NEXTBACKDOOR|淫堕するフィクサー

epilogue ラリーレイド〜走破〜

1.

 泥のように眠り、その狭間に意識が浮上したり、また沈んだり、それを繰り返しながら颯天はようやく目を覚ます。躰に心地よい倦怠感を覚えながら目を瞬き視界を開くと、窓のほうを向いて横たわっていた。オーガンジーのカーテン越しに陽が差しこんでいて、漠然と朝だと思った。
 どこだ、ここは……。
 自分の部屋ではない。そんな違和感を覚え、本能的に自分の躰の感覚に神経を集中させると、腰に重みを感じて、背中は妙に温かい。それが人肌の温かさだと気づくと、一気に昨夜のことが甦った。
 永礼に送られて、颯天は祐仁の住み処に連れこまれた。連れていかれたのでもついていったのでもない、祐仁が強引に連行したのだ。そうはいえ、颯天に抵抗する気があったかというと、むしろ従順になるほど望んでいた。
 汚れた躰を洗いたくて、『シャワーを浴びろ』と命じられたときは即座に従ったが、『洗ってやる』と云って少し遅れてバスルームに入ってきた祐仁が、洗うだけにとどまるはずがなかった。
 工事現場での関口の行為は、レイプでしかなく颯天には快楽の欠片もなかった。そのときの名残か、颯天は祐仁に触れられても――性的な触れ方ではなかったが、いつもならすぐさま快楽に繋がるはずが、最初は反応できなかった。
『わかってる』と祐仁は何をわかっているのか、『とにかく、おれに洗わせろ』と云って、体内に残っていた関口の痕跡を洗い流した。そうして躰が浄化されたとき気持ちも癒やされたのか、徐々に快楽が開いていった。
 快楽の果てはまるではじめてのときのように突然、すぐそこに現れ、到達した。それからは荒々しいほど祐仁はがむしゃらに襲ってきて、颯天は続けざまの快楽で泥酔するような感覚に陥り、いつの間にか昏睡したように眠っていた。
 颯天はゆっくり息をつき、投げだしていた手を重たく感じながら上げる。額にかかった髪を掻きあげようとすると、ネクタイがほどかれた状態で手首に絡んでいることに気がついた。逆らうはずもないのに束縛されたことを思いだす。同時に、颯天の中でずっとくすぶっていた望みが急速に息づき始めた。
 息をひそめてみると、背後では規則的で静かな呼吸が繰り返されている。颯天はネクタイをつかみ、そっと腕から抜けだすように起きあがった。
 マットレスは硬めだが、慎重に動いてもベッドは揺れる。背後にいるのがだれか、多少疑心暗鬼になりながら横たわった姿を見ると、横たわっているのは祐仁に間違いなかった。起きた気配はなく、事を起こすよりもまず颯天は祐仁に見入った。大学時代にあった、どこかあどけない寝顔はさすがに見られない。ただ、眠りこんだ祐仁は無防備で、颯天はずっと眺めていたい気になった。
 けれど、抜かりのない祐仁のことだ。いまみたいに祐仁のほうが遅くまで眠っているというチャンスはめったにない。それに、颯天が望みを口にしたところで受け入れてくれるとは思えなかった。
 颯天は投げだされた祐仁の手の下にネクタイをくぐらせ、左右の手首を括る。息を殺して祐仁を見守るが、まだ起きる気配はない。ネクタイを祐仁の頭のほうへとそっと動かして、ベッドヘッドの壁に取りつけた照明のブラケットに結びつけた。
 横向きになったまま頭上で手を括られた祐仁の姿は、あの日を彷彿とさせる。飢餓感が湧いて、颯天はひとつ唾を飲みこんだ。
 クイーンサイズのベッドのなか、祐仁の躰を仰向けたとたん。
