魂で愛する-MARIA-

第2話 調教

# 08

 吉村はシャワーヘッドをお湯の溜まった浴槽のなかに放りこんだ。
 空いた左手の中指が右の指にかわり体内に入ってくる。違和感はあってもそれは不快さや痛みではなく、むしろ安堵のようなものだった。クチュッと水音を立てて煽られながらも、どうにか声を我慢できるくらいで左の指は出ていく。
 吉村は腰をつかんで自分のほうへ引き寄せた。お尻は少し椅子から飛びだし、不安定になった気がして落ちまいとおなかに力が入る。すると鈍痛に呻いた。

「艶(なま)やかだな」
 吉村はつぶやき、立てた指を双丘の間に沿わせた。尾骨辺りからいたぶるようにゆっくりとのぼってきて、孔口(こうこう)にたどり着く。
 んはっ。
 羞恥心に襲われ、孔口がきゅっと窄(すぼ)まる。その周囲を指が這う。
「そこ、違うっ」
 あたしの訴えは無視して、吉村はほぐすように周囲を摩擦していく。
 力めば吉村の手も躰も汚してしまう。触られるのをただ受けとめようとするものの、リラックスすればくすぐったいような感覚が昂(たかぶ)っていくばかりだ。そんなことは認められない。孔口を少しでも引き締めようとするけれど、吉村はぬるぬるした指で捏ね、尽(ことごと)く攻めてくる。そうしながら指はだんだんとなかに沈んできた。

「いやっ、そこはいや!」
「そのわりにおまえの穴はひくひくして応えてる。女はここでも感じられる。さっき母親を見ただろう」
「ちが……っ」
「いや、愛液が流れてくる。ローションもいらないくらいな。母親もそうだが、おまえも男のために生まれてきたらしい」
 それはまるで母を抱いたことがあるような云い方だった。
「吉村さ……ん?」

 はっきりは訊けない。さっき母にたかる男たちをこの目で見た。その一員になったときがきっと吉村にもあるのだ。
 あたしが当てにできるのは吉村だけでも、吉村を当てにする人はあたしだけではない。虚しくなるような、悲しくなるような感情に捕らわれる。

「詰まらないことを考えるな」
 なんらかを気取(けど)ったふうに放ち、膣口に指が潜ってくる。考えさせまいとする方法としては、何もかもはじめてという、いまのあたしには有効的だった。
 んんっ。
 躰をひねると、膣内が弄られるのと同時にお尻のなかの異物が引っ張られる。
「はっ、だめっ」
 異物には紐が付いているから引きだすのは簡単だ。けれど、いま抜かれたら粗相をしてしまうに違いなかった。そうされまいとお尻が浮きあがる。
 すると、引っ張られる力が緩む。が、ほっとしたのもつかの間、逆に孔口からも体内に吉村の指が潜ってきた。
「いやっ」
「詮のかわりだ。ここは止めておく。あとは我慢せずに漏らしてみろ」

 吉村はまた膣内を探り始めた。程なく、あたしの弱点を当てる。指の腹で弾かれると、すぐに漏らしそうな感覚が甦った。
 弄られるほどに、ぐちゅぐちゅと粘り気が増した音に変わっていく。
「あ、いやっ。も……ヘンになりそ……!」
 母が見せた快楽の果てを一度でも経験してしまえば抜けだせないような予感がして、いまさらで怖くなる。その怖さのためか、快楽のためか、躰に身ぶるいが走る。
「逝け。女の絶頂はドラッグに侵されたように何もかもどうでもよくなるらしい。女の快楽を味わってみろ」
 なんとか踏ん張っているあたしを吉村が誘惑する。
 あたしは無意識で激しく首を横に振った。
 吉村は拒否を許さないとばかりに、ぐりぐりと揉みこむような動きに変えた。

「あ、はうっ……やっ、だめっ、あ、あ、あ……んんん――っ」
 腰がせりあがり、そして、あたしははじめて快楽の果てに達し、堕とされた。沈んでいく感覚のあと、溜めこんでいたものが躰の中心から迸った。吉村が膣内から指を抜く。そうした吉村をあたしが濡らしていく。止めたくても止められない。腰ががくがくと上下に揺れて、水を吹きあげる音をあたしの叫び声が消し去った。

 快楽はあまりにも強烈だった。喘いでいるなか、吉村は輪っかの留め具を外していった。躰は痙攣するばかりで開いた脚も閉じられない。その隙を突いて、お尻に埋めこんだ吉村の指がぐるりと回転しながら前後した。
「あうっだ、め……」
 快楽を引きだされた場所はそれを憶えている。余韻とおなかがきりきりする痛みと入り混じってあたしは訳がわからなくなる。
「も、無理っ。わからないのっ……あふっ、やっ……あたし、ああ! 壊れっ……てるの!」
「もう少し耐えろ」
 吉村の指が抜けたとたん、心もとなくなる。
「吉村さ……助けて!」
 無意味な言葉に違いない。
 吉村はあたしの肩を抱き、膝の裏をすくった。

 何を見られても、これだけは、というのがある。耐えられなかった。
 堪えようと躰が突っぱるのを力で押さえこんだ吉村は隅っこのトイレにあたしを座らせた。そこに座る習慣と限界だったせいで、自ずとあたしの意思は崩壊した。同時に吉村が股間に手を入れて紐を引く。
 かがんだ吉村に縋った躰がぶるっとふるう。
 いゃぁああ――っ。
 ショックと、解放感と、羞恥心と、どれがより強いのか。
「見ないで!」
 そう云いながらも追い払うのとは逆に吉村にしがみついたままで、あたしは泣きじゃくった。

 やがて迸出(へいしゅつ)する音もやんだ。
「耐えたぶんだけ、ただの生理現象も快感にかわっただろう」
 どういうつもりで吉村がそう云うのかわからない。
「もういや……」
 嗚咽がひどくなる。
「おまえがどうあろうと、なんらためらうことはない」
 その真意はなんなのか捉えられるわけもなく、あたしは首を振った。
「躰を洗ってやる」

 吉村は水を流すと、自分の首からあたしの腕をほどいて立ちあがった。
 お湯が満杯になった浴槽からシャワーの管を取りあげると、そのまま手に持って戻ってくる。
 吉村から腕を取られて立ちあがると躰を引き寄せられた。躰が正面から密着したまま、背中にお湯が当たって流れ落ちていく。手のひらが首根っこから肩甲骨、そして腰へとおりていってお尻へと伝う。洗うというよりは撫でまわすような触れ方だった。
 子供みたいにしゃくりあげていたあたしの嗚咽がおさまっていく。
 その間、吉村のモノがあたしの下腹部をつつくのを感じていた。かわらず硬くて、それがあたしに呆れていない証拠のようで、きっと愚かしいのだろう、あたしはほっとした。

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