ミスターマシーンは恋にかしずく

第1章 ミスターマシーン流責任の取り方

4.陶酔のショコラベーゼ

 バカげてる。そんなつぶやきが聞こえたのは気のせいだろうか。ヒールを履く間も式台に座っているというのに、旭人はつかんだ腕をそのままにして南奈を支えている。
「酔っぱらってますけど、捕まえてなくても暴れませんよぉ」
 そう云ってみると疑い深い目が向いて、どうやら旭人が本気で南奈の行いを懸念しているらしいとわかった。
 結局、右腕を捕まれたまま店を出た。すたすたと歩く旭人についていくのはたいへんだ。転びそうになって、左手で旭人の腕をつかむ。
「まっすぐ歩け」
「歩いてますよぉ」
 真剣にそう思って云っているのだが、歩きながら冷ややかな一瞥を投げられた。けれど、その眼差しはすぐ歪んでいく。一気飲みしたカクテルが急速に躰を巡って、ひどく酔いがまわっている気がする。
「なぁんだか扱いがひどいですよね。大学生のときもそうでしたけど、どうにもならなくなったら来いって云ったくせに、だからこの会社に来たのに、なぁんにもフォローないし!」
 息切れしながらなじると、旭人は唐突に足を止めた。南奈も続いて立ち止まったが、それはつもりでしかなく、完全には止まれずによろけてしまう。
 やっと足が地をつかんでから見上げると、旭人は何やら思案していそうに南奈を見つめていた。
「何をフォローしてほしいんだ」
 旭人は問いかけながら南奈をじっと見据えていた。冷ややかというよりはつっけんどんな云い方だ。できることならしてやってもいい、とそんな譲歩が見えなくもない。
 南奈のなかにそう期待じみた推測が芽生えたとたん、もやもやしていた原因がはっきりした。
 違う部署に行けば、旭人はさっさと南奈のことを忘れてしまう。九年まえのことを忘れている、あるいはどうでもいいと片づけているように。そんな思いは、つい十分まえに感じた“さみしい”に繋がっているのだ。
「んーっとぉ……わかりません」
 深く考えることもなく――いまはお酒に侵されて脳みそは役に立つはずもなく、南奈は首をかしげた。また目眩いがして、頭を傾けたほうに重量が偏ったみたいに躰がかしいだ。腕をつかむ旭人の手がきつくなる。人とすれ違うたびにぶつからないようにとそうされるから、明日には痣になっているんじゃないかと思う。
「つまり、おれのフォローは大して必要じゃないってことだな」
 旭人は素っ気なく云い、再び歩き始めた。
「というか、それってわたしが考えることじゃなくてかのー主任が考えることでしょ。だって云いだしっぺは、かのー主任だもの」
 独り言みたいなつぶやきは届いたのか否か。ヒールが立てる不規則な音が響くなか、旭人の応えはなく無言で駅前を通りすぎてコンビニに入った。

「どれだ?」
 スイーツコーナーに行くと旭人は南奈を振り向いた。
 なんでもないしぐさに、悪くない、と思う。康哉だって最初はこんなさりげなさで気を配ってくれていた。大学の帰り道、送ってくれていたことだってそうだ。思いやる対象は南奈から春奈へと変わってしまった。
「チョコマウンテン!」
 指差すと、旭人のきれいに伸びた指先がケーキをつかむ。レジに並ぶと南奈はバッグを探った。
「これくらいおれが出す」
 お金を出すつもりが、抜かりなく察した旭人に制される。すぐレジは空いて、カウンターにケーキがのった。旭人が財布を取りだすのに伴って腕が解放されると――
「おにーさん、追加! ちょっと待ってて!」
 と南奈は止められるまえに奥に行った。素早くとは行かず、足もとは怪しいながらも南奈は精いっぱいの早さでレジに戻った。
「これもお願いします」
 カウンターに並んだビール缶二つに呆れ顔の旭人と、にこやかに待っていた店員、どちらにともなく南奈は云ったあと、大胆さは酔いのせいにしつつ今度は自分から旭人の腕に捕まった。
 大学のときに一度、訳がわからないほど酔ったことがあるが、そのときと同じで酔いはフル回転し始めている。

