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DOOR|淫堕するフィクサー
第3章 Link up〜合流〜
1.
すっかり日が暮れ、窓辺に立って見た眼下には河口のように照明の波が広がっている。
よほど有能で天が御方(みかた)していないかぎり、二十歳代では手に入れることの難しい景色だ。まもなく二十五歳になろうかという高井戸颯天はそれを手に入れていた。
天に見放されていないか、有能かどうか、まだその結論は出ていない――はずだ。
『颯天、元気でやってるんでしょうね。まったく帰らないで。本当に東京にいるの?』
耳に当てたスマホから聞こえる母の声は、五年前とさして変わらない。もっとも母からは一週間前に電話があったばかりで、それ以前にもしょっちゅう連絡は取り合っているから、変化を感じとる暇もない。『東京にいるの?』という母の問いかけは口癖になりつつあり、颯天は独り苦笑いを浮かべた。
「いるさ。ここに来たことあるだろう。近々帰るよ。いろいろ任されてるし、忙しいんだ」
『そんな贅沢なところに住まわせてもらえるくらいだから、社長さんもよっぽどあなたのこと買ってるんだろうけど。過労死なんてことにならないでちょうだい。連絡もなかなか取れないんだから』
「だからこうやって折り返し電話してる」
『広希も就職してから忙しいって、バイトやってた大学時代よりますます帰るのが遅くなったの。大丈夫かしら』
「あいつのとこはフレックスタイムだって聞いた。広希はもともと夜型人間だし、朝ゆっくりしてれば問題ない」
受話器からその吐息を感じそうなくらい、母はこれ見よがしに大きくため息をついた。
すると、合わせたように反対の耳に吐息がかかる。ぞわぞわと背中から粟立ってしまう。いつまでたっても慣れることはない。それどころかますます敏感になっている気がして、颯天は喘ぎそうになったのを瀬戸際で堪えた。
窓に映る自分の向こうに人影を捉え、そうして目が合う。にやりと薄ら笑いを浮かべ、背後から颯天を抱くようにしながら、節くれ立った手をカーゴパンツのベルトにかけた。
『仕事しないで家にこもってるよりはマシなんだろうけど、息子二人ともワーカホリックだなんてどうかしてるわ』
「それってぜいたくな悩みだろ? じゃあ切るよ。これから社長と食事の約束してるんだ」
『もう! 近いうちに顔出さないと、あんたの社長に直談判するわよ。いいわね?』
「ああ。おれからも云っとく」
――社長じゃなく組長に。と内心で付け足した。
颯天のふざけた返事に呆れて笑いながら、母は、またね、と電話を切った。
ん、あ……。
ボクサーパンツをずらすようにしながら颯天のオスがつかみだされた。その瞬間の声は母の耳に届いていなかっただろうか。そんな不安を覚えながら、颯天は顔だけ後ろを振り向いた。
「なが……んんっ」
呼びかけているさなか、颯天は口をふさがれた。躰を抱きとられ、首をひねったままくちびるを押しつけられ、逃れることはできない。
無意識で止めていた息が出口を探して颯天自身の口を開かせる。とたん、分厚い舌が口腔へと侵略してきた。熱く煙草臭く、なお且つ貪るような攻撃性にもすっかり慣れたが、その慣れはスイッチとなって颯天を即座に悩殺する。
颯天の主はキスをしながら器用にシャツのボタンをはだけ、胸に手を当てて撫でまわした。四本の指先は八の字を描きながら左右をゆっくりと巡る。けっして弱点には触れない。それが逆に弱点を苛んでいる。
早くしてくれ。胸を這う手の甲に手を重ね、颯天は無言で切望する。すると、男娼ごときが、と懲(こ)らしめるべく、咬みつくようなキスに変わった。差しだすように絡ませた颯天の舌が歯噛みされる。はじめてそうされたときは本当に咬みちぎる気ではないかと怖れた。けれど、ぎりぎりで痛みは回避される。そのぎりぎりにあるのは快楽にほかならず、呑みこまれるかと思うほど舌を吸引されて、颯天の脳内はエンドルフィンに痺れてしまう。そうして、左胸の尖りが捕らえられて転がされる。
