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DOOR|ふぞろいの恋と毒-クロス-
第2章 身の程知らず
4.仕返し
二十五日はなんの身構えもできることなくやってきた。
桔平の誘いに応じてしまったのは朱実の浅はかさのなせる業(わざ)だ。再度、断ろうとまた意思をひるがえしても桔平はレガーロに現れなかった。あまつさえ、セカンドキスのあと、年末に向けて仕事が忙しいからふたりきりのデートはお預けだ、と冗談めかしてでもそう云われては電話するにもためらわれる。メールアドレスも、ごく一般に普及しているメールアプリのIDも知らないから一方的に連絡することもかなわない。
桔平は朱実の迷いとか優柔不断さを見越したうえで、教えてくれないのではないかと勘繰っている。それが黒か白かはっきりしたからといって事態が好転するわけでもない。好転といっても、何が最善なのか、朱実にはまったく判断がつかない。
お昼も間近、部屋の隅に置いたハンガーラックのまえで朱実は立ち尽くす。
まず、キスにのぼせて、パーティがどんなものなのかを聞き忘れた。ドレスコードの見当がつかず、ましてや目のまえには着回しでごまかす程度しかそろっていない。前回と同じ服では桔平をも気まずくさせるだろう。かといって、スカートをパンツに変えるくらいの芸のなさだ。
落ち着かずに、ついたため息はふるえている。
朱実は後ろを振り返って、小さなテーブルに置いたスマホを見つめた。近づいて取りあげると、桔平の電話番号を呼びだす。
数字の羅列を見ながらしばらく迷った。プライベートの番号だし、出られなければ出ないですむことだから迷惑はかからない。そう考え至って、一か八かという気分で発信マークにタッチした。
耳に当てると呼び出し音が鳴りだす。すぐに通じることはなく、五回めのコールまで数えると朱実はあきらめ、スマホを耳から離した。すると、コールを切断しようと画面に触れる寸前で指が止まる。通話モードに変わった。朱実は慌ててスマホを耳に当てた。
「水戸朱実です」
急くように名乗ると、まずふっとした吐息が聞こえた。
『岡田桔平です』
桔平は朱実を真似てフルネームを告げる。さっきの吐息は笑ったのだろう、おかしそうな声だ。
「すみません、お仕事中に」
『いや。これが断りの電話なら聞くまえに切るよ』
桔平はふざけた声で云い、朱実の選択権を断(た)った。
「あの……」
云い淀むと桔平は声に出して笑った。
『図星だったみたいだ。だめだよ。仕事は八時に終わる。このまえの場所で待ってる。いまから打ち合わせなんだ。電話しても出られないから。じゃあ、あとで』
結局、一方的に電話は切られた。
断るどころか、どんなパーティかさえ聞きだせず、電話はなんにもなっていない。
「どうしよう」
不安は思ったまま声になった。
しばらく呆然としたあと、ほかに訊ける人がいないかと当てを探してみれば、愛結が浮かんだが、あいにくと名前しか知らない。勤務先が桔平と同じだろうというのはあくまで朱実の想像で、本当のところは聞かないままだ。リブネクストの社員だとして、部署はたくさんあるだろうから探すことは困難だろう。
残るのは――紫己だ。
名刺ならもらっている。けれど、紫己もきっと仕事中だ。名刺には会社の電話番号しか載っていないはず。あきらめつつもバッグを探って、名刺を入れっぱなしにしている財布を取りだした。念のために確認してみると、会社の番号だけではなく携帯番号も記されている。仕事用だとしても、直通と書かれているのだから――。
紫己は朱実の電話番号を知らないし、出ないなら出ないでいい。
ためらったすえ、朱実は再び勇気を振り絞って番号を入力した。回線が繋がるまで緊張で頭のなかは真っ白で、どう切りだすかも決められない。呼び出し音が鳴り始めると心音が邪魔をして、パーティのことが訊きたいだけなのに話すことの整理がつかない。
