魂で愛する-MARIA-

第3話 寵辱

# 15

 吉村は頭上にくると、あたしの顎をすくう。
 上体を折って顔をおろすと、吉村は片手に持ったものを舌先で舐めた。そのクリーム色のスティックは、違った大きさででこぼこして波打っている。いちばん大きな瘤(こぶ)は、吉村の指くらいの太さがあった。浴室で指を舐めたときと同じしぐさにあたしは魅入らされる。場をわきまえず吉村の舌に襲われたい気になった。同時に、スティックが何か、教えられるまでもなくローターと同じで、性的に煽る道具なのだ。
 無謀な気持ちを払うのに顔を背けようとしたが、吉村の手がそれを許さない。

「連続逝きで苦しいことはあっても、肉体的に痛めつけることはない。男のためにあるというのは、女として尊重されるということだ。おまえに何があろうと、おれがおまえのすべてであることを守れ」
 つぶやくように云う吉村のまわりくどさはあたしの理解力を超えている。
 ただ、いろんな意味であたしが吉村から逃げられないことは自分でもわかっている気がした。

「口を開けろ」
 云うことを聞かないで閉じたままでいると――
「奴らは嫌がるほうが喜ぶぞ。嫌がっても躰は感じる。そこまで感度がいいことが前提になるが、あいにくとおまえはよすぎる」
 吉村は嗤って囁いた。
 確かに、ただ観賞するだけでなく、羞恥心を煽ろうと揶揄するのは彼らに加虐性が潜んでいるからかもしれない。

 あたしはくちびるを緩めた。スティックが口に入ってくると、それはゴムよりもやわらかかった。持ち手まで二十センチくらいあって全部は入りきれず、嘔吐きそうになったあたしが首を振ると吉村はそこで挿入を止める。
「そのまま力むな」
 云い渡されると、適度な速度でそれは引き抜かれていく。先端がくちびるまでくると、反対にスティックはまたくねるようにして入ってきた。それが往復して三回め、くびれた部分とふくらんだ部分がどういった効果をもたらすのかわかった。舌もくちびるの裏もくすぐったいような刺激が生まれている。
「いい表情だねぇ」
 そう云ったのは目のまえにいる吉村ではない。なぜ? そんな疑問が浮かぶ。突きとめる間もなく、スティックが口から引き抜かれた。

 吉村はもとの位置に戻っていく。かまえる余裕がないまま吉村の指が孔口に触れた。
 んあっ。
 そこは驚くほど敏感になっている。孔口を魔撫されながら、一方ですぐ前部にある秘孔に何かが潜ってきた。続けざまに入り口の開閉を伴って侵入してくる感触がスティックだと教える。
「やっ」
 その長さからすると全部が埋もれれば痛みを伴う。その怖れと刺激とで、あたしは思わず拒絶を放った。吉村はなんら応じることはなく、ただスティックを引きだした。

 直後、孔口からも指が離れていき、そうかと思うとまた触れてきた。孔口をつつかれ、ぷくりと埋もれた。
 それは吉村の指ではなかった。開いた孔口はすぼまって、なお且つ、何かが邪魔して口を閉じきれない。そして、再び開閉する。
 うくっ。
 三度めになると、やはり怖くなった。体内の構造がどうなっているのか、あたしは無知でわからない。
「やっ怖いっ」
「無駄に痛い思いはさせないと云っただろう。最初に潤滑剤を入れた。傷つけることもない。力を抜け」
 力を込めているつもりはないから簡単にそうはできない。何も心構えができないうちにまた瘤が一つ入ってきた。
 ん――はっ。
 息を止め、次には荒っぽく吐く。痛みはなくても、やっぱり怖さは拭えない。

