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DOOR|タブーの螺旋〜Dirty love〜
第2章 不可視の類似
#14
「どうして撮るのが裸なんだか、全然わかんないんだけど」
環和はTシャツを胸に抱え、体育座りをしながら足首を交差した恰好で裸体を防御する。
響生はローテーブルをずらし、環和の正面に来て腰を落とした。
「きれいな躰を残しておくのもいいだろう?」
「きれい? わたしの躰が?」
びっくり眼になって環和が二つの疑問符を投げると、響生は右の眉を跳ねあげた。
「自信ないのか? さっきは見せびらかしてたと思ったけどな」
目の前で裸になったことを云ったのだろう。
「それとこれとは別。自信があるのは胸だけ」
響生は吹きだした。
「何が可笑しいの?」
「大胆で食ってかかるくせに奥沢京香の外見に嫉妬したり、自己卑下率が高い」
「それなら……わたしが京香に嫉妬しなくていい理由を教えて」
環和は難問を向けてみた。
響生は首をひねったものの、それは困り果てた雰囲気ではない。
「仕事抜きで、いま、おれが撮りたいって思った。それで充分じゃないなら、おまえがここにいる意味はないな」
すぐには答えられないだろうと思ったのに、こういう言葉がすんなり出てくるのは、ここまで伸しあがってくるまでに培ったスキルなのか。けれど、悪い気はしない。
どうだ? といったふうににやりとした響生に釣られた。環和が笑ったとたん、レンズが向けられて一瞬が切り取られる。
環和は首をかしげた。
「笑うってわかってた?」
「自分がいかに無防備にしてるかってわかってないな。怒る笑う泣く、いまは喜ぶ、だ。おまえは全部、丸出しで、シャッターチャンスには困らない」
子供だと云いたいのか。そうではなくてリラックスしているだけだ反論をしたいところだが、それよりは好奇心が湧いた。
「写したの、見せて」
響生はいくつか操作をすると、画面を確認してからカメラを環和へと向けた。
「画面が小さいから見づらいけど、最初から……無防備、不意打ち、不機嫌、ご機嫌、て感じだな」
響生は画面にタッチしていくごとに、タイトルみたいなものをつけながら環和に見せた。
「ちっちゃくてよくわからないけど、ぶれてない感じ」
「だれが撮ってると思ってるんだ」
「響生」
「プロのカメラマンだ」
響生は訂正すると、「撮り溜めたらアルバムを作ってやる」とカメラを引っこめた。
「アルバムって……これ、人に見せられる写真じゃない。……だれが見るために作るの? わたしの老後の楽しみ? だとしてもやっぱり見せられないけど」
「見せなくていい」
「……じゃあ、なんのために撮るの?」
「おれの腕を確かめるためじゃなかったのか?」
さっきは撮りたいから撮っていると云ったのに、いまは環和が最初に云った挑発を持ちだしている。矛盾なのか、単にどっちも含んでいるのか。
「だれにも見られないようにして」
「あたりまえだ。当面、これはおまえ専用のカメラにしておく」
響生がカメラをテーブルに置くのを目で追った。スタジオの名前“ラハザ”というのは一瞬という意味だという。このカメラに環和の一瞬が詰まっていくのだろうか。
「わたしでいっぱいにして」
そうしたら二カ月の残り期間も延長されるかもしれない。
響生はそれには応じることなく、曖昧に首を横に振った。
「話はここまでだ。お望みどおり、セックスの時間だ」
「いまその気になってるのは響生のほう」
「その気ならTシャツを捨てて脚を開け」
云って響生はTシャツを脱いでいく。
その気ではなかったら、自分から脚を開くなんていう恥ずかしいことをしなくていいかわりに抱かない、と通達しているのだろうか。
「……恥ずかしいんだけど」
響生は環和の腰もとにそれぞれ手をついて迫ってきた。
「野生児みたいにお尻丸出しでいたのはだれだ? 悩殺する気ないのか?」
二十センチと離れていない距離で、脅しかいざないか、どっちとも受けとれる低い声で問いかけた。
距離が近づいたぶん、隠したい場所を響生から見られることはない。環和は脚をほどき、腕を解いてTシャツを手放した。とたん、躰を起こした響生は膝の裏を腕に抱えて顔を近づけてくる。咬みつくようにくちびるをふさいで、環和の口内を性急に舌で侵してきた。