「何をやってる」
 パッと目を開き、祐仁が颯天を捉えた。自分が置かれた状況を素早く察した祐仁は睨めつけるように目を狭めた。
 怯みそうになったのは一瞬、颯天の欲望が自らを叱りつけ、そして抵抗に合うまえに祐仁の太腿に跨がった。
「昨日のおかえしです」
 そう云って、手を被せるようにして祐仁のオスをくるむ。そこは眠った間の生理現象の余韻ですでに硬くなっていたが、すっと先端へと撫でたとたん、より確実に質量を増した。伴って祐仁はかすかに呻き声を漏らす。
 あのとき見ていたかぎり、祐仁の感度の良さは颯天に引けを取らず、それはきっといまも変わらない。根元から先端へと何度も撫であげ、そのたびに祐仁は万歳の恰好のまま拳を握り、腰を突きあげるようなしぐさをする。程なく、祐仁は先端から蜜をこぼし始めた。颯天は先端をくるむようにしながら蜜を手になすりつける。上下させる手の滑りがよくなって、動きが自ずと早くなった。
 颯天の体重で思うように身動きの取れない祐仁は躰をうねらせる。ネクタイを結びつけたブラケットが揺れ、次いで照明を揺らした。
「くっ……颯天っ」
「たまには一方的にやられるのもいいでしょう?」
 喘ぐ祐仁に負けず劣らず、颯天の声も熱っぽい。祐仁の反応を見て昂っているのは確かだ。おそらくはあのときもそうだった。
 颯天は祐仁の向う脛(ずね)の辺りまで躰をずらすと上半身をかがめていき、同時にオスから放した両の手のひらを胸のほうへと這わせた。そうしながら颯天は祐仁のオスへと顔を寄せていった。
 そこは支えるまでもなく自分で起ちあがり、熟れた桃のように赤っぽくはちきれんばかりだ。颯天がじっと見つめているだけで祐仁は快楽を得ている。その証拠に、孔口からぷくっぷくっと蜜がゆっくりと盛りあがっては平たく辺りに馴染み、オスに纏わりついて落ちていく。その根元はしとどに濡れていた。
「やめろっ」
 颯天が口を開いたとたん、その様子を瞼を伏せて見ていた祐仁はさえぎるべく叫んだ。
 颯天はふっと息を吹きかける。濡れたぶんだけ、その小さな風でさえ祐仁のオスを刺激してふるわせた。
「祐仁、すごい敏感ですね」
 オスの向こうで、祐仁が目を光らせる。
「颯天、憶えてろよ」
「憶えてますよ。祐仁がひどく快楽に弱いことは。祐仁を堕落させたいんです、おれの手で」
 祐仁を上目づかいで見据えたまま、颯天は口を開く。尻をのせた祐仁の脚がこわばったのが感じとられた。そのさきの快楽を耐えようとしたのだろうが、颯天はオスを咥えると見せかけて、その実、口をすぼめて息を吹きかけた。同時に伸ばしていた手が、祐仁の乳首に到達し、両側をそれぞれに捉えた。
 颯天は指先で乳首を摘まみあげるようにしながら引っ張りあげた。すると、祐仁の蜜でぬめっていた指先の間からするっと乳首が抜けていく。
 くっ。
 祐仁はびくんと胸を浮かせて呻く。
 息を吹きかければ、オスはおもしろいようにぴくぴくとうごめく。
 祐仁が果てるまで間もない。そう考えるだけで颯天はますます昂る。このまま時間を長引かせることなくすぐさま逝かせられたら、祐仁は観念するだろうか。いや、観念するかどうかなど関係なく、思いきり祐仁を淫らにしたい。そんな欲求に襲われた。
 颯天は衝動に任せ、指先で乳首を転がした。すぐさま粒は硬く感触を確かにして、指の腹を押し返してくる。それに逆らうように、颯天は押し潰しながらぐりぐりと捏ねまわした。中心では、舌を出して根元に触れ、そのまま裏筋をすーっとのぼっていく。
