ミスターパーフェクトは恋に無力

第1部 PrimDoll
第3章 Risky charm

3.エスコート権

 千雪はこの場をごまかせるほど雄弁ではなく、どうにもできずに立ち尽くしていると、ふいに右手からグラスが奪われる。無意識にそれを追うと、取りあげたのは建留だった。
 建留がグラスを旭人に押しつけている間に、滋たちから目を逸らすきっかけをもらった千雪は、彼らを避けるようにしてドアに向かった。
 千雪が手をかけるより早く、だれかの手が取っ手をつかんで、千雪の背中を押しながらドアを開けた。
 ドアが閉まると、食器の音だったり談笑の声だったり、すべての音響までが閉ざされた。
 エントランスホールには、警備員、もしくは執事に扮した運転手の松田がいた。軽く会釈するのはお決まりのしぐさで、いつもならうなずいて返すが、千雪はそれくらいのこともする気になれない。
 背中に添えられた手から逃れると、千雪は片方ずつ脚を後ろに跳ねあげてヒールを脱ぎながら廊下に上がる。そのとき、ドアが開いたのだろう、広間からのさざめきが背中に届いた。行儀が悪かろうが、背後の人物に当たろうがおかまいなしに、ヒールは無造作に後ろに放った。
 投げつけたらすっきりしただろうか。千雪はそんな癇癪(かんしゃく)を覚えながら奥に向かって歩きだす。踵が地に着くと、慣れないヒールを履いて無理をしていたのだろう、足の甲が軋(きし)んだ感覚がした。

「放っておいてください」
 だれに向けたのか建留の声がして、次には「千雪」と呼びかけてきた。
「もう戻らない」
「逃げることじゃない」
 足早に階段へと向かう千雪のあとから、言葉と一緒に建留が追ってくる。少し遅れた建留はすぐに追いついたが、千雪を引きとめることはしない。
 二階に行って部屋のドアを開けると、一歩なかに入ったところで建留を振り向いた。そのまま閉めだそうとしているのを察したようで、建留は素早くドアの枠に手を添えた。ドアではなく枠をつかむことで、建留は力を使うこともなく千雪を制御する。どれだけ憤慨していようとケガをさせるわけにはいかない。

「わたしは逃げることを負けだとか思ってないから全然平気。だれも守ってくれないから自分で守ってるだけ。建留は戻ればいい。逃げるの嫌そうだから」
「今日のパーティのいちばんのメインは千雪を披露することだ。主役がいなければ、じいさんの顔を潰すことになる」
 建留は考えも及ばなかったことを口にした。滋はただ千雪を付き添わせているだけだと思っていたのに――もちろん、いちいち千雪を紹介していたが、それは礼儀とか、そういうついでのことだと認識していた。
「そんなの迷惑。いつまでもここにいるわけじゃないし」
 建留は目を細めて千雪を見下ろす。気に喰わないのか、呆れているのか。
「いつか出ていくとしても、千雪は加納家の人間として厚遇される。じいさんなりの配慮だ」
「仲村さんは、そういうのはいらないって云ってた。建留もそうだって……業平から離れると変わるって。わたしもここは嫌い。うちにお金があったら、もっとラクで、いろんなこともできるってずっと思ってた。でも、お金があってもここは窮屈」
 千雪が訴える間、じっと聞いていた建留は、云い終えてしばらくしても何も応えない。かといって置いていくわけでもなく、千雪は目を伏せて貫くような瞳から逃れた。
「沙弓さんのこと、イメージしてた感じじゃなかったから、最初に建留のカノジョじゃないかもって思ったのは本当。でも、瑠依さんにもだれにも云ってない。建留は沙弓さんといるとラクなんだね。家にいるときとちょっと違う感じがするし、だから建留には沙弓さんがピッタリなんだと思う。沙弓さんにそう云って」

