禁断CLOSER#8 第1部 解錠code-Dial Key-

2.脱走 -5-


 露骨に那桜の主張を無視したふたりは、気まずくないのかというくらい黙りこんでしまった。
 有吏の男はだれもがもともと寡黙(かもく)で、拓斗に至っては何があっても沈黙で押し通す(へき)がある。
 那桜にしろ、(はな)から答えが返ってくるとは思っていない。怒る以前に馬鹿馬鹿しくなった。
 那桜もまたふたりを無視することにして、注文したものが届くまで携帯電話を開いて時間をつぶした。翔流にあらためてお礼とお()びのメールをすると、すぐに返事が返ってきた。
 那桜が欲しいのはこういうあたりまえの反応だ。理由を云わないまでも、いつか話す、とか、そうだな、という曖昧な同調でもいい。

「お待たせしました」
 ため息をつきそうになったとき、注文していたケーキセットが運ばれてきた。那桜はクリームチーズと苺のムースを重ねたケーキを取り、あとは適当に置いてもらった。
「いただきます」
 ケーキフォークを取って那桜は早速ケーキを突く。ブルーベリーのソースも加わって、甘酸っぱい味がなんともいえず美味しい。
美味(うま)そうにしてる」
 二口、三口となるうちにむっつり顔を(ほころ)ばせた那桜を見て、和惟が可笑しそうにした。
「食べないわけじゃないよね?」
 ふたりはコーヒーに口をつけただけでまだケーキは手つかずだ。
「ちゃんと食べる。拓斗?」
 和惟に振られた拓斗は、どうでもいいようにフォークを持った。
 拓斗は那桜のようにちまちまとではなく、ごっそりとガトーショコラを切りこんで口に運ぶ。その顔は美味しそうでも不味そうでもない。
「拓兄、美味しい?」
「くどい」
「だから美味しいのに」
 たしかに濃厚なチョコはそうだけれど、ご飯を食べるときと同じでまったく無反応な拓斗にがっかりした。まあ、ケーキと拓斗という構図は、不似合いなだけにどこか滑稽(こっけい)で笑えなくもない。
 あ、そうだ。
 那桜は不意に思い立ち、携帯電話を開いた。拓斗が二口目を食べる瞬間、携帯電話をかざす。合成のシャッター音と同時にカメラの画面が静止した。
「何やってるんだ」
「ちょっと記念」
「じゃなくて、間抜け写真だ。おれも何回もやられた。那桜」
 和惟は口を挟んで訂正したあと、那桜を呼んだ。和惟に顔を向けると、那桜の目の前に、フォークに載ったアップルパイがある。
「味見、したいだろ」
 那桜はためらいなくパクついた。甘いけれど、林檎らしい酸っぱさとのバランスがいい。
「美味しい。拓兄のももらっていい?」
 拓斗は無言でケーキ皿を押しやった。一口もらったガトーショコラはほのかにワインの風味だ。
「やっぱり美味しいよ」
 そう云ってお皿を戻すと、とりあえずは全部食べる気のようで拓斗はまたフォークを持った。和惟はいかにも渋々として、口の中に放りこむように三口で食べきった。

 那桜はそんなふたりを尻目にゆっくりと味わう。残るはブルーベリーの実だけだ。が、やっぱり粒は那桜にとって天敵でうまくつかめない。
「お箸だけじゃなくてフォークでさえつかめないんなら、こうやればいいって云わなかったか?」
 和惟はからかいながら手を伸ばして、ソースの絡んだブルーベリーを指先で(つま)んだ。そのまま那桜の口もとに運ぶ。さっきと同じように喰いつくと、和惟はソースのついた親指と人差し指を差しだした。
 いつのまにか警戒心のレベルは下がっていたようだ。那桜は恥ずかしげもなく、条件反射で和惟の指先を舐めた。
「那桜」
 拓斗の声は咎めているように聞こえた。一瞬にして那桜は自分の場所を(わきま)えない行為に気づいた。即座に躰を引いて拓斗に目を向けると、拓斗は睨んでいるのかと見紛うくらいに目を細めている。
「あ……」
「なんだ、拓斗」
 体裁悪く、言葉に詰まった那桜のかわりに和惟が問いかけた。
 拓斗は首をひねるだけで和惟には答えず、また那桜に目を戻した。
 赤くなっているのか蒼くなっているのか自分でもよくわからない。ただ、自分の浅はかさが情けなくて逃げたくなった。
 考えの足りなかった幼い行動のつけがこんなふうに表れるなんて。


