魂で愛する-MARIA-

第3話 寵辱

# 16

 頂上に行きついたあたしは倒れこむようにして台に片側の頬をのせた。
 ほかのどこにも触れずに胸を玩弄されて躰の中心が快楽に弾け、今度はお尻でもそうなった。
 いや、お尻のほうがずっと快楽の度合いは増している。そこに性感帯があるのかは知らない。けれど、二重に収縮反応が起きている気がする。それらが連動して、片方が片方の刺激を受けるという循環のなか、快感のピークは持続していた。体内の臓器がすべて快楽に侵されたようで、台から躰が浮いているのではないかというほど全身がびくびくと痙攣している。

「ん、ふっ、た……すけ、て」
 躰は疲労困憊して、呼吸することすらままならない。あたしは口が閉じられずに、だらしなく唾液をこぼしながら救いを求めた。そうする相手は吉村しかいない。
 けれど――
「呆れた。やっぱりあの女の娘ね」
 予想だにしない声が割りこんだ。
「お尻で逝ってお漏らしまで? なんでもかんでも快楽に感じてしまうなんて信じられないわ」

 艶子が覗きにくると云っていたことを忘れていた。いつから見られていたのだろう。侮蔑を浴びせられ、あたしの呼吸はすすり泣きに変わる。

「おまえも自分を解放してみたらどうだ? 薬物なしでなんの負担もなく多幸感が得られるぞ。ひと眠りすれば憑き物が落ちたように躰は軽くなるらしいが」
 口を挟んだのは吉村ではなく京蔵だった。

 その間に拘束を解かれたが、自分ではわずかも動けず、吉村によって仰向けに横たえられた。艶子の発言で冷水を浴びせられたように脳内から快楽は消え失せた。ただ、生理的な反応は続いていて、定期的にびくっと躰が波打つ。

「わたしを売女(ばいた)と一緒にしないで」
「それなら黙って見ていろ。おまえは自由にさせてやっているだろう。儂(わし)の楽しみに水を差すな」
「わたしは……!」
「わたしは、なんだ?」
 艶子は口を噤んでしまったが、ふたりは一触即発といった雰囲気に感じた。
 そして、あたしはその会話が意外に傍で聞こえることに気づいた。
 首をまわすことさえ億劫だったが、声のする入り口の方向へと少し動かせば重力に従い、かくっと真横に向いた。そうした視界には、艶子と京蔵だけではなく、蔵田たちの姿もあった。

「吉村さん」
 反対側にいる吉村に呼びかけた声は自分でも怯えて聞こえた。鉛の玉を転がすようにゆっくりと吉村のほうへ首をまわす。
 向き合うとその表情を見ることもなく吉村に抱えあげられ、あたしはやっとのことで手を上げて甚平服の襟もとにしがみついた。終わったのかと一瞬期待したのに、躰が台の下のほうへとずらされただけで、吉村は服をつかんだあたしの手を簡単にほどく。ひどく冷たいしぐさに感じた。
「吉村さん!」
 じろりと睨むように見下ろされ、あたしは警告を発せられた。助けを求めるなと云われたことを思いだす。
 今度は何があるの? あの人たちはもっと近くであたしの躰を見たがっているだけ?
 あたしは心細さに襲われる。

 睨み合うようだった気配は、近づいてくる足音に掻き消された。
 吉村に抱えられたときの恰好のまま膝を立てていた脚がつかまれた。
 それは吉村の手ではなかった。
 膝を引き離され、腕が脚の下をくぐって手が腿をつかむ。あたしの躰がずるっと下に引っ張られた。
「いやっ」
 尽きた力を掻き集めて背中から這いあがろうとするも、京蔵の太い腕には到底かなわない。

 なぜ?
 そんな疑問、あるいは絶望を思いながら、のどに熱い塊が痞えた。
 いつの間に部屋に入っていたのか、アツシが傍に来て、京蔵の肩から着物をずらし、取り去った。伏せた目に、母を犯したオスが飛びこんでくる。男根(ペニス)は大きさは吉村とそうかわらなくても、どす黒く、吉村のときにはなかった不浄の醜さを感じた。
 あたしはそれで穢されるのだ。
 漠然と認識した。

 質量を誇示するように太い杭が秘部に押しつけられる。片方の脚が放されて台から落ち、すると、杭の先が秘部を撫でまわす。躰の生理的反応はまだおさまっていない。突起と膣口に擦れるたびに、躰が跳ねてしまう。
 それは意に適っているのか、京蔵は悦に入った含み笑いを漏らした。
「処女で犯されて逝く女はなかなかいないが。加奈子の娘であるおまえはどうだ? 儂を喜ばせてくれるだろうな」

 違う!
 あたしは心底で無意識に叫んでいた。
 吉村は、あたしを男のためにあると云った。けれど、あたしが快楽に簡単に溺れたのは、そうしたのが吉村だったから。きっと。そうであるはず。吉村を喜ばせるためなら何をされてもいい。だから――
「ちーときついだろうがすぐ慣れる」
「いやっ、やだっ」
 逆らうことでどうなるのか、見当もつかない。そんな怖さよりも、あたしは穢される怖さを感じていた。もう二度と戻れない。そんな絶望を。ずっと抱えて生き延びるすべをあたしは持っていない。

「これだけ濡れておいて逆らうか。儂に背く奴は見たくない。が、まあいい。処女をいただくぶん大目に見てやろう」
 男根が膣口に当てられた。そして、押しつけながら口を広げていく。
「いやっ」
 躰をよじるも下腹部から下はどうにもならない。
 あ、あ……。
 ぐいと先端が膣口を裂く。指とは全然違う質量だった。

「やっ、裂けちゃう! 吉村さんっ」
 助けを求めちゃいけない。そう云った吉村しか当てにできなかった。
 吉村さんを当てにできないでだれが頼れるというの?
 脇に立つ吉村の表情は滲んで見えない。

「吉村さん、いや、怖いのっ」
「うるさい娘だ。まあ、躾はこれからだ。なあ、吉村」
「はい」
 吉村はためらうこともなく返事をした。
「楽しみだな」
 薄く嗤うと同時に、京蔵が体内に入った。
「いやあ――」
 短く悲鳴をあげたあと、あたしは息を詰めた。くびれたところが無理やり口を広げたまま引っかかった状態で止まっている。
「吉村さん、助け、て。いや。こんなの、いや」
 息があがって途絶え途絶えに訴える。
 けれど、吉村は何も答えず微動だにしなかった。

「吉村に惚れたか。吉村にかかれば女はすぐ堕ちる。小娘ならなおのこと他愛ないな。だが、あいにくとおまえはこの丹破一家の、そして儂のものだ。吉村のものではない。なあ吉村?」
「はい」
「吉村さんっ」
 吉村を呼ぶことにいまでき得るかぎりの力を使う。無駄だとわかっていても。
 手を伸ばしかけたその刹那。

「い、やぁあ――――っ――んっ」
 不浄の男根は懲らしめるように痛みを強いてあたしの砦(とりで)をこじ開けた。

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