NEXTBACKDOOR|タブーの螺旋〜Dirty love〜

第3章 恋は刹那の嵐のようで

#10

「黙ってやられろ、って……」
 環和はもがくようにしてバウンドする躰を起こした。
「服を引き裂かれたくないなら脱げよ」
 響生は勇が撮影で着ていたTシャツを脱ぎながら命令を下す。
「引き裂くってわたしの服じゃないけど……」
「黙れと云ってる」
 眼差しは相変わらず冷たく、取り付く島もない。響生はTシャツを床に捨て、すでにデニムパンツを脱ぎにかかっている。

 いまみたいに手荒な云い方は響生らしくない。それとも隠していた本性なのか。さながら牙を剥いた獣だ――と豹をイメージしたところで、環和はふと響生は怒っているというよりは気が立っているのかもしれないと思った。
 そうなったのは、川で流されたことが原因にほかならず、それならいまの響生の様子はあの発作みたいな症状の延長かもしれない。

 雨に濡れた日、ベッドにも行かずに抱き合って、裸のままソファで眠りこんだ。裸でも寒くない程度に空調はきいているし、背中から響生にくるまれていて少なくとも環和は寒さを感じなかった。響生がそのときどうだったのか。いつになく無防備だったことは確かだ。
 近づけた気がしていたけれど、いま響生が抱えている苦悩みたいなものの理由が聞けたら、もっと近づける。蝶々結びの結び目を接着剤で固められたら、リボンの端を引っ張られてもきっとほどけない。
 響生と抱き合うのは気に入っている以上に好きだ。響生が無防備に自分を晒す時間でもあり、それならもしかしたら寝物語に話してくれるかもしれない。

 そんな希望を持って環和はブラウスの襟もとに手をやった。タッセルのついた紐を引っ張りかけたとたん、ふと自分が蝶々結びをほどこうとしていることに気づく。
「何してる」
 つっけんどんな言葉に顔を上げると同時に、裸になった響生がベッドに上がった。
「蝶々結びをほどきたくない感じ」
「……それは遠回しの拒絶か」
 響生に理解しろと云っても無理な発言だった。ついていけず、響生はとっさには応じられないまま、目を細めて環和をじっと見やったあとに眉をひそめてそう云った。

「そうじゃなくて……わたしと響生の関係は蝶々結びで、だれかが紐を引っ張るだけで簡単にほどけちゃう。もう三カ月だし、いつそうなってもおかしくないし、でも自分の手でほどきたくないって……思っただけ」
 響生は再びじっと環和を見つめ、それは言葉に詰まったようにも見えたが、やがてくちびるを歪めて薄く笑った。あまつさえ、響生は紐の端を握って環和のためらいをいとも簡単に断ちきった。
「おまえが終わらせたいって思うかもしれないだろう」
「……どういうこと?」
「いまにわかる」
 素っ気なく云ったあと、響生はブラウスの裾をつかんで一気に引きあげる。ブラウスを床に放り、次には環和の後頭部を両手でつかんで押さえつけた。

「響生!」
 環和は前にのめり、あぐらを掻いた響生の腿に手を置いて倒れこまないよう自分の躰を支えた。
「咥えろ」
 目を開けていれば、響生のモノが嫌でも見える。実際には嫌ではない。息づきかけているオスを見てためらったのは嫌だからではなく、響生の強硬に戸惑っただけだ。けれど、響生はたぶんそう思っていない。
 環和に任せることなく、片手で自分のオスをつかみ、環和の頭を支えたまま口に先端を押しつけた。まったく性急な強引さだった。オスはくちびるに触れ、ぴくりと応じてますます息づく。
「濡らせよ。そうしないときついのはおまえだ」

 響生はオスから手を放すと、下着がわりだったビキニのトップをつかみ、肩のほうにたくし上げた。四つん這いになっているせいで重力が働き、よけいに突きでたふくらみをすくい、手をねじるようにしながら指先で胸のトップを弾いた。
 あっ。
 声をあげたとたん、口の中をオスが侵してきた。頭は押さえつけられたまま、なんの防御もできないうちに喉の奥を突かれた。一瞬の苦しさだったが環和は嘔吐(えず)き、唾液が溢れて響生のものを濡らしていくのと同時に、オスは環和の口内で俄に重量を増した。

 響生の手は頭から離れていき、かわりに前かがみになって腹部で環和の頭を固定する。そうして、二つのふくらみをすくった。さっきと同じように手のひらがふくらみの上を這いずり、そのあとに四本の指先が次々と胸のトップを弾いて苛(さいな)む。
 んんっ……ふっぁっ……。
 嬌声は響生のオスにふさがれてくぐもった呻き声にしかならない。口を閉じられないまま、だらしないほど唾液がこぼれていく。
 呑みこもうとすればオスが邪魔してかなわず、環和のそんなしぐさに喜悦するかのようにオスは硬く満ちた。苦しかったのはつかの間、いっぱいになったオスが口腔の隅々を余すことなく摩撫して、環和はキスを受けているような錯覚に陥った。

 胸では焦れったさが募りかけてトップが熱を孕む。環和は呻きながら躰をうねらせる。
 すると、自分のものではない呻き声が聞こえたのは空耳か、意地悪をするかのように響生の手は胸から離れた。おへその辺りでうごめいた手は器用にショートパンツのボタンを外してジッパーをおろす。そうして胸をかすめたのは一瞬、手のひらは背中を這ってお尻へと向かった。
 ショートパンツの中に潜り、さらにビキニのショーツの中に忍びこむ。双丘に添って撫でるようにしながら響生は環和のお尻を剥きだしにしていった。

 ん、んんん……っ!
 響生の指先が中心を探り当てたかと思うと体内に深く入ってきた。いきなりできつく感じたが、奥のほうでうごめいた指はかすかだったが水の音を立てる。
 きつさの中にも快感を予感させる刺激が紛れこんで、環和は無自覚にお尻を揺すった。そんな反応を無下にして響生はあっさりと指を引き抜くと、環和の顔を挟んで慾に侵された自分のモノからも引き離した。
 喘ぐように息を継ぎながら目の前に見た響生の顔は潤んで見える。目を瞬く間に、環和は仰向けに横たえられ、ショートパンツとビキニのショーツを取り去られた。

 膝をつかんで脚が割り広げられる。中心に硬いモノが触れた直後、響生は一気に腰を押し進めてきた。
 あ、ううっ。
 指でさえ少しきついと感じたのだから、それ以上に太いオスがきつくないはずがない。環和は身をよじってのけ反った。
 環和はすぐに濡れる。響生が云ったけれど、その自覚は環和にもある。ただし、いまはまだ開ききっていない。これまで一方的に刺激を与えられて、環和はただ快感に集中していればよかった。たったいまは響生のモノを咥えさせられて、快楽を感じていても集中するには至っていない。
「んぁっ、待って……!」
「黙ってやられろ、そう云っただろう」
 環和の了解など関係ないと云わんばかりだ。それを態度で示すように、響生は強引に動きだした。

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