 それから気が引けた那桜は、帰りの車の中もまた黙りこくった。
 拓斗は会社に行かなければならず、時間をつぶしてしまった那桜はさっきの失態と相俟ってへんに罪悪感を覚え、拓斗の用事に合わせることにした。
 今日は金曜日だし、宿題は明日でいい。



「どういうことだ?」
 会社の駐車場に着いて車を降りた拓斗は、同じように降り立ってドアを閉めた和惟に車越しで訊ねた。
「何が?」
「おまえと那桜だ」
「何が訊きたいんだ?」
「何があったのか聞きたいと云ってる」
 和惟はおもしろがって片方の眉を跳ねあげる。
「へぇ。気にならないわけじゃないんだな。ずっと興味ないのかと思ってたけど、ただの体面、か?」
 拓斗は挑発には乗らず、目を細めて和惟を見やった。和惟は可笑しそうに笑ったが、すぐに笑みは薄くなり、拓斗を見据えて続ける。
「おれの宿命は十年前に決まった。そのときは理不尽だと思ったかもしれない。けどいまは、那桜がどうあろうと尽くすことがおれの(のぞ)みだ。例えば、那桜の乗ったレールが奈落行きだとわかっているのに降りられないのなら、どこまでも同乗して那桜の安楽に献身するのみ。どうだ?」
 どこまでが和惟の本心なのか、質問にはまともに答えず、まして最後の一言はふざけた口調だ。拓斗は納得していないことを示して首をひねった。
「拓斗、おまえにはわからないだろうな」
 和惟は肩をそびやかして、これ以上話す気はないと云わんばかりに締め(くく)った。
「さっきの電話の様子じゃ、仕事長引きそうだし、那桜は先に送っていく」
 和惟が云い、拓斗は那桜がいる後部座席に目を移した。那桜は途中で眠り、熟睡しているようで起きる気配がない。
 拓斗がすぐに答えないでいると、和惟は含み笑った。
「信用できないのか? いま、おれの意思は話したはずだけどな」
「帰ったら那桜に電話させてくれ」
 拓斗は和惟の質問には答えず、笑い声を背中に会社の玄関へ向かった。ガラスのドアを押して中に入ると同時に振り向き、つかの間、門から出ていく車を追った。
「拓斗さん、お疲れさまです」
 惟均が奥から出てきた。拓斗は室内に向き直ってうなずき、惟均が出てきた専用室に向かった。

「那桜、着いたよ」
 肩を揺らされて、那桜はゆっくりと目を開けた。外はすでに暗く、覗きこむ顔は影になって判別できない。ただ、那桜に向かう唯一やさしい声は知っている。
「和惟……?」
「ああ。降りて」
 和惟に手を引かれて車から降りたとたん、那桜の中で退行していた時間が現実に戻る。辺りを見回してすぐに家の敷地内にいるとわかった。門柱から伸びた塀の内側にある駐車スペースに車は止まっている。那桜は車の中を確認すると、無意識に一歩下がって和惟を見上げた。
「拓兄は?」
「会社だ。寝てたから先に送ってきた」
「……。ありがとう。じゃ――」
「玄関まで送り届けるのが義務だよ」
 外灯のかげんが和惟の顔をかげらせて、まるで魔物みたいに見えるのは気のせいだろうか。歩くように促されて玄関アプローチを進んだ。那桜より半歩遅れて和惟がついてくる。
「ただいま」
 引き戸を開けて声をかけると、リビングからかすかに足音が聞こえた。靴を脱ぐと同時に詩乃が顔を出す。
「おかえり。拓斗から聞いたんだけど、あんまり負担をかけないで……あら、和惟くん、送ってくれてありがとう」
 那桜の背後に控えた和惟を認めた詩乃は、なぜか一瞬ためらったように見えた。
「お邪魔していいですか。那桜が勉強教えてほしいと云うので」
「いいわ。どうぞ」
「では、三〇分ほど」
「じゃ那桜、夕ご飯もそのあとね」
 那桜が驚いて否定もできないうちに詩乃はさっさとリビングに引っこんだ。