けれど、桔平のときと違って、五回めが鳴り終わっても通話モードになることはなく、不安は取り越し苦労に終わる。呼びだしを中断すると、ジョギングをしたあとのように疲労感だけが残った。
しばらく呆けて、やっと頭がまわりだすとチェストから通帳を取りだす。引っ越し費用と仕事がもらえるまでの生活費で、それまで貯めていたお金は使い果たした。通帳には十万しかない。節約してきてこれが精いっぱいの全財産だ。
ほかに使い勝手のないパーティ服を買うかどうか。迷っていると、ふと電話をするたびに祖母から聞かされる、成人式のために着物をレンタルしなくちゃ、という口癖を思いだした。朱実は毎回、出るつもりはないからいいと云い聞かせなければならない。
考えてみれば、いちいち購入しなくても、レンタルという便利な方法がある。そう決めるとやっと落ち着く。が、すぐに手配をしなければ時間がない。
朱実はスマホを手に取った。ネットに繋ごうとしたとたん、着信音が鳴って、スマホを取り落としそうになった。
それは未登録の番号だった。けれど、ついさっき電話した番号のうち朱実の記憶に残る断片の数字が一致した。
折り返し電話が来るとは思っていなかった。
どうしよう。
今度は内心でつぶやく。迷うまでもなく、朱実のほうがはじめにかけたのだから出ないわけにはいかない。通話に切り替えた。
『高階ですが』
もともと深みのある声が、より低くこもって響き、鼓膜がざわつく。仕事モードだからだろうか。見知らぬ相手に畏まっているというのも一因かもしれない。
『もしもし?』
催促をされて、朱実はまだひと言も応じていないことに気づいた。
「あ、あの……水戸です。水戸朱実です」
今度は電話の向こうが沈黙する。
もしかすると、と朱実は素早く思いめぐらせた。憶えられているという根拠のない自意識過剰ぶりに、頬がかっと火照る。見られていないぶんだけましだったが。
「あ……レガーロの……」
名前ではわからないのだと、慌てふためいて説明しかけると。
『おれが知ってる、朱実さん、だろ。どうしたんだ?』
その声はやわらかく聞こえて、朱実はほっとした。
「すみません、お仕事中に。電話が返ってくるとは思ってなくて……」
『仕事用の電話だ。新規のビジネスを取り逃すわけにはいかないから、知らない番号でも折り返す』
「すみません」
直後の紫己の吐息は、桔平と同じで笑ったのだろうか。
『謝るのはいいから、用件、云ったほうがいいんじゃないか? 今日のパーティのこととか?』
桔平に負けず劣らず、紫己も鋭い。
「はい……さっき岡田さんに電話したんですけど、訊きそびれて……それで今日のパーティはこのまえみたいじゃなくて、本当にパーティみたいな恰好しなくちゃいけないのか訊きたかったんです」
『なるほど。朱実さんは慣れてなさそうだからな。今日は会社の近くのバーを貸し切ったパーティだ。カジュアルすぎず、フォーマルすぎずというところだ』
「……難しいですね」
心もとなくつぶやくと紫己は笑った。
『そう神経質になることはない。大勢で埋もれてしまうから。何か手伝ってほしいなら……』
「あ、いえ……大丈夫です。お店の人に相談して選びます」
『店?』
「はい。華やかなのを持ってなくて、だからいまから出かけてきます。ちゃんと専門の人に相談すれば間違いないと思うので大丈夫です。時間を取ってすみません」
『どういたしまして。じゃあ夜に』
「はい。ありがとうございました」
大きな会社でなくとも社長というだけで畏れ多く、まず近づきになることはない。そのとおり、紫己と面と向かっても電話ででも緊張はする。けれど、紫己の声には、なんの隔てもなく屈託もなく、朱実との間に世界の違いを感じさせない。そうやって、個々の世界に価値はないと云い放った自分の言葉を紫己は証明している。
