ミストレスコード~美獣の愛人~

長編連載2017.1/8~6/29

およそ半年、240000字で完結。
業平シリーズでは一年ぶりの更新、まったく舞台を変えて背景は銀行となりました。
時系列としては、【最愛】のふたりが結婚した年の秋に出会い、【最愛】の結婚の章、及び【ミスターパーフェクトは恋に無力】の完結と同じ時期にこちらも完結しています。
【最愛】に出演、並びに【大人の純情】(眠れないほど好き短編集収録)に主役として登場した、田辺譲が主人公タフガイ美怜の親友として登場。
【大人の純情】からすると、美里編の終盤が間に入るでしょうか。
【ミスターパーフェクトは恋に無力】より、建留とおばあさまの茅乃がちょい役で登場。
茅乃が千雪のことを何やら言ってましたが…。

この物語のインスピレーションのもとは、お針子さんとクラウドファンディング(CF)。
クラウドファンディングは、あるアイデアがあってそれに投資したい人がお金を出すという、個人でも資金調達が可能なシステム。

お針子にCFとくれば、愛人関係でしょ、みたいな発想転換から構想を練ってできた物語です。
見切り発車でしたし、当初の設定とは違ったところもありつつ、完結まで到達。
こうまで長くなるつもりはなかったんですが、ドレスショップ、銀行、クラブと舞台が3つも跨がり、なお且つ両家が出てくるのだから、本来は物書きとしてこれくらいになるだろうという予想をするべきところ。
なかなか難しいです。

主人公の結糸については、一見、平凡でおとなしそうであり、家庭の事情で仄暗い部分もありながら、実は芯の強い女性というイメージで書きました。
タフガイ主人公の美怜については、美獣という呼称が先行して仕事上の貪欲さがあまり表現できなかったかもしれません。結糸の前では、こじれる前までかなりなナイスガイでしたし。
内面は文中で出てくるように臆病者…というより繊細でしょうか。お坊ちゃんだから。
そういうところで、なんのバックもなく芯の強い結糸に惹かれたのかもしれません。
逆に、やりたい放題のお坊ちゃんもいつか主人公にしてみたいという野望あり。

物語の中身に戻れば、結糸の父親みたいな人が本当にいるのかどうか、仕事に出かけるふりをして実は無職、という時々テレビドラマ?で見かける設定でした。
気持ちはわかるんですけど、体裁を守るために生活費の借金とか、家族に待っているのはやはり地獄、一家離散。現実、大企業といえども安心できない昨今、平民は借金も1000万を超えると気が遠くなります。
そんな環境で見通しが立たなければ、常に絶望との闘い。
結糸にとって、美怜との出会いは一時の夢の時間で、結果的には大団円ですが、それを抜きにしても夢を見られるぶん力にはなりそう。ドレスメーカーというやりたいことがあることも然り。
希望とか夢とか、それが必ず叶うものではなくても、折れそうなとき、知らないうちに乗り越える原動力になっているかもしれません。

愛人契約については、借金から逃れられることよりも一緒にいるためにそんな方法しかないのならという気持ちのもと結糸は了解したわけですが、いつか終わることも付き纏う。
それは、未来を夢見ることをやめていた結糸にとってはあまり問題にならないことだったのに、重荷をおろして自分のことを考えられるようになると、終わりがリアルに迫ってくる。
そんな変化に伴って、もう少し切ない感じに持っていきたかったんですが、何せ結糸がしっかり者だったのでいまの描写が限界でした。

ほか登場人物として、井手兄妹は最後まで悪者。
光莉はまあ味方には付きましたけどね、それも保身のため。
個人的には中川さんのファンです。
ミスターマシーンの南奈も云いたい放題な感じがしますが、中川はまだ上を行く感じ。
企業内ドクターとして出てきた真壁、美怜の従兄弟として出てきた加藤克範はのちに主人公となって登場するはず。
楽しみにしていただけたら。

2019.11.電子書籍化 Illustration by 八月しぐれ
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