ずんとした甘い痺れが全神経を侵し、颯天はくぐもった嬌声を放った。躰ががくがくとふるえて足もとからくずおれそうになる。同時に右胸が摘ままれて摩撫されると、下腹部に一気に熱が溜まった。
だめだっ。
内心で叫び、それでも制御できずに逝きそうになった寸前、くちびるも手も颯天から離れていった。下腹部が疼いたまま取り残され、颯天はのけ反っていた顔を起こして閉じていた目を開ける。窓に映った自分に否応なく見返された。シャツを乱して胸を晒し、そしてカーゴパンツをはだけてボクサーパンツから飛びだした颯天のものは隠しようもなくオス化していた。
「永礼組長、今日は……」
窓に映る目を見て話しかけると、しかめた顔がくっきりと浮かびあがった。
「ふたりきりだ」
永礼直樹(ながれなおき)は、耳もとに息を吹きかけるようにしながら低い声で熱く語りかける。颯天がそのしぐさに弱いとわかっていて永礼がそうするように、ほのめかされただけで永礼が何を要求しているのか颯天が察するにはたやすい。それほど五年半という月日は長かった。
「直樹さん、清道理事長が見えます」
永礼の要求に添い、ファーストネームで呼べば満足そうな笑みが渋い顔をやわらかく見せる。永礼が率いるやくざ組織、凛堂会の組員にはあまり見せることのない、組長らしからぬ穏やかさだ。
「そのまえに抱いてはいけないというルールでもあったか」
子供っぽ云い分だが永礼は悪びれることもなく、そして颯天の答えを聞くまでもなく、手を颯天のオスに添わせた。
くっ。
そこは颯天の意思に関係なく、びくんと跳ねるような反応を見せた。自ずと血が滾っていく。
「颯天、おまえはいつも期待を裏切らないな」
「裏切ってほしいんですか」
訊ねると、くつくつと興じた笑い声が颯天の肩に降りかかる。
「そうしてくれたら、簡単におまえを手放せるんだがな」
「手放す?」
「そうだ」
「……殺す、って意味ですか」
明確に颯天への要求であればさっきのように読みとれるが、永礼の中にある本意は読みとれたためしがない。もっとも、心情が筒抜けであれば、四十という若さで関東随一と悪名の高い凛堂会のトップに立ち、十年もの間、安定して君臨していられるはずがない。
その身には常にほかの追随を許さないような威厳と獰猛(どうもう)さを纏い、永礼は非情であることをためらわない。
祐仁の意思によって凛堂会に送りやられたとき、はじめて永礼を目にして、祐仁とは二度と会うことはかなわない、とそう絶望した。それくらい冷酷に見えたのだ。
永礼の前に立たされ、冷ややかな視線が躰をひと舐めし、颯天は躰が凍りつくような感触を覚えていた。出ていけ、という、颯天が来てからの永礼の第一声は、取るに足りないと自分に向けられたものかと思ったが、颯天が身動きするまえに控えていた男たちがそそくさと散っていった。
凛堂会本部の組長室は、家具も床の敷物も、すべての調度品が重厚な雰囲気で設(しつら)えてあった。そこに颯天は独り取り残され、重みに潰れそうになりながら立ち尽くす。
『脱げ』
祐仁に抱かれて、男を好む男が普通にいるのだと身に沁みてわかっていながら、なんのために脱がなければならないのか、颯天は呆然とした。
『Uから手ほどきは受けたんだろう。脱げないのか』
その言葉で、颯天は祐仁が吐いた『約束』という意味を理解した。颯天ははじめから、もしくははじめは、永礼の男娼となるために仕込まれたのだ。
従順な男娼として開花するよう、祐仁は颯天に特別の好意を持っているふりをしていたのかもしれない。祐仁は、抵抗することを楽しんでいたが、永礼はとにかく従順さを求める。最初からそんなことに気づけたわけではないが、いまになると断言できる。煽るのではなく、颯天から『もっと』という言葉を聞きたがり、颯天が快楽に貪欲であるほど永礼は喜ぶ。永礼にとって颯天は、さながら快楽を求めて懐(なつ)くペットだ。
裸になった颯天をまたひとしきり眺め入った永礼は、光沢のある紫檀(したん)のデスクに手をつき、革張りの椅子からおもむろに立ちあがった。広々としたデスクをまわり、颯天の背後にきて、手をつけ、と永礼はデスクを指差す。颯天が従うと、いまのように後ろから責めてきた。だいたいにおいて、永礼は背後から抱くことを好む。
