愛魂〜月の寵辱〜
第6章 裏切りの遊戯
#4
このまえの日曜日はつかの間だったけれど、毬亜と吉村は普通の恋人みたいにしていられた。未来さえ思い描けた。ドライブをし始めて間もなく毬亜は眠ってしまって、ふたりでいられる貴重な時間をロスしたことに自分で自分を責めて泣きたくなった。ただ、時間まで起こさないで一緒にいてくれたことは吉村の毬亜に対する気持ちの証明だと思えた。
けれど、すべて幻想だったかもしれない。
「マリ?」
嵐司に呼びかけられても返事をしないでいると、「どうした?」とふた言めが発せられた。直後、断りもなく浴室の扉が開けられた。
とっくに丹破家から帰っていた嵐司は、毬亜が家に帰るのに合わせたようにマンションにやってきた。それは、宴が久しぶりだったから“幽体離脱”を気にしてのことか。
今日は捨て鉢になったせいで、放心しているというよりは疲れるほど考えすぎていて時間がわからなくなっている。
浴室に入ってからどれくらいたったのか、いま嵐司がなんらかの異変を察知していることは確かだった。それとも、吉村の命があってこそわかっていることなのか。
三月に入って――厳密にいえば、母の最後の電話から、めずらしいことが重なる異様さ。それらが偶然ではなく繋がっていることを毬亜は本能的に悟っている。
嵐司は、浴室にいながら水滴一つない躰を眺めまわしたあと、毬亜の目に焦点を合わせて首をひねった。
「話してみろ」
「……吉村さん……と艶子さん、結婚の話があっただけじゃなくて……藤間一家に住みこんで艶子さんが面倒を見てくれたって云ってたけど……それだけじゃなくて恋人とかそういう関係だったの? いまも続いてるの?」
「なんでそう思った?」
「今日……コーヒーを持っていったときに……見たの」
嵐司は、毬亜のお目付け役を謙也と交代して、艶子の部屋に行っている間に帰っていた。そのときに何があったのか、嵐司は思い巡らし、結論を出したのだろう。すぐには反応しなかったがしばらくしてため息をついた。
「一月さんは個人的なことをあまり話す人じゃないから事実はわからない。艶子が一月さんとの結婚に乗り気だったのはまえに云ったとおりだ。そのぶん、丹破総長を毛嫌いしている。まだ一月さんとのことをあきらめきれていないってことはあり得る」
「嵐司は、総長の許可がないと、あたしと吉村さんはだめだって……吉村さんと艶子さんは許されてるの?」
「まさか。内々のことだ。総長にしろ、艶子はあのとおり従順とは云いがたいし、子供ができないことにも不満を漏らしている。そのくせ不義を働くとしたら、許しちゃおかないだろ。相手が一月さんならなおさらだ。艶子は自分が子供はできにくい躰だとか云ってるけど、できないようにしてる可能性はある。古くからいる連中は少なくとも後者だと思ってる」
吉村は、知られたらまずいにもかかわらず、毬亜のことは抱かなくても艶子は抱く。そこにどんな意味が潜んでいるのだろう。
「ダメなのにダメなことをするって……吉村さんが結婚してないのは艶子さんのせい? 艶子さんのため?」
「一月さんがうちにいたとき、おれは子供だったから男女の関係なんてわからなかったし、気づかなかった。親父から聞いたかぎりじゃ、一月さんには艶子さんのまえに女がいて、その女のために、もしくはその女がきっかけで吉村さんはこっちに足を踏み入れたらしい。その女は死んだって聞いてる。ただ、昔のことだろ。それを気にしてたらきりがない」
「でも、このまえあげたペンダントのプレゼント。吉村さん、外してた」
「おまえは本当に子供だな。逆に、それつけたまま、ほかの女抱くってほうが無神経だとおれは思う。おまえだって、買ってもらったってはしゃいでたくせにいまはネックレス外してる」
