愛魂〜月の寵辱〜

第4章 哀恋−あいれん−
#1

 香ばしさが嗅覚を刺激して空腹感をいざない、毬亜を眠りから浮上させる。
 ベーコンの香りだ。同時に、コーヒーの美味しそうな匂いもした。油をはねていそうなじゅうじゅうという音が立つ一方で、食器がかち合う音がする。
 なんとなく満ち足りて、毬亜は深く息をついた。
 すると、頬の下で奏でられていたリズムがわずかに狂う。もう片方の頬をくるんでいた温かさが撫でるようにして落ちていき、ウエスト辺りでとどまった。
 毬亜はゆっくりと目を開けるにしたがって状況を把握していった。
 顔を上向けると見下ろした吉村の目と合う。あのまま眠ったすえ、いつの間にか薄手のふとんに覆われてずっと同じ姿勢でいたらしい。のけ反らせた首をもとに戻して、隆起した胸に頬をすり寄せる。抱っこをねだるのは子供っぽいが、いまはそれだけの価値があるように思えた。
「吉村さん……ちゃんと眠りました?」
「おれのことは気にする必要ない」
 気になるから見ていたし、毬亜がそうしていたことを承知のくせに、吉村はできないことを云う。
「吉村さん……」
「なんだ?」
 その問いかけはおざなりではなく、本当に耳を傾けていそうに聞こえる。それは――
 吉村さんとあたしの間に母がいるせい?
 と、そんなことを訊きたくなる。
 昨夜、夢うつつで訊いたことを反すうする。
 母は京蔵のものになって、届かなくなったぶん、吉村は毬亜を――娘を気にしている。嵐司はそう解釈していたんだと思う。
 これからのことも、知りたいことはたくさんあるのに、そのときがくるまで知らないほうがいい、と自分が自分を諭(さと)す。
 そんな迷いで何も云えないうちに戸がノックされた。
「失礼します」
 顔を上げて振り向くと、中途半端に開いていた戸が全開して入ってきたのは嵐司だった。
「ここに置け」
「はい」
 嵐司は携えてきたトレイをベッドサイドのテーブルに置いた。ベーコンと目玉焼きにミニトマト、そしてトーストが二人分のっている。
「何を飲む? オレンジジュースかコーヒーかミネラルウォーター」
 その訊き方から毬亜は自分が問いかけられているのだと気づいた。
 嵐司から声をかけられたのははじめてで――昨日が初対面だからそうだとしてもおかしくないが、毬亜は砕けた調子に単純に少し驚いた。見上げると、嵐司は問うように首をひねった。風貌といい振る舞いといい、そして毬亜に対する喋り方といい、吉村と同じ世界にいる人には見えなかった。
「……オレンジ」
「オーケー」
 嵐司は吉村には訊ねることなく部屋を出ていった。
 開けっ放しの戸の向こうに見えるのはダイニングとキッチンだ。毬亜はまたそれで驚く。確かに料理の音も食器の音も近くに聞こえていたが、すぐ隣の部屋にあるとは思っていなかった。この寝室は、想像していた家の一部分ではなく、ここだけで生活できる、独立した部屋の一スペースだ。
「ここはどこ?」
「昨日、同じことを訊いた。憶えてないのか? おまえの新しい家だ」
 しかめた声が答えた。
 毬亜は、冷蔵庫を開けている嵐司の背中から吉村へと目を転じた。
「ここ、あの……大きな家じゃないの?」
「そう遠くないところにあるマンションだ」
「……お母さんは?」
「総長の家にいる。おまえたちを一緒に置いたら一緒に逃げる可能性がある。母親にとってはおまえが、おまえにとっては母親が人質だ」
 吉村はためらいもなく残酷なことを口にする。
 ただし、昨夜みたいなことが毎日あるわけではないのだという安堵を覚えた。それはまた、母のことを気遣っていないことの裏返しでもあり、毬亜はそういうずるさを吉村に見られたくなくて目を伏せた。
 その視界に嵐司の脚が入ってくる。トレイにオレンジジュースとコーヒーが追加して置かれた。
「マリ、今日からおまえには嵐司がつく。嵐司が都合悪ければ謙也だ」
 毬亜は顔を上げて、吉村、嵐司と見上げて、また吉村に目を戻した。
「よろしく、マリ」
 混乱と呆然と、綯(な)い交ぜになり、何も云えないでいるうちに嵐司が手を差しだした。
 その手を取ってしまえば有無を云わさず従わせられそうで、毬亜は握手には応じる気にはなれなかった。