 う、っくうっ。
 歯を喰いしばったにもかかわらず、祐仁の口の端からは呻き声が漏れた。
 オスのくびれに届く寸前、舌を放すと、祐仁が漏らした喘ぎ声は心なしか不満そうにも聞こえる。オスもまたぴくりとして、もっとと催促するようだ。もう一度同じようにすれば、オスも不満を丸出しにしてゆらゆらとうごめく。三度め、繰り返したあと、颯天は口を大きく開き、舌で摩撫するかわりに先端へと熱い息をゆっくりと吐きかけた。
「ぐっ……やめ、ろっ」
 祐仁の躰は緊張にこわばり、そうして、口をすぼめて颯天は強く、孔口を目がけて一気に吐息を注ぐ。そうしながら乳首を押し潰して転がした。
 くっ、う、わぁあっ。
 祐仁は息が詰まったように呻き、叫ぶと腰をひと際高く突きあげた。孔口から白濁した蜜が迸り、祐仁自身の下腹部を濡らす。快楽に腰をふるわせながら喉をのけ反らせ、祐仁は何度も蜜を吐きだした。やがて放出を終わらせると、突きあげていた腰をがくんと落とし、ベッドを揺らした。
 荒く息をこぼしながら、脱力してベッドに躰を静める祐仁を見下ろしながら、颯天はさらなる欲求を抱いた。
 精を放ったあとも祐仁のオスはくたびれきったこともなく、触れればまたすぐに復活しそうに見えた。どちらが多く逝けるか競争させられたときのことを思えば、祐仁を快楽の限界まで導くには程遠い。
 颯天はオスの先端部分をつかみ、孔口を親指の腹で撫でた。とたん、祐仁はびくっと躰を波打たせて唸った。祐仁は颯天の目を捉え、けれど、睨みつけるほどの気力は見えない。簡単に果ててしまったことでプライドを手放したのかもしれない。揉みこんでいるうちに祐仁の口から熱っぽい吐息があがり始め、孔口からはまた蜜が出てきた。
 颯天はオスを放すと、祐仁の腹部に散った蜜を右の指先に塗す。
「颯天、ネクタイを、ほどけ」
 命令するも喘ぎながらで強制力に欠ける。ひょっとしたら颯天の意図を読みとっているのだろう。祐仁はどこか注意深くして、息を詰めているようでもあった。
「嫌だ」
 颯天は身を乗りだしながら左手をベッドに着き、祐仁を真上から見下ろした。のぼせたようでありながらその双眸の奥には意思がひそんでいる。なんだろう。
「何をするつもりだ」
「おれはいつも抱かれるだけだ。たまには抱かせてもらう」
 さっきまで敬語を使っていたのは、部下にやられるという屈辱を与えて祐仁の颯天に対するプライドを無効にするため、それをやめたのは対等になるためだ。従順であることに変わりはないが、命令に従っているのではなく、あくまで颯天の自由意志のもと祐仁に尽くすことを示す。
 清道と緋咲の会話を――永礼が云う痴話げんかを聞きながら、颯天は祐仁もまた孤独だということに思い至った。再会してすぐ、『まだガキのままか』と云った祐仁の冷ややかさがそれを裏付けている。春馬に嵌められて、それからどんな心境のもとフィクサーまで伸しあがったのか、その過程で祐仁がますます孤高となったことは確かだ。
「どういうつもりだ」
 颯天はゆっくりと顔をおろして、ふたりの距離を近づけた。間近で見上げてくる、きっとした眼差しもやはり迫力に欠ける。
「祐仁を堕落させる。おれは命令に従うだけのラブドールじゃない。おれの意思はおれのものだ。祐仁はそう知るべきだ」
 囁くように云い、颯天は祐仁のくちびるをふさぐ。
