もしも願いが叶うなら

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 なんだか背中が温かい。ぼんやりと意識を浮上させながらそう思った。でも、なんとなくスカスカした感じ。この落差はなんだろう……。
 疑問に思ったとたん、ハッと目が覚める。慌てて起きあがろうとしたわたしは、躰に載っかっている重りに邪魔された。
 まさか、まさか、まさか!
「起きたか」
 尊大な声が背後から聞こえた。
 間違いなく、王子様の声。

 夢じゃなかったんだ……じゃなくていまもきっと夢の中。このわたしが見知らぬ男の人とベッドインなんてあり得ない。
 信じたくない気持ちが考えを変えた。
 カーテンが開いたベッド横の出窓からは青空が見えるけれど、休日の寝坊は充電の一部だ。
 ついでにもう少し眠ろう。ちょっとあったかくて気持ちいいし。せっかくだから……。
「おやすみなさい」
 なんとなく声をかけて目を閉じた。が、王子様はやっぱりいた。

 あっんっ!
 おなかから()いあがった手に不意打ちで胸をつかまれた。そのとき、スカスカした理由がわかった。わたしは丸裸で王子様の躰に(くる)まれていた。
 王子様の手は感触を確かめるように閉じたり(ゆる)めたりを交互に繰り返す。それだけの行為でもわたしにとっては衝撃的で、声が漏れ、はじめての感覚に身を縮めた。
「やっ……ちょっと……あんっ……待って!」
 制止しても答える声はなく、手のひらはさらに妖しくなって上半身をくまなく這いだした。
 そのうち、わたしのお尻に硬いものが触れる。これってもしかして……。
「あっ……う……やだっ……」
 王子様の手が脚の間に入りこみ、わたしは跳ねるように震えた。
「人間の肉というのは柔らかいものだな。あいつも精巧な玩具を作ったものだ。なかなか具合がいい」
 淡々とした声が感想を述べた。
 あいつ、ってだれ?!
 そう疑問に思ったのはつかの間で、わたしは王子様の肌を堪能(たんのう)するどころじゃない。
 探るように動く手先から意識が離れない。
 ろくに知りもしない相手なのに、嫌悪どころか触られることが気持ちいいだなんて。
 それを認めることを拒むけれど、脚の間を(いじく)る手は止むことなく、躰の下から回りこんだ手が胸を包んでわたしを混乱させた。

 わたしにはこういう技巧がどうのこうのってまったくわからない。
 それなりに、興味はあって自分でやったことはある。気持ちいいけど、それが普通のことかもわからずに、ましてやだれかに()けるほどフランクじゃない。なんとなく独りでそうすることに罪悪感があって、羽目を外すことが苦手なわたしはやがてやめた。
 いいなとか好きだなと思う人はいたけれど、不相応にもどこかしっくりくる相手がいなくて、いまだにとことん好きになった人はいない。よって、男の人と付き合ったこともなければ、当然、こんな親密な触れ合いなんて言語道断。
 嫌悪感がなければ成り行きでいいかというオープンさはないし、まず気持ち的に無理だ。
 それなのに、どうしていま、触られることがこんなに気持ちいいんだろう。
 そう認めてしまったとたん、わたしの思考回路はだんだんと単純になっていった。王子様の手は滑らかに動いて休まず躰を()で回し、ただ、わたしは理性の片隅でそこへ(あが)ることに抵抗した。

「波の音がしてるぞ」
 王子様は不思議そうに云い、指先がますます波の音をそそる。
 波の音はわたしの耳にも入ってくる。明らかにわたしが勝手に出している音で、恥ずかしさにカッと頬が火照(ほて)ったけれど、王子様の指はそれを気にするどころじゃなくさせる。
「や……待ってっ……だめっ」
「だめとはなんだ。おまえは命令する立場にない」
 そう云った王子様は怒ったように指の腹で柔らかい肉を()いた。わたしの躰がびくんと跳ねた。
「あっ……ん……やめ……てっ」
 逃れようとくねらせた躰をますます王子様は引き寄せて縛る。
 頑丈な腕の中で躰の震えが止まらなくなった。伴って声を抑えることが難しくなっていく。小さく躰が跳ねるたびにわたしのお尻に当たる、王子様のそれ(・・)もぴくぴくと震えていた。
 セーヴがきかなくなってわたしの躰はピンと突っ張った。無限の感覚に()かり、そこから這いあがったと同時に躰が激しく痙攣(けいれん)した。
 ぅくっ……あぁ、あっ!
 我慢できずに声を放ったわたしは、薄っすらとした意識の中で王子様の(うめ)き声を聞いた。

The trial reading to here. 2013/6/26〜電子書籍化

BACKDOOR

★あとがき★
2009.06.24.【もしも願いが叶うなら】完結/推敲校正済
プライヴェイトブログお仲間さんのお題「もしもの世界」からできた短編を中編に改稿
ここまでコミカルなのは初挑戦。 奏井の思想をさり気なく挿入しつつ、やっぱり異星人?ファンタジーということでロマンティックさを欠かさず、甘くほのぼのに仕上げてみました。
王子様は今までの純愛ジュールにはないタイプの男性。見目麗しくカッコいいところまでは同じ。ただ、どこかおバカで可愛い。
そんなふうに感じてもらえたら…  奏井れゆな 深謝

Material by Sweety.