愛魂〜月の寵辱〜

第3章 宴utage−不浄の烙印−
#2

「マリちゃんはヴァージンだろうに、すごい逝き様だねぇ」
「潮まで吹く女になかなか巡り合わないな」
「まったくです。処女でこうも完成されていると、なんでもオーケーじゃないですか」
 口々に上る好き勝手な感想は毬亜を恥辱に晒す。快楽の果てにいられるのはつかの間で、その一瞬のためにプライドを放棄して自らを穢している。もともと、高々十六、七で独りでは何もできないし考えられないし、ただその場しのぎで生きている毬亜に、プライドなんていう高貴なものはないのかもしれない。
 荒い呼吸の合間に嗚咽が入り混じった。
 吉村は彼らに頓着せず、拘束具を外していく。
「この夜鷹(よたか)が処女なら一本出しても惜しくないが……残念ですな」
 隣室での会話は続いていて、そんな言葉が耳に留まった。
 吉村は四肢の拘束を解くと、腰もとをすくうようにしながら毬亜の躰をひっくり返した。
「値段を決めるのは時期尚早。もう一つ、残っているのをお忘れだ。交渉次第で譲る用意はある」
 その発言に、おお、とどよめくような気配に湧いた。
 会話の意味を考えられないうちに、毬亜はうつ伏せになったまま、今度は台の頭上で両手にバンドを巻かれ、括られた。
「吉村さん!」
 正面にいる吉村を見上げると、その口角がいびつに上がった。
「派手に逝ったな。おまえの価値は上がったようだ。使えるところが二つなら二倍の価値になる」
「……二つ……?」
 その疑問の結論は、吉村に答えを出してもらうまでもなく自分で出した。
 たったいま、手足が自由になって終わったと思ったけれど、逝かされるだけで終わると思ってしまうのは思考力がなさすぎる。
 脱力した躰はなすすべもなく、お尻が高々と引きあげられる。足首ではなく膝のすぐ下がバンドで固定された。
 毬亜は、秘部だけでなく、お尻までもを隣室に向かってさらけだしている。
「いやっ」
 逆らおうとしてもお尻が揺れるだけで、彼らを喜ばせる要因にしかならない。
「マリちゃん、いい眺めだ。きみは尻の穴もきれいだな」
「愛液で濡れているところが嫌らしい」
 下品な会話に耳もふさげない。いや、下品なのは、彼らのまえで逝ってしまう毬亜もそうだ。
 自分の行き先は、どこでこうなる定めに変わってしまったのだろう。
 いまさら逃れられない。それでも無意味なことに答えを求めたくなる。
 毬亜が役に立たない悪あがきをしている間に、台の下にかがんでいた吉村が立ちあがった。思わずめいっぱい振り返られるところまでそうすると、手に何かを握っているのだけわかった。
「やっ、お尻から出すのは嫌っ」
「洗浄は終わった。引きだしたいのは快楽だ。尻だけで逝けたら価値はもっと上がるぞ」
 吉村はまったく感情の動かない様で云った。
 なんの価値があがるというのだろう。
 孔口に何かが当てられた。その感触はパウダールームでされたときと同じだった。
「やだっ」
 拒もうとお尻が力むも思いのほか躰はだるく、膝が肩幅よりも広く開かれているせいで避(よ)けるだけの力が集まらない。
 この家に連れてこられてから、いったいどれくらい時間がたっているのか、何回逝かされたのか、あるいは自ら逝ったのか。たったそれだけのことが考えられない。快楽は躰だけでなく、思考力も溶かしていくのかもしれなかった。
 ぅはっ。
 お尻のなかに液体が入ってくる。浴室で使われたお湯のようにさらさらではなく、どろりとしているように感じた。体内温度よりも冷たく、異物が注入される感触と相まって、ぞくっと全身が総毛立つ。
 注がれたのは大した量でもなく器具はすぐに離れていった。
 直後、吉村の指が花片に絡む。
 あ、んっ。
 指は突起へと移り、捏ねるように動かされる。逝ったあとのそこは敏感になりすぎていて、少しでも快感から逃れようとお尻が揺れてしまうのは防げなかった。指はまた花片に戻り、通りすぎて膣内に潜った。そこもすぐに出ていき、そして、冷たい器具のかわりに孔口には温かく濡れた指が触れた。
 吉村の指は孔口の周囲をさまよう。浴室で最初にそうされたときに感じたのは、羞恥に因ったむず痒いような感覚だったが、それを飛び越して、いまははじめから性の快楽として呼び覚まされていく。
 けれど、吉村は遠巻きに魔撫するだけで、そこから一向に孔口へ向かう様子はない。
 んんっ。
 そう呻いたトーンは、取り消したいほど自分でも媚びて聞こえた。
「もっと感じたいか」
「ぃや」
 毬亜は大きく首を横に振った。にもかかわらず、吉村の指はだんだんと孔口に近づいてくる。
 はっ……ん、く……っ……。
 孔口の縁に触れ、指が潜りそうになったところで離れていく。
 あ、ああっ。
 お尻がぷるぷるとふるえた。