 くちびるの間に舌を割りこませても、咬み合わせた歯が邪魔をする。祐仁の意地か羞恥心か。颯天はくちびるをふさいだまま、祐仁の脚の間に右膝を割りいれた。次いで左膝もそうすると、祐仁の脚を左右に広げていく。再度、右の指先に白濁した粘液を塗し、颯天は中指を臀部の谷間に忍ばせた。
 んんっ。
 後孔を探り当て、入り口のしわに触れたとたん、祐仁はびくっとしてこもった喘ぎ声を吐き、颯天の思惑どおり、伴って口も開いた。すかさず颯天は舌を差し入れた。
 勢い余って奥深くに届いたのかもしれない。祐仁は躰をうねらせながら嘔吐くように呻き、反動で颯天の舌を呑みこむように祐仁の舌がうごめいた。舌だけでなく躰が吸いこまれそうな感覚に陶酔し、今度は颯天が呻いた。痙攣する舌が祐仁の感覚を刺激してまた嘔吐く。
 最初は苦しい嘔吐感も次第に快感に変わることを、颯天は身をもって知っている。おそらくは祐仁もそうだ。拒むなら、颯天の舌を咬み切ればいい。けれど、そうはせず、祐仁の口は呆けたように緩く開いていく。
 キスだけでふたりとも昇りつめるかもしれない。それぞれに口の端から唾液をこぼしながら、甘美なキスを貪った。襲っているのは颯天のほうなのにやめることはかなわず、快楽に引きこまれていく。濡れたキス音のなか祐仁が激しく喘ぎ、颯天の舌に強く絡みついた。後孔に当てた指先に力が入って、祐仁の体内に潜りこむ。直後、祐仁は腰を浮かせてぶるっとふるわせると、オスの口から蜜を噴いた。祐仁は完全に脱力して、されるがまま颯天の口の中で荒っぽく呼吸を繰り返す。颯天はゆっくりと顔を上げた。
「すごいな、祐仁。キスで逝った」
「一端の、口を利く」
 祐仁は荒い呼吸の合間に痞えながら責めるように云う。
「まえに祐仁は云ったよな、育てる側になるために愛人やってたって。おれも男娼として何が快感か、どうすれば気持ちいいか、嫌というほど知ってる。だから祐仁も覚悟したほうがいい」
 祐仁は鼻先で笑った。ばかにするのではなく、二度も颯天から逝かされたくせに、奪ったと思った自尊心を乱すことなく、できるのかと挑発めいている。
 望むところだ。そんな意地を覚えながら颯天は躰を後ろにずらして、祐仁の脚をつかみ膝を立てさせた。少し感じた抵抗は羞恥心からくるものか、颯天は無遠慮に後孔に指の腹を当てる。ぴくりとした生理的反応を快楽に変えるべく、指先をうごめかした。小さくまわすように捏ねながら、入り口を揉みこんでいく。
 ふ、くっ。
 祐仁は喘ぎ声になる寸前で堪えたのだろうが、防ぎきれず、かえって艶めかしく響かせる。それだけ感じているということで、颯天は、つぷりと指先を中に潜らせた。すると、祐仁の腰がうねり、颯天の指が呑みこまれていく。
 それは無意識のしぐさなのか、腸壁の誘導に逆らわず颯天は指を奥へと進めた。体内は思っていたよりも熱がこもり、指先に絡んでくる。自分の快楽点を思いだしながら、ゆっくりと弄っていると、ふいに祐仁が腰を跳ねた。伴ってオスもぴくりと反応した。少し指の位置をずらし、またそこに戻すと、同じ反応が現れる。
「ここだ」
 颯天は独り言のようにつぶやき、快楽点をゆっくりと摩撫する。
 くぅ――っ。
 祐仁はつらそうに呻き、腰を浮かせた。オスは芯を確かにしておもしろいようにだんだんと起ちあがっていく。
 いや、おもしろいというよりも、官能をくすぐられ煽られる。颯天はオスの根もとをぎゅっとつかみ、顔を寄せていった。そうしながら上目遣いで祐仁の顔を見やると目が合う。
 ふっ。