確かにそうだ。宴であれラブドナーの仕事であれ、身につけていたら汚されるような気がして外したのだ。
「艶子さんとのことは昔のことじゃない」
「だから、人間関係はそんなに簡単なものじゃない。子供だって学校通ってればそれくらいわかるだろ」
毬亜は顔を背け、嵐司の視線を逃れた。
「嵐司が何が云いたいのか全然わからない。でも、わからなくてももうどうでもいい。嵐司、もう帰っていい。嵐司と会えるのはあと一回? あたしも嵐司も、きっとお互いのこと、すぐ忘れちゃうね」
嵐司は浴室を出ていきもしなければ喋ることもない。少なくとも毬亜のほうは何一つ隠し事がなくて、沈黙がはびこっても気詰まりはしない。ただ、嵐司のまっすぐじゃなくひねくれた心配もうっとうしかった。
必要なのに指のすき間から漏れて失っていく感覚は少しも慣れない。
「ツーショット写真とか一月さんの写真とか、おれにはまったく不要なもん送りつけておいて、おれが忘れるだって? おまえは、世のなか一月さんだけじゃないってことを学ぶべきだな」
動く気配に目を向けると、嵐司はシャツのボタンを外していた。何をするつもりか、息を呑んで見守っているうちに、すぐ傍でしなやかに起伏した上半身が晒された。
「嵐司……」
何してるの? とそんな言葉すら続けられないほど、毬亜は憮然(ぶぜん)として嵐司が服を脱いでいくのを眺めた。
ボクサーパンツまで脱ぎ捨て、全裸になった嵐司の躰は毬亜の想像とは全然違っていた。
背が高いからだろう、服を着ているときは細身だと思っていたのに、いざ剥ぎとってしまうと、ちょっとやそっとじゃびくともしないような躰つきだった。筋肉が張って太いわけではなく、細身を保ちながら、男の肉体とはこうあるべきだという輪郭と起伏のバランスがいいのだ。
芸術的な感覚で男を美しいと感じたのは、吉村に次いで嵐司が二人めだ。これまで何人もの男の裸体を見てきたが、そう簡単にめぐり合うものではなかった。
自然とオスの部分に目が引かれてしまうのは、毬亜のメスとしての本能なのか。
すでに嵐司のオスは自己主張をしていた。いつも冷静な嵐司が本当は毬亜をどんなふうに見ていたのだろう。そんな疑問を投げかけたくなる。子供扱いばかりするけれど、少なくともいまの毬亜は、さながらコケティッシュな妖婦に映っているのかもしれない。
嵐司は浴室に入ってきて毬亜の正面に立った。
指先に顎を持ちあげられたかと思うと、嵐司の顔が急速に近づいてきた。五センチくらい離れたところで接近は止まった。話しかけてくることもなく、伏せた目のさきに何を見ているのか、嵐司はその距離を保ったまま微動だにしない。
なんとなく毬亜も目を伏せると、嵐司の口もとが視界に入り、するとそのくちびるがわずかに開いた。フェロモンを散らすようなしぐさだ。ちょっと驚き、すっと呼吸音を漏らした毬亜の口は一瞬後にふさがれた。少しのすき間をついて舌がくちびるの間を這う。そうして吸いつきながら、逆に嵐司は顔を上げていった。
半年も付き合いがあればなんらかの情は生まれる。ふたりの間には家族のような情が存在したかもしれないが、いまの相対した嵐司のしぐさはその関係を超えて、離れたくないという名残惜しいようなキスにした。
「躰、洗うんだろ」
かがめていた躰をまっすぐに起こした嵐司は何もなかったようにいつもの調子で云い、シャワーヘッドをつかんで蛇口をひねった。
宴のあと丹破家でその痕跡は洗い流すのだが、家に帰ればやはり洗わずにはいられない。きれいには戻れなくても、それでやっと肌に残った男たちの影を忘れることができる。
自分でやると云ったのに、嵐司は聞かず、毬亜の躰を濡らしたあと泡塗(あわまみ)れにしていった。
