魂で愛する-MARIA-
第3話 寵辱
# 14
「アオイちゃんはヴァージンだろうに、すごい逝き様だねぇ」
「潮まで噴く女になかなか巡り合わないな」
「まったくです。処女でこうも完成されていると、なんでもオーケーじゃないですか」
口々に上る好き勝手な感想はあたしを恥辱に晒す。快楽の果てにいられるのはつかの間で、その一瞬のためにプライドを放棄して自らを穢している。
荒い呼吸の合間に嗚咽が入り混じった。
吉村は彼らに頓着せず、拘束具を外していく。
「この夜鷹(よたか)が処女なら一本出しても惜しくないが……残念ですな」
隣室での会話は続いていて、そんな言葉が耳に留まった。
吉村は四肢の拘束を解くと、腰もとをすくうようにしながらあたしの躰をひっくり返した。
「値段を決めるのは時期尚早。もう一つ、残っているのをお忘れだ。交渉次第で譲る用意はある」
その発言に、おお、とどよめくような気配に湧いた。
会話の意味を考えられないうちに、あたしはうつ伏せになったまま、今度は台の頭上でバンドに両手を括られた。
「吉村さん!」
正面にいる吉村を見上げると、その口角がいびつに上がった。
「派手に逝ったな。おまえの価値は上がったようだ。使えるところが二つなら二倍の価値になる」
「……二つ……?」
その疑問の結論は自分で出した。
たったいま、手足が自由になって終わったと思ったけれど、逝かされるだけで終わると思ってしまうのは思考力がなさすぎる。
脱力した躰はなすすべもなく、お尻が高々と引きあげられる。足首ではなく膝のすぐ下がバンドで固定された。
あたしは、秘部だけでなく、お尻までもを隣室に向かって曝けだしている。
「いやっ」
逆らおうとしてもお尻が揺れるだけで、彼らを喜ばせる要因にしかならない。
「アオイちゃん、いい眺めだ。きみは尻の穴もきれいだな」
「愛液で濡れているところが嫌らしい」
下品な会話に耳もふさげない。いや、下品なのは、彼らのまえで逝ってしまうあたしもそうだ。
どこでこうなる定めに変わってしまったのだろう。
いまさら無意味なことに答えを求めたくなる。
そうしている間に、台の下にかがんでいた吉村が立ちあがった。思わずめいっぱい振り返られるところまでそうすると、手に何かを握っているのだけわかった。
「やっ、お尻から出すのは嫌っ」
「洗浄は終わった。引きだしたいのは快楽だ。尻だけで逝けたら価値はもっと上がるぞ」
吉村はまったく感情の動かない様で云った。
なんの価値があがるというのだろう。
孔口に何かが当てられた。その感触はパウダールームでされたときと同じだった。
「やだっ」
拒もうとお尻が力むも思いのほか躰はだるく、膝は肩幅よりも広く開かれているせいで避(よ)けるだけの力が集まらない。
いったいどれくらい時間がたっているのか、何回逝かされたのか、あるいは逝ったのか。たったそれだけのことが考えられない。快楽は躰だけでなく、思考力も溶かしていくのかもしれなかった。
ぅはっ。
お尻のなかに液体が入ってくる。浴室で使われたお湯のようにさらさらではなく、どろりとしているように感じた。体内よりも冷たく、異物が注入される感触と相まって、ぞくっと全身が総毛立つ。
注がれたのは大した量でもなく器具はすぐに離れていった。
直後、吉村の指が花片に絡む。
あ、んっ。
指は突起へと移り、捏ねるように動かされる。逝ったあとのそこは敏感になりすぎていて、少しでも感覚から逃れようとお尻が揺れてしまうのは防げなかった。指はまた花片に戻り、通りすぎて体内に潜った。そこもすぐに出ていき、そして、冷たい器具のかわりに孔口には温かく濡れた指が触れた。
吉村の指は孔口の周囲をさまよう。浴室で最初にそうされたときに感じたのは、羞恥に因ったむず痒いような感覚だったが、それを飛び越して、いまははじめから性の快楽として呼び覚まされていく。
けれど、吉村は遠巻きに魔撫するだけで、そこから一向に孔口へ向かう様子はない。
んんっ。
そう呻いたトーンは、取り消したいほど自分でも媚びて聞こえた。
「もっと感じたいか」
「ぃや」
あたしは大きく首を横に振った。にもかかわらず、吉村の指はだんだんと孔口に近づいてくる。
はっ……ん、く……っ……。
孔口の縁に触れ、指が潜りそになったところで離れていく。
あ、ああっ。
お尻がぷるぷるとふるえた。
なかを侵しそうになっては引き返す。吉村は繰り返し、明らかに意図を持ってそうしている。そして、あたしはその策略に嵌まっていた。
「アオイちゃん、愛液が糸を引いて落ちてるよ」
「いやっ……あ、……違、うっ」
叫んで拒みながらも喘いでしまって説得力はまるでなかった。
「シートに溜まっていくのがなんともエロティックだ」
蔵田の下卑た揶揄のあとは、芸術品を評価しているような冷静な声がする。どちらの調子であっても、あたしは辱めとしか感じない。無論、そうでなければあたしは母のようになるしかない。
「ほぐれて赤くふくれてきたな。ちゃんと入れてほしいか」
「違う、のっ」
否定は悪あがきでしかなく、訊く必要があったのか、吉村はあたしの返事を無視して強引に指をくぐらせた。
あ、あああっんっ。
ちょっとした異物感はあっても、待っていたと云わんばかりにお尻は持ちあがってしまう。ぶるっとしたひどい痙攣が走る。すると、膣口からとくっと粘液が溢れた。
隣室で驚嘆したざわめきが漂う。
「軽く逝ったか」
吉村は羞恥心に追い討ちをかける。
「違う!」
「愛液がぼとりと落ちた。躰は正直だ」
あたしはそこを見ることができない。肘をついてわずかに顔を上げていることが精いっぱいだった。けれど、感触は確かに感じていた。
「も……いや」
「中途半端で放りだされるのもつらいが? 自分で自分をなぐさめる破目になれば、もっと自分を貶めることになる。詰まらないプライドは捨てろ。男のためにある女には必要のない代物だ」
吉村はあたしのプライドをばっさり切り捨てた。それとは裏腹に、吉村の指は出ていき、その瞬間、あたしは心もとなさに襲われながら、もっと、と思ってしまった。
本来、セックスで交える場所はお尻じゃない。わかっているのに、その感覚は違っても快楽に侵されている。だれもがそうなのか。少なくとも、母はお尻でセックスして感じていた。吉村は淫乱は遺伝しないと云ったけれど、母娘だからという、あたしは云い訳をつけなければならない。そうでなければ、到底快楽を得ていることを受け入れられなかった。