「和惟、わたし云ってない。もういいから帰っ――」
「訊きたいことがある」
 和惟は那桜をさえぎり、強引に上がりこんで、那桜の背中を強く押しながら二階に連れていった。
「何が訊きたいの?」
 部屋には入らず、那桜はドアのところでくるりと後ろを振り返った。(なじ)るように訊ねた那桜を見下ろして和惟が()めつける。
「拓斗に何を云った?」
「何も云ってない」
「じゃあ、なんで動くんだ?」
「意味がわからないよ」
「あるいは、単純に考えるべきか?」
「だから、わからない」
「わかるべきだ。那桜とおれは一心同体だってね」
 不意に和惟の表情が緩み、眼差しも温かくなった。それは逆に那桜の中に怖さを(つの)らせる。後ろに下がったとたん、和惟が迫ってきた。
「和惟!」
「忘れたのなら思いださせてやるよ」

 和惟は那桜の手からバッグを奪って適当に放ると、那桜の頭を左腕で抱きこみ、くちびるをふさいだ。
 それだけのことが那桜に身動きを取れなくさせる。制服のブラウスがスカートから引きだされ、裾から這いあがった和惟の手はブラジャーのホックを外す。手のひらが那桜の胸をつかんで強く撫であげた。
 ぞくっと躰が震えたのは寒さからなのか、胸先が硬く変化したのがわかった。和惟はすぐにその反応を捉えて、手のひらから指先に変えてふくらみの先をつまんだ。(しび)れに似た感覚が脳内に現れ、そのさきの結果はもう目に見えた。
 那桜は自分の隙を後悔した。普段にないほど走った疲労感と、ケーキでほどよい満腹感を得て眠ってしまったんだろう。ことさら拓斗がいるということに油断した。
 んんっ。
 痛痒(いたがゆ)いような触れ方が那桜のおなかの奥を熱くする。身を(よじ)って逃れようとすると、和惟の左腕が左の肩まで回りこんで離れなくさせた。和惟の指先は適度な圧力を加えて胸先を攻めてくる。そこから躰全体に感覚が波及していく。キスに押されて那桜の頭がのけ反り、何も考えられなくなった。
 胸から手が離れたことにも気づかなければ、その手が何をしているのかさえわからない。ただ、冷たい空気の中に素肌が曝されて身震いした。
 和惟は那桜のスカートを床に落として下着の中に手を潜らせた。ぬるりとした熱に触れ、そのまま(ひだ)をなぞると那桜の躰は和惟の腕の中で小さく痙攣しだした。
 和惟の指はゆっくりと熱を這い、明らかに寒さとは違う震えが那桜を襲う。指先は単調にうごめくだけなのに着実に那桜の感覚を高めている。単調だからこそ、引き返せないほど熱が広がっていくのかもしれない。
 来る。
 そう思ったと同時に、那桜は和惟の口の中に呻き声を吐きだした。
 ぅうっんっ。
 かくんと脚が折れて崩れた躰は、和惟の腕に支えられた。ようやく和惟のくちびるが離れると、那桜の口からかすれた悲鳴が漏れる。
 那桜は和惟に抱きかかえられるようにしてベッドに腰かけた。

