長編〓連載期間2017.5/31~11/11
5か月半、およそ230000字で完結。
以下、重要なネタバレを含みますのでご留意ください。
最後のページに書いたとおり、漠然としたテーマが浮かんだのは2013年のニュース番組にて、親の恐怖体験(トラウマ)が遺伝するということがマウス実験でわかったと報道されたとき。
マウス実験は♂を使って行われ、そのうえ「父親の恐怖体験が」とわざわざ言われたのでその時点での認識は、両親ではなく父親の体験が後天的に遺伝するもの、と固定され、そのため妄想が膨らんだ次第。
メモに書き留めて4年ほど、ようやく着手しました。
問題はどうハッピーエンドにするかということ。
構想を温めているさなか、もう一つのニュースに出会いました。
親を知らない子の、出自を知る権利です。
施設に預けられたり、記憶にない頃に親が離婚したり…
また、某有名大学にて「第三者による精子提供」を大学生たちがやっていたという話。
そうして生まれた子が大人になり自分の出生事情を知って父親を探していました。
少なくとも第三者提供のパターンでは、戸籍上、実の父親と赤の他人という場合が多いと思います。つまり、だれも知らなければだれにも咎められることなく結婚はできるのです。
リアルから逸れて美帆子でいえば、平気で秀朗を父親として届け出してますから。
この矛盾をハッピーエンドの拠り所として書きました。
最後はかなり複雑な人間関係になっていて、果たして円満に行くものなのか、という疑問もあるかと思いますが、現実、最近お騒がせの某芸能一族を思えばなんのそのという感じもします。
美帆子さんは昔の、私は女優よ、と女優であることにすべてをかけたイメージの方からキャラができあがりました。
諸々無情なところもありますが、自分の子供には執着しています。というよりも美帆子が言ったとおり、子供は自分の一部で、そのテリトリーを守るためなら手段を択ばず全力を尽くす人といった感じ。環和にとっては振り回されて大迷惑な人でしたが。
さて、環和も響生も、事実を背負いながらもいずれは自分たちの本当の関係をあまり考えることも思いだすこともなく普通に暮らしているでしょう。
人間ですから、思考は都合よく働きます。
どちらかというと、やはり環和のほうが意識は薄く、ちょっと自信が持てた今なら、世間にばれたとしても父親と暮らして何が悪いと言い放つ強さがあるかもしれません。
秀朗の言葉で、運命は逃げ道、とありますが、それもまた秀朗にとっては都合よく自分を納得させる手段でした。
もしも秀朗が再婚していなければ本当に許せたのかどうか。
そこは秀朗のみぞ知るところですが。
テーマを忠実に描けば、この結末はなかったかもしれませんが、重たくありつつも恋愛という括りではこのハピエンもありではないかと。
不快に感じる方もいるかと思いますが、“知らなかった”ふたりなので大目に見てもらいつつ、楽しんでいただけたのならうれしいです。