 うつむけた千雪の頭の上でため息が漏れる。顔を上げると――ため息ではなく笑ったのかもしれない。そんな、片側だけくちびるを歪めた、皮肉っぽい笑みがあった。
 最近になって気づいたのは、あくまで“皮肉っぽい”と見えるだけであって、そんなしぐさは建留流のおもしろがった、あるいはからかった笑い方だということだ。
 いま千雪が云ったことの何がおもしろいのだろう。

「沙弓にそう云ったら、千雪みたいに“窮屈お断り”ってはね返される」
 建留が何を云っているのか、千雪にはさっぱり見当がつかない。
「どういうことか、わたしにはわからない。でも、さっきのことは誤解したままになってほしくない」
「沙弓は瑠依を知ってるから誤解しない。それに、沙弓とは友だちとしての付き合いはあっても、カノジョとして付き合ったことはない。云い得て妙だ」
 旭人は建留のカノジョがパーティに来ると云った。一瞬、それならカノジョはだれだろうと思ってしまった。パーティの出席者には若い女性も何人かいる。けれど、そのなかにいるとしたら、そのカノジョを差し置いて沙弓といるわけがない。
 カノジョがいるからといって千雪にはなんの被害も及ばない。カノジョがいないからといって何をすればいいのかわからない。それでも、思いがけない建留の発言に安堵だけは覚えた。
「でも、みんなそう思ってる」
「みんな? だとしたら、沙弓が昇進できるように後押ししてやるべきなんだろうな」
 話は咬み合っているのか、建留はやはり皮肉っぽく笑ってつぶやくように云った。
「建留?」
「そう見せてるからそう思われてるんだろう」
 建留は淡々として肩をすくめ、「戻ろう」と千雪の手をつかんだ。
「わたしが行ったら、おじいちゃんの顔をもっと潰しちゃうから。話すの苦手だし、笑えないし」
「それでもいい。今度はおれが最後までついてる。千雪はこの家をドールハウスって云うだろう? 実際、千雪は人形みたいにしてる。黙って広間にいるだけでいい。相手を慌てさせるような失礼を口にするよりはましだ。ゲストも千雪はそういうものだって思う」

 建留がほのめかしたのは瑠依のことだろうか。
 だれがだれを好きか。それは“失礼”という類に入るのか、その話に建留が触れないことにほっとする一方で、そうしたのは千雪のためではなく、建留自身のためで、上手にかわされたのかもしれないとも思う。
 それでよかった。
 いまのままのほうがずっと壊れない気がした。
 いずれにしろ、あと二時間というパーティの間、建留がエスコートしてくれるのなら乗りきれそうな気もしてくる。建留に応じてうなずくと笑みが返ってきて、千雪は一歩を踏みだして部屋を出た。

 手を引かれて階段をおりると、建留は方向を折り返す踊り場でふと立ち止まった。
 何かと思って横に並んだとたん、階段の下にいる瑠依に気づいた。
 瑠依の視線は、建留の顔からスタートしてその左腕を伝いおり、捕まれた千雪の手、それから千雪の顔へと移動する。そして、瑠依は可笑しそうに小首をかしげた。
「うまくいったみたい?」
 何を考えているのだろう。
 瑠依は、この服を選ぶのもそうだし、マナーも浅木と一緒になって教えてくれたり、パーティに関してだけではなくこれまでも買い物に誘ってくれたり、親身になって千雪の面倒を見てくれた。けれど、それらにはなんらかの裏がある。千雪はふとそんなふうに感じた。
 建留は、「なんの話だ」と、千雪にかわって素っ気なく瑠依に応えた。間髪を容れず。
「千雪は高校生だし、うちに来たばかりだ。さっきのことは度を超してる」
 とたしなめた。
「確かめたかっただけだから。ありがとう、千雪ちゃん」
 お礼を云われるような何を自分がしたのか、千雪は応えようもない。瑠依も返事を期待しているわけではなさそうで――
「じゃあ、行きましょ」
「千雪にはおれが付き添ってる」
「かまわないけど」
 と、瑠依はあっけらかんと笑って背中を向けた。
 建留を見上げると、いつになく顔を険しく変えている。千雪の視線に気づいたのか、すぐにそれは消え去り、建留はちらりと千雪を見やったあと、ため息をついてまた階段をおり始めた。千雪もそうしながら手を引いてみたが、また逃げるとでも思っているのか、建留は放してくれなかった。
 広間に戻ると、逸早く近寄ってきたのは茅乃だった。
「建留、わたしをエスコートしてくれないかしら」
 千雪を眼中に入れず、茅乃は、頼んだのではなく当然とばかりに命令をした。
 建留は小さく息をついたあと、首を横に振った。
「おばあさま、今日は千雪についていてやると約束してるんです。千雪にとってははじめてのことですから」

