魂で愛する-MARIA-
第3話 寵辱
# 17
体内の襞(ひだ)一つ一つに裂傷を受けたような、こんなひどい痛みは経験したことがなかった。男根は女の躰を刺突(しとつ)する杭だ。動くことを恐怖させ、息をすることすら痛みを増長する。
首をのけ反らせ目を見開いてはいても、なんの映像もあたしの脳裡には入ってこない。
「処女はさすがに狭いな。濡れているぶんだけ、男根が引きつることはないが」
「うらやましいですなぁ」
「尻の穴は競りにかける」
「今日ではないと?」
「想像以上にこの娘はいい。録画を見せたら乗ってくる奴もいるだろうからな」
「残念だ」
「楽しみはさきに延ばすほど喜びもひとしおだ。だれが射止めるかは無論、金次第だが」
云いたい放題の会話がなされるのをよく気に留める余裕もない。あたしはただ、この苦痛を早く終わらせてほしかった。
「さあて、儂の念願も仕上げにかかろうか。娘よ、加奈子の子供として生まれたことを幸とするか不幸とするか、それはおまえ次第だ」
京蔵は、腕をまわしてつかんだ腿から膝の裏へと持ちかえた。その動きだけでも躰が萎縮して、あたしは息を詰める。
「締めつけるな。抜けなくなるぞ」
楽しんでいるのがありありとした声音だった。
自分の躰のことでも、コントロールできるほどあたしはその機能性を知らない。
そうして膝の裏は上へと押しあげられていく。
ふ、はっ。
秘部が広がって、痛みの軽減すらできなくなった気がする。
「もう出してっ、ぁうっ」
懇願するも、そう叫んだだけで張り裂けそうに痛んだ。
「女の躰は男に合うようにできている。儂のは人より多少大きいが、それがよくなる」
よくなるなどない。快楽は跡形もなくなった。
「もう処女の壁はない。出ていくも入るも一緒だ。ほら」
京蔵が躰を引いていくのに伴って傷ついた襞が引きずられる。男根の異物感だけが鮮明になった。出てしまう寸前、くびれた部分が膣口に引っかかる。そこで止まった京蔵は、そこから腰を押しつけてくる。
呼吸を呑みこみ、息を止めた。こじ開けるような感覚はヴァージンであろうとなかろうと関係なく、痛みだけは感じる。男根はどこまで達するのか、さっきよりも奥に来たかもしれない。
京蔵は互いの秘部を密着させると腰をうねらせた。生理的な拒絶反応と痛みとで吐き気を催す。のけ反らせたままの首と浮かせた背中もこわばり、痛みに変わりつつあった。
京蔵は躰を引き、そしてまた奥へと穿った。
「あ、痛いっ……いや、もういやっ」
「処女のせいじゃなく、おまえの膣は狭いのかもしれんな。そのぶん、なかで逝く快楽を憶えたときが恐ろしいな」
その言葉とは裏腹に、京蔵は興じた声で続けた。
「母親のセックスを見て女の喜びを知っただろう。おまえは、いずれは自分から欲しくなる。まずは男と女の役割を憶えなくてはな」
そう云って京蔵はずるりと引いた男根をぐいっとめりこませる。
あ、ぅうっ。
吉村から快楽を与えられているときよりもずっと低音の悲鳴が飛びだす。
ゆっくりでも速くても、苦痛はかわらない。京蔵は何度も襞を引きずりながら前後の運動を繰り返す。それがだんだんと速くなっていくと、母の姿が脳裡に映った。
あたしは、そのさきに待っているものに気づく。肉体の苦痛に絡みつくように不安が押し寄せた。
「ぐちゃぐちゃと嫌らしい音が立つね。痛いと云いながら感じてるのかな、アオイちゃんは」
吉村がつくりだした音を京蔵が掻きまわしているにすぎない。違う、と、歯を喰い縛っているあたしにはそんな否定のひと言も発せない。
ただぶつかっているだけの摩擦が、京蔵には快感になっているのか、出し入れの速度に合わせるように息切れし始めている。
「逝くぞ」
たったひと言が現実を表し、あたしを苛(さいな)んだ。
「いやっ、なかに出さないで!」
「ぬかすな。儂の念願だ」
京蔵はぴしゃりと云いきり、それからは母にそうやっていたように、激しく、そして繰り返し、あたしのなかをめちゃくちゃに突いた。実際は前後運動に加えてわずかに旋回する程度だろう。けれど、慣れないあたしにはめちゃくちゃにしか感じない。奥に当たるたびに痛みだけが積みあげられていく。
「子宮に当たってるだろう。ここが気持ちよくなる。まずは、儂が最初の男だという、烙印を残さねばな」
突く合間、途切れ途切れに京蔵は云い散らす。
躰は浅く深く突かれる都度ゆさゆさと揺らされ、髪が擦れて痛む。つかまれた膝の裏も痛む。全身が軋んでいた。
もう終わって。それだけを望むなか、あたしは、感じないぶんだけオスの変化をくっきりと感じとった。びくっと京蔵の男根がうごめいた一瞬後、咆哮と同時に最奥に熱が叩きつけられる。京蔵が云ったそのまま、あたしはそこに不浄の烙印を押されたのだ。
なおも腰を打ちつけられ、躰が揺らされる。体内に染みこんでいる気がした。
「いや……」
それは声になったのかどうか、わからない。
京蔵が満足げに深い息をつき、体内から這いずるように出ていった。
ぅくっ。
無理やり開かれていた膣口が閉じていくのにも痛みを覚えながら、体内では京蔵が放った精でひりつき、本当に火傷をしたように感じた。
持ちあげられた膝の裏から手が離れても、あたしは別の痛みに襲われそうでそのまま動かすことができない。
脇に来た京蔵があたしの顔を横向けて腰を突きだした。
「娘、よかったぞ。おまえは幸運だ。男の喜ばせ方を学べばもっと価値は上がる。借金も早いうちに返しきれるだろう。おまえの愛液と処女の証しと、儂の精液(スペルマ)のミックスだ。憶えておけ」
挿入のまえ独りでに起っていた男根は、ひとまわり小さくなって京蔵の手で支えられている。ピンク色の粘液が目についた直後、男根の先端が、むせるような香りと一緒にくちびるに押しつけられた。まるでリップをつけるときのように粘液を塗りつけられる。
それは、主人と奴隷という立場を植えつける行為にほかならない。
あたしにとっては、価値など下がることはあってももう上がることなどできない。
「吉村、クラブはやめさせて、しばらくラブドナーで働かせろ。本番は法度(はっと)だ。病(やまい)を持ちこんでもらってはかなわん」
「はい」
アツシに着物を羽織らせられた京蔵は身をひるがえした。
「あとは吉村の指示に従ってもらいたい。競りの際は、声をかけさせてもらう」
「いいものをご紹介いただきましたよ」
「まったくだ。後日、楽しみにしています」
そんな会話のあと、あたしの泣き声だけが目立った。