Cry for the Moon 〜届かぬ祈り〜

メロディ9.


 バスローブは時間的に早過ぎるような気がして、レアはノースリーブのミニワンピースを着た。
 濡れた髪を乾かしてからベッドルームを通ってリビングへと向かうと、すでに戻った祐真が窓際のテーブルについて煙草を吸っていた。

 祐真の視線がレアを追う。
 青痣の目立つ左腕が目に入った。
「湿布しないと」
「ほんとに早かったんだね」
 立ち上がってソファに置いていた予備の湿布を取ると、フッと祐真が笑った。
「レアに嘘をつくつもりはないよ。来て」
 長い髪を右に寄せたせいで、レアの左側の首筋は白い肌が露わになっている。石鹸の香りがした。
「明日にはもっと痣が酷くなってるだろうな」
 まだ後悔を含む声で祐真が云った。
 湿布がレアの火照(ほて)った躰にひんやりと心地よい。
「ね、温かいうちに食べない? スープが美味しそう」
「まただ。気づいてるか? レアと喋ってると時々、独り言を云ってるような気分になる」
「だから?」
「ちゃんと見てほしくて、襲いたくなる」

 祐真はいきなり()き出しになったレアのうなじにくちづけた。とたんにレアの脈が急ぐ。
「祐真……?」
 答えることなく、祐真のくちびるが首筋を這ってやがてレアのくちびるにたどり着く。触れては離し、触れては離し、それを繰り返していくうちにレアのくちびるが僅かに開いた。祐真は待っていたように舌を差し入れる。

 キスは煙草の香りがした。
 首を仰け反らせ、探られるまま絡み合っているうちに、レアの上下感覚が失われていく。膝から力が抜け、立っていられなくなった。

 祐真はそれを待っていたようにレアをすくい上げた。ベッドに運んで自分に寄りかからせ、背中のファスナーを下ろしてレアを横たえると、レアの潤んだ瞳が開いた。
「急ぎすぎてる? 怖い?」
 くちびるが触れそうなくらいの距離で祐真が問う。
「怖いけど……祐真に触れられるのは好きなの」
「そういうふうに云われると、おれはレアを(たぶら)かしてるような気がする」
「やめるの?」
「いや、制御不能」

 祐真の笑んだくちびるがレアのくちびるに覆い被さる。
 キスが深くなっていくにつれてレアは力を失い、祐真の手がより彼女を求めて胸もとに触れると、レアの躰がピクリと震えた。
 レアの身に纏っているものを()いだ。
 祐真のくちびるが首筋を伝い、それとともに手が更に下へと下りていった。
「祐真?」
 呻くようにレアが呼んだ。祐真は再び、レアのくちびるに戻った。
「信じて任せて。ただ感じてほしい」
 胸に祐真の指が触れるとレアの口からため息のような呻きが漏れた。そして、祐真のくちびるが指のあとを追うように胸のふくらみを撫で、手が足を割ると新たな快楽にレアは(あえ)いだ。
 ゆっくりと時間が満ちていく。
 緩んでいた躰がやがて硬直しだし、レアの躰が仰のけ反った。
 んっ……は…っ……。
「大丈夫、我慢しないで」
 祐真の言葉は張り詰めていたレアの緊張を解いた。
「ゆう……ま…っ……ん……ぁ…あ……っ……」
 はじめて経験する(おぼ)れるような感覚の中に投じられ、痙攣(けいれん)するレアの躰を祐真はしっかりと守るように抱いた。

 レアの躰がぐったりすると、祐真は躰を起こして服を脱ぎ捨て、レアの足の間に移動するとゆっくりと彼女の中に入った。まだ少し、荒く息づくレアの躰が強張る。
 祐真が身を屈めてレアのくちびるを捕らえると、徐々に彼女は無力になっていった。
 祐真は最後の(とりで)を破ると同時に、レアの痛みを呑み込んだ。

「レア」
 レアの躰の両脇に肘をついて顔を上げると、祐真は欲情に掠れた声で彼女を呼ぶ。レアがゆっくりと目を開ける。
「祐真……」
 レアの瞳は熱く濡れ、また祐真の瞳も高揚(こうよう)を見せ、深く翳りを帯びている。

「順番が狂ったけど……レアと恋がしたい。レアを思うままに愛させて」
 胸を撫でると、レアが悲鳴を上げる。
「気を失いそう」
「それは告白に? それとも……?」
 祐真は躰を起こし、レアの躰に手を這わせた。
「どっちも……に決まってる……んっ……」

 祐真がゆっくり躰を動かしはじめると、レアは苦しそうに浅い息を繰り返す。
「つらい?」
 祐真が動きを止めて訊ねると、レアは薄っすらと目を開けて腕を伸ばし、祐真を引き寄せた。
「つらくない……はじめてなの」
 レアが耳もとでため息混じりに囁いた。
「わかってる。拘ってるつもりはないけど……おれがうれしいって思ってるのがわかる?」
「祐真と……繋がってるってわかる」
 それと気づかずにレアは祐真を(あお)る。祐真は顔を上げてレアのくちびるを()らすように()めた。
「……ん……もっと……」
 くちびるを熱く重ねるとレアの中にも熱が宿った。祐真が緩やかに動くたびにレアの口から堪えきれずに声が漏れ出す。
 ……ぅ…んっ……ぁ…っ……。
 レアの素直な反応に祐真の理性も薄れていく。やがて耐えられなくなったレアの躰が(おもむ)くままに再び喘ぐと、祐真の中にかつてない満ち足りた感覚が広がり、あとを追うように抑制を解き放った。

 このまま、レアとずっと繋がっていたい。
 躰とともに、心が切望している。

― The story will be continued in the next time. ―

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