラインに沿って男根を当てた。あたしの脚を担(かつ)ぐように抱き、太腿を閉じさせられた。
 吉村はそんな恰好のまま、腰を前後させ始めた。
 んふっ……んぅっ……。
 嬌声も尽きて吐息にしかならない。快楽がおさまる間もなく、充血した突起が男根に摩撫される。もうどうなってもいい、そんな倦怠感が快感と融合してく。そして、声をあげることもなくあたしは弾けた。力がなくても躰がうねってしまうのは生理的な反応だろう、そのせいで続けざまに逝った。

 吉村の呻き声が降ってくる。
「逝くぞ」
 そうして律動を激しくしていった吉村が唸った。それに合わせてたぶんあたしはまた逝ったのかもしれない。飛び散る吉村のしるしを頬にも胸にも感じながら、熱っぽく視界が潤んでいった。

 意識がわずかに戻ると、ぐったりと動けなくなったあたしを吉村が抱きかかえる。汗に濡れて額にくっついたあたしの髪を払い――
「おまえが可愛い」
 そう云って微笑を浮かべる吉村の顔を忘れることはきっとできない。

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