どうにでもなれ。祐仁から手放されて投げ遣(や)りになった気持ちと裏腹に、祐仁しか知らない颯天は永礼を怖れていた。
永礼はその冷ややかな視線と同じように、細身だからこそなのか、目だったり頬骨だったり、どこの輪郭(りんかく)を取っても鋭さがある。気に入られなければ、颯天に未来はないように思えた。
いや、そもそも颯天の未来は閉ざされたようなものだ。慕った祐仁に見棄てられ、なんの望みもない。
絶望と恐怖のなか、触れてきた永礼の手は意外にもやさしかった。そのギャップが颯天を従順にさせた。投げ遣りだった気持ちが加勢をしたのか、颯天は呆気ないほど早く達し、紫檀のデスクを汚してしまう。永礼は怒ることはなく、それでいい、とむしろ満足そうだった。
以来、颯天は飽きられることもなく、どうにか生き残ってきた。けれど、ここに来て永礼は颯天を手放すために裏切れと云わんばかりだ。
颯天が待った答えは一向に返らず、永礼は鼻先で薄く笑った。
「生意気だ。それを可愛いと思わせられるからどうしようもない。逝け」
永礼は颯天のものを包みこみ、そうした手を上下させて扱き始めた。
あっ……ぅ、くっ……ああっ、ああっ……。
颯天は堪えることなく、感じたまま嬌声を放つ。窓ガラスに映る自分を見つめ、そのあまりの卑猥さに腰が砕けそうになる。ぬちゃりと音が聞こえるようになったのは、それだけ颯天が永礼に応えているという証拠であり――
違うんだ。
と、だれに聞こえるわけでもないのに内心で弁解をした。
オスの突端がさすられると、内心の密かな抵抗も虚しく、背中を永礼に預けて、颯天はがくがくと快感に腰をふるわせる。
「ああっ。も、……逝、くっ!」
そう訴えると、永礼はわざとのように出口を指の腹でふさぎ、放出できない苦しさのなかで颯天の放出欲求を扇動する。そうして、永礼が指を放したとたん、颯天は淫蜜を迸らせた。窓ガラスに快楽の残骸(ざんがい)が散らばっていく。
目を閉じて陶酔に浸りながら、いつものように颯天の背後にいる永礼に祐仁の姿を重ね、颯天は永礼を裏切っていた。
永礼は突き放すように颯天の肩をつかんで押しやる。脚は頼りなくふらつき、颯天は窓に手をついて倒れるのを防いだ。
まもなく客が――今日は清道が来るまえに、後始末をしなければならない。
快楽のあと、自分が汚した後始末を自分でやるとき――それは永礼が相手のときに限るが、自慰行為以上に虚しくなる。それよりももっと、屈辱を覚えなくはない。
たまにしかないが、わざわざ颯天にそうさせて、永礼は眺めながら楽しんでいる嫌いもある。
客が来て、その客にやられるほうが仕事と割りきれて心理的にはらくだ。もっとも、そう云えるのは、颯天が選ばれた客しか相手にしていないからかもしれない。一度、下層の男娼たちのショーを見せられたことがある。その扱いは性具と変わらない。愛玩動物(ペット)として扱われる颯天は、それでも幸運なのだと思わされた。
それに、客が相手のときは、家事全般にわたって颯天の世話役を担(にな)う付き人が後始末をする。見方によっては、次への準備を整えているにすぎない。
颯天は息を乱したまま躰を起こしかけた。が、いきなりボクサーパンツごとカーゴパンツが引き下ろされる。
「あっ……?」
腰をつかまれて後ろに引かれ、すかされた颯天はずり落ちていく手を窓に突っ張って止めた。カーゴパンツは中途半端に膝もとで丸まり、このまま動けば転んでしまう。それが計算してのことなのは明らかだ。
「なお……」
客が来るというのにもしかして本当に抱くつもりか。永礼の名を呼びかけたそのとき。
「人にやられる姿を見るのもなかなか煽られるものだな」
永礼とは違う、第三者の声が低く室内に轟(とどろ)いた。
ハッとして起きあがろうとしたが、その直前、手のひらに背中を押さえつけられた。上体を起こすことはかなわず、颯天は顔だけを上向けて窓ガラス越しに室内を見渡した。
すると、リビングのソファからゆっくりと立ちあがる人物に気づいた。今日の客、清道竜雅(しんどうりゅうが)だった。