洗うという名目のもと、いままた嵐司に触られることで影の上塗りなりそうだと思ったのに、予想外に、忘れるのではなく消していくという効果をもたらす。
やがて、嵐司はシャワーを当て、毬亜の躰から泡を落としていく。それから、シャワーを流しっぱなしにして温めていた壁に毬亜を寄りかからせた。足もとにかがんだかと思うと、嵐司は片脚をすくって自分の肩に膝を引っかけさせた。
無防備になった躰の中心に嵐司が顔を近づけてくる。息が触れたと思った次には、花片に吸着された。
あっ。
離れて、また吸着する。それを二度繰り返したあと、嵐司は吸いついたまま、舌を出して花片の突起をつついた。
そこで舌はぐるぐると小さく円を描き、毬亜のなかに悶えるような感覚をともらせた。
あ、んっ。
最初の悲鳴はただ過敏な場所に触られた反応にすぎなかったけれど、くちびるを咬んでも漏れだした声には熱がこもっていた。
やっていることは変わらないのに、ほかの男たちと嵐司は何が違うんだろう。ぶるぶると腰がふるえだすと、嵐司は吸いつくだけではなく吸引した。漏れだしそうな感覚は怖さと羞恥を生む。
い、やっ。
感じたいと思っているわけじゃないし、感じるわけがない。拒絶の言葉はその気持ちを代弁しているはずが、それが白々しいほど毬亜の腰はねだるようにうねっていく。
「ふ、はぁっ、あ、ああっ……だめっ、漏れちゃ……うっ」
嵐司は単に無視しているのか、毬亜の拒絶に煽られたのか、突起を吸いこみ、ねっとりと舌でねぶった。そこから一気に快楽が脳内に達する。
「ああっ、やっ、いやあぁああ――っ」
搾りとられるような感覚で漏らした液が嵐司を汚す。
毬亜は快楽の果てに達して喘ぎながら、そこには破廉恥な自分に対する落胆の嗚咽が混じった。生き延びるべきか否か。それは吉村を信じられるかということにかかっている。そんな曖昧な気持ちが自棄に働いて、そうしたら、いとも簡単に毬亜の躰は開くのかもしれなかった。
嵐司は顔を放して、かわりに指を膣内にうずめた。
「ああっ、や……っ」
逝ったばかりで続けざまに与えられる刺激は快楽の収束を阻(はば)む。
一時間まえまで男根がいくつも出入りした場所は、すんなりと嵐司の指を受け入れている。指よりも太いサイズに慣れているせいではなく、毬亜が感じているせいだ。ゼリーなど使わなくてもぬるぬるしているのがわかり、嵐司が指を動かせば粘着質の音が際立つ。
まるで男たちが吐きだした残骸を掻きだすような動きに、毬亜はまた昇らされていく。一度快楽を覚えてしまえば、毬亜の躰はそれを止めることができないのかもしれない。
吉村が艶子を抱いているのを見て、引き裂きたいほど――もしくは、目に見えているのにあり得ないと否定したがるほど、嫌だと思った。そこに、どんな感情があろうと感情がなかろうと関係ない。ただ、吐き気を催すほどの受け入れたくない気持ちに占められた。
それなら、無数の男たちに抱かれる毬亜を見て、吉村は何を思っていただろう。
母とは違う。穢されようが、快楽を感じなければ、吉村から目を逸らす必要はない。そう思ってきたのに、いま毬亜の躰は毬亜の気持ちを裏切っていた。
そもそも、吉村の心に毬亜でも母でもなく、艶子がいるとしたら、毬亜がだれに犯されようとなんの感情も発生しないのだ。
自分さえ裏切ってしまう毬亜の気持ちは宙ぶらりんでどこにも着地できない。
浴室に裏切りの嬌声が響く。
嵐司は巧みに毬亜の弱点を突き、追いあげた。ぐりぐりとそこが揉みこみまれ、あとからあとから快感が押し寄せる。
二度め、毬亜は激しく躰を痙攣させながら蜜液までもまき散らした。
脚に力が入らず、くずおれる躰は嵐司がすくいあげた。
