魂で愛する-MARIA-

第1話 堕ちる

# 05

 母は一五五センチのあたしよりもちょっと背が低く、わずかに童顔でありつつ、娘から見ても綺麗だと思う。色が白くて、ホステスという職業を意識しているのだろう、スタイルも若いまま維持していてグラマラスだ。
 三十九歳という年齢よりも若々しく見えて、だれかの母親らしくはなく、だからなのか、あたしはいま他人のように、淫猥(いんわい)な母の姿を眺めていた。
 きっと混乱して頭がうまく働いていない。それでも考えた。

 話をする。そのようなことを母が云ったのは二回。
 二回め、母が消えたのは一週間まえだ。それだけでこんなにも夫じゃない男とのセックスに溺れるものだろうか。
 一回めのとき、何もできなかった父とは違って、母は話を付けてきたと云った。その時点でもしかしたら……。
 なぜなら、不思議だった。泣きじゃくった数日後、母の云うとおりにあたしが追いかけられることはなくなって、借金取り自体が押しかけてこなくなった。
 あたしと同じように逃げて怯えていたはずの母は、達観したように強くなって見えた。目のまえで起きていることがその代償だとしたら。

 母はなぜ父と別れないのだろう――心細かった夜以来、あたしが抱いてきた疑問だ。
 別れないどころか借金を返そうとしていたのは、母のプライドのように感じて、大人になることは自力で立つことで、だからあたしは大人になりたいと思ってきた。そうすれば何も見えない不安から逃れられる。“話を付けてきた”母のように対処できるようになるんだと漠然と信じていた。
 それなのに、いま正面にいる母は好きでもない男とセックスをして、娘のまえでもセーブできないほど、意志の欠片もなく快楽に浸かっている。
 それとも、京蔵という男のことを好きなのか。

 ああっ、んんあっ、うはあっ……。
 母の唸るような喘ぎはまえとは違う。
 奥を突かれるときではなく、男のモノが抜けだしていくときのほうが反応はひどく、母の躰は武者ぶるいを起こしながら、尖(とが)ったチクビと同じように赤く染まった秘部からは粘液を垂らしている。

「娘のまえだから簡単には逝けぬようだな。だが、耐えたぶんだけ来たときが激しいぞ」
 京蔵は興じた声で母を煽(あお)る。
 母はでき得る力の限りといった様で首を横に振った。
 京蔵は笑い、そして、母を持ちあげる高さを微妙に変えた。男の先端がくびれているところまで見える。そして腕をおろすと同時に埋もれていく。抜けた瞬間の母の痙攣はいっそうひどくなった。

 あうっああ、ああ、ああ……。
 足掻くような嬌声をあげていた母は品格を無にして、口をだらしなく開け、秘部と同じように涎(よだれ)を垂らす。足先がぴんと伸びてこわばった。
「も……だめ……あ、ぐ――っ」
 母は目を見開き、呼吸を止めた。男のモノがぬぷっと鈍い音を伴ってずるりと抜けだした一瞬後。
 あ゛……やぁああああ――っ。
 仰向いて京蔵の肩に頭を預けた母は瀕死のような叫び声をあげ、躰をがくがくと揺さぶる。腰が前に突きでるたびに秘部からは水が迸った。

「潮まで吹いて尻の穴一つで逝ける女はそういない。おまえはおれが一生可愛がってやる。いいな」
 母は快感を受けとめるのが精いっぱいのようで応えることはなかったが、京蔵は返事を待っているふうでもなく――もしかしたらそれはあたしへの宣言だったかもしれず――母をうつ伏せに寝かせた。
 京蔵は母の脚の間に入って、細いウエストをつかみ自分のほうへと引き寄せる。どれくらい快楽は持続するものか、びくびくする躰は力がまったく入らないようで、必然的にお尻だけが持ちあがった。
 京蔵は黒々とした自分のモノをまた母の躰に沈めていった。苦しそうに喘ぐ母にかまわずピストンを扱うように出たり入ったりを繰り返す。それがだんだん激しく速くなっていく。
 母は声をあげる力もなく、ただ呼吸を荒げていたが、弛緩(しかん)しているのか突かれるたびに股間からわずかに水を散らし、その躰はまた痙攣し始めていた。
 京蔵が低く唸った。五十代といえども弛(たる)んではいないそのお尻がふるう。オスの咆哮(ほうこう)が短く轟いた。それを追うように母がかぼそく悲鳴をあげて、どちらの影響か、ふたりの密着した腰がぶるぶるとふるえた。

 やがて京蔵は唸るように大きく息をつき、躰を離した。そそり立つようだったモノは弛(たゆ)み、母との間で糸を引いて粘液がふとんの上に落ちていく。
 京蔵はふとんの横に脱ぎ捨てられていた着物みたいなものを羽織り、簡単に帯を締める。
「娘、来い」
 背の高い吉村よりも低いのに、じろりと目を向けられたとたん、そびえたっているような印象を受けた。瞳は吉村よりもずっと穏やかな印象だが、それがよけいにその奥に眠るものを怖いと感じさせる。
 口もとをふさぐ手と腰を抱く腕が離れてもあたしの足は動かない。吉村に導かれてつまずくように踏みだした。

 傍に行くと京蔵が動いてあたしはびくっと肩を揺らす。顎をすくい、あたしの顔を舐めまわすように見つめる。
「やはり、父親よりは加奈子に似てるな。母親のことは心配するな。逆らわないかぎり、大事にしてやる。おまえもだ。わかったか」
 間近で見る瞳は冷酷さではなく残忍さを映しているように見えた。口のなかがからからに乾いてあたしは応えられない。目が狭まると同時に、背中に置いた手に力がこもった。
「……はい」
 吉村の忠告を思いだしてどうにか声にした。

 京蔵はうなずき、あたしの顎を解放すると、しどけない恰好で痙攣の止まらない母の横に行ってかがんだ。
 京蔵は母の秘部に中指を入れ、悶える母にかまわず、引っ掻くような動作をした。
「男の種を喰らって恍惚(こうこつ)とする。それが女だ」
 わずかに指先を曲げた状態で引きだされた。そのあとから白く濁った粘液が母の体内からぼとりと落ちる。
「おまえの母親は美しいだろう?」
 京蔵は口を歪めてあたしを見上げた。何も反応を返せないでいると――
「加奈子のはじめての男になれなかった。それが無念でたまらん」
 京蔵は首をひねりながらそう次ぎ、立ちあがった。そして、母から退くと、少し離れた座椅子に腰をおろした。

「極楽を見せてやれ」
 隅にいる男たちを見やってだれにともなく京蔵は令を下した。それからあたしに目を向け、続けて吉村を見やると顎をしゃくった。
「浄(きよ)めてやれ」
 二つの言葉はそれぞれどういう意味なのか。
 あたしは吉村に腕を引かれて部屋の出入り口に向かった。

 廊下に出て戸が閉められる寸前、後ろを振り向くと、ハイエナのように三人の男たちが母に群がっていた。自分で動けない母は、まさにハイエナに狙われる死体とかわらない。けれど、母の呻き声はけっして嫌がっているようには聞こえない。

「行くぞ」
 今日三度めとなる言葉で吉村はあたしの手を引いた。

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