 嵐司の手がだらりと下がると、なぜか悪いことをしたように感じさせられる。その気持ちを無駄にするつもりはなかったのに。
「……あたしはここに閉じこめられるの?」
「外に出るときは必ず嵐司が付き添う。それだけの話だ」
「……吉村さんは?」
「少し離れたところに住んでる」
「結婚はしてなくても、女の人がいるの?」
 吉村はすぐには答えず、じっと毬亜を見たすえ――
「いる」
 と応じた。
 独身だと知ったとき無意識によかったと云いそうになったことを思えば、その答えはがっかりしてもおかしくない。けれどそうならないのは、それが嘘だと直感したからだろうか。母が愛人だったというほうがずっと衝撃に感じていた。
「あたしも吉村さんのところに置いて。女の人がいても、昔の愛人が産んだ子供だって云えば……」
「できない。マリ、おまえはここに独りで暮らす。いままでと……変わったのは住み処だけで、あとはこの一週間となんら変わりない」
 云い聞かせるような口調は、別のことも含んで聞こえた。
「あたし……吉村さんとは自由に会えないの?」
「話は食べてからだ。もう半日食べてない」
 それを合図にしたように嵐司はベッドの脇から立ち去った。
「あたしはこれからどうなるの? 教えてくれないなら食べない。ずっと、何も食べない。飢え死にしても、だれにも関係ない。お母さんはセックスしてれば生きていけ……」
「おまえのためだ。母親にはああやっておまえを守る道しか見つけられなかった」
 云われなくてもわかっている。母は、父がいなくなって本当に途方にくれていたから。
 なぜ――母はあのとき、そう叫んだ。約束、逃げない、娘だけは、というキーワードを並べれば見当はつく。
「お母さんをかばうの? 好きだから?」
 “毬亜”は母親といても、マリのなかのずっと奥底に沈んで、ずっと孤独だった。
 毬亜。そう吉村が呼んでくれたとき、やっと在処が見つかったのだ、そう思ったのに。
 毬亜。それは、ただ毬亜が聞きたがっていた、意識を失う寸前の幻聴にすぎないのだ。

「確かに、おまえの母親はおれの情婦だったこともあるが、いま母親などかばっていない。おまえのために云ってる」
 かばっていない。それは無下に聞こえ、けれど、好きじゃないとも口にしない。
「あたしはこれからどうなるの?」
 毬亜は三度め、口にした。じっと見上げるぶんだけ吉村も見下ろしてくる。
 このまま喋ることなく、ミイラ化してしまうかもしれない――ふたりで見つめ合ったままならそれでもいい、と思いかけた矢先。
「どうなるかじゃなく、時がくるまで、何があろうと生き延びろ」
 生き延びて、そうしたさきに何が待っているのか、吉村は曖昧な期限を敷いた。それが毬亜のために云っていることなら、吉村はその時に毬亜になんらかを示してくれるのだ。
「そうする」
 毬亜は即答した。
 吉村のため息は、あまりにも簡単に返事をした毬亜に呆れたからだろうか。
「おまえは昨日みたいな目に遭う。それでもか」
 今度は即答できなかった。
 昨夜、自分に起きた光景が脳裡に浮かぶ。吉村にされたことは恥ずかしくてもつらくても我慢――違う、つらくても受け入れて感じられた。
 けれど。
 好意も何もないオスとしか称せない男に躰の中心が犯されたこと、醜穢(しゅうわい)な唾液に全身が塗れたこと、それらは耐えられるものではなかった。記憶に触らないようにしていたけれど、思い浮かべたとたん吐き気までもが甦って、毬亜は両手を重ねてくちびるを覆う。
「昨日、おまえは窒息しかけてた。相手がどう醜悪だろうが受け入れなければまたそうなる」
 生きては逃げられない。それは漠然とわかっている。毬亜には、生き延びられないことを覚悟で逃げるか、生き延びてその時を待つか、そのどちらかしか選択肢はないのだ。
「待ったら……生き延びたら吉村さんと自由に会える?」
 吉村は吐息を漏らし、そして薄らとくちびるを歪めた。そうしていくら待っても返事はなく、沈黙を守っている。
 毬亜に生き延びてほしいなら、会えると答えるほうが説得は易い。そうはせず、会えない、と否定しないことがかえって毬亜に可能性を与えた。
「あたしはどうすればいいの?」