「今度はおれだ。ちょっとでいい。すぐイってやる」
 那桜は頬を手で包まれて仰向けにされ、真上からキスに襲われた。激しさに呼吸を忘れかけたとき、とうとつにくちびるは離れた。が、自由になったのもつかの間、口を閉じるまえに和惟の慾が口の中に侵入した。無理やりで、那桜のあげた悲鳴は喉の奥でくぐもる。
那桜の顔を支えるようにつかみ、和惟は馴らそうと浅くゆっくり動いているのに、口の中の隙間はわずかで息が詰まる。慾が引く隙に呼吸を試みても、それは逆に吸いつくことになって慾を引き止めた。
 そのたびに和惟は低く呻き、だんだんと動きを早くした。口の感覚が麻痺した頃、和惟はさらに加速して那桜から慾を引きだし、那桜の胸に向かって快楽を撒き散らした。
 那桜の部屋はふたりの荒い息と生々しい匂いで満ちている。
 浅ましい。
 和惟から躰を後ろに倒されながら、那桜は自己嫌悪を覚えた。同時に和惟から逃れられない怖さが鮮明になった。
 和惟は那桜の脇に腰かけ、胸からおなかにかけて流れた粘液を拭きとった。その最中に携帯音が鳴る。和惟は一瞬手を止め、それからふっと笑った。
「たぶん拓斗だ」
 和惟はどこからそう見当をつけたのか、那桜にすればその音だけで断定できる。和惟は立ちあがって放り投げたバッグから携帯電話を取ると、ベッドに戻ってきて那桜に差しだした。
 出る気分じゃない。そっぽを向くと、耳に携帯電話が押しあてられた。

『那桜』
「……うん」
 拓斗の声は自己嫌悪に拍車をかけた。
 云ったのに。ふたりにするなんて。みんな嫌い。
 そう責めてもきっと何も返ってこない。
『どこだ?』
「家」
 口の感覚がおかしくて、喋るのがますます億劫(おっくう)だ。
 こんなみっともないときにどうして電話なんてするんだろう。
 那桜は自分で携帯電話をつかみ、和惟の手を払った。
『那桜』
 その声はどこか違った。けれど、その意味を探るよりも早く電話を終わりたい気持ちのほうが強い。
「拓兄、もう切る――あっ」
 云いかけている途中で、和惟がショーツを一気に()がした。和惟は身を乗りだして那桜の空いたほうの耳に口を近づける。
「お返しだ」
 囁く声が那桜の躰中に鳥肌を立てる。見開いた目が和惟の淀んだ眼差しを間近にした。その目が逸れた直後、胸先が和惟の口の中に埋まる。那桜は精一杯で声を堪えた。
『那桜』
「大丈……夫。ケータイを落としそうになって……もうごはんだから切るよ」
 一方的に云って電話を切った。

 和惟の舌が押しつけるように胸先を這う。
「ぅくっ。和惟、もうやだっ」
「おれが一回なら那桜は二回。それがおれの愛の証明だ。わかってると思うけど、声出すと下に聞こえるよ」
 和惟の手がベッドからおりている那桜の脚をつかみ、秘めた場所を空気に曝した。
「和惟、やめ……あふっ」
 生温かい舌がいちばん繊細な皮膚に触れ、一瞬だけ息が詰まった。
 決別したはずの二年はなんにもなっていない。むしろ、そのぶんだけ貪欲なほど快楽がそこに集中した。
 這いずり回る舌は那桜の抵抗心を奪い、反応を引きだす。必死で声を堪えたかわりに呼吸困難に陥ったように胸が苦しい。
 目を閉じたらますます快楽にのめりそうで、天井の淡い花模様の壁紙を見つめた。二年前もこうしていた。那桜がはじめた和惟との秘め事は、ここでも何度となく繰り返された。時間が逆行する。
 快楽を与えられ、那桜の視界を埋める淡い花模様がこの空間を楽園だと錯覚させる。脳内が溶けだしていくような感覚に入った。
「はっ……和惟……だめっ」
 那桜の拒絶は果てが近いことを和惟に伝える。弾力がついてふくらんだ襞に和惟が吸いついた。那桜の視界が弾ける――。
 う、ふっ、ぅくっ。
 和惟は那桜の腰が跳ねあがるのを抑えつけ、溢れてくる粘液を舌ですくう。那桜の快楽は否応なく持続した。やめてほしいと訴えるように首を振っても応えはなく、やがて痙攣さえ止んで力尽きた。

