NEXTBACKDOOR|ふぞろいの恋と毒-クロス-

第2章 身の程知らず
6.ケダモノの痛み

 最初からおかしな集まりだと感じていた。それは住む世界の違いのせいだと思っていた。けれど、なんのせいでもなく、ただ彼らが異常なのだ。
 静華が云っていたずるい男とは、まさに桔平のことだった。忠告するためならまだましだったが、そうじゃなく、静華はおもしろがった。紫己への当てつけでもありながら、少なくとも朱実のことは目新しいおもちゃみたいな扱いだ。静華だけでなく、桔平がどういう人か知っていながら、だれもが知らないふりをしたことは確かだ。
 自分のばかさ加減にあまりに幻滅して、泣くことも、それを通り越して笑うこともできない。
 会場のエントランスに行くと、預けていたコートを受けとった。すると、横から手が伸びてきてコートをひったくられる。
「あ……」
 反射的に振り向くと、すぐ傍に紫己が来ていた。
「袖、通して」
 安くしか見えない安物のコートを広げて紫己が待つ。
 自分でできます、と云うにはスタッフの目があってそうはできなかった。引っ込み思案な性格は厭わしい。引っ込み思案ならのこのこ表に出しゃばらず、それなりにおとなしく隠れていればよかったのだ。

「すみません、ありがとうございます」
 コートを羽織り、お礼を云って顔を上げたと同時に朱実は手を取られた。断りもなく手を引かれ、転がりそうになりながら足を踏みだした。
「紫己、帰るの?」
 出入り口まで来たとき、喧騒のなかでも静華の声がくっきりと通ってくる。
 紫己が立ち止まって振り向き、正面からぶつかる寸前で朱実も足を止めた。振り向こうとすると、手がぐいっと引かれる。そうするなということなのか。
「ああ、朱実さんを送ってから帰る。明日も仕事なんだ」
「送っていくって、それ、桔平がやることじゃないの?」
「桔平の初黒星だ。からかってやったらいい。じゃあ」
 静華の返事を聞くまえに紫己は躰を反転させると、出入り口のドアを抜けた。

 外に出たとたん寒々とした風に纏わりつかれ、朱実は肩をすくめる。冷たければ冷たいほどその刺激があれば、いま感じていることが軽くなるような気もした。
 紫己は歩道に出ると、客待ちのタクシーを近づいていく。
「あ……あの!」
「このままきみを独りにしてほっとくわけにはいかない。乗って」
 大丈夫です、とその言葉はまた発することはできなかった。

 半ば強引にタクシーに押しこめられ、次いで自分も乗ると、紫己はタクシーの運転手に場所を告げた。
 それは朱実の住み処でもなければ、方向も違う。
 紫己もあの仲間だ。桔平について判断を誤っていたように、紫己を身近に感じたこともきっと幻想だ。それでも任せていいのか、不安は拭えない。ただ、行き先がどんな場所か、訊くのも億劫だった。
 車中、パーティの結末が悲惨で、それが話題にのぼるはずもなく、ふたりとも口を閉ざしていた。ほかに共通の話題と云えば、やはり紫己の仲間たちだけで、朱実はとても話す気にはなれない。彼らとは縁を切る以上に、朱実は忘れられないとしても、彼らのなかから朱実の記憶を消し去ってほしかった。
 そうして三十分くらいたっただろうか、息苦しいような沈黙を最後まで維持してタクシーは歩道につけられた。すんなりと降りるには抵抗がある。ここは来たことのない街中で、このまま近くの駅まで行ってほしいと運転手に告げるべきだ。そんな良識が働いたが、それを見抜いて機先を制するようにさきに降りた紫己の手が伸びてきた。
「降りて。きみが大丈夫か、見届けさせてほしい」
 断れない云い方だ。おずおずと出した手は素早く取られた。

