第1章 初恋は実らない
1.不埒な後悔
花見とは名ばかりで、可憐かれんな桜の色とはおよそそぐわない、下品な笑い声とへべれけな振る舞いと怒号のように傲慢な言葉が飛び交う。 それに耐えられなくて、自ら命が尽きることを選んでいるのではないか。桜が散るたびに、二宮珠美にのみやたまみは頭...
2.湯たんぽのお礼
入社式から三週め、週末にもなると生活パターンはおよそ身についた。明日から二連休だと思うと、もう少し、とがんばりがきく。 けれど、想像を絶する朝の通勤ラッシュも仕事も言葉遣いも、まだ慣れることはない。住んでいる町の雰囲気にもなじめていない。 ...
3.生まれたての恋と月並みの言葉
境井のほうから電話をかけてくるとは思っていなかった。境井の立場からすれば、見知らぬ番号は珠美の携帯番号とはかぎらない。 嬉々とした感情などなくて、あるのはひどい当惑から生じるパニックだった。それでも、待ち望んでいたことであり、出なくちゃ、と...