紫己が語った世界観は、どこか冷めた見方にも思えるけれど、かつかつした毎日でも惨めになる必要はないと、そんな解釈もできて、朱実にとっては励みになっていた。
*
朱実と桔平はネクストビルのまえで落ち合い、それから歩いて会場に向かった。
心配していたドレスコードは間違ってはいなかったようで、桔平は歩きながらあらためて朱実を眺めると、いつもと雰囲気が違うけど似合ってる、と納得したようにうなずいた。そのうえ、いいね、と続いて朱実はほっとした。
レンタルとはいえ、着るものが違うと気持ちまで違ってくる。上は紺色のレース、下は若干光沢のあるベージュのフレアスカートという二色切り替えのワンピースで、高い位置にリボンベルトで仕切りが入る。バッグも靴もそろえて、朱実自身、めずらしく浮き浮きした。こういう楽しみ方もあるという新しい発見だ。
ただ、ビルの二階にある会場に入ってみれば、朱実の高揚感は否応なく沈静化した。紫己は大勢のなかだから埋もれてしまうと云ったけれど、そうではなく、だれもが着飾っているから埋もれてしまうのだ。
その証拠に――
「あら、桔平、また別の子を連れて……」
と云いかけた静華は言葉を切ると、まじまじと朱実を見つめた。
「静華、違うよ。彼女が誤解するようなこと、云わないでほしいな」
桔平の否定を受けて、静華の目は朱実の顔から躰全体を見回した。まるで値踏みするようだ。
「わかった、このまえの子ね。名前は……」
「朱実です。このまえはお世話になりました」
「そうそう、朱実さんだったわ。今日は玉の輿に乗るには絶好の機会よ。がんばって」
「静華、おれがいながら朱実ちゃんにほかの男を勧めるってなんの策略があるんだ?」
わずかにうんざりした様を装って桔平が咎めると、静華はおどけて肩をすくめる。
「あ、そうだった。でも、程ほどにしなさいよ」
「おれの心配より、静華は自分の心配したらどうなのさ」
「来るわね」
静華はわざとか本気か、桔平を睨めつける。
「ぐずぐずしてるからさ、これでも心配してる」
「あら、ありがとう。おかげで、紫己は? って聞きやすくなったわ」
「もうすぐ来ると思うけどな。ただ……」
「“ただ”、何?」
尻切れで終わった桔平の発言は中途半端に浮いたままで、その視線は入り口のほうを向いている。
「同伴がいるみたいだ」
そのことは最初から知っているはずが、桔平は知らなかったふうを装った。
静華の目が桔平の視線を追いかけていく。朱実も釣られるように見やった。
探すまでもなく紫己が目についた。一緒にいるのはやはり美奈だった。
「だれ、あの子」
紫己が美奈に話しかけるのを見ると、静華は険しい声で突き放すように云った。
「愛結の同僚らしい」
「冴えない子」
静華はくちびるを歪めてつぶやいた。
美奈は自分に似合ったお洒落をしている。少なくとも朱実よりは華やかで、裏を返せば、朱実はもっと冴えないと静華は遠回しに云い渡している。みんなが一様にきれいになろうと努力すれば、それに追いつくためには朱実はその倍以上を努力しなければならない。
紫己は桔平の顔が視界に入ったのか、人の間を縫い、美奈を連れてこっちへやってきた。
正面に立った紫己は、電話の成果でも推し量っているのか、朱実の姿をじっと見つめる。
結果、どう映ったのだろう。
「いい感じだ」
桔平には紫己に電話したことを伝えていない。挨拶よりも早い紫己の第一声は、ふたりだけに通じる感想だった。無自覚に朱実のくちびるが弧を描く。
朱実は紫己との距離が一気に近づいた気がした。ちょっとストイックで面倒見のいい兄という感じだろうか。