 紫己は、手を放したら気を変えて逃げるとでも思っているのか、タクシーが発進するよりも早くしっかりと朱実の手をつかんで歩きだした。背の高いビルが実際どれほど高いのか、それを見上げて確かめる間もなかった。
 なかに入ると、ホテルのフロントのようなカウンターがあり、なかには男性と女性がいる。おかえりなさいませ、と声がかけられた。場所を案内するわけでもなく、スタッフが最小限しかいないことがホテルではないと裏づけている。
 エントランスを抜けて内ドアを通りすぎるとエレベーターがあった。紫己に促されて乗りこんだエレベーターは二十階から上のボタンしかなかった。紫己は34≠フボタンを押す。
 乗り合わせた人はなく、ふたりきりだった。相変わらず黙りこんでいたが、お喋りをしたとしても一つのテーマすら消化できないだろうというほど早く三十四階に到着した。

 エレベーターホールを出ると、紫己は斜め前にある廊下を奥へと行く。さきは行き止まりになっていて、その少し手前にくぼんだスペースがあった。エントランスらしく、ドアがある。通ってきた廊下にはほかにドアは見当たらず、完全に独立したスペースになっていた。
 紫己がドアを開け、促されて入った部屋は、明らかに個人の家だった。つまり、紫己の住み処に違いなかった。
 玄関を開ければ玄関の照明がつき、廊下に上がって進めばそこそこで照明が反応する。贅沢が尽くされているのはそれだけでわかった。

「コーヒーと酒、どっちがいい?」
 リビング兼ダイニング兼キッチンという部屋のなか、キッチンスペースに入った紫己が問いかける。
「もう……いりません。パーティでいろいろ飲んでみたから……」
 断ったにもかかわらず、紫己は返事をせずにグラスを用意し始めた。冷蔵庫の開閉音がして飲み物を注ぐ音がする。
 その間、朱実は部屋を見渡した。このLDKの部屋だけで朱実の部屋はまるごとおさまってしまう。いや、それでもまだ余裕があるかもしれない。
「座って」
「いえ……かえって落ち着かない感じです」
 そう返事をすると、グラスをテーブルに置きかけていた手が止まる。紫己はゆっくりと躰を起こした。
「それなら、せめてバッグを置いて、コートを脱げばいい。この部屋は寒くないだろう?」
「……はい」
 常に温度は快適に保たれているのか、コートを脱いでもまったく寒くない。
「高階さん、ここが高階さんの家?」
「ああ」
「でも……このまえ電車で送ってもらったときとは方向が違います」
「憶えてた?」
「たった一カ月まえのことです」
 紫己は可笑しそうに吐息混じりの笑い方をした。
「確かにそうだ」
「二つ家があるならべつですけど」
「はっ。二つも面倒見れるほど暇じゃない」
「ここは……明かりを見下ろすって贅沢ですね。はじめて知りました」

 外を見やると、窓ガラス越しにきらきらした明かりが見え、伴って自分の姿も窓ガラスに反射して見える。亡霊みたいに色合いがなくかすんでいて、いまの自分の心境とオーバーラップした。
 背後で足音がしたと思うと、紫己が真後ろに立つ。紫己もまた、窓ガラスにその姿を映す。朱実は、一カ月まえの電車のなか、車窓越しに紫己を見つめていたことを思いだす。
「明かりを消せばもっときれいに見える」
 それが命令になったかのように、リビングの部分だけ明かりが消える。すると、光の数が格段に増した。

「ほんとですね……すごい」
「桔平のことも……男を好きになったのもはじめて?」
 問いかけは出し抜けであり、そんなことを訊かれるとも思っていなくて、朱実は戸惑い、すぐには答えられなかった。
「ずっと避けてきたから、近づく人もいなかったし……岡田さんみたいに積極的な人もいかなかったから……」
 朱実は遠回しに返事をした。紫己は自分が訊いたわりに無反応で、静かすぎるほどの沈黙が満ちた。タクシーとは違って道路から遠く、まったく雑音が届かない。
「でも、大丈夫です」
 取り繕うように朱実は口を開いた。そして――
「もともと……」
 と云いかけていたとき、動く気配を感じたと思うと首の後ろに何かが触れる。紫己の手だ。
 朱実がそう認識するのとどちらが早かったのか、ジッパーがおろされる。それだけではなく、開いた背中の服を左右それぞれにつかんだ手によって、ジッパーの領域を超えワンピースは裾まで裂かれた。