全体重を預けながら、毬亜は快楽が途切れないまま逝かされることのつらさを思いだした。躰の痙攣が止まらず、あの夜、その余韻を一気に冷ましたのは痛みだった。
心とおぞましい躰を切り離せたらいいのに、毬亜はこの躰とずっと付き合っていかなければならない。もはや、どこからか借りてきた器(うつわ)のような感覚だった。否、そう思っていなければ生き延びられない。
嵐司は濡れたままベッドに行き、抱えてきた毬亜をおろすと、下敷きになったふとんを引っ張って床に落とした。
「奉仕されるほうとするほう、どっちがいい?」
嵐司はベッドに上がりながら訊ねてくる。そういうことを訊かれるとは思わなくて、毬亜は視線を宙にさまよわせた。そうしてお告げが浮かびあがってくるはずもなく、毬亜は首を横に振った。
「なんでもかんでも受動的だな。おまえの意思はどこに行ったんだ?」
「取りあげたのはあたしをここに閉じこめてる人たち」
「おれもその一人か」
批難を込めた声音に気づいたようで、嵐司は口を歪めて笑った。
毬亜の膝を立て、その間におさまった嵐司は胸の横にそれぞれ手をつくと、上体をかがめて伸しかかるように真上にきた。笑みの余韻をくちびるに残しながらも、瞳は少しも笑っているようには見えない。戸惑うくらい、じっと見つめられる。まるで、心底を覗くだけではなく、そこから何かをさらっていこうとしているみたいだ。
嵐司は右手を上げると、左の頬をすっぽりとくるんだ。顔をおろしてきて、浴室でのように口づける寸前で止める。
その距離に何か意味があるのか、ほぼ無自覚に目を伏せたとたん、また嵐司が口を開くのが見え、そしてくちびるがぺたりとくっついた。濡れたままいたせいか、嵐司のくちびるは冷たい。もしかしたら毬亜のくちびるもそうで、けれど舌は温かい。
嵐司は舌でくちびるをなぞり、すき間を割いて裏側をたどる。触感が気持ちよくて、毬亜は自分から口を開いたかもしれない。嵐司の舌が無遠慮に毬亜の舌を探り始めた。
キスは嫌い。
好きでもなく、ましてや嫌悪を感じていれば吐き気しかもたらさないから。
けれど、嵐司のキスは嫌じゃなかった。
舌がもつれて融合したみたいに自分のものか嵐司のものか、区別がつかない。ふたりの間にできた蜜を飲みくだすたびに、口の端から飲みきれなかった蜜がこぼれる。
息切れして熱に浮かされたようになると、嵐司の舌が口内から退いていく。口角についたキスの痕を舐められながら、さみしいような心もとなさを覚え、毬亜の口からは無意識に欲求のこもった呻き声が飛びだした。
「入れるぞ」
嵐司は躰を起こすと自分のオスに手を添え、その先端を毬亜の中心に合わせる。くびれた部分が体内に入っただけで、毬亜は身ぶるいした。ぞっとしたのではなく、その反対で脳内まで抜けるような快感が走った。
そのまま進めてくるかと思えば、嵐司はそこで出入りを繰り返した。入るときのこじ開けられる感覚も、出ていくときの入り口を突破される摩擦も、敏感すぎるほど刺激になっている。腰がふるえて止まらない。
「んあっ、だめっ」
逝きそうになった瞬間、嵐司が最奥まで貫いた。
あ、んぁああっ。
痛みではなく衝撃に悲鳴が漏れた。嵐司の男根は、摩擦から避けられる余地がないほど毬亜のなかをいっぱいいっぱいにする。いま逝きかけたことを思うと、少しの動きでも撹乱されそうでほのかに怖い。
「大丈夫か」
もうヴァージンではなく、ましてや好意もない男根に数知れず犯されたことを承知しているはずなのに、嵐司はそんなことを聞く。
「きつい感じだけど平気」
うなずいて答えると、嵐司はウエストと肩の下それぞれに手を潜らせた。何をするのかと思えば、抱き起こされる。