 颯天が口を開いたとたん、祐仁がその刺激を予測して喘いだ。今度は焦らすことなく、颯天は突端を頬張った。口の中で祐仁のオスは一気に膨張して喉の奥を突いてくる。伴って、颯天はそこに吸いついた。自ずと舌がオスに巻きつき、祐仁は嬌声を放った。
 指先をうごめかしつつ、祐仁のオスを軽く吸いあげるようにしながら舌で孔口をまさぐる。
 うぐっ。
 祐仁は痙攣するように腰を揺らし、孔口からは塩辛いような蜜液が滲みでてくる。オスの根もとをつかんだまま、親指で裏筋をつーっと撫でれば、祐仁は腰をせりあげる。逃れようとしているのか、颯天は逆手にとってオスを呑みこみ激しく吸引した。
 どくんとオスが脈を打つ。
 ぐ、ああっ。
 ぶるぶると下半身がふるえ、また祐仁が逝くまでにそう時間はかからないのかもしれない。けれど、颯天は今度は簡単にそうさせないつもりだった。
 颯天はオスを奥深くまで呑みこみ、そうして吸引するように顔を上げると、いったん口から出して孔口を抉るように舌で弄る。それを繰り返して何度めか、孔口に舌をねじ込むようにすると、ぷしゅっと液体がわずかに飛び散った。粘液ではなく、さらっとしていて、それはあの日のように潮を噴く前兆に違いない。
 颯天はくすぐるように孔口で舌をうごめかす。祐仁は躰をよじりながら腰を揺さぶってくる。
「やめて、くれ……」
 朦朧とした声が颯天に希う。
「だめだ。祐仁をめちゃくちゃにする。あのときのように」
 オスを咥えると、ますます硬く太くなっている。目覚めた加虐性は高みに達し、颯天はオスの根もとをしっかりとつかんだ。吸着しながら舌を激しく動かし、指は腸道を広げるようにほぐしながら弱点を責め立てる。
 どれくらいそうしていたのか、吸着するたびにジュルジュルッと淫らな音が立つほど蜜は止めどなく溢れ続ける。舐めきれなかった蜜は孔口へと流れて、そこもまた水浸しの音を嫌らしく繰りだしている。祐仁のオスは破裂しそうなほど太く充血していった。祐仁の吐精感が極まっているのは明らかだ。根もとの締めつけによって不可能なまま、快感だけが膨大になっていく。
「ぐっ、ふっ……颯天、無理だっ」
 祐仁は弱音を吐く。目を上向けて見上げても、いまや颯天を見返す余裕すらもないようで、のぼせた表情のもと、喘いで閉じることのままならない口の端からは唾液が伝っていた。
「逝きたい?」
 颯天は顔を上げ、腸壁を摩撫しながら訊ねた。
「やめ、てく……れ……」
「おれがそう云ってもやめてくれなかった。これはお返しだって云ったはずだ」
「放せ……」
 力なくも祐仁は命じた。そうすれば颯天が云うことを聞くと思っているのか。
「あいにくと、いまはおれに主導権があるんだ。けど、放してみようかな。そうしたら祐仁はどうなる?」
 その問いに応えたのは祐仁のオスだった。怯えたようにひくつく。
 颯天は後孔から指を抜き、孔口にその指の先を当てた。ぐりぐりと弄ると精悍な躰が頼りなく見えるほど全身で痙攣しだす。
「う、あっ、……や、め、ろ……っ」
「やめない。思いっきり逝くのがみたいんだ。祐仁、放すよ」
 あえて教えると、祐仁は息を呑んだ。自分の躰のことだ、祐仁はどうなるかわかっていて、半分は怖れている。あとの半分は――。
 突端に舌を這わせ、孔口に爪を立てるようにしながら抉るように揉みこんだ。
 うっああ――っ。
 祐仁が身悶えするさなか、颯天は締めつけていた手を一気に緩めた。祐仁がかっと目を見開く。
「ぐぅ、わぁあああ――っ」