 何をされたのかはわかっても、それがどういうことなのか、朱実はまったく理解できなかった。
 足音を捉え、すると紫己は朱実の正面にまわってきた。
 肩に手が伸びてきて服を左右それぞれにつかみ、躰から服を奪っていく。袖から抜かれた腕がぶらりと下がる。
 その間、呆然と見上げていた紫己の顔は、窓に映る顔みたいに表情が読みとれない。否、まだよく知りもしない紫己の心情が朱実に読みとれるはずがない。
 ワンピースは足もとに落ちる。朱実を見つめたまま紫己はネクタイを緩めた。シュルッと布の摩擦音が耳につく。餌に釣られた動物のように、朱実はネクタイがほどけていくのを見守った。
 襟もとからネクタイが抜き取られる。すると、朱実は右手を取られた。次に左手が取られると、纏められた両手にネクタイが絡んだ。二重に巻きつき、紐の端を余らせて拘束された。

「自由になれないことの苦しみを知ってる?」
 その問いかけに朱実は顔を上げた。見上げた紫己は何か思いつめたように見える。星も月も出ていない暗夜のなかで薄らと浮かぶような、ほの暗さを感じさせた。
 だれ?
 そう疑問に思うほど、いま目のまえにいる紫己は、朱実がイメージしていた印象とはまったく違う。
 舌が貼りついたように返事を言葉にできない。紫己は催促するでもなく、あまつさえ答えは必要でもないようで、そっぽを向いた。
 それはついてこいという合図だったのか、紫己はネクタイの端を持って唐突に歩きだした。追わなければ転んでしまう。朱実はつまずくように一歩を踏みだした。

 リビングの奥からドアを一つ通り抜けると、そこはベッドルームと書斎が一緒になった部屋だった。右側の窓際とは反対側に大きなデスクがあり、奥の壁にヘッド部分をつけた形でベッドが置かれている。
 紫己はまっすぐベッドへ行った。
 黒いベッドは革張りだろう、ふたりでも有り余るくらい大きい。見える部分のベッドの黒さとは対照的に、シーツは真っ白だ。ふとんは足もとにはぐられている。

 紫己は立ち止まり、振り向きながらネクタイを放すと、朱実の背中に手をまわして押した。なんの心構えもなく、朱実はベッドに倒れこんだ。
 そのことが、パーティであったことを思いださせる。桔平と愛結の話を盗み聞きしていたとき、紫己から離れようとして朱実は背中を押されたのだ。
 それがどういうことなのか。
 紫己は、面倒見のいいお兄さんではまったくない。

「高階さん!」
 やっと声が出て、もがくようにしてうつぶせに倒れた躰を起こそうとすると、紫己の手が腰もとをつかみ、朱実を枕のほうへと押しやる。体勢を立て直す間もなく、ネクタイがまた引っ張られた。
 金属音を耳にしながら、肘をついて顔を上げると、朱実は見落としていたものに気づく。あるいは、オブジェと思って気にしていなかった。ベッドヘッドの上には黒いアイアンの壁飾りがある。よく見ると、それはとぐろを巻いた蛇のようだ。その下に輪っかが付属し、そこから鎖が垂れて、枕もとのところでまた輪っかがある。ネクタイはそこに結びつけられていた。