 コンビニを出て駅前に来ると、南奈は立ち止まった。一方で旭人は足を止めず、咬み合わない動きが南奈の足を絡ませた。
「あっ」
 唯一の助けである旭人の腕に縋りつつも、自分で自分の足につまずくという無様な転び方をしそうになった。すると、旭人が躰を張って防いだ。正面を向いた躰のなかに吸いこまれるように南奈の躰はおさまった。
 思いがけない接触は今日何度めだろう。成り行きとはいえ、旭人に抱きしめられるのは心地がいい。この際、と思って全体重を預けると、腕の筋肉がぴくりと盛りあがって南奈の頬をつついた。
「何やってるんだ」
「かのー主任とふたりで飲もうって思って。ビール、IOMAに持っていったら失礼だし、だからきゅーけー。きっとこーいうこと最後だからいーですよねぇ?」
「ほんとに最後になればいいけどな」
 躰が触れているせいで声は肌越しにも伝ってきて、囁くように小さくても南奈は聞き届けた。
 どういう意味だろう。しばし考えこむけれど、南奈はすぐに追求をあきらめた。だめと云われたら強引に追いすがってみるつもりだったが、乗り気とはいかないまでも拒絶する気はなさそうで、旭人の躰から離れた。

「そこ!」
 駅前の広場にある機関車のオブジェを指差すと旭人は肩をすくめ、南奈の背中を押して促した。
「のせて」
 南奈は子供みたいに、アーチ型になったレンガの台座を叩いて示した。南奈の肩くらいの高さがあるから自力で座るのは難しく、甘えているわけではないがわがままではある。
 無視するかと思いきや、旭人は小さく息をつくと、わきの下に手をくぐらせた。細身のくせによろけもせず、五十キロ近い南奈をやすやすと持ちあげる。腰かけると少しお尻がひんやりした。お酒を飲んでいるから暖かい気がするものの、このところ夜は特に肌寒くなっている。
 傍に置いたコンビニの袋から中身を出して、ビール缶を一つ旭人に渡した。南奈ももう一つのビール缶を取ってプルトップを開ける。ひと口飲んで横に置くと、今度はケーキを持った。
 旭人もまたひと口含むとビールを手にしたまま、台座に背中をもたらせて余裕で両肘を引っかける。

「かのー主任、カノジョいないんですか」
「面倒くさい質問だ」
 旭人は鼻先で笑う。
「いるならいる、いないならいないって云えばいーのにぃ」
「いてもいなくても、好きな奴がいる藤本さんにはなんの影響もない。無意味な質問だ」
「かのー主任のこと、好きになろーと思ってるのに!」
 口を尖らせてつぶやくと、ため息なのか笑ったのか、旭人の口から息が漏れる。少なくとも、斜め後ろから見る横顔は怒っているふうではない。それよりも、外灯がいい具合に影をつくっていて、彫刻家が絶賛しそうな、鋭く、なお且つ繊細なラインが浮かびあがっている。
「好きになろうと思ってそうなるもんじゃないだろ。もしそうできるならもっと単純で生きやすい」
 南奈にとってその発言は、旭人の口から聞くには青天のへきれき並みに意外だった。いや、南奈だけじゃなく旭人を知っているほとんどの人は驚きに遭う気がする。
 かぶりついたケーキのチョコクリームがのどに張りついて息が詰まりそうになった。南奈は缶ビールを取って、ぐいぐいとあおる。
「一気すぎだ」
 しかめた声とともに缶ビールが取りあげられる。
「かのー主任、もしかして好きな人がいるの?」
 考えもなく自然とその質問は飛びだした。
 旭人はふっとため息のように笑い、そのままごまかすんだろうと思ったら――
「マシーンは感情を持たないと思うけどな」
 と、返事はあったもののまるで答えにはなっていない。むしろ、逸らされた感たっぷりだった。
「でも、かのー主任は女性慣れしてますよねぇ?」
 旭人は薄らと息を漏らして笑った。
「どこからそう感じるんだ」
「遠慮なく触るから。会社でみたいに平気で近づくし、さっき寄りかかっても慌てなかったし」
「いちいち意識してどうするんだ。そういうことで慌てるとか生産性が悪い」
「かのー主任て恋愛に生産性を求めるんですかぁ?」
 そう訊ねたら、何が気に留まったのか旭人は黙りこんでしまった。