 ぷしゅと孔口に当てた指のすき間から蜜を噴き、颯天は指先をそこで大きくうごめかした。出口が開放された瞬間、淫水が激しく噴きだした。そのなかに混じって白濁した蜜が迸る。祐仁はがくんがくんと何度も腰を突きあげた。颯天はその間も嬲り続け、噴出は一向におさまらない。颯天の手がべとべとに濡れそぼち、祐仁自らをも濡らし、そしてシーツも淫水が浮くほど濡れていく。
「だ、めだ……」
 祐仁の目は焦点が合っていない。快楽の影響か、くちびるすらもふるわせ、その面持ちはあのときよりも、ずっと淫蕩に見えた。
 颯天はオスの根もとをつかみ、搾るようにしてゆっくりと突端へ滑らせた。
 あ、あ、あ、……くぅっ――。
 乱れた嬌声は、ぴゅっと最後の蜜を吐きだしたのち、ぷっつりと途絶えた。どさりと腰がベッドに落ちる。声は尽きても躰はうねり、跳ねている。
 颯天は伸しかかるように前にのめって祐仁を真上から見下ろした。
「祐仁、どうだ」
 荒っぽい息が颯天のくちびるまで届いて、ふたりの呼吸が絡み、空気を熱く湿らせる。
「男娼の、くせに、やって、くれる」
 だらしない姿を見せても祐仁はやはり祐仁だ。颯天は可笑しそうに笑う。
「まだ終わってない。おれは祐仁に処女を捧げた。もう一つ、童貞も捧げる」
「颯天、もう……」
「無理じゃない。おれと一緒で底なしだって知ってる」
 颯天は躰を起こすと、祐仁のぐったりした脚をつかんでさらに開いた。自分のモノをつかんで祐仁の後孔に宛がう。祐仁を責めている間、そのあられもない乱れた姿を見て颯天も快楽を感じていた。支える必要もないほど硬く太くなり、先端から蜜を溢れさせてしとどに濡れている。わざわざローションをつける必要もなく、自分の蜜をオスに塗し、そうして腰を押しつけた。
 祐仁がメス側にも立てることはわかっている。それでもなお――強引に襲っても痛めつけるつもりはなく――颯天は慎重にしたつもりが窄んだ入り口にオスを充てがったとたん、抵抗なく、それどころか指で弄ったときと同じくそこは自ら迎え入れるように開いた。
 わずかに粘着音を立てながら先端が潜りこみ、さらに腰を進めると、ぬぷりと嫌らしいほど腸壁が絡みついてきて、くびれた突端を咥えこんだ。その間、祐仁は呻き声を発していたが、それがつらさからくるものではなく、官能の響きであることはわかりきっている。
 颯天はこれまで口の奉仕を何度も受けてきた。はじめて味わう人の体内もまた熱を帯びて、颯天のオスを滾らせる。何よりも、みっちりと纏わりつく腸壁の襞と、そして入り口の締めつけは口の奉仕では得られなかった快感だ。
 颯天が逝くのも時間の問題で、訳ない。祐仁を満足させられるまでに耐えられるか。それとも一度放って、二度め果てるまでじっくりと味わうか。
 颯天は自分に選択を迫る。時間はゆっくりある。そう思ったところで、いま何時だ、と時間をまったく無視していたことに気づく。ベッドヘッドの棚に置かれたデジタル時計が目につき、それは八時をとうにすぎていた。
 祐仁は一般的な休日平日は関係なく動く。通常であれば、そろそろ出かける頃だろうが、颯天に襲われて以降、拒絶をするためにいちばん有効なはずの“仕事がある”という理由はひと言も発せられない。
 それならやはり時間はある。もしも有働が呼びにくるとしても、それはそれで祐仁を慌てさせるにはいいかもしれない。もっとも、祐仁が慌てるとも思えないが。
 だから、せめて祐仁を淫らに堕落させる。快楽は嘘ではないはずだ。快感を得られなければ果てに逝くことは不可能、それがメスになろうと男のサガだ。