「バージン、だよな」
 訊くと云うよりは確認している感じだ。
 愛結がからかった質問から、そう解釈しているのだろう。事実、そのとおりでだれにも抱かれたことはない。
 なぜ繋がれているのか、これから何が行われるのか、漠然とわかりながら消化できていない。
 頭がますます混乱するなか、衣擦れの音がした。横に顔を向けると、すぐ傍で紫己がシャツを脱いでいる姿が目に入った。アンダーシャツを脱ぎ捨て、ベルト、スーツパンツに靴下、そして、ボクサーパンツと、紫己の躰からすべて身に纏うものが消えた。
 いつも会社で仕事をしている。そんなふうに思っていたけれど、インドアの仕事には思えないほど、紫己の躰は鍛えられている。隆起を繰り返しながら、きれいなラインができあがっていた。
 靴下を脱いでいるとき、かがんだ拍子に見えた腕の墨に目が行く。上腕の外側に彫られているようで、この体勢からでは一部分しか見えない。痣なのかもしれないし、シールや消えるタトゥーかもしれない。けれど、いまそんなことはどうでもいい。墨の次に目が行った場所は、オスの意思を宿らせていた。
 男性に抱かれたこともなければ、躰を見たこともない。何をするためにオスがいまの反応を現しているのか知識はあっても、それが実際に女性の躰におさまるとは思えなかった。
 その怖れと、なぜこうなったのかという成り行きが把握できないうちに紫己はベッドに上がり、朱実の脚の間に入った。腰だけが持ちあげられる。
「高階さんっ」
 叫んでもなんの応えもない。
 さっきから互いに一方的に語りかけるだけで咬み合っていない。

「高し……あっ」
 再度、呼びかけた声は悲鳴に変わった。
 キャミソールが捲られた。反った背中をキャミソールは重力に従って滑り落ち、肩甲骨の辺りに溜まる。
 次にはショーツが引きおろされて、お尻が剥きだしになった。頼りない気分に晒されると同時に、経験のない羞恥心に襲われる。
「高階さん、やめ……んっ」
 引き止める声は最後まで言葉にならず、躰の中心に普通なら感じることのない風が触れてきた。
 直後、紫己の手が躰の中心を開き、敏感な突起が生温かさで撫でられた。はじめての感覚に、朱実は腰をふるわせた。そのふるえが止まらないうちに、また襲われる。刺激を与えているのはきっと紫己の舌先だ。つつくように触れられ、それから円を描くようにうごめいた。
「あっ……ふっ……ぃやっ……やめ……ああっ」
 やめてほしいとまともに訴える暇なく与えられる刺激は、経験のない朱実にとって強すぎた。

 無理やりにされているのに嫌悪感がないのは、紫己に甘えるつもりでいたからだろうか。
 そもそもの原因は、桔平のことを夢見てしまった自分にある。デートの誘いでも、断りたいというのは本当は違っていて、断らなければならないという、どうしようもない足枷があったせいだ。それを、朱実は自分のことを優先してあの出来事を忘れようとしている。あるいは自分を許そうとしている。
 その結果がいまだ。
 桔平が桔平なら、仲間である紫己も同類に違いない。それなのに、桔平に幻想を持ち、それが敗れたからといって、今度は紫己を当てにして頼ろうとした。紫己は、静華と違って桔平のことをはっきり忠告してくれたから。けれど、裏切られた。いままでも、だれも朱実にはっきり打ち明けてくれたことはない。傷つけていたことも、傷つけられていたこともあとからしか気づけない。

「ん、はっ……」
 ふいに吸着音を立てて紫己は中心から顔を放した。吸いこまれそうな心もとなさは放出しそうな感覚に入れ替わる。かろうじて耐えたけれど、それが快楽なのか生理的現象なのか、区別はつかない。
 ベッドが揺れると、腰をつかまれる。体内の入り口辺りに何かが押しつけられた。硬いけれどやわらかい。そんな相反したものを持つのは紫己のオスに違いなかった。
「いやっ。もうやめてっ……んんっ」
 怖い。あんなものが入るわけない。そんな気持ちに占められるなか、指とはまた違った感触で突起が撫でられた。お尻が跳ねあがる。
 何をしているのだろう。紫己はその辺りでオスを上下させながらしばらく擦りつけた。だんだんと摩擦がなめらかになっているように感じる。
 朱実が悲鳴をあげても制止する言葉を吐いても、紫己は薄気味悪いほど沈黙を守っている。背中越しで顔は見えず、もしかしたら、いつの間にか紫己はだれかと入れ替わっているのかもしれないという恐怖にも晒された。