 茅乃は、ふたりの繋いだ手をちらりと見やり、神経に障ったような、かちんときた雰囲気を纏う。
 血筋ではまったく他人である瑠依よりも、千雪は茅乃から格段に嫌われている。
 この家に来て三カ月になるが、茅乃と話したのは数える程度しかない。話しかけても対話として成立しているかというとそうじゃない。あとには記憶に残らないという、ローズガーデンの水やりをしていいか、など茅乃ではなく浅木に訊ねても充分に用が足りるほどの内容だ。
 確かな記憶として残っているのは、加納家に入ってまもなく、少しは歩み寄るべきだと考えて千雪がはじめて話しかけたときのことだ。
『おばあちゃん、髪の色、人と違ってて困らなかった? いまは染めてても普通だけど、まえは少なかったよね?』
『言葉遣いに気をつけなさい』
 咬み合わない会話のすえ、親しくしないで、とお達しされた。
 そう云われてはじめて、茅乃に対してはみんなが『おばあさま』と呼び――孝志夫婦は『お母さま』と呼び、敬語で話していると思い至った。建留に訊ねてみると、茅乃は公家華族の出らしく、戦後に制度は消滅したにもかかわらず、親の教育が沁みついていていまだに栄光を引きずっているという。
 最初が肝心というけれど、それは茅乃の鉄則だろうかと感じるほど、そのときの千雪の失態は取り返しできていない。以降、どう努めようが、千雪が云ったことに茅乃が素っ気ないひと言を返す、それで終わりだ。
 母との間に入って祖母との仲を修復できたら――修復のきっかけになれたら、と安易にも考えていたが、麻耶が何をしたのか、いくらこっちから努力をしても無駄であることを千雪はもう思い知っている。
 片方で、建留は茅乃にとってなくてはならない存在だ。ただし、孫が可愛くてたまらない、そんな感情とは違う。なんだろう、さっきの命令のときのように、当然といった押しつけがましい気持ちが見える。
 加納家に来た当初は、大げさにいえば千雪を警戒していたのか、そういうところを見せなかったが、千雪はしばらくすると、何かにつけ「建留」と連呼する茅乃に気づいた。
 千雪は建留と繋いでいる手をそっと引いた。ここまで来たからには大丈夫と考えたのか、茅乃の手前そうすべきと判断したのか、抵抗なくするっと手が抜ける。