 そして、次を覚悟してかまえていると、それはまったくの不意打ちで反対方向に動いた。
 あああっ。
 内側から開く感覚は、外から挿入するときと全然違った。まるで、吐出してしまうかのような不安を覚えた。その不安を解消できないうちに、一つまた体外へと引きだされる。
 あ、あふっ、ああっ。
 四回め、すべてが出てしまうとお尻が勝手に揺れた。
 安堵する間もなく吉村はスティックをまた挿入した。いきなりではなく、瘤を一つ一つあたしに確かめさせている、そんな意図が見える。快楽を憶えさせるためなら、それが成功していることは否めない。だんだんと挿入は深くなり、そのぶん引き抜かれるときのなんとも云えない感覚も長引く。瘤を一つ超えるたびにお尻がぴくっと跳ねあがった。
「あんっはっ……んくっ、あ、あっ……やぁああっ」

 すべてが抜けだすと、脱力してあたしはぐったりした。けれど、すぐさま次が来る。
 吉村が云うとおり痛みはないが、逝っているわけでもないのに終始刺激される感覚があたしを苦しめていた。クーラーが効いているはずなのに全身が汗ばんでいく。

「吉村、さん……も……だめ。……おかしいの」
「それを超えたら逝ける」
「いや」
「それなら耐えろ」
 冷たいのか、突き放したのか、いずれにしろあたしの返事は気に入らなかったのだ。当然、逆らうなど吉村にとっては言語道断だろう。
 そうして吉村がなかにうずめていったそのあと、これまで緩慢だった動きが速くなり、すっと抜け出ていった。その動きに合わせてお尻がせりあがる。吉村は抜けだす寸前で手を止め、そこから逆行してずぶりとなかに埋めていく。その速度もずっと速く、あたしは顔を上向けて喘いだ。抜かれ始めると小刻みにお尻がふるえる。また出てしまう間際で止められ、続けて埋められた。
 最初のうちは隣室から囃し立てる声が聞こえていた。恥ずかしさで少し気が紛れていたが、回数を重ねるごとに遠のいて、あたしは快楽に集中していった。抜けだすときのお尻の痙攣が全身に波及していく。

 あ、あうっ、あ――ああんっ。
 うつむけば呼吸が苦しく、首をのけ反らせたままあたしは悲鳴をあげ続けた。
 嬲られているのはお尻なのに、そこだけでなく秘部の突起や秘孔の奥まで、なぜひくついてしまうのだろう。秘孔から溢れる粘液が突起に伝えば、くすぐられているような感覚がする。シートの上にはとめどなくだらだらとこぼしているかもしれない。

 逝きたくない。けれど、逝きたい。その均衡はかろうじて保たれていた。
 ただ、吉村は女であるあたしよりも女の躰を知っているのかもしれなかった。
 数えられないほど往復したあと、抜けだす寸前で止められていたスティックがすべて引き抜かれた。
 あ、あ、あ、ふはぁあああっ。
 お尻がこれまでになく跳ねあがった。完全には閉じることがかなわなかった孔口がすぼむ。そこへずぶずぶと入ってきて、再び取りだされる。
 お尻を犯されていた母の反応の意味がわかった。奥に達するときよりも出ていくときのほうが遥かに強く孔口から快楽を引きだしている。
 ぐちゅっと音がするのは、潤滑剤のせいだ。嫌らしく部屋に響き、お尻の痙攣は止まらない。

「も、だめっ。吉村さん、……も、やめて……!」
 それが焚きつけたのか、引きだしてしまうのをやめた吉村はなかで何度も往復して、それからすべてを引き抜いた。
 はぁあ、ふっ。
 間の抜けた悲鳴が口を飛びでる。
 そしてまた体内で深く浅く動かされる。今度は長い。
 それはいつなのだろう。かまえているはずが、その不安が持続すればかまえていること自体が無意味になる。そのとおり、引き抜かれたときは不意打ちでしかなかった。
「出、出ちゃうっ……んくぅっ、ふぁああああ――」
 舌っ足らずの悲鳴と一緒に、体内からは水分が搾りとられていった。

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