この部屋は、颯天の住まいでありながら男娼として充(あ)てがわれた仕事場だ。出入りなど厳重に管理されたタワーマンションの三十階にあるが、本来の持ち主は永礼であり、合い鍵も持っている。例えば、風呂に入ってリビングに戻れば永礼がいたなど、日常茶飯事といってもいい。
母からの電話の最中、永礼が入ってきてもなんら意外なことではなかった。けれど、同伴者がいるとは思ってもいない。
大抵は永礼が単独で行動することはなく、少なくとも用心棒は付き添っているが部屋のなかには入らず、廊下で待機している。客を伴って来ることもなくはないが、それはここに一緒に来た目的のため――密談をやるためだ。
こんな騙(だま)し討ちのようなことははじめてで、ましてや客のいる前で永礼に襲われたこともなかった。
世間体上、永礼と一緒にいるところを目撃されるわけにはいかない。颯天の客は、そういった立場の男たちだ。客同士も然り、それゆえにセックスを第三者に見られることもなかった。
現在、五十五歳という清道は、理事長の立場においては異例の抜擢(ばってき)といっていいほど若い頃に就任している。精悍(せいかん)な顔立ちには温和そうな気品が覗くも、いざ裸体になれば刃向かう気力を奪われるほど、意外にも企業家というよりは格闘家のようにがっしりとした体格だ。
清道とはじめて会ったのはおよそ一年前だ。それから少なくともひと月に一度は颯天を買う。
かつて、祐仁は清道の愛人だったというが、清道は祐仁についてひと言も触れない。颯天が祐仁によって清道大学に推薦合格したことを知っているのか否か、その後、祐仁によって男娼として調教されたことを知っているのか否か、颯天は何もわからない。
それは、人に漏らしてはいけない秘密だとほのめかされ、颯天は守秘義務を守れるかどうか試されているような気もしていた。実際に、五年前に口にしてしまったのは油断であり、それが祐仁との関係を引き裂くことになった。
そもそも、祐仁と清道の愛人関係はEタンクによって生じたものだと颯天は認識していたが、清道と、Eタンクの対極にあるという永礼が通じ合っているのがまったく理解できていない。だからこそ、颯天から清道に祐仁のことを訊ねるなど無鉄砲すぎる。
歩み寄ってきた清道を、颯天は窓ガラス越しに半ば呆然と見つめながら、その動揺を隠すべく笑みを浮かべた。
「清道理事長、見られてたんですか」
「ああ。嫉妬するね。きみが忠実なのは私にだけではなかったようだ」
清道は残念だと付け加えられそうな言葉とは裏腹に、表情も声音も満足そうだ。
今日はなんだろう。永礼といい清道といい、ちぐはぐな言葉を放って颯天を称した。
それぞれの発言に気を取られ、永礼の手が離れて自由になったことに気づかず、颯天は戸惑ったまま清道が真後ろに立つのを見守っていた。
その清道が横を向いたかと思うとまたすぐ正面に向き直って目を伏せた。
ひぁっ。
颯天は短く悲鳴を漏らして、同時に、躰をうねるようにびくっとさせた。
臀部に冷たい液体がぼとりと落ち、それが双丘の間に添って陰嚢(いんのう)へ、そして果てたばかりの杭に絡む。先端からひと筋の雫(しずく)が垂れたとき、双丘の割れ目に添わせていた指が後孔に滑ってきた。
あうっ。
孔(あな)をふさぐように指の腹を押しつけて、清道はゆるゆると揉みこんだ。やさしく触れ、気づいたときは引き返せず、力尽きるまでとことん快楽漬けにするのが清道のやり方だ。
粘液性のローションはぬちゃぬちゃとした音を立て、まるで颯天自らが発しているかのような羞恥心を覚える。快楽を享受しながら避けようとするのは本能か、颯天は爪先立ち、背中を丸めて清道の指から逃れようとした。だが、指はしつこく追ってくる。後孔に少しだけ指先が潜ると、拡張するようにぐるりと縁をまわった。孔がひくひくとうごめいているのが感じとれ、清道の指を咥えたがっているように見えるかもしれない。
いや、実際、颯天はもどかしくてたまらない。半ば怯えながら永礼に弄(もてあそ)ばれているうちに、いつの間にか颯天は自ら快楽を求める男娼に成り果てていた。
永礼や清道だけではなく、颯天はすべての買い主の癖を見いだして忠実になった。