 そのさきに吉村がいるのなら、いつになるかわからない“時”をただ待ってはいられない。それまでの時間を訳がわからないまま経たすえ、吉村から『当てにならない』と思われたくはなかった。
 あのとき吉村は、毬亜に向けたようでいて実はそうではなく、母に対する気持ちがあったからこその母を評価した言葉であり、呆れ果てていたのかもしれないと思った。
「どうもしなくていい。ただ、受け入れて耐えろ」
 毬亜はそれをまっすぐに受けとっていいのかどうか迷ってしまう。母の何が吉村を呆れさせたのか。
「お母さんとはじめて会ったのはいつ?」
「一年まえだ。父親のかわりに掛け合いに来た」
 それはきっと、あの借金取りの男たちがアパートに現れた直後のことに違いなかった。
「それから……お母さんと?」
「おまえの母親は男を惹く」
 吉村は遠回しなようでいて率直に認めた。
「それなのに飽きたの?」
「総長が気に入っただけの話だ。母親が与えられなかったかわりに、娘の処女がほしいというほどにな」
 吉村たちの日常ではそんなわがままがまかり通ってしまうのだ。毬亜は“耐える”ことに怖れを抱いた。
「……あたしは……気に入られてない?」
「一概に答えられる質問じゃない。当面、総長はある程度の保証をした。気に入っていないわけじゃない」
 気に入られていないように祈りながら待った答えは期待したものではなかった。
「……保証?」
「おまえはクラブをやめて、会員制の高級エステで稼ぐことになる」
「高級エステ?」
「不特定多数の男たちを相手に性的サービスをする」
「……」
 いや、そうつぶやきかけて毬亜は口を閉じた。
 定まっていることは毬亜の力では変えられない。わかっていても足掻いてしまうのはどうしようもなかった。
「男を喜ばせる場所だ。触られることもあるが総長の意向で犯されることはない。おまえの真の役割は、丹破の屋敷である宴で地位のある奴らを相手にする高級娼婦だ」
 毬亜はやっぱり商品なのだ。
 受け入れる――どうやって?
「……昨日……みたいに?」
 吉村は首をひねってみせ、それは肯定にほかならない。
 吉村は嘘を吐いた。
 これまでの独りきりだった一週間と変わらないことはない。住み処も変われば、ただ客の話し相手になるだけではなく、選ぶ権利もないまま躰に醜悪な穢れを纏わなければならい。穢れても吉村は毬亜を抱きしめる。けれど、“その時”まで、毬亜はいまの自分であり続けられるのだろうか。
 途方にくれ昨日のことを嫌でも思い返してしまう。
 そうして、毬亜はやりすごせない疑問に行き当たった。
「昨日……録画って云ってた。……天井にあったのはカメラ? 撮られてたの?」
 カメラは天井だけじゃなかったのだろう。訊くまでもなく撮られていたからこそ、見えるはずのない方向から毬亜の顔が見えたのだ。
「おまえの値段を高くつけるためだ。ほかに漏れることはない。付加価値は限定だからこそ吊り上がる。おまえはすぐ誕生日がきても十七歳だ。その映像を持っているだけで犯罪になる。地位があるだけに下手なことはできない。こっちにとっては脅迫ネタにもなる、手堅い資金源だ」
 漏れなくても、毬亜の知らないところで毬亜の痴態が見られているのだ。これから、吉村が云う“その時”がくるまで、だれともわからない男たちを満たすという、獣欲の檻に閉じこめられることを考えれば些細なことかもしれず、混沌としたものが心底に集う。
「お父さんの借金は……それで返せる?」
 必ず終わりがくる。そんなことを望みながら訊ねたのに、吉村は肯定も否定もしなかった。
 曖昧なことに返事をしない。それは一見、嘘を吐かないという誠実さに見えるけれど、いまはずるいとしか思えなかった。

 縋れるものも見つからない闇のなかで駆り立てられる。そんな気分で毬亜はむやみに手を上げた。吉村の首にまわし、ぶら下がるように腕に体重をかけ、すると反動で吉村の顔がおりてくる。顎を上げて伸びあがり、くちびるを吉村のそれに近づけた。
 毬亜の腕を外すことはなく、かといって、触れ合うまで二センチという距離にとどまったまま吉村は襲ってくるわけでもない。
 無言の催促を察しているだろうに、そうしない理由は何?