 取りあげられたビールを旭人の手から取り返しても何も云わず、止めもしない。
 南奈は半分くらいまで飲んでケーキを頬張った。ビールとの相性は微妙だが、口のなかで甘さが広がると単純に子供に返ったような幸せな気持ちになる。
 金曜日の夜、十時まえという時間はまだまだ宵の口だ。人通りはそれなりにあって、たまに南奈は他人の視線を受けとめなければならない。オブジェにのっかって、ビールにケーキを食するという振る舞いは大人げないからだ。
 真っ先に軽蔑しそうな旭人が許容しているというのは、ついさっきの発言に続いて密かな驚きだった。

『独りで悩んだって藤本さんのいまの能力で解決できるわけないだろ。時間のロスだ。こっちの仕事の邪魔をするなんていう、無駄な思考に陥るまえに訊ねろ。結局、藤本さんのせいで全体の流れが滞る』
 入社して二カ月後、云いつけられた仕事の専門用語がわからなくて孤軍奮闘していたとき、容赦なくみんなのまえで旭人から云われたことだ。
 南奈は恥ずかしさと情けなさで涙ぐんだが、どうにかこぼさずにすんで、いま思いだしてもその点だけはほっとしている。
 公然と云わなくてもいいのに 。そんな不満のもと、南奈が旭人に冷血漢というレッテルを貼ったのはそのときだ。
 それまで、猫を被ってしおらしくしていた南奈だったが、そんな努力はすっかり放棄した。
 しばらくは、新しいことが出てくるたびにいちいち確認を取っていたものの、旭人がうるさがらず時間を割いていることに気づくと、南奈はなるべく煩わせないように、そして、仕事が滞るほど疑問は長引かせないよう心掛けた。
 旭人は仕事ができないからといって目をつけるわけではなく、ただ公平に人を扱う。冷たくはあっても怒ることはない。そんなことを悟って命名した言葉がミスターマシーンだ。

「姉夫婦、うちに同居してるんです。だから、引っ越ししたくて、アパート探してるんですけど。かのー主任だったら、セキュリティのしっかりしたところ知ってるだろーし、そしたらぁ独り暮らしでも心配することないと思うんですー」
 出し抜けに南奈は朝の続きを話しだした。
「おれが安心だと認めるのは、最低でも藤本さんの月給が全部飛ぶところだ。飢え死にするな」
「だったら、かのー主任に食べさせてもらう、ってどーですかぁ」
 思いついたまま口にすると、駅のほうを見るともなく見ていた旭人の目がふっと南奈のほうに向いた。
「そうしてやるかわりにおれは何をしてもらえるんだ?」
 素面(しらふ)であれば戸惑っていただろう。それくらい、旭人はじっと南奈を見つめてくる。
「それとも」と中途半端に区切ったあと。
「フォローってそういうことか?」
「じゃないです!」
 金づるを物色していると思われるのは心外で、南奈は即座に否定した。
「食べさせてとか、冗談ですよぉ。自分でなんとかやれますから」
「なんとか、か。確かに、藤本さんはなんでも独りでやろうとする嫌いがある」
「……それ、叱ったときのこと言ってますぅ? 嫌味ですかぁ」
 旭人は、「嫌味?」と首をひねり、それからくちびるを歪めると頭をゆっくりひと振りした。
「それとは対極かもしれない」
 曖昧な云い方を聞くかぎり、旭人もまた独善で独り言(ご)ちている。