 なかを侵しそうになっては引き返す。吉村は繰り返し、明らかに意図を持ってそうしている。そして、毬亜はその策略に嵌まっていた。
「マリちゃん、愛液が糸を引いて落ちてるよ」
「いやっ……あ、……違、うっ」
 叫んで拒みながらも喘いでしまって説得力はまるでなかった。
「シートに溜まっていくのがなんともエロティックだ」
 倉田の下卑た揶揄のあとは、芸術品を評価しているような冷静な声がする。どちらの調子であっても、毬亜は辱めとしか感じない。無論、そうでなければ、毬亜は何をされても自分から快楽を優先させる母のようになるしかない。否、もうそうなっているのか。
「ほぐれて赤くふくれてきたな。ちゃんと入れてほしいか」
「違う、のっ」
 否定は悪あがきでしかなく、訊く必要があったのか、吉村は毬亜の返事を無視して強引に指をくぐらせた。
 あ、あああっんっ。
 ちょっとした異物感はあっても、待っていたと云わんばかりにお尻は持ちあがってしまう。ぶるっとしたひどい痙攣が走る。すると、膣口からとくっと粘液が溢れた。
 隣室で驚嘆したざわめきが漂う。
「軽く逝ったか」
 吉村は羞恥心に追い討ちをかける。
「違う!」
「愛液がぼとりと落ちた。躰は正直だ」
 毬亜はそこを見ることができない。肘をついてわずかに顔を上げていることが精いっぱいだった。けれど、感触は確かに感じていた。
「も……いや」
「中途半端で放りだされるのもつらいが? 自分で自分をなぐさめる破目になれば、もっと自分を貶(おとし)めることになる。詰まらないプライドは捨てろ。男のためにある女には必要のない代物(しろもの)だ」
 吉村は毬亜の人格をばっさり切り捨てた。
 そうして攻められるかと思いきや、吉村の指は出ていき、その瞬間、毬亜は心もとなさに襲われながら、もっと、と思ってしまった。
 本来、セックスで交える場所はお尻じゃない。わかっているのに、その感覚は違っても快楽に侵されている。だれもがそうなのか。少なくとも、母はお尻でセックスして感じていた。吉村は淫乱は遺伝しないと云ったけれど、母娘だからという、毬亜は云い訳をつけなければならない。そうでなければ、到底快楽を得ていることを受け入れられなかった。

 吉村は頭上にくると、毬亜の顎をすくう。
 上体を折って顔をおろすと、吉村は片手に持ったものを舌先で舐めた。そのクリーム色のスティックは、違った大きさででこぼこして波打っている。いちばん大きな瘤(こぶ)は、吉村の指くらいの太さがあった。
 浴室で指を舐めたときと同じしぐさに毬亜は魅入らされる。場をわきまえず吉村の舌に襲われたい気になった。同時に、スティックは何か、教えられるまでもなくローターと同じで、性的に煽る道具なのだと察した。
 無謀な気持ちを払うのに顔を背けようとしたが、吉村の手がそれを許さない。
「連続逝きで苦しいことはあっても、肉体的に痛めつけることはない。男のためにあるというのは、女として尊重されるということだ。おまえに何があろうとおれがおまえのすべてであること、それを守れ」
 つぶやくように云う吉村のまわりくどさは毬亜の理解力を超えている。
 ただ、いろんな意味で毬亜が吉村から逃げられないことは自分でもわかっている気がした。
「口を開けろ」
 云うことを聞かないで閉じたままでいると――
「奴らは嫌がるほうが喜ぶぞ。嫌がっても躰は感じる。そこまで感度がいいことが前提になるが、あいにくとおまえはよすぎる」
 吉村は嗤って囁いた。
 確かに、ただ観賞するだけでなく、羞恥心を煽ろうと揶揄するのは彼らに加虐性が潜んでいるからかもしれない。
 毬亜はくちびるを緩めた。スティックが口に入ってくると、プラスティックだと思っていたそれはゴムよりも柔らかかった。持ち手まで二十センチくらいあって全部は入りきれず、嘔吐きそうになった毬亜が首を振ると吉村はそこで挿入を止める。
「そのまま力むな」
 云い渡されると、緩慢な速度でそれは引き抜かれていく。先端がくちびるまでくると、反対にスティックはまたくねるようにして入ってきた。それが往復して三回め、くびれた部分とふくらんだ部分がどういった効果をもたらすのかわかった。舌もくちびるの裏もくすぐったいような刺激が生まれている。
「いい表情だねぇ」
 そう云ったのは目のまえにいる吉村ではない。なぜ見えるの? そんな疑問が浮かぶ。突きとめる間もなく、スティックが口から引き抜かれた。
 吉村はもとの位置に戻っていく。かまえる余裕がないまま吉村の指が孔口に触れた。
 んあっ。
 そこは驚くほど敏感になっている。孔口を魔撫されながら、一方ですぐ前部にある膣口に何かが潜ってきた。続けざまに入り口の開閉を繰り返して侵入してくる感触が、でこぼこしたスティックだと教える。
「やっ」