 くちびるを軽く開き、毬亜のほうからためらいがちに近づいてみた。そうする間も、吉村は微動だにせず、すると、こんなふうに誘う女が好きではないのかもしれないと思い至った。
 だから、セックスに溺れた母は――。
 目を伏せ、顎を引きかけたそのとき、躰にまわった腕がわずかにきつくなって、すると、覗きこまれるようにしてくちびるをすくわれた。
 ぺたりとしたキスは心地よい。
 吸着音を立てながらいったん吉村はくちびるを浮かせたあと、次の瞬間には荒っぽいほど押しつけて、仰向いた毬亜の口のなかに舌を入れてきた。舌を舌で撫ぜ、頬の裏側からぐるりと口のなかを這いまわる。昨日のように教えるためではなく味わうような触れ方で、応じてもらえたことに安堵する以上に、吉村のキスは貪るようで甘苦しい。
 次第に躰全体が上気してくる。口のなかに落ちてくる吉村の唾液は甘い蜜にしか感じない。飲み干しきれない蜜が口の端からこぼれた。
 吉村はゆっくりと顔を上げる。
 呼吸が触れる位置で見下ろしてくる眼差しは、心なしか切望されているみたいに感じた。あたしが映る瞳は好きだ、とそう思ったのに、それは一回の瞬きで消え去ってしまう。
 吉村は上体を伸ばしながら毬亜を起こした。
「咥えろ」
 なんのことか戸惑ったのは一瞬で、毬亜はこくっとうなずいた。躰を支えていた腕から抜けだし、吉村の脚の間で膝をついた。
「肘をついて尻は上げてろ。嵐司に見えるように」
 吉村はそう云って掛けぶとんをつかんで床に落とした。
 毬亜はふたりきりではなかったことをすっかり忘れていた。思わず振り向くと、吉村の発言を受けてだろうか、開きっ放しの戸の向こうからこっちへ来る嵐司と目が合った。
 昨夜、嵐司は毬亜の痴態を見ていただろうか。謙也と一緒にあの部屋に入っていたのかどうかまでは確認できていない。
 浴室での反応は聞かれているし、裸体も、毬亜自身が見られないところまで見られている。加えて、受けた汚辱はショック以上にいろんな感覚を麻痺させている気がした。その証拠に、いままで裸でいたのに、そのうえ、朝食を持ってきた嵐司と間近で接したのに、恥ずかしさもためらいも湧かなかった。
 けれど、秘部をまともに晒すのは訳が違う。
 嵐司はそこに障壁でもあるかのように部屋の境目で止まった。吉村と同じで、嵐司も感情を表に出す人ではないのだろう。毬亜を見る目には軽蔑も欲望も憐(あわ)れみもない。
 昨日、男たちから浴びせられた、笑み混じりの下卑た冷やかしは、消失したい気持ちにさせられた。いま無表情にただ見られてしまうのも、毬亜はあの男たちと同様、獣欲に侵されて知性の欠片もなく映りそうで、なんの救いもない。
 いや、毬亜には、もともと知性はなかった。
 吉村に向き直ると、膝立ちした毬亜を見上げている。太い首がかすかに傾き、促した。
 吉村はあぐらを掻いた恰好で左側だけ膝を立てている。その脚のすぐ傍に手をついて、毬亜は顔をおろしていった。吉村の云うとおりに肘をつき、背中を弓なりに反らせた。
 吉村のモノはもう上向きかけている。片手で根もとをつかみ、毬亜はさっきされたキスみたいに先端にくちびるをつけ、吸着した。とたんに、男根はぴくりとして硬度を増す。キス音を立てて離れ、また吸着した。
 頭上に聞こえた吉村の吐息は呻いたようにも聞こえた。
 吉村は毬亜の頬に触れ、そこから撫でるようにしながら髪を右側に寄せる。左の頬があらわになった。かしずく毬亜が見たいのなら見てほしい。そんな気持ちになりながら、キスを根もとへとおろしていく。ぴくぴくとした反応がうれしいと思うのははしたないだろうか。