 和惟は顔を上げ、覆いかぶさるようにベッドに手をつくと、那桜のこめかみに触れ、流れる水滴を拭った。
「那桜の反応は変わらないな」
 和惟の声は愉悦に満ちていて、またもや自分のみっともなさを叩きつけられる。
 うくっ。
 嗚咽に激しく胸が上下する。
 和惟は那桜を抱き起こした。
「泣かないで」
 和惟の腕がなぐさめるように那桜を抱きしめる。が、それはつかの間のことで、和惟はまたベッドに寝かせると、裸のまま布団で那桜を包んだ。
「ジャスト三〇分だ」
 冷たい言葉だ。那桜が和惟と距離を置きたがっていることを知ったときから、最後に必ず冷たい言葉を吐くか、もしくは昨日みたいに放りだし、和惟は那桜を(みじ)めにする。もしかしたら、そのときから那桜を責めていて、空いた時間も和惟は忘れることなく、それにも増して、那桜を引きずろうと機会を待っていたのかもしれない。
 部屋をちょっと歩き回っていた和惟は、声をかけることなく出ていった。



 眠いとごまかして夕ご飯を食べないまま、那桜はずっとベッド脇の壁を向いて丸くなっていた。和惟が暖房をつけていったらしく部屋は温かくても、布団に包まった裸の躰はいつまでも冷たい気がした。
 どれくらい時間がたったのかはわからない。階段を上ってくる音がしたあと、部屋のドアが無断で開いた。照明のスイッチが入って部屋が明るくなる。
「那桜」
 返事をしないでいると、拓斗はずかずかと中へ入ってくる。
「那桜」
 名前を呼ばせるのに馬鹿げたことをしたけれど、いまは簡単すぎて、まさにそれが馬鹿げた行動だったことを那桜は思い知る。
「和惟が苦手という理由はなんだ? 今日のおまえたちは仲良さそうに見えた」

 寝ているふりがばれているのか、拓斗は至って普通に話しかけた。質問はとうとつなのに、それよりもその“普通”ということに那桜は驚いて、思わず声のするほうへと首を回らした。
 拓斗はベッドとは反対側の壁に付けたデスクに腰をひっかけている。
 感情の無い顔は変わらない。けれど声は違った。
 電話のときに感じた違い。それは、いままでのようにただ名前を呼ぶのではなくて、問うように呼びかける声だ。
 拓斗の声にはじめて色がついた。

「自分でもよく……わからない」
 いくら那桜でも、打ち明けられるほど馬鹿にはなれない。
 那桜の答えに納得しているはずはない。無言で那桜を見下ろしていた拓斗は躰を起こした。
「しばらくは様子を見る」
 追及はせず、そう云い残して拓斗は部屋を出ていった。
 拓斗は和惟のことでわざわざやってきた。そのことで、那桜は昨日の訴えがけっして無視されていたわけではないことを知った。ベッドを飛びだすと、裸のまま那桜はドアに走った。
「拓兄!」
 顔だけ出して、自分の部屋に向かう拓斗を呼び止めた。
「今日はケーキ食べに連れてってくれてありがとう」
 拓斗はやっぱり答えることはなく、ちらりと那桜を見てから部屋に入っていった。

 それでもかまわない。見てくれていることは知ったから。

BACKNEXTDOOR