 その長さからすると全部が埋もれれば痛みを伴う気がした。その怖れと刺激とで、毬亜は思わず拒絶を放った。吉村はなんら応じることはなく、ただスティックを引きだした。
 直後、お尻からも指が離れていき、そうかと思うとまた触れてきた。孔口をつつかれ、ぷくりと埋もれてくる。それは吉村の指ではなかった。開いた孔口はすぼまったが、何かが邪魔して口を閉じきれない。そして、再び開閉する。
 うくっ。
 三度めになるとやはり怖くなった。体内の構造がどうなっているのか、毬亜は無知すぎてわからない。
「やっ怖いっ」
「無駄に痛い思いはさせないと云っただろう。最初に潤滑剤を入れている。傷つけることはない。力を抜け」
 力を込めているつもりはないから、力の抜き方がわからない。何も心構えができないうちにまた瘤が一つ入ってきた。
 ん――はっ。
 息を止め、次には荒っぽく吐く。痛みはなくても、やっぱり怖さは拭えない。
 そして、次を覚悟してかまえていると、それはまったくの不意打ちで反対方向に動いた。
 あああっ。
 内側から開く感覚は、外から挿入するときと全然違った。まるで、吐出してしまうかのような不安を覚えた。その不安を解消できないうちに、一つ瘤がまた体外へと引きだされる。
 あ、あふっ、ああっ。
 四回め、すべてが出てしまうとお尻が勝手に揺れた。
 安堵する間もなく吉村はスティックをまた挿入した。いきなりではなく、瘤を一つ一つ毬亜に確かめさせている、そんな意図が見える。快楽を憶えさせるためなら、それが成功していることは否めない。だんだんと挿入は深くなり、そのぶん引き抜かれるときのなんとも云えない感覚も長引く。瘤を一つ超えるたびにお尻がぴくっと跳ねあがった。
「あんっはっ……んくっ、あ、あっ……やぁああっ」
 すべてが抜けだすと、脱力して毬亜はぐったりした。けれど、すぐさま次が来る。
 吉村が云うとおり痛みはないが、逝っているわけでもないのに終始刺激される感覚が毬亜を苦しめていた。クーラーが効いているはずなのに全身が汗ばんでいく。
「吉村、さん……も……だめ。……おかしいの」
「それを超えたら逝ける」
「いや」
「それなら耐えろ」
 冷たいのか、突き放したのか、いずれにしろ毬亜の返事は気に入らなかったのだ。当然、逆らうなど吉村にとっては言語道断だろう。
 そうして吉村がなかにうずめていったそのあと、これまで緩慢だった動きが俄(にわか)に速くなり、すっと抜け出ていった。その動きに合わせてお尻がせりあがる。吉村は抜けだす寸前で手を止め、そこから逆行してずぶりとなかに埋めていく。その速度もずっと速く、毬亜は顔を上向けて喘いだ。抜かれ始めると小刻みにお尻がふるえる。また出てしまう間際で止められ、続けて埋められた。
 最初のうちは隣室から囃し立てる声が聞こえていた。恥ずかしさで少し気が紛れていたが、回数を重ねるごとに雑音は遠のいて、毬亜は快楽に集中していった。抜けだすときのお尻の痙攣が全身に波及していく。
 あ、あうっ、あ――ああんっ。
 うつむけば呼吸が苦しく、首をのけ反らせたまま毬亜は悲鳴をあげ続けた。
 嬲られているのはお尻なのに、そこだけでなく秘部の突起や体内の奥まで、なぜひくついてしまうのだろう。膣口から溢れる粘液が突起に伝えば、くすぐられているような感覚がする。シートの上にはとめどなくだらだらとこぼしているかもしれない。
 逝きたくない。けれど、逝きたい。その均衡はかろうじて保たれていた。
 ただ、吉村は女である毬亜よりも女の躰を知っているのかもしれなかった。
 数えられないほど往復したあと、抜けだす寸前で止められていたスティックがすべて引き抜かれた。
 あ、あ、あ、ふはぁあああっ。
 お尻がこれまでになく跳ねあがった。完全には閉じることがかなわなかった孔口がすぼむ。そこへずぶずぶと入ってきて、再び取りだされる。
 お尻を犯されていた母の反応の意味がわかった。奥に達するときよりも出ていくときのほうが遥かに強く孔口から快楽を引きだしている。
 ぐちゅっと音がするのは、潤滑剤のせいだ。嫌らしく部屋に響き、お尻の痙攣は止まらない。
「も、だめっ。吉村さん、……も、やめて……!」
 それが焚きつけたのか、引きだしてしまうのをやめた吉村はなかで何度も往復して、それからすべてを引き抜いた。
 はぁあ、ふっ。
 間の抜けた悲鳴が口を飛びでる。
 そしてまた体内で深く浅く動かされる。今度は長い。
 それはいつなのだろう。かまえているはずが、その不安が持続すればかまえていること自体が無意味になる。そのとおり、引き抜かれたときは不意打ちでしかなかった。
「出、出ちゃうっ……んくぅっ、ふぁああああ――」
 舌っ足らずの悲鳴と一緒に、体内からは水分が搾りとられていった。

NEXTBACKDOOR