「建留、あなた、わかってるのよね?」
「わかってますよ」
「わたしをこれ以上、悲しくさせないでちょうだい」
 なんのことか、今度は威圧的ではなく、哀訴して茅乃は立ち去った。
 建留はあからさまにため息をついた。
「わたしが建留といると悲しいってこと?」
 建留は千雪を見下ろすと、否定するというよりは、何かを振り払うように首を振った。
「遠回りしたらそうなるだろうけど、根本は違う。千雪が気にすることじゃない」
 云いながら建留は千雪の背中に手を添えて奥へと歩きだす。
 すると、向こうのほうから貴大と沙弓がやってくる。明らかに目的地は建留だ。
「解決した?」
 正面に立った沙弓は、建留と千雪を交互に見ながら首をわずかに傾ける。
「悪かった。瑠依には参ってる」
「建留が参ってるのは瑠依さんにじゃないと思うけど」
「沙弓」
 建留が警告した声音で沙弓を呼ぶ傍から、貴大が「なるほど」とつぶやいた。にやつきだした貴大はあらためて千雪を眺め、それから――
「さっきのことは気にすることない。瑠依のことはおれも恩田も知ってるから」
 と、建留と同じことを云ってなぐさめた。
「そうよ、千雪さん」
 沙弓も同調すると、ふいに顔を寄せてきて、「性悪女に負けないようにね」と、こっそり千雪の耳に囁いた。
 瑠依となんの勝負をすべきなのか理解できていないが、沙弓の口調が滑稽(こっけい)に聞こえて、ほっとしたこともあるかもしれない、自然と千雪の口もとに笑みが浮かんだ。
 ふと見上げた建留は、云ったとおりだろうというような眼差しを向けながら首をひねった。

 その後、ゲストの見送りまで大事はなくパーティは終わった。
 建留が傍にいただけではなく貴大と沙弓が一緒にいて、千雪が無口であっても、だれかがゲストの相手をしていたから、怪訝だったり不快だったりという表情には合わずにすんだ。
 瑠依と旭人はこれまで“鳴りを潜めていた”のか、千雪のなかに要注意人物という項目が新たにできて、ふたりともリストアップされている。今日のことは、加納家がいかに表面上を取り繕(つくろ)っているかということの証明のような気がした。
 “失礼”なことをまた蒸し返されたくはなくて、広間に戻ってすぐは戦々恐々といった心地で警戒していたが、千雪が拍子抜けするくらい、瑠依も旭人も近づいてくることはなかった。安堵した反面、いびつにも感じた。例えば、何かの幕開けを待っているような。
 瑠依は独り子で、両親である小泉社長夫妻と一緒にゲスト同士の交流に励んでいたから、千雪をかまうどころではなかったかもしれない。小泉家は貴大が云うところの“業平一族”とはなんの縁故もない。そんな成りあがりの社長は声が大きくてふてぶてしさを感じなくもないが、表面上、人当たりは穏やかだ。小泉家を見ていると、社長は相手と会話しながらしょっちゅう瑠依に目をやる。娘を溺愛していることは見てとれた。

 旭人は建留の代行を云い渡されたのか、おおよそ茅乃の傍にいた。
 建留と同じで、旭人は何を考えているかわからない。違うのは、建留は人のことを考えているけれど、旭人は自分の都合を中心に考えていること、だろうか。厳密にいえば、何事も興じる傾向にあって、不安定な気持ちにさせる言動が多い気がする。どこか気が許せないのだ。
 最後のひと組が出ていって玄関の扉が閉まると、千雪は気づかれないようにため息をついた。今日くらい勉強はしなくていいだろう。そんな怠(なま)けたことを思いながらヒールを脱いだ。