紫己が笑みの浮かんだ朱実のくちびるに視線を落とすと、逆行して、なぜか纏っていた物柔らかな気配が見えなくなる。それから紫己は、桔平、静華へと順に顔を向けながら、挨拶は言葉を省いてうなずくことですませた。
「今日は来るだろうと思ってたけど……そちらはどなた?」
美奈はここに来た直後、何か疑問に思ったような様で首をかしげていたが、静華のじろりとした眼差しが向かってくると、怖れをなしたように半歩下がった。焦った様子を見せながらも、静華に一礼した。
「愛結ちゃんの友だちで、美奈さんだ。そこで愛結ちゃんと会って、はじめての参加だっていうからおれが案内しようということになった」
紫己の云い訳を聞きながら、ちゃんとしたシナリオができていることに朱実は内心で驚いていた。桔平も知っていたに違いなく、だからさっきは惚けたのだ。
静華はだれに文句を云いようもなく、華美に作りたてた笑みを美奈へと向けた。すると、美奈の目が丸くなる。
「川合先生! やっぱり美容外科医の川合静華先生ですよね。いつも見てます。わたし、ファンなんですよ」
愛結ったらなんで教えてくれなかったんだろう、と独り言のように付け加えながら、美奈はさっきまでの怖がりようはどこへやら、テンションが急上昇して目を輝かせている。
一方で、自らは正体を明かさないくせに見破られた静華は満更じゃない様子を見せた。もっとも、ファンだと申告されれば悪い気はしないだろう。
そうして笑みを浮かべた顔が朱実へと向かってきた。
静華はヘアスタイルを短く変えていて、肩につくくらいの長さだ。毛先がカールして優雅に顔を縁取る。胸もとから肩にかけて大きく開いたボディコンシャスな服は、そう簡単に着こなせるものではない。格の違いを見せつけるような様で首がかしぐと、片方の首もとがあらわになる。ネックレスが照明を受けてきらりと光った。大粒の石はエメラルドとルビーだろうか、クリスマスカラーのトップが目立つ。
弧を描くくちびる、加えて問うように目が見開かれると、朱実は静華が何を示唆しているのか察した。何者かを自ら云うことがなければ、ほかの人に云わせることもしない。それくらい自分が有名(セレブ)だと思っている。よっていま、朱実が静華について知らなかったことを咎めているのだ。
静華については自力で探しだした。ドクターでありながら、その美貌と美の追求へのこだわりを持つゆえ何かとテレビ番組に出て、タレントとしても活躍していた。朱実が知らなかったのは、ひとえに放送時間帯に家にいることは稀で、出演番組を見ることがないという単純な理由だったが、静華はそういった事情を考慮するつもりはなさそうだ。わたしのことを知らないの? と云った傲慢さのもと、朱実が不快感を買っているのは確かだ。
「こんばんは」
静華にどう応えて場をしのごうかとまごついていると、意外にも朱実を救ったのは愛結だった。
顔を覗かせるような首を傾けた愛結のしぐさは、やはり可愛い。トップから髪をふわふわさせ、頭を大きく見せることでよけいに小顔が際立つ。一方で片側に髪を寄せてパールピン二つで少し華やかに見せるという、朱実の努力はかすんでしまう。膝上五センチという無難な丈を選んでしまった朱実と違い、愛結はかがめないんじゃないかと思うほど短い。
朱実にない大胆さには羨望を覚える。
「静華さん、今日も素敵! わたしもそんな服、似合うようになるかな」
「あら。わたしは愛結ちゃんみたいな恰好ができるのをうらやましいって思うけど」
「いまのうちだけですよ。あと二年したら二十五になるし、それを超えちゃったらこういう恰好もどうかと思うし。でも、静華さんは半分芸能人だから、どんな服でも気にしないでいいですよね。うらやましい」
「……まあね」
静華が一瞬、言葉に詰まったように感じたのは気のせいか。
愛結は言葉どおりうらやましそうに語ったが、微妙に若さを主張しているように聞こえなくもない。裏を返せば、静華にもう若くないんだから、と云っているようなものだ。