 颯天は埋もれさせた突端を引き抜いた。すぐに、後孔に押し当ててくぷっと咥えさせる。そしてまた引き抜く。それを繰り返した。
 オスの先は繊細な場所であり、後孔の入り口もまたそうだ。排出の快感を知ったうえで、集中して刺激されればあっという間に躰がふるえるような感覚に侵される。祐仁はいまそんな反応を見せている。眉間にしわを寄せているのは、下くちびるを咬み嬌声を堪えているせいで、裏を返せばそれだけ感じているのだ。祐仁のオスがまた起ちあがりかけていることも快楽を享受している証しだ。
 一方で、颯天もまた躰をふるふると痙攣させていた。自分で自分を追いつめている。“童貞”だった颯天にとっては、先端だけの交わりで充分すぎるほどの快感が得られている。そこは腫れあがっているかのように熱を帯びて、血流が感じとれるほど敏感になった。
 ふっ。
 結んだくちびるのすき間から喘ぎ声が漏れる。突きだした腰が自ずとぶるっとふるえ、颯天の限界は間近に迫っている。
「祐仁、おれのばんだっ」
 颯天は祐仁の脇腹をつかみ、腰をぐっと突きだした。祐仁の腸道を奥へ奥へと進む。抉じ開けている感触は、そのまま腸壁が颯天のオスを摩撫するような刺激を繰りだす。颯天はもうたまらなかった。祐仁は背中をのけ反らせて逃れようとしたのかもしれないが、逆に颯天を迎え入れるしぐさになった。ずんと中心を密着させた直後、祐仁が身ぶるいするのと同時に内部が収縮して颯天のオスを締めつけた。
 放出の感覚が一気に先端へと駆けのぼる。颯天は躰を密着させたまま腰を痙攣するようにふるわせた。祐仁の体内に颯天のしるしを放った瞬間、颯天は思ってもいなかった満足感に溺れ、心身ともに打ちふるえた。
 もう一度。そんな欲求が煽られる。颯天は荒げた呼吸ももとに戻らないうちに、腰を前後し始めた。
「颯天っ」
「祐仁、今度は一緒に逝きたい。そうしないと終わらない」
 切望と、そして、脅迫を吐くと、祐仁は唸り声を放つ。悔しさと観念した気持ちが交差している。いや、それだけではきっとない。最も祐仁が求めているものが何か、颯天の言葉を受けて様変わりしていくオスを見ていればわかる。
 颯天のオスもまた瞬く間に太く硬さを取り戻し、深く密着したまま腰を小刻みに揺さぶれば、祐仁は胸を突きだすようにしながら喉をのけ反らせて喘いだ。振動が刺激になったようで、祐仁のオスはますます欲望をあらわにした。
 颯天は大きく腰を引く。そして奥を目指せば、颯天が放った蜜のせいでもあるのか、淫らな粘着音が響いた。颯天はわざとその音を立てるべく往復し、そのたびに祐仁はだんだんと吐息から喘ぎ声、そして嬌声へと変化させていった。
 颯天はさらに腰を奥に突きつける。そのとたん、ずぽっとそこに嵌まったような感触に陥った。
 ぐ、あああああっ。
 これ以上になく熱く濡れたような感覚に喘いだが、祐仁がそれ以上の嬌声を跳ねあげ、颯天の声は宙に紛れた。
 ここが腸道のくびれ――最奥の快楽点だ。颯天も祐仁に、そして永礼や清道にやられたことがある。その感覚は植えつけられていて、祐仁を侵しながら颯天の体内も疼いてしまう。
 腰を引けば、放さないといったように颯天に喰いついてくる。その感触に身ぶるいしながら思いきり腰を引いた。そこを抜ける瞬間、祐仁もまたがくがくと腰をふるわせて臀部を浮かせた。勢い余ってずるりと腰が引け、颯天のオスが抜けだした。息つく間もなくそれをまた後孔に充てがって押しつける。