 腰をよじって逃れようとしてもかなわず、逆に、それまでよりももっと強く腰がつかまれて身動きが制された。躰の中心にオスの先端が合わせられる。
「んっ」
 入り口が抉じ開けられ、オスの先が入りこんだ。息を詰めていたが、それを解く間もなく、先端部分まで潜りこんできた。それだけでいっぱいという気にさせられる。それなのに、オスは容赦ない。引くことはけっしてせず、紫己は加減することなく、一気にオスを沈めてきた。
 そこが穿たれた瞬間、朱実が逃げようとしたのは本能だ。けれど、がっちりとつかまれて腰もとはびくともしない。
「あ、ああああぁぁ――っ」
 背中がこれ以上になく反り返り、朱実はのどを反らして顎を突きだすようにして悲鳴を迸らせた。

 送ると云ったり見届けたいと云ったり、無理やりだろうがそれまでは、桔平に対するものと種類は違っても、どこかで紫己に幻想を抱いていた。やさしさが少しでも見えるのなら、今日一日だけ、とそんな気持ちのもとどうなってもかまわないと任せたかもしれない。たった一時間まえ、もう二度と男性と係わり合いたくないと思ったから。もう二度と抱きしめられることはないと思ったから。
 そのささやかな朱実の望みを紫己は打ち砕いた。
 痛みが引かないうちに紫己は腰を引く。ずるりと内部のひだを引きずられるようで、ひりつく。抜けだす寸前で、紫己はまた突いてくる。容赦なかった。朱実のお尻と紫己の下腹部が密着すれば、オスの先端はまた違う痛みを伴って最奥をつつく。
「うっ」
 嫌、出ていって。そんな言葉も声にできない。歯を喰い縛っていないと痛みが折り重なって襲ってきそうで、朱実はくちびるまで咬んで声を防いだ。
 また引き抜く寸前まで離れていき、その間の軋むような摩擦に耐えた。かと思うと。
「うくっ」
 お尻で肌のぶつかる音が弾け、最奥を抉られる。
 それが何度繰り返されただろうか、紫己の律動がだんだん早くなっていく。

 やがて、朱実の呻き声に混じり、紫己が背中の上でくぐもった声を発した。思いやりは欠片もなく、ただ獣の行為を続ける。紫己の呻き声が何を意味しているのかは本能的に悟った。
 朱実のなかでは痛みと引き換えてオスの形が鮮明になっていく。苦しさに喘ぎながら呼吸もままならずに耐えられなくなった。
「い……やあっ」
 精いっぱいの抵抗を吐いて、朱実は意識が薄れていくままに任せた。


 窮屈な摩擦に耐えるのも限界だった紫己は、弛んだ直後の朱実の体内に精を吐き散らした。くすぐったいような解放感に塗れる。
 だが、その快楽は一瞬という言葉で片づけるにはもっと短いような気もした。
 荒く息をつきながら躰を引く。朱実の躰が潤んでいたのは貫くまでで、律動の間、ずっと乾いたままであり、紫己もまた身が引きはがれそうな痛みを覚えていた。自分が放った精は、朱実から抜けだす間、その摩擦を和らげる。
 オスは赤くまだらに染まった部分があった。紫己の精に赤が混じってシーツに落ちる。
 朱実の痛みは紫己の比ではない。わかっていてそうした。なんのために――復讐のために。それなのに、そうしたところで、紫己はなんの満足も得られていない。

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