「おれは歳関係なくそれはやりすぎだと思うけどな」
口を出したのは桔平だ。愛結の剥きだしの腿を指さしている。
ふふ、と愛結は可笑しそうにして桔平を見上げた。
「おじさんくさい説教はやめて。桔平にはどんな恰好しようと害は与えていないし。好きなようにするだけ。桔平を見習ってるんだけど」
愛結は挑発するように顎をしゃくった。
桔平を見上げると、わずかに顔をしかめている。ただ、朱実の視線を感じたせいだろうか、気を取り直したようにその険しさを消し去った。
「確かに愛結の自由だ。けど、おれは朱実ちゃんくらいの恰好が好きだな」
そんなふうに云われるとは思わなくて、朱実は目を大きく開いて桔平を見上げた。
「あ……わたしのはでも……」
「そうね。控えめなお嬢さまの恰好だもの。よかったわね、朱実さん。わたし、桔平の好みを誤解してたみたい」
つんとした愛結は意地を張っているとしか見えない。居合わせただれもが察していて、どう応えればこの場が和むのか、トークスキルゼロの朱実にはさっぱりわからない。
桔平は応える気はなさそうだし、美奈は固唾(かたず)を呑んで、静華は興味深げに、そして紫己はただ傍観者に徹している。
「あの……これはお店の人に無難なものを選んでもらっただけで、わたしのセンスじゃないし、わたしらしい恰好じゃないんです。静華さんもわたしだってこと、最初はわかりませんでしたよね?」
「まあね。桔平のためにわざわざ新調したの? 今度はわたしが相談に乗ってもいいけど。朱実さん、美容のし甲斐がありそうだわ。トータルで面倒みるわよ」
仕返しだ。朱実はそう思った。どうにか取り繕ったはずが、静華は『桔平のために』と強調して凪(な)いだ水面に波を起こす。愛結はかすかにくちびるを尖らせて不快を示し、静華の仕返しは成功した。あまつさえ、愛結に対してだけではなく、朱実を攻撃することも忘れず、『し甲斐がありそう』と云って欠点だらけだとほのめかして見下げた。
自分のことはわかっているからいい。愛結はおさまらなかったようで、毛を逆立てた猫のような気配を纏った。
「愛結ちゃん、ほら、モヒート持ってきた」
救いの主は進武だった。
「向こうに愛結ちゃんの友だちが来てる」
と、立てた親指を後方に向けたあと、進武は見渡しながら挨拶がわりに「やあ」と軽くうなずいた。
「ちょっと外すけど、あとでな」
進武はだれにともなく云ったあと、強引に愛結を連れ去った。
朱実はふたりの後ろ姿を見送りながら、友だちというのは口実ではないかと思った。進武が気をきかせたのか、それともそうしたかったのか。歩きながら愛結に何か話しかけている進武の横顔は、パーティにふさわしくなく表情は硬く見えた。
桔平が大げさなほどため息を吐きだした。
「ため息をついていいのは、少なくとも桔平じゃないと思うけど」
静華の声も表情も皮肉っぽい。くすっと笑って彼女は続けた。
「男って手に入らないものほど欲しがるのよね。朱実さん、繋ぎとめておきたいんなら好きって気持ちは隠しておいたほうがいいかも。それと」
中途半端に言葉を切った静華は、朱実から美奈へと視線を移した。
「野放しにしてあげる余裕が必要ね。男はずるいから、結局そういう女がいると、そこに戻るのよ。ね、紫己?」
急に話を振られた紫己を見やると、慌てた様子もなく肩をそびやかして返事をすかした。
「いいわ。しばらくおもしろいものが見られそうだし、退屈しないですみそう」
静華がちらりと朱実を見やったところをみると、『おもしろいもの』というのは朱実のことなのだ。どういうことか、追及するには勇気が集められない。
遠くから、静華を呼ぶ声がして、タイミングがいいのか、果たして彼女は、じゃあね、と声をかけたあと友人と思しき人たちのほうへ向かった。