 祐仁は躰を捩り、颯天オスを締めつける。吸盤がいくつも纏わりついて、躰を沈めながら激しい摩撫を受けているような陶酔を覚えた。颯天は低く唸りながら、最奥へと進み、またすっぽりと嵌まる。祐仁が激しく息苦しいように喘いだ。快楽はその中心にも伝染し、触ってもいないのにまた充血して硬く起ちあがった。
 颯天はまた腰を引く。
 ぐ、あっ。
 くぅっ。
 祐仁の咆哮を追うように颯天は呻いた。
 今度は慎重に抜き、また嵌める。短いストロークを繰り返し、最奥のキスはぬぷっぬぷっとした音から、ずぽっずぽっと嫌らしいまでのひどい音に変わっていく。腸壁が分泌する粘液か、颯天の放った白濁液のせいか、それとも颯天が新たに蜜液をこぼしているせいか。
 祐仁のオスもまた止めどなく涎を垂らしている。
「も……無理、だっ……や、め、ろっ」
 祐仁は息も絶え絶えに訴える。その口からも涎がこぼれている。理性を奪われ快楽に溺れている証しだ。
 どれくらい往復しただろう、祐仁はコントロールのできない痙攣に襲われ、颯天もまた身ぶるいが止められない。腸道のくびれは突くほどにやわらかくなって、自然と颯天の律動も速くなっていく。ぞわぞわと粟立つような感覚が躰の中心から全身へと及んでいった。
 腰もとには祐仁のオスが赤く太く脈打っている。限界なのは明らかだ。気絶するほど淫れ快楽に堕落する祐仁が見たい。颯天の加虐性が煽られ、いまにも果てそうな快感をその欲求でしのぎながら颯天は最奥に嵌まり、腰を小刻みに揺らした。
「ぐうっ……ぅわああっ……はや、てっ、逝、けっ」
 制御できないままがくがくと腰を振りながらも祐仁は命令をする。けれど、颯天を逝かせようとするのは、一緒に逝かなければ終わらないことをわかっているからであり、つまり祐仁が真に限界に達していることの証明でもあった。
 颯天にしろ限界だった。耐えられていることのほうが不思議で、すでに少しずつ漏らしているのではないかとも感じる。
「一緒、だぞ……祐仁」
 息を切らしながら祐仁に呼びかけ、颯天は躰を前に倒していく。祐仁の躰の脇に手をつけ、ほんの傍に顔を近づけるとともに、下腹部に祐仁のオスが触れて擦れる。それも快感になり、たまらず祐仁は嬌声を跳ねあげた。その目からはいつもの凛とした意思が欠け、のぼせたように颯天を見つめる。
 颯天はその淫らさに誘惑され、祐仁の口の端に舌をつけて涎を拭う。もっと深く。颯天は片方ずつ祐仁の膝を腕に取った。そうするだけでも祐仁は全身をふるわせている。再び前かがみになって腰をぐいと突きあげた刹那。
 下腹部では祐仁のオスが擦れ、体内では颯天のオスがずっぽりと快楽点に嵌まる。一瞬後、ふたり同時に淫らに咆哮していた。下腹部が熱く濡れ、そして体内が熱く溢れる。
 荒い呼吸が混じり合い、合わせた瞳はどちらが潤んでいるのか、あるいはどちらも潤んでいて、焦点がうまく合わせられない。跳ねるようだったふるえがおさまってくると、颯天は力尽き、どさりと祐仁の躰の上に落ちた。合わせた鼓動は、どちらのものかわからないくらいせわしく、そして心地よさにうっとりとして颯天は身をゆだねた。
 呼吸に合わせてだんだんと躰の浮き沈みが緩くなっていくなか、微睡んで瞼を落としたとき――
「やってくれたな」
 と、いきなり躰が括られた。
 颯天の背中を括ったのは拘束していたはずの祐仁の腕であり、次には躰をひっくり返され、ふたりの立場は逆転した。

NEXTBACKDOOR

Material by 世界樹-yggdrasill-