ん、ぅうんっ。
思ったとおり、ちょっとした動きだけで悶えるような感覚をもたらした。
嵐司はあぐらを掻いて、躰の中心を密着させたまま毬亜を正面から抱く。
「セックスで気持ちよくはなれてもまだガキだな。何もわかってないから受け入れることしかできない」
ほんの目の上にある嵐司のくちびるがつぶやいた。愚かだというような、ばかにした云い方ではなかった。そのトーンに潜むのはなんだろう。
「だから……」
嵐司は続けて云いかけて口を噤んだ。
「だから?」
「いや……一月さんから離れるか離れないか、選択権はおまえがちゃんと持ってろ。決めるのは一月さんじゃない。おまえだ」
単純に受けとるべき言葉なのか、もっと奥底には意味が含まれているのか、毬亜にはわからなかった。
困惑しているうちに嵐司は勝手に話を打ちきって、かわりに躰が主導権を握った。両手で毬亜のウエストを引き寄せ、嵐司はお尻の下で腰をグラインドさせる。
ふ、はぁあっ。
呆けたような嬌声が漏れる。こんな感覚ははじめてだった。
最奥を突かれて感じるのは痛みだけだったのに、いまは痺れを引き起こして毬亜の力を奪う。その痺れはすぐに逝ってしまうだろう前兆だ。穿たれる以外がどうでもよくなるほど狂いそうな予感がする。
そうして嵐司は、今度は躰全体を縦にうねらせた。腰がわずかに飛び跳ね、さらに毬亜の快楽を扇動した。
「嵐司……っ」
叫んだ直後、開けっ放しの戸の向こうから音楽が聞こえてきた。嵐司の携帯電話の着信音だ。ふと動きを止めた嵐司だったが、その音を無視してまた動きだした。
あっ……んっんっ。
最初の悲鳴は唐突で堪えきれなかった。そのあとは着信音が鳴る間、なぜか電話の向こうに聞こえている気がして、毬亜は声を出すのをなんとかとどめた。
けれど、次第に気にならなくなっていく。いや、正しく云えば、気にする余裕がなくなっている。芯から及んでくる、ぶるぶるとしたせん動がやまなくなった。逝くまえから力が奪われて、腰を抱く嵐司の腕だけが毬亜を支えている。背中が反り、突きだした胸の先が、熱い口のなかに含まれた。
「ああっ、やっ、だめっ」
その叫びに異議を唱えるかのように、嵐司は胸先を甘咬みしながら吸引した。腕は腰をしっかりと引きつけ、毬亜が逃れないようにしながら腰を突きあげてくる。最奥は敏感にそのキスを受けとめた。
あ、くっ……んあ、ぁあああ――っ。
なかに挿入されて逝くのははじめてだった。激しい痙攣が全身を突き抜け、腰が跳ねあがり、男根が体内から飛びだしそうになる。すかさず嵐司が引きとめ、それだけにとどまらず、まだ毬亜を攻めてくる。
嵐司は逝っていないから攻めるのは当然だ。けれど、このままいけば毬亜はまた逝ってしまう。
「嵐司、壊れるまえに……」
「ああ。我慢してるだけで、そうおれも慣れているわけじゃない。逝くぞ」
一緒に逝きたいという希望は口にするまでもなく聞き入れられ、嵐司は毬亜を抱き寄せて上半身をぴたりと重ねた。汗ばんだ躰が互いを吸着させる。そうして、揺りかごのように動き始めてまもなく、毬亜の悲鳴に紛れて嵐司は呻き声を漏らした。
びくびくした収縮が、嵐司の放ったしるしを呑みこんでいく。その熱さに守られたような気になるのはなぜだろう。ずっと欲しかった感覚かもしれない。
できるのなら、吉村に教えてもらいたかったのに。
そう思ってしまってから、抱くのは嵐司なのに吉村を慕う罪悪感、そして、生き延びて吉村とこうなれるまで待てばよかったという後悔、そんなどうしようもない二つに縛りつけられる。
「マリ」
荒い呼吸のなかで嵐司が毬亜を呼ぶ。
「うん」
「いつか……」
その続きは――
「どういうことだ」
腹を据えた低く太い声がさえぎった。