「なぞなぞみたいに云われても酔っぱらってるからわかりませーん」
 南奈のふざけた主張に旭人は笑った。可笑しそうというのとは少し違う。
「ほんとに物怖じしないな」
「……嫌いですかぁ、こういうの?」
 旭人を覗きこもうとした南奈はバランスがとれずに、まえのめりになりすぎた。
「あっ」
 躰が台座から落ちそうになり、南奈はとっさに旭人に手を伸ばした。瞬時に旭人が動いて受けとめられると同時に、首にしがみついた。
「何やってるんだ」
「酔っぱらってるみたい」
「見てればわかる」
 素っ気なさには気も留めず、南奈はくすくすと笑いだす。
「かのー主任、嫌ぁな感触ないですか」
 旭人は南奈を地におろし、巻きついた腕をつかんで自分の首から離した。
「嫌な感触?」
「見て!」
 そう云って南奈が見せた左手は潰れたケーキ塗れになっている。当然、旭人の背中もそうなっているだろう。
 旭人はしかめ面でうんざりしたため息をついた。
 謝るべきところだろうが、それよりも可笑しくて南奈は笑いが止まらない。
「今日、二度め! 朝、大谷先輩のシャツにリップべた塗りしちゃったし。だいじょーぶ、かのー主任のも責任持ってきれーにします!」
「当てにするつもりはない」
「ですよねー。わたしが洗うって云ったけど、大谷先輩もきっと当てにしてないと思う」

 当てにならないと思われるのは好きではないが、あっけらかんと応じて、南奈は手についたケーキの残骸を舌ですくっていく。
 そうして間もなく、ふいに左手首が捕まれた。
「洗ってこい」
 旭人は顎をしゃくって駅のほうを指した。南奈の子供っぽいしぐさが気に入らないのだろう、冷ややかな気配が見えた。
「せーっかくかのー主任が買ってくれたのにもったいないですよぉ」
「おれのことを女慣れしてるって云ったけど、藤本さんも似たようなもんだな。好きな奴がいても平気で男を近づける」
 話が飛んだように思うのは、思考回路の巡りの悪さからくるのだろうか。
「だからぁ、失恋したって云ったでしょお。もうどーやったって両想いにはならないしぃ、ふたりを壊したいなんて思わないの。だってぇわたしは……」
 そこで口を噤むと、旭人は目を細めて南奈を見下ろす。
「“だって”、なんだ?」
 そのさきは当面、答える気はない。どうごまかそうかと考えているさなか、頭のなかはふわふわと浮いたような感覚だが、ふと旭人にしてほしいことが浮かんだ。
「かのー主任にしてほしいこと、わかりましたぁ! あしながおじさんみたいに、何かあったときにちゃんと見てるよって思わせてほしい感じ」
 たぶん、そんなに難しいことじゃない。そう思うのに、旭人は聞き流してしまう気のようで、長らく黙りこんだ。
「責任持たせてやる」
 ようやく発した言葉はすぐには意味がわからず、南奈が思い当たるまでに時間が要った。
「……あ、はい。ちゃんとジャケットはきれーにします!」
「おれも責任とるべきらしい。口、開けろ」
 責任と口を開けることの繋がりがまったくつかめないまま、南奈は首をかしげた。
 すると、旭人はつかんでいた南奈の手を自分の口もとに持っていく。何をするかと思いきや、手のひらが舐められた。
「やっ、かのー主任っ」
 上司と部下という間柄にはあるまじきそのしぐさに驚くよりも、南奈はくすぐったさに悲鳴をあげた。
 次の瞬間、成り行きで開いた口のなかにチョコクリームが広がった。