そうやって生き延びて、颯天は祐仁と会える日を待っている。保証のない夢だ。手放され、もっといえば保身のために売られたというのに、時間がたつにつれ、祐仁の本意は違うところにあったのではないかと思うようになった。
祐仁といた時間よりも永礼といる時間のほうが圧倒的に長い。それでもその存在は霞(かす)まない。その存在を忘れられない。
欲しくてたまらないものができた。そう云った祐仁が、はっきりそれが颯天だと口にしなかったからこそ、本心だったのだと思う。颯天を懐柔するためだけなら良心などそもそも存在せず、嘘など造作ないはずだ。そうしたほうがずっと簡単にすむ。
おまえのことはおれが守る。そう云った祐仁は、永礼に引き渡すことで颯天を守ったのかもしれなかった。Eタンクから。
愚かな勘違いでもいい。祐仁が何を望んでいたか、それは丸裸の颯天だ。その颯天が変わるわけにはいかない。
祐仁。
内心でつぶやいたとたん、顔をうつむけていた颯天は顎をつかまれ上向けさせられた。窓ガラスを見ると、そうしているのは脇に立った永礼だった。ぐっと顔を近づけてきて、窓ガラスにふたりの顔が並んで映る。
「おまえはだれのために従順でいる?」
見透かしたような問いかけで、鋭い眼差しは嘘など許さないといわんばかりだが、こんな情事の合間にそぐわない。だからこそ、本音を漏らすかもしれないと思って、あえて訊ねているのか。
なんと応えればいい。
颯天は自分に問う。
「颯天」
催促する呼びかけと同時に永礼はもう一方の手で颯天のオスをすくうようにつかんだ。申し合わせたように清道の指が隘路へと侵入した。
あ、ああっ。
叫び声に紛れて粘液を硬い面に叩きつけたような音がした。颯天は軽く達したのかもしれない。清道の動きは単調であり、技巧がなさそうに見えて、その実、追いつめられていることが多い。昇りつめるのではなく、不意打ちで逝かされる。
清道は颯天の反応にも永礼が加わったことにもかまわず、指先をうごめかし、難なく体内の快楽点を探しだした。
「あ、そこはっ……う、ああっ……漏れるっ……く、ぁあっ」
「清道さんの前では我慢するのか」
永礼は、放つのを堪えて身悶える颯天に眺め入る。
清道の相手をするには我慢をしなければ身が持たない。永礼は、枯れたすえに吐精感だけが続く怖さを知らないのだ。
それを配慮することなく、永礼はオスの突端をゆるりと摩撫し始める。清道は、ともすれば痛みになる場所を刺激して快楽のみを引きだす。颯天の性感を熟知したふたりが同時に責めてくればひと溜まりもなかった。
あ、あっあっあっ……。
嬌声は止まらず、脳内はだらしなく快楽に痺れて颯天の腰がぶるぶるとふるえだす。
「颯天、おまえはだれのためにこうしているんだ?」
再び永礼が問う。最適な答えも永礼が望む答えも見つからないままで、快楽に侵された思考では探しだせるはずもない。
「あふっ、もぅ……あ、ぅあっ……」
「答えろ。だれのためだ」
懲らしめるように清道の指先が弱点をくすぐり、永礼の手が先端を包みこみ撫でまわす。吐精はもう止められなかった。
「颯天」
「う、ぁあああ――っ、だれのっ、あぅっ……ため、でも、ない――っんあああっ……おれのため、だっ、……く、ふっ、は、あああ――――っ」
嘘じゃない。その答えしかなかった。祐仁が欲しい。だれのためでもない。
淫水をまき散らしながら足ががくがくと揺れるなか、清道が指を引き抜く。颯天はぶるっとひと際大きく躰をびくつかせ、力尽きて床に崩れ落ちた。自分が吐きだした快楽の証しがひんやりと所々に触れる。その不快さを感じないほど、快感はおさまる気配がない。そんな颯天を汚いとは思わないのか、永礼が抱き起こし、背後から颯天の躰を支えた。正面には腿を跨がって清道がじっと颯天の目を見据えた。
「これから云うことをちゃんと聞くんだ。颯天、きみが忠実であるべきなのは永礼と私に対してだ。きみを見込んで頼みがある。Eタンクにきみを潜入させる。任務はアンダーサービスエリアのフィクサーの監視だ」
頼みと云っておきながら、拒むことはかなわず、射貫くような眼差しは絶対命令だと警告していた。
Material by 世界樹-yggdrasill-