 下に到達したあと、先端に戻って口を開いた。男根を含むと、しょっぱいような味がする。少し顔をしかめたかもしれない。
「性的に興奮すると男も濡れる」
 吉村が教えた。毬亜は思わず顔を上げる。
「感じてる? あたしに?」
 吉村は答えることなく、続きをやれというふうに顎をしゃくった。
 また口に含んだ直後、吉村の両手が左右のわきからまわりこんでそれぞれに胸をつかんだ。
 んあっ。
 喘いで顎が浮いてしまうと男根が口から飛びだす。
「口を離すな。まずはおれを逝かせろ」
「はい」
 吉村は大きさを確かめるように胸を捏ねると、次には手のひらで乳首を転がし始めた。
 ん、ふっ、んんっ……。
 上体をびくつかせながら、昨日、教わったように舌を絡ませていくけれど、気は散漫になりがちだ。ともすれば、自分の快楽に集中してしまっている。吉村が手を止めてからそう気づく。
 その手がみぞおちへとおりていくと、胸が解放されていくらかほっとした。が、それはつかの間だった。大きな手は背中にまわってきて肩甲骨から背骨をおりていく。お尻をくるむようにしながら今度は躰のわきを滑り、そして胸へと這いのぼって乳首を扱(しご)く。
 毬亜の躰は自然とうねってしまう。何度そうされたのか、お尻をくるんだ手はわきへではなく、そのまま下におりた。秘部に指先が触れ、水音をいとも簡単に奏でる。自分でもそこが濡れているのは感じていた。
 んっ、んんっ。
 指先が秘部に潜ればぴくっとお尻が跳ねあがる。
 なかに入ったのは一瞬で、指は上へと這い、予想したとおり孔口でとどまった。そこに粘液をまぶし、指先は再び秘部へと戻る。その繰り返しで吉村は何度も粘液を塗りこみ、そのうち毬亜は孔口が緩んでいくのを感じた。
 指がわずかに入っては出ていくという単純な動きをしながら、だんだんと挿入の度合いが深くなっていく。お尻は小さく痙攣し続け、秘部はおさまりがつかないほど蜜を垂らしていた。
 もう耐えられなかった。
 吉村を逝かせられないまま、毬亜は顔を仰向けた。口から男根がすり抜け、一緒に悲鳴が飛びだした。
「あ、ああっ……吉村、さ……逝きそっ」
「好きに逝け。何度でもいい。勝手に逝くなと云われないかぎり」
 空いた手は胸に戻って、乳首で戯れ始めた。子宮が疼き、秘部の突起辺りは漏らしそうな感覚が襲ってくる。
 あ、あ、ああっ……っふはぁあ、あああっ……。
 短い悲鳴はだんだんと間延びしていった。昨日、嫌というほど憶えさせられた快楽の頂点に逝きたくなる。
 指はお尻からまた秘部へと沿い、蜜をすくいあげると、孔口の周囲をほぐすように触れる。
 もっと。そんな言葉を発してしまいそうだった。
 そうして、乳首を摘み、同時に指先がお尻のなかにぬぷっと埋もれた。壁を摩撫された一瞬後、毬亜は息を詰まらせながら果てにたどりついた。我慢しようとしてもかなわず、快楽を噴いた。指がすぐさま抜かれてしまうと、お尻が跳ねて快楽を持続させる。
「尻の感度も云うことはない。ひどい目に遭っても快楽を得られるおまえの躰は淫猥だな」
 息も整わないうちに、吉村は毬亜を翻弄させる言葉を放った。
「ちが……! 吉村さん、だから――」
 ――感じられる。
 力なくもすぐさま返した言葉は最後まで云えなかった。
 毬亜はそれが、母が京蔵に云っていたことと同じだと気づいた。

NEXTBACKDOOR