 反射的に目を閉じたせいで、このキスがキスなのかわからない。くちびるが触れる以上に、口のなかはたいへんなことになっている。
 旭人の舌が南奈の舌にチョコクリームをのせると、互いの温度が絡み合ってクリームは溶け、瞬く間にチョコ味が口内を満タンにする。
 手首は中途半端に持ちあげられたまま、もう片方の旭人の手は南奈の腰を抱きこんでいる。仰向いたくちびるは覆うように旭人がふさいでいて、逃げる術も止める術も見つける隙がないほど攻撃的だ。
 旭人の舌は、頬の裏側を這ったかと思うと南奈の舌に絡んでくる。それに、自分が逃げているのか応じているのか判別がつかず、感覚はめちゃくちゃだ。呼吸を忘れた南奈の口のなかでチョコレートの蜜がシェイクされる。
 血液の流れが急激に加速し始めると鼓動が痛いほど波打って、その音が往来から届く口笛や囃し立てる声を掻き消した。くらくらして自分がちゃんと立っているのかさえ曖昧になっていく。
 たぶん、あと一秒でも続いていたら気絶していたかもしれない。旭人がくちびるを離すと、チョコシェイクをこくんと嚥下(えんげ)したあと南奈は音を立てて息を吐いた。

 呼吸が落ち着いていく間に、キスの余韻が南奈をさみしいような気持ちにさせる。やがて息が整うと、自分とは違う呼吸音が聞きとれた。
 目を開けると、何かの拍子ですぐに触れそうなくらい間近に旭人の顔があった。
「かのー主任、キスうまいですねぇ」
 旭人の口角がわずかに上がる。くちびるが外灯の光を反射して艶めいている。南奈は自然と湧いた欲求に任せてちょっと爪先立つと、チョコシェイクの味が残るくちびるを舐めた。
 旭人は、すっと息を呑んだ直後には力尽きたように息をつく。
「マシーンも美味しくないわけじゃない」
「ですねぇ」
「相性はいいみたいだ」
 ふっと薄く笑って旭人は云った。
「なんのことですかぁ?」
「ファーストキスはまずくなかっただろ?」
 と旭人が云ったことで、南奈はつい今し方の出来事が人生のなかで重大な瞬間だったことを知る。
「かのー主任! わたしのファーストキス、酔っぱらってるときにってひどくないですか。もーっときれーなシチュエーションでって思ってたのに! どうしてくれるんですかぁ!?」
「責任とるって云っただろ」
「責任、て?」
「あしながおじさんの結末はどうなってる?」
「え。えーっと……結婚、しましたよねぇ」
「それでいいんだろ」
「それでいいって?」
「キスの相性は悪くない。生理的な相性の問題はクリアできたってことだ」
「だから?」
「結婚してみないか」
 天変地異だ。幻聴が聞こえるほど酩酊しているらしい。思考回路が混乱を来(きた)し始めた。

「かのー主任、わたし、今日はもう終わってるかも。プロポーズされたみたいなんですけど」
「みたい、じゃない。そう、した」
「……ですよね。明日の朝になったら夢だった、で終わるんです」
「なら、今日のうちにって手がある。どうする?」
「どうする、って?」
「結婚するかしないか」
 これくらい熱心にプロポーズされるなんて、相手が旭人なだけに、南奈は悪くない夢だと思う。
「んーっと……わたしにプロポーズとかあり得ないし。でも一回くらい……少しくらい夢見てもいいですよねぇ?」
「あり得ない? どうしてそこで消極的になるのかわからないけど、おれと結婚すれば家を出られるし、飢え死にもしない。どうなんだ?」
「結婚しまーす!」
 ふわふわした意識のなか、乗りに任せて返事をしながら、南奈は旭人に捕まれたままの左腕をぴんと伸ばした。
「オーケー」
 つぶやいた声はなぜか深刻そうに感じた。そして次には――
「色気ゼロっていう以上にゴシックホラーに出てくるような顔は興ざめだ。けど、そう思わないって、おれも酔っぱらってるんだろうな」
 とからかうように響いた。

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