「千雪さん」
 部屋に行きかけると、めずらしく茅乃が千雪を呼びとめた。
「はい、おばあさま」
 千雪は慣れない発音に痞えそうになりながら返事をして振り向いた。
 二メートルくらい離れた場所でちょうど足を止めた茅乃からは、高圧的な気配が見える。これから発せられる言葉が歓迎できないことだと察するのはたやすい。加納家の面々が千雪と茅乃に目を留めるなか、茅乃はゆっくりと口を開いた。
「千雪さん、独りで勉強しているかと思ったら、部屋ではずっと建留と一緒なの?」
 そうすることに咎め立ては必要なのか。そんな詰まらない質問のはずが、茅乃の云い方は、千雪がひどく下劣なことをしているかのように響いた。
 勉強に付き合ってもらっていることなんて、わざわざ云うほどのことではない。いや、そんな判断すら意識下にはなく、ましてや、人数では須藤家の倍という家族構成なのに、ほぼ会話もないという食事のさなか、大したことのない話を口にする気にもなれない。ただ、それだけのことだ。わざと黙っていたわけでもなく、こそこそと秘密にしていたわけでもない。
 現に、旭人は知っていた――と、そう考え至ると、千雪は茅乃の情報もとの見当がついた。茅乃の背後にいる旭人を見ると、案の定、興じた眼差しがあった。
 旭人と一緒にまだエントランスにいた建留が茅乃を追いこして、間に入るように千雪の斜めまえで立ち止まった。ちらりと千雪を見た建留は、くるりと躰をまわして茅乃へと向く。
「おばあさま、僕が勝手に勉強を見てやっているだけのことですよ。僕だけじゃなく、旭人だってそうしています。旭人、そうだろう?」
 建留は旭人を引き合いに出した。旭人の趣味の悪いシナリオを察しているとしたら、建留も強かだ。
「まあな」
「いずれにしろ」
 旭人の返事をさえぎるように茅乃は強い口調で口を出した。
「建留、もうおやめなさい。あなたは業平不動産を率いる人なの。一刻も早く。千雪さんの相手をしている場合じゃないでしょう。わかってると云ったわよね?」
「そう努めていますよ。千雪の相手をしているからといって仕事に支障はきたしていないはずです」
 建留は上がり口に立った滋へと目を転じ、「そうですよね?」と同意を求めた。
「何も問題はない。茅乃――」
「なんてこと」
 茅乃は眉間にしわを寄せて、はっきり滋をさえぎった。
「千雪さんを連れてきたり、送迎したり、建留は仕事の時間を割いているのよ。充分、差し支えていることではなくて?」
「必要に迫られてのことだ。茅乃、孫が窮地に立っているというのに見て見ぬふりをしろとおまえは云うのか。千雪にはなんの落ち度もない」
 滋は茅乃に負けず劣らず険しい声で反論した。茅乃はきっとして滋に目を向ける。

 祖父母の普段の関係は、滋が茅乃を許容していて、茅乃はそれを当然として振る舞っている。茅乃が何を云うにしても滋は黙認している感じだ。
 茅乃の同窓会のとき、しかもそう称されたお喋りパーティは月一回に行われているのだからそんな必要もないだろうに、ほかの予定があろうと滋にはそっちをキャンセルするよう迫って、茅乃は強引にエスコートをさせる。
 建留や旭人の誕生日という家族内の祝い事に瑠依を呼んだりなど、どうでもいいようなことも含めて、茅乃の意見が通らないことのほうがめずらしい。
 そんな茅乃のことは、自分が嫌われていることをわかっているから苦手だ。千雪はけれど、多勢に無勢のような窮地に立つ茅乃を見たいわけでもない。
 自分のことで起きたこんな諍(いさか)いに立ち会うよりも、会話がないほうがずっとましだ。

「わたしは独りでやれます」
「当然だわ――」
「続けますよ。千雪の勉強は半年もすれば方(かた)がつくことです」
 建留は素早く茅乃に反論すると、千雪のほうを向いた。
「千雪も遠慮することじゃない」
「でも……」
 何か云うにもためらうほど、建留の発言はこの場の空気を引きつらせた。千雪は建留から逃れるように目を伏せる。同時に、腹立ち紛れのため息が聞こえた。
「建留、あなたは自分のことだけ考えていればよかったのに」
 と、茅乃は不快さと落胆を交えて責め立てた。そして、さらに続ける。
「同情を引いて建留をたぶらかすなんて、あの子にそっくりだわ。抜け目なくて――」
「やめてください」
「茅乃」
 建留と滋が同時にさえぎった。
 茅乃が麻耶を嫌っているのははっきりした。それどころか、憎悪さえ窺える。千雪はくちびるを咬んで云い返したいのを堪えると、せめてこの場から離れたくて、躰を反転させて階